蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第十三章 特例措置

 「どうやってブラックは侵入したと思う?」ドラコはハーマイオニーが馬車に乗り込むのを手伝いながら問いかけた。

 

 「証拠はないけど、魔法であることは確かでしょうね」とハーマイオニーは呟いた。小窓を覗くと、馬のくぼんだ目が見え、素早く視線を外した。

 

 「ホグワーツは城だ。紛う方なき要塞だ。そしてディメンターに囲まれてもいる。ブラックが噂通り、強力な魔法使いであるのは間違いないな」

 

 「ただ、無能な教職員が守る要塞だけどね」ハーマイオニーは感慨を込めて呟いた。

 

 馬車は冷たい空気を裂く音をたてて、ホグズミードに向かって走り出した。ハーマイオニーは体をドラコの傍に近づけて、腕を絡めた。窓から外を見ると、ディメンターの黒い影が空を覆っているのが見えた。ハーマイオニーは心臓がひんやりと冷えていく嫌な感覚を味わった。

 

 しかし、影から馬車が遠ざかるにつれてその感覚は薄まり、やがて消えてなくなった。

 

 「そういえば、城の警備としてトロールが配備されたらしいわ」

 

 ドラコは神妙な顔つきで頷く。「僕もその話を聞いた。まったく、馬鹿な案だよ」

 

 「でも、多少は安全になるわ」

 

 「数人のトロールがブラックを止められると思うか? 11歳の女子生徒がノックアウト出来た生き物だぞ?」

 

 ハーマイオニーは鼻を大きく膨らませながら言った。「ドラコ、それは私だったからよ。私は普通の学生じゃない」

 

 「もちろん」ドラコは笑みを見せる。「でも、よく考えてみてくれ。ブラックは1つの魔法で1ダースの人々を殺せるほどの魔法使いだ。トロールをミンチにすること何て訳ないさ」

 

 ハーマイオニーは頬を僅かに上げて呟いた。「悲鳴を上げて危機を知らせてくれるだけでも、十分に役割は果たしてくれてるわ」

 

 

 「私は別にパニックを引き起こそうとしているわけじゃないの」ダフネは小さくしゃっくりをした。「でも、大量殺人鬼はいつでも城に入れることを証明してきた。学生がバラバラにスライスされて殺されるのは時間の問題よ」

 

 「もしくは、吹き飛ばされて、指一本しか残らないかもな」ハーマイオニーはノットの瞳に馬鹿にしたような光が走るのを見た。

 

 「その通り!」とダフネが叫ぶ。「セオドールはよく理解しているわ」

 

 ドラコが鼻で笑って言った。「セオは別に、君の味方をしたわけじゃない」

 

 ダフネはテーブルから身を乗り出して、自分のこめかみを指で叩いた。「でも、セオドールは分かってる」

 

 「ほら、座って」トレイシーはダフネを引っ張って椅子に座らせた。「いくらなんでもバタービールを飲み過ぎよ」

 

 「いいえ」とダフネは首を横に振る。「全然、足りないわ。私は今ちゃんとしてるし、何が起こっているか分かってる」

 

 「何が分かっているんだい?」とドラコが素早く聞いた。

 

 「彼らはブラックを罠に嵌めようとしているんだわ」ダフネは深刻そうな口調で言った。「アズカバンに戻すために、わざと城に入らせたのよ」

 

「じゃあ、どうしてブラックを捕まえなかったの?」ハーマイオニーは揶揄うように問いかけた。「彼は2回も学校に侵入したわ」

 

 「ブラックがあまりにコソコソしていたから」とダフネは神妙な顔で頷いた。「彼らは捕まえられなかったのよ」

 

 トレイシーは長いため息をついた。「そろそろ店を出るわ」そしてダフネの腕を掴んで立ち上がらせた。

 

 「私は大丈夫よ、トレイシー。全くもって大丈夫」

 

 「ええ、そうね。じゃあ、馬車まで戻りましょうね?」

 

 ダフネはキョトンとした顔でトレイシーを見つめる。「他の人は一緒にこないの?」

 

