蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第十一章 クリスマス休暇

 ナルシッサ・マルフォイが9と4分の3番線のホームで両手を広げてハーマイオニーを迎えた。

 

 「また会えて嬉しいわ、ハーマイオニー。貴女のご両親には申し訳ないけど、私達の家に招待できてとても嬉しいわ」

 

 ハーマイオニーはナルシッサの胸に頭をつけ、腕を背中に回す。「私もまたお会いできて嬉しいです」

 

 「学校はどうだった? 貴女のことだから、授業に関しては全く問題無いでしょうけど」

 

 「ディメンターが至る所にいるのを除けば、すべて順調です」ハーマイオニーは肩を竦める。

 

 ナルシッサは神妙な顔で頷くと、ドラコに視線を移した。「本当にひどい対策よね。子供達のそばにディメンターがいると考えるだけで、恐ろしくなる」

 

 「奴らはそんなに酷いものじゃないね」ドラコはナルシッサの抱擁から逃れながら言った。「近づいてきたって、ちょっと寒くて暗い気分になるだけさ」

 

 ナルシッサは柔らかい笑みを浮かべた。「それは貴方が幸せに育ってきたって証拠よ。お帰りなさい、ドラコ」

 

 ドラコは少し頬を赤く染めて無愛想に呟いた。「ただいま、母上」

 

 「それじゃ、準備は良いかしら?」

 

 

 ルシウスとナルシッサは、クリスマスの2、3日前に、ハーマイオニーとドラコをダイアゴン横丁へと連れて行った。通りには魔法使いと魔女で溢れかえり、マグルのデパートと遜色変わりない混雑さだった。

 

 「それじゃあ、ここで別れて各自プレゼントを購入しに行きましょう」とナルシッサが言った。「何を買ったか知らない方が、より楽しめるでしょう?」

 

 ハーマイオニーはお気に入りの店、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店にやってきた。店には羊皮紙とそこに滲むインクの匂いが漂っていて、それはハーマイオニーを酔わせた。そして新書の棚や古本の棚に積まれている見たことのない本は、心を昂らせた。

 

 しかし、1冊の本を手に取ったところで、ハーマイオニーはふと、ドラコが本を貰っても喜ばないかもしれないと危惧した。自分にとっては素晴らしい贈り物でも、ドラコにはそうではないかもしれない。

 

 ハーマイオニーはナルシッサが書店に入るのを横目に、店を後にした。しかし、ドラコがどんな物を欲しがるかすぐには思いつかなかったため、通りをブラブラと歩くことにした。

 

 考えること5分、ハーマイオニーは失敗しないであろう選択肢を選ぶことにした。クィディッチ用品。それならばドラコはきっと喜んでくれるだろう。ハーマイオニーは大通りにあるクィディッチ専門店に入ると商品を買い、すぐに店を出た。右手のバッグには綺麗な袋に包まれたグローブが入っている。クリーニングキットを買うことも少し考慮したが、ドラコが箒の洗浄を楽しむようには思えなかったため、新しい革のグローブを選んだ。

 

 通りをしばらく歩くと、ルシウスとナルシッサの特徴的なブロンドの髪が見えた。2人は漏れ鍋の入り口付近に立っていて、1人のブロンドの女性と話をしていた。女性は宝石で縁が飾られた赤い眼鏡をかけ、髪はクネクネと縮れていた。

 

 ハーマイオニーが近づくと、ナルシッサが歩いてきて目線を合わせるために屈み込んだ。「ルシウスは記者の方と話をしているの。あまり時間はかからないと思うわ」

 

 「記者?」語尾をあげてハーマイオニーは尋ねる。

 

 「ええ。ルシウスはメディアが大好きだから」ナルシッサは顰めっ面を作って言った。

 

 急に話題の記者がナルシッサの隣に現れた。そして記者は特徴的な眼鏡の中からじっとハーマイオニーを見下ろした。

 