 ハーマイオニーはドラコの方をちらりを見た。ドラコはノットを顔を突き合わせて、低い声で何かを話している。ハーマイオニーは立ち上がって、女の子たちの元へ向かった。

 

 「私達と一緒に来るの?」店を出たところで、ダフネの大きな声が聞こえた。見ると、彼女はトレイシーと腕を組んで、馬車の止まっている場所へと向かっていた。

 

 「ちょっと貴方たちと歩きたいと思って」2人の元にたどり着くと、ハーマイオニーは再び口を開いた。「昼食の後にドラコと叫びの屋敷に行く予定だから、城には帰れないけど」

 

 「それでも、十分よ!」とダフネは言い、自由な方の腕をハーマイオニーの腕に絡ませた。「それにしても……貴方とドラコが、ね……」

 

 寒い空気の中に居ても、ハーマイオニーは自分の頬が熱くなるのを感じた。ハーマイオニーは自然に、空いている手をコートの下のネックレスに伸ばした。ハーマイオニーはドラコとの関係を言いふらそうとは思わなかったが、2人が気が付いていないとも思えなかったし、隠す必要もないと思ったため、ドラコとの関係を認めることにした。「私たちって、どう見える?」

 

 「まさか、やっぱりそうなの?」

 

 「ほら、ダフネ」トレイシーはダフネを引き寄せて、はしゃぐ様に小さな笑みを浮かべた。

 

 「2人は付き合ってるの?」

 

 「ええ」ハーマイオニーは鼻を擦ると、もう一度頷いた。「ええ」

 

 「ドラコってキスは上手いの?」トレイシーが興奮した様子で尋ねる。

 

 「えー、えっと、それは答えられないわ」とハーマイオニーはどもりながら答えた。

 

 「そうね」ダフネが真剣な顔持ちで頷く。「女性はそういう事に答えるべきじゃないわ」

 

 「ええ、女性は答えるべきじゃないわ」ハーマイオニーは妙に可笑しくなって小さな笑みを浮かべた。

 

 トレイシーは不満そうな顔をしていたが、それ以上聞きはしなかった。「分かったわ。でも、やっぱりドラコと付き合っていたのね。急にクィディッチを観るようになるから変だと思ったのよ。人は愛で変わるものなのね」

 

 「やめてちょうだい」

 

 ダフネは顔を赤くするハーマイオニーを見てくすくすと笑った。

 

 「貴方と付き合えるなんて、ドラコは幸せ者ね」馬車乗り場に着いたところで、ダフネが言った。そして、ハーマイオニーの腕を引っ張って、きつく抱きしめた。

 

 「私もそう思うわ」ハーマイオニーは笑顔を浮かべて抱きしめ返す。

 

 「ごめんなさい」とダフネが唐突に呟き、腕を外した。

 

 「何が?」

 

 「その、一部の人は恋人以外に抱きしめられたがらないから」

 

 ハーマイオニーは肩をすくめて言った。「私は平気よ」

 

 「なら、良かったわ」ダフネはトレイシーの助けを借りて馬車に乗り込んだ。「さあ、目に見えない馬よ! 走れ!」

 

 

 『叫びの屋敷』は酷く荒れ果てていた。屋敷は村はずれの小高い所に立っていて、窓には板が打ち付けられ、庭は草ボウボウで湿っぽく、昼日中でも薄気味悪かった。

 

 「印象的な光景ね……」とハーマイオニーは呟いた。

 

 「そうかい?」とドラコが肩をすくめた。「一部の連中は屋敷がはるか昔に建てられたものだって話しているけど、父上は自分が7年生の時に建てられたって話していたよ」

 

 「それはどれくらい前なの?」

 

 「さあ、でも70年代だ」

 

 「どうして建てられたの?」

 

 「わからない。住むための家とか?」

 

 「でも、長い間あそこでは暮らしていないようね」

 

 屋敷に背を向けたドラコがハーマイオニーの肩を叩いて言った。「さてさて、面白い奴がやって来たぞ」

 