 「貴女はどなたざんす?」記者の隣には長い青の羽根ペンと羊皮紙が浮かんでいる。「あたくしはリータ・スキーター」記者はそう名乗ると、手を差し出した。「あたくしの名前は耳にしたことがあるでしょうが、『日刊予言者新聞』の記者ざんす」記者の口調は随分と陽気だ。

 

 「スキーター」ルシウスが冷えた声で声をかけた。

 

 「ああ、すぐに戻るざんす」リータ・スキーターは早口で呟くと、手を素早く引っ込めた。「じゃ、名前ぐらい教えて——」

 

 「ダメだ」ルシウスは再び冷えた声で言った。そしてスキーターの腕を掴むと、少し離れたところに連れて行った。

 

 スキーターは憤っているように見えたが、2、3秒後にはまるで何も起こらなかったかのような態度でインタビューを再開した。

 

 「スキーターは変わった人なの」とナルシッサが苦笑いを浮かべて呟いた。「ああ、ドラコ。買い物は終わったのね? そう。それじゃ、ここで少し昼食を摂ってから屋敷に戻りましょうか」

 

 

 ナルシッサは夕方の時間に合わせて精巧なパーティー会場を作り上げた。クリスマスツリーは全ての部屋に1つずつ置かれ、各々異なるテーマで飾りつけられていた。居間にあるクリスマスツリーは単純で古典的な飾り付けがされている。ツリーの上には小さな雲が浮かび、雲から降る雪が枝を凍らせている。

 

 時計の針がちょうど5時をさした時、暖炉で緑色の火が燃え上がった。そして暖炉からエドワード・ノットが出てきた。相変わらず、表情は厳しい。エドワードに続いてセオドール・ノットが出てきた。

 

 次に暖炉から現れたのはニコラス・グリーングラスだった。夏の時と同じように、ニコラスの後から3人の家族が出てくる。アストリアはハーマイオニーの姿に気がつくと、笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。アストリアを抱きしめながらダフネに目を向けると、彼女は腕を組んで何か考えごとをしているようだった。

 

 暖炉で再び緑の火が燃え上がった。独りの男がライムのような黄緑色の山高帽を抑えて部屋に入ってくる。男は少し太っていたが、歩みはしっかりとしていた。

 

 「やあ、ルシウス! 君から招待してもらえてとても嬉しいよ」男は笑顔を浮かべて堂々とした態度でルシウスの元へ歩いた。

 

 「ファッジ」ルシウスは差し出された手を力強く握り返しながら言った。「ようこそ、私の屋敷に」

 

 「わたしと君の仲じゃないか、これからはコーネリウスとだけ呼んでくれ」男は朗らかに笑う。「いやー、素晴らしい! わたしは前からマルフォイ家の屋敷を拝見したかったのだよ!」

 

 ルシウスは眉を吊り上げ、ぶっきらぼうに呟いた。「それは去年の立ち入り調査の件と何か関係があるのかね?」

 

 コーネリウス・ファッジ—男の名前が本当ならば魔法大臣—は少し焦った様子で笑みを浮かべた。「過ぎたことじゃないか、ルシウス。アルバスに強く頼まれてしまうと、わたしの経歴上断り辛いのだ。信じてくれ、ルシウス。わたしは君の事を微塵も疑っていなかった」

 

 ルシウスは静かに頷く。「事情はわかっている。今のダンブルドアは大したことのない人物だが……噂と経歴が影響力を高めている」

 

 「ああ。でも、良い男だ」ファッジはルシウスの不満気な顔を無視して話を続けた。「そうだ、ルシウス! 美しいという噂の君の妻を紹介してくれないか?」

 

 「コーネリウス、ナルシッサだ」

 

 「お会いできて嬉しいです、魔法大臣閣下」

 

 「こちらこそ」ファッジは朗らかな笑みを浮かべて言った。「そちらの男の子は?」

 

 「息子のドラコです。さあ、ドラコ」

 

 ドラコが前に進み出て手を差し出した。「大臣、お会い出来て光栄です」

 

 「ルシウスがクィディッチで君が勝利したことを随分と自慢していたよ。耳にタコが出来てしまうのではないかと思うぐらいにね! いやいや、もしかすると君の両親はファイアボルトをプレゼントしてくれるかもしれないぞ!」

 

 ドラコは薄ら笑いを浮かべて両親に目を向けた。

 

 「ドラコにはすでにニンバス2001を与えている」とルシウスが厳しい表情で呟いた。「コーネリウス、エドワード・ノットとは会ったことがあるかね?」

 

 「んー、おそらく」コーネリウスの微笑は僅かに歪んだ。「何分、人と会う機会が多くてね。あまり覚えていられないのだよ」ファッジはニコラスが差し出した手を握り返した。

 

 「セオドール。大臣に挨拶しなさい」

 

 セオドール・ノットは頷いてファッジと握手を交わした。

 

 セオドールとの挨拶を終えたファッジは、視線を移して表情はパッと明るくした。「ああ! 驚いた、ニコラスじゃないか!」

 

 「ほー、良かった。私のことも忘れたんじゃないかと心配していたんだよ」ニコラスは揶揄うように笑う。

 

 「いやいや、忘れるはずがないだろう! 君は私の友人だ。やあ、オリヴィア。元気そうでなによりだ」

 

 オリヴィア・グリーングラスは静かに会釈した。「大臣、この子たちはダフネとアストリアです。この子は今年度の秋にスリザリンに組み分けされました」

 

 アストリアが緊張した顔持ちで小さく頭を下げる。

 

 「この子もスリザリン? それでは、ここに居るみんながスリザリンかね?」

 

 「大臣を除けば、その通りですな」ニコラスが声をあげて笑う。「まったく、大臣がスリザリンでないのが非常に残念でならない。大臣の功績を考慮すれば、スリザリンが間違いなく相応しいというのに」

 

 ファッジは嬉しそうに微笑んだ。「お世辞はやめたまえ、ニコラス。照れるじゃないか。おや、その子はどなたかね?」ファッジはハーマイオニーに初めて気がついたようでキョトンとした表情を浮かべた。「ナルシッサ、君の娘さんかね?」

 

 「いいえ、違いますわ」ナルシッサはハーマイオニーの肩に手を置いて笑った。「この子はハーマイオニー・グレンジャーです。大臣はおそらく耳にしたことがあるのではないですか?」

 

 「グレンジャーか、うーん?」ファッジは悩まし気に顎をかく。「どうにも思い出せん。ん? 待ってくれ。何処かで聞いたことがある気がするぞ」

 

 「ええ、そうでしょうね」ナルシッサは楽しそうに笑う。

 

 「確か……アルバスから聞いたことがあるような」

 

 「校長が英雄の名前を言わないはずがないですからね」

 

 ファッジの口は大きく広がる。「まさか、例の13歳の少女か!?」

 

 「今は14です。9月が誕生日なので」ハーマイオニーは驚きで顔を赤くするファッジに手を差し出してそう告げた。

 

 「ホグワーツは君に大きな借りがある」手を握り返してきたファッジの手は震えていた。「非常に大きな借りだ。本当に」

 

 「私はどうしてそのような状況が起こってしまったかに興味がある」ルシウスが気取った口調で言った。「ダンブルドアは彼女を……どうして危険な場所へ行かせてしまったのか」

 

 「ああ、本当に」とコーネリウスは神妙な顔で頷いた。「校長であるアルバスが事件を解決、あるいは抑制しなくてはならなかった」

 

 ハーマイオニーは軽く咳払いした。「すみません、大臣。ダンブルドア校長を学校から追放したのは大臣なのではないですか? 春に学校にいらっしゃいましたよね?」

 

 ファッジは数回瞬きし、違和感のある笑みを浮かべた。「アルバスを学校から追放した?私がかね?いやいや、君、それは違う。アルバスを追放したのはホグワーツの理事たちだ。私が学校に出向いたのはハグリッドを逮捕するためだったんだ」