 振り返ると、ロナルド・ウィーズリーが1人で歩いてやって来るのが見え、ハーマイオニーはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 「ウィーズリー、何をしているんだい? さしずめ、あそこに住みたいんだろうね。自分の部屋を持つことを夢見ているんだろう? 君の家じゃ、全員が1部屋で寝るって聞いたけど本当かい?」

 

 顔を真っ赤に染めたウィーズリーはドラコに飛びかかろうと身構えたが、急に身動きを止めた。

 

 「そうだウィーズリー、さっき父上から手紙が届いたよ。あのバカは僕の腕のことで聴聞会に出席することになるそうだ。なあ、ヒッポグリフが殺される時、あいつは泣くと思うかい?」

 

 ベチャッ!!!

 

 ドラコの頭が急に前に傾き、シルバーブロンドの髪から泥がポタポタと落ち始めた。

 

 ハーマイオニーは杖を取り出すと、くるっと後ろを振り返った。

 

 しかし、そこには誰もいない。雪と木があるだけだ。

 

 「な、なんだ?」ドラコは髪の泥を落とそうと躍起になっている。

 

 ハーマイオニーはウィーズリーの笑い声をイライラと聞きながら、泥が投げられたであろう方向に進んだ。

 

 「ここら辺から投げられたはずなのに……」ハーマイオニーは小さく呟き、木の後ろを調べた。しかし、誰もいない。その時——

 

 ピシャッ!!!

 

 冷たく湿った何かの塊が、ハーマイオニーの後頭部に当たった。

 

 ハーマイオニーはすぐさま後ろを振り返ったが、そこにはやはり誰もいない。

 

 「誰がやってるの!?」ハーマイオニーは腹を抱えて笑っているウィーズリーに乱暴な口調で尋ねた。

 

ギュ、ギュ

 

 ウィーズリーに詰め寄ろうとしたハーマイオニーは、自分の傍で雪を踏む音を耳にした。その辺りに目を向けると、雪の上に足跡が出来ている。ハーマイオニーはその足跡に向かってゆっくりと進む。すると、足跡は逃げるように後ろに下がり始めた。誰かがそこにいた。

 

 「ボンバーダ!」ハーマイオニーは足跡から離れた場所に向かって魔法を唱えた。

 

 微かな光の後、爆発音が響き、土と雪が空中に巻き上がった。そして、雪の上をザザザーと滑る音と共に、ポッターが姿を現した。

 

 ハーマイオニーとドラコは口を開けて、地面に倒れるポッターを見つめた。いつの間にかウィーズリーの笑い声は消え、目をやってみると、腹に手を当てた状態で凍り付いていた。

 

 「ポッター、お前に外出許可は出ていないはずだ」とドラコが呟いた。ハーマイオニーはドラコの顔に微笑が広がっていくのを目にした。「スネイプに報告してやる。ダンブルドアが幾ら君を庇おうと、お前は退学だ」ドラコはハーマイオニーの袖を掴むと、城へと急いだ。

 

 

 退学にはならないにしても、幾らかの処分を受けるだろうとハーマイオニーは思っていたが、結局ポッターは何の罰則も受けなかった。驚くことに、ポッターはスネイプが捕まえた時には既に城の中に戻っていたため、外にいたということを証明することが出来なかったのだ。さらには、その場に出くわしたルーピンがポッターを庇ったらしい。

 

 

 ハーマイオニーはディメンターに関する情報を手に入れるために、頻繁に『閲覧禁止の棚』にやって来ていた。恐怖と寒さを遠ざけることが出来るかもしれないため、ポッターがクィディッチの試合で使った魔法に少なからぬ興味があったのだ。

 

 ハーマイオニーが見つけた本には、魔法省の研究者によるディメンターの簡単な歴史が記載されていた。

 

 『吸魂鬼あるいはディメンターとは、非存在の闇の生物であり、世界で最もおぞましい生き物とされている。吸魂鬼は人間の幸福を餌にし、近くにいる人に絶望と憂鬱をもたらす。彼らはまた、人間の魂を奪うことができ、奪われた人間は永遠の昏睡状態に陥る。そして彼らは、1718年にアズカバンの看守として魔法省に雇われ、現在までその契約は続いている。』