 

 「しかし、ハグリッドは無実でしたよね?」ハーマイオニーは肩をすくめて尋ねた。

 

 大臣の顔はゆっくりと赤く染まる。「彼を犯人だと示す要素がいくつもあったのだ。わたしはハグリッドが犯人だと確信している訳ではなかったが、何も手を打たないというのは、あの時点ではあり得ないことだった」

 

 「コーネリウス、貴方はするべき事をしっかりとしていた」ルシウスがファッジの肩に手を置いて穏やかな口調で言った。しかし、ハーマイオニーを見つめる目は冷え切っていた。「この子は貴方の事を侮辱した訳ではない。少し彼女は、詮索好きなのでね」

 

 「ああ、なるほど」ファッジは小さく笑う。その姿はどこか安心しているように見えた。「好奇心なら仕方がない。大人は子供の好奇心を無意味に抑えてはならんからね」部屋の外でパチンという音が響いた。「おや、誰か来たようだ」

 

 「多分、セブルスでしょう」ナルシッサはそう答えると、部屋を出て行った。しばらくしてナルシッサは気難しい表情のスネイプを引き連れて部屋に戻ってきた。「セブルス、貴方は魔法大臣と会ったことはある?」

 

 「1、2回ほど」スネイプは穏やか声で答え、注意深くファッジを見つめた。「今晩は、魔法大臣」

 

 「やあ、スネイプ」ファッジは素っ気なく挨拶する。ファッジの手はポケットの中に押し込まれていた。

 

 「セブルス」とルシウスが嬉しそうに近寄った。「君がパーティーの招待を受けてくれるとは思わなかったよ。よく来てくれた」

 

 スネイプは珍しく愛想の良い表情で頷いた。「しかし、長居は出来ません。片付けなければならない仕事が残っておりますので。ダンブルドア校長は休日というものを忘れ去ってしまわれたようです」スネイプの目は誰の目にも止まることなく空中を彷徨っていたが、ハーマイオニーを見つけるとピタッと止まった。「それに、誰かがルーピンを見張っていないとなりませんから」

 

 ナルシッサは不安そうに呟いた。「その人はシリウスと随分仲が良かった人でしょう? ホグワーツの学生だった頃、ジェームズ・ポッターとシリウスともう2人の男の子がつるんでいる話はよく耳にしたわ」

 

 ファッジは厳かに頷く。「リーマス・ルーピンに関しては警戒を続けなければならないだろう。しかし、やはり危険なのはブラックだ。ブラックの最悪な仕業を聞けば皆震えあがるだろう」

 

 「ほう、それは興味深い。話して頂けませんか、大臣」そう呟いたスネイプの唇は歪んでいた。

 

 「君はブラックとジェームズ・ポッターがどれほど親しかったか知ってるかね?」

 

 「ええ、良く知っております」とスネイプは無表情で頷いた。

 

 「ポッターにはブラックの他にピーター・ペティグリューやリーマス・ルーピンなどの親しい友人がいたが、1番信用していたのはブラックだった。それは卒業しても変わらなかった。ポッターがリリーと結婚したとき新郎の付添役を務めたのも奴だ」ファッジは声を落とし、低いゴロゴロ声で先を続けた。

 

 「『例のあの人』につけ狙われていると知った時、ポッター夫妻はアルバスに勧められて『忠誠の術』を使用した。『忠誠の術』がどんな魔法か知っているかね?」

 

 部屋のあちこちで頷きがあった。

 

 「2人は『秘密の守人(もりびと)』を任命する必要があった。そしてジェームズは親友を選んだ。そう、シリウス・ブラックを」

 

 エドワード・ノットは退屈そうに呟いた。「その先を想像するのは容易いことだ」

 

 「いいや、それが最悪の仕業なのではない。初めて聞いた時はゾッとしたよ。なんと、シリウス・ブラックはハリー・ポッターの名付親なのだ!」

 

 