 

 ディメンターによる悪影響を緩和する方法については幾つか記載されていたが、ディメンターを退ける方法に関しては1つの呪文しか記載されていなかった。その呪文の名は、パトローナス——守護霊の呪文だ。

 

 守護霊の呪文をうまく使うには、その人物が最も幸せな記憶を思い浮かべる必要がある。より幸せな記憶がより強力な守護霊を生み出し、それが十分な力を発揮すれば、ディメンターを追い払うことが出来る。

 

 これが、ポッターがドラコに対して使った魔法であるのはほとんど間違いのない事だった。エクスペクト・パトローナム……。

 

 しかし、この呪文は今まで受けてきた授業で一度も教えられたことのない呪文だった。恐らく、この呪文は非常に高度な魔法なのだ。ハーマイオニーは、そんな魔法を1人で学べるほどポッターが優れてはいるとは到底思えなかった。そこでハーマイオニーは、誰かがこの魔法のことをポッターに話したのだろうと推測した。

 

 一番最初にハーマイオニーが頭に思い浮かべたのは、ダンブルドアだった。クィディッチ場にディメンターが侵入してきたとき、ディメンターを追い払ったのはダンブルドアであったし、ダンブルドアがお気に入りの生徒に手を貸すのはスーッと受け入れられることだったからだ。

 

 しかし、ダンブルドアはホグワーツ急行には乗っていなかった。列車に居たのはルーピンだ。銀色の光の後に現れ、チョコレートを手渡してきたのはルーピンだ。

 

 そしてレイブンクロー戦の2、3日前に、ポッターがルーピンの教室の近くにいたのを、ハーマイオニーは目撃していた。

 

 

 ハーマイオニーは防衛術の教室に入った時、ルーピンは机をきちんと一列に並べている所だった。

 

 「こんにちは、ルーピン先生」

 

 「おっと、ミス・グレンジャーじゃないか。考え事をしていたから驚いたよ! それで、何か用かい?」

 

 ハーマイオニーは慎重にルーピンに話し掛けた。幾つもの要素が、ルーピンが自分にパトローナスの呪文を教えたがらないことを示している。ルーピンを説得するためには正しいやり方を取らなければならない。

 

 「私、ディメンターに興味があるんです。興味というよりも、畏怖に近いですが……。アレは一年中ホグワーツの近くにいるのに、私はアレが何なのか分かっていない」

 

 「正直なところ、ディメンターについて分かっていることは少ないんだ」とルーピンは穏やかに答え始めた。「ディメンターは幸福を吸い取って生きている。その行為は吸い取られる者を絶望に引き付け、最終的には魂を吸いとるまでいく」

 

 「なるほど。それで、ディメンターはどうして此処にいるんですか? なぜ、魔法族はそんな恐ろしい生き物を保護しているんですか?」

 

 「魔法族はディメンターをアズカバンの警備として使っているんだ。ディメンターは目が見えないけれど、人間が近くにいることに気が付けるし、それが何者であるのかも判別することが出来る。だからディメンターは、シリウス・ブラックを発見するのに一番役に立つと思われているんだ。隠れたり、別人に姿を変えていても分かるからね」

 

 「でも、ブラックは二度も城に侵入しました」

 

 「確かに、そうだね。誤解していると困るから言っておくけど、わたしは決してディメンターを擁護している訳じゃ無いよ。別に好きでは無いからね」

 

 「それで……ディメンターから自分を守る呪文はあるんですか」

 

 「ああ、あるよ」

 

 「私、パトローナスについて本で読みました」

 

 ルーピンは眉をアーチ状に変化させた。「知っていたのかい? それで、君はパトローナスがどんな呪文なのか学んだのかい?」

 

 「ディメンターを遠ざける盾を展開する呪文だと読みました」

 

 「的確な説明だね。でも、それはあまりにも単純な捉え方だ。パトローナスは慎重に学ばなくてはいけない呪文なんだ」

 

 「ポッターが習得できるくらいなら、そこまで難しいとは思えません」

 

 ルーピンの目はスーッと細くなった。「それはどういう意味だい?」

 

 「先生は彼にパトローナスを教えましたよね? クィディッチの試合で彼が使ったのはパトローナスです」

 

 「君は本当に鋭いね。ハリーにパトローナスを教えたのは確かにわたしだ。2、3週間の間一緒に取り組んだ」

 

 ハーマイオニーはルーピンの次のアプローチを待った。ルーピンが手伝いを提案してくれる可能性が少しはあると思ったのだ。しかし、それはやってこなかった。

 

 「私もパトローナスを学びたいです」

 

 「フリットウィック先生が君は課外授業についても勤勉であると話していたよ」とルーピンは感心するような態度で頷いた。「君ならきっと習得することが出来るだろう。応援しているよ」

 

 ハーマイオニーは自分の中に湧き上がって来た汚い感情を抑えて呟いた。「一人で学べるほど私は完璧ではありません。先生に手助けをして貰いたいです」

 

 「わたしが?」ルーピンは驚きを顔に浮かべてすぐさま聞き返してきた。

 

 「はい。ルーピン先生は闇の魔術に対する防衛術の教師です。ディメンターは闇の生物ですよね?」

 

 ルーピンは慌てた様子で首を振った。「カリキュラムにディメンターはないよ。一人の学生のために授業を変更することは出来ない」

 

 「いいえ、先生。ポッターに対して先生が行ったことを、私にもして欲しいのです」

 

 ルーピンは重い溜息をついて、近くの椅子に腰を下ろした。「本当に悪いんだけど、1対1の授業をすることは無理だ。ここのところ、わたしは病気と闘っていてね。あまり体力が無いんだ」

 

 「それなのにポッターには教えられたんですか?」

 

 「ハリーは特例だよ。ディメンターがクィディッチのピッチに侵入した時、彼は死にかけた」

 

 「なるほど」

 

 「納得してくれたようで嬉しいよ」ルーピンは机に置いていた書類を積み重ねて、ブリーフケースの中に仕舞い始めた。

 

 「それじゃ、帰ります」

 

 「ああ。また、次の授業でね」

 

 ハーマイオニーはドアに向かって歩き、ドアのすぐ傍までやって来たところで振り返った。ルーピンとの距離は十分に開いている。「そういえば先生、私、課題を持っているんです」

 

 ルーピンは訝しげな顔で見上げた。「課題? わたしは出していなかったと思うが……」

 

 「ええ、先生が出したものではありません。スネイプ先生が出したものです。私は既に提出したのですが、新たに分かったことがあったので、新しくレポートを書いたんです。先生はレポートを今提出したほうが良いと思いますか? それとも25日に提出して信頼性を上げたほうが良いでしょうか?」

 

 ルーピンの表情は石のように固まった。「何日だって?」

 

 「25日」とハーマイオニーは頬を上げて囁いた。「次の満月ですね」ハーマイオニーはバッグからゆっくりとレポートを取り出して、横に小さく振った。「またスネイプ先生が代理を務めるんですか?」

 

 「一体何を言っているんだい?」ルーピンは唇をなめると、静かに尋ねた。

 

 ハーマイオニーは肩をすくめた。「何でもありませんよ、本当に。そういえば、私の友人のドラコ・マルフォイは少々課題で遅れをとっていまして、私は彼の手助けをしようと思っているんです。先生は彼の父親をご存知ですか? ルシウス・マルフォイという人物なのですが、非常に影響力を持っているそうです」

 

 ルーピンは口を少し開いて2、3回瞬きをすると、悪夢を振り払うかのように首を横に振った。それから呆然とした様子で尋ねた。「君はわたしを脅しているのかい?」

 

 ハーマイオニーは腕を組んで、掌の上に顎をのせた。「脅すつもりなんてありませんよ。私はただ、防衛術の教師として平等に教育をして欲しいと思っているだけです」

 

 ルーピンは長い溜息をつくと、しばらくの間ハーマイオニーを見つめた。「木曜日の8時。その時間ならレッスンをしてあげよう」


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