 マルフォイ家のクリスマスの朝は、ハーマイオニーの家のクリスマスよりもずっと静かだった。居間にある大きなモミの木の周りにみんなが集まり、プレゼントの交換が行われた。

 

 スネイプが昨夜置いていったプレゼントは、1本のファイア・ウィスキーと香水だった。ルシウスはそれを確認してから、ドラコに銀の留め金に黒いビロードのマントを贈った。

 

 ナルシッサが木の下から包装されたプレゼントを取り出して、ハーマイオニーに手渡した。ハーマイオニーは慎重に包みを開けた。贈り物は『吟遊詩人ビードルの物語』だった。

 

 「その本はどの年齢であっても為になると思うの。それに、面白いわよ」

 

 「すごい嬉しいです。ナルシッサ、ありがとう」ハーマイオニーはナルシッサに柔らかく微笑んだ。

 

 ハーマイオニーは自分の贈り物を取り出して、ドラコに手渡した。ドラコは袋を開け、クィディッチグローブを手に取った。

 

 ドラコは笑顔を浮かべて立ち上がると、ハーマイオニーに手を差し出した。「さあ、来てくれ」

 

 「私、クィディッチはしないわよ」とハーマイオニーは素早く告げた。

 

 ドラコは再び笑うと、ハーマイオニーの腕を引っ張って部屋から連れ出した。「クィディッチじゃないさ。君へのプレゼントを二階に置いてきたんだ」

 

 ハーマイオニーはドラコの後に続いて階段を登り、ドラコの部屋に入った。ドラコは部屋の奥に進むと、机を開けた。

 

 ドラコは机から平らな黒い箱を取り出すと、ハーマイオニーに手渡した。ハーマイオニーはゆっくりと箱を開ける。絹の柔らかいパットに銀の細長いチェーンが置かれていた。チェーンの中央には煌めく石が飾られている。ハーマイオニーは口をあんぐりとさせ、凍りついた。

 

 「これってまさか……本物のダイアモンド?」

 

 ドラコは薄ら笑いを浮かべる。「どうして僕が模造品の宝石を買わなくちゃいけないんだ?」

 

 「私は……何て言えばいいか……」ハーマイオニーは視線を美しい宝石に釘付けにして小さな声で呻いた。「私のプレゼントはクィディッチのグローブだったのに……」

 

 「それ、気に入ってくれたかい?」とドラコは尋ねた。

 

 ハーマイオニーは随分と悩んだ末に頷いた。

 

 「私、ちょっとビックリしちゃって……なんて言ったらいいか……」ハーマイオニーは絞り出すような声で繰り返し呻いた。

 

 「何も言う必要はないさ」とドラコは言った。「ハーマイオニー?」

 

 見上げたハーマイオニーは、唇に驚くほど柔らかな感触を感じた。

 

 ハーマイオニーはショックを受けたが嫌悪感はなかった。心臓はバクバクと高鳴り、苦しかった。

 

 ドラコがゆっくりと離れる。「大丈夫か?」

 

 混乱しているハーマイオニーは、なんとか2、3の言葉をつなぎ合わせて呟いた。「あなたは、私の、親友よ」

 

 「君が好きなんだ」

 

 ドラコがハーマイオニーの髪を撫で、それから頬に手を当てて、顔を近づけた。穏やかで優しいキスだった。ドラコはそっと顔を離し、灰色の目でハーマイオニーを見つめる。ハーマイオニーはドラコの首に手を回し、今度は自分から唇を触れさせた。

 

 

 ハーマイオニーはナルシッサの指示通り、部屋にトランクを残した。ヴィリーがキングス・クロスに荷物を運んでくれるらしい。ハーマイオニーはドラコの部屋の前に来た時、ノックしようかどうか迷った。ノックすればドラコは間違いなく部屋に入れてくれるだろうが、その後どうすればいいのか……分からなかった。ハーマイオニーは確かにドラコが好きだった。ドラコが間違いなく自分を好いてくれているという確信もあった。しかし、これは初めの体験で、何をするのが最善で、正解なのか、よく分からなかった。

 

 そのため、ハーマイオニーは出来るだけ静かにドラコの部屋を通り過ぎて、階下に降りた。扉の向こう側で声が聞こえたため、ハーマイオニーは食堂に入ろうとした。しかし、扉の向こう側から聞こえてくる声を耳にして、強い好奇心に駆られ、ピタッと立ち止まった。

 

 「——クラウチで途絶える」ルシウスの声が途切れ途切れに聞こえる。怒っているようにも困っているようにも聞こえる声だ。「……パーキンソン家は違う……ポッターの話をこれ以上させるな……ナルシッサ、君の家族だって……ブラックは逃走したが……私はマルフォイ家を終らせはしない」

 

 「終わりじゃないわ、ルシウス」ナルシッサは噛み付くように囁いた。「世の中は変わったの」

 

 「ああ、その通りだ。尚更何とかせねばならん」とルシウスは吐き捨てるように言い放った。

 

 「貴方が心配しているのは自分の名前の評判でしょ?」

 

 「もちろん……それは……間違いない」

 

 「……気にするわ……」

 

 「……人生は長い。残りの時間は……」

 

 「なら、自然な流れで終わら……」

 

 ルシウスが何かを呟いたが、それは聞き取れなかった。そして会話が中断した。2人が囁いているのか、何も言っていないのか、ハーマイオニーには分からなかった。

 

 「貴方は知っているでしょ……」ナルシッサの声が聞こえた。その声は悲痛なものを彷彿させた。

 

 「ナルシッサ、家族のためだ」

 

 「……でも、貴方は分かってる……」

 

 「あいつは自分の義務を知ってる」

 

 「家族は血よりも強いのよ?」

 

 「いいや、家族は血なのだ。君の両親も……」

 

 「……私たちと関係ある? アズカバンと……」

 

 「もっと良い捉え方を……」

 

 「セブルスはこれまでに……あらゆる予想を超えた……」

 

 ――セブルス? どうして此処でスネイプの名前が? スネイプとマルフォイ家にはどんな関係があるの? スネイプがマルフォイ家と血の繋がりがあるとは考えにくい。でも、純血の魔法族の大半が、大量殺人鬼と血の繋がりがあることを考えれば、そうであっても可笑しくない?

 

 「……セブルスの評判は悪くはない。だが、半純血だ」

 

 ——スネイプが半純血?

 

 「貴方は彼を随分信用して……」

 

 「そうではなく……どれだけの者が知って……お前もどんな気質か知っているだろ」

 

 「もしも実際にそうしたら? 私はセブルスの意向を尊重しているし、彼の意図に同意してるわ」

 

 会話は休止し、ポツリポツリ聞こえていた声も聞き取れなくなった。ハーマイオニーは家族の問題を盗み聞きしていることに僅かに気を咎めていたが、そのまま静かに扉にもたれていた。足音が接近してくるのを耳にしたとき、ハーマイオニーは思わず飛び上がりそうになった。出来るだけ静かにその場を離れ、ハーマイオニーは階段から歩いて来るフリをした。

 

 扉が開き、ナルシッサが出てきた。ナルシッサは不機嫌そうな表情を浮かべていたが、ハーマイオニーが近付いて来ていることに気が付くと、一瞬で柔らかな笑みを浮かべた。

 

 「あら、ハーマイオニー。もう支度は終わったの?」




・本編で詳しく説明していないので載せておきます。
『忠誠の術』...生身の人が『秘密の守人』になるための魔法。その守人だけが秘密を明かすことができる。それ以外の人はその秘密を知っていても話すことは出来ない。秘密の守人が死ぬと、秘密を知っている人全員が秘密の守人となる。

・ドラコとハーマイオニーが結ばれるのが確定している訳じゃないです。最終的に2人が結ばれない可能性は十分にあります。恋愛よりもスリザリンの人間に重点を置いてますので。

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