蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第九章 無意味な吸魂鬼

 「ねぇ、一緒に行っちゃダメ?」アストリアが不満そうな声で尋ねた。「私、絶対面倒をかけないから」

 

 「ダメ」とダフネが言った。「貴方は来れないの。私が許可しても、許可証がなきゃダメなの」

 

 2、3週間の間、ハーマイオニーの味覚は可笑しなことになっていた。しかし、ホグズミードへの初めての外出の日にはすっかり良くなっていた。そして、誰かがボガードのことでハーマイオニーを煩らわせてくることもなかった。授業で何が起こったかみんなが忘れてしまったのではないかと本気で思うぐらい、ボガードの話題は上がらなかったのだ。そのため、ハーマイオニーはここしばらく気楽な生活を過ごせていた。

 

 しかし、ハーマイオニーには1つの懸念があった。ヘビの事件は考慮材料があまりにも無いため排除するとして、問題なのは双子のウィーズリーが話していたことだ。彼らは何故か大きな勘違いをしていた。そして双子の言葉を信じるなら、その原因を作ったのはポッターであるようだった。

 

 3年生たちが中庭の城の大きな扉の前に集まっているのが見えた。そして、何やら興奮しているポッターが、マクゴナガルと話をしている。

 

 「許可証がなければホグズミードには行けないのです。それが規則です」

 

 「でも、先生。先生が行ってもよいとおっしゃれば——」

 

 「私は、そうは言いませんよ」マクゴナガルは静かに頭を振った。「残念ですが、ポッター、これが私の最終決定です」マゴナガルは書類を抱えて、その場から去って行った。ポッターは怒りの表情を浮かべて、その場に立ち尽くしている。

 

 「どうしたんだ、ポッター? 先生達は君がディメンターの近くに行けば、また気絶すると思っているのかい?」ドラコは楽しそうに歩み寄った。「もしくは、君をブラックの側に近づけてしまうのを恐れているのかい?」

 

 ポッターはぐるっと回った。顔は真っ赤に染まっている。「マルフォイ、いったい何の用だ?」

 

 「いや、何の用も無いよ、本当に。ただ、そこに立ち止まっていられると迷惑でね。ほら、これから僕たちはホグズミードに行くから」ドラコは薄ら笑いを浮かべて言った。

 

 ポッターはドラコを睨みつけ、それからズカズカとその場を離れて行った。

 

 「ウィーズリーと一緒にいるときのポッターは面白い奴なんだがなー」ドラコはつまらなさそうにため息をついた。

 

 「いや、ウィーズリーが面白い奴なんだ」ノットが真顔で指摘した。

 

 「それじゃ、昼食は『3本の箒』に集合ね」トレイシーがダフネと一緒の馬車に乗り込みながら、ハーマイオニーに声を掛けた。

 

 ハーマイオニーはトレイシーに頷いて見せると、ドラコとノットの所に戻った。向こうの方から、セストラルが馬車を引いて近づいて来ている。馬車は3人の目の前で止まり、乗車を促す。ハーマイオニーはセストラルに1度目を向けてから、馬車に乗り込んだ。

 

 「ホグズミードはダイアゴン横丁と似たような場所らしい」馬車が動き出したところで、ドラコが話し始めた。「漏れ鍋付近の店と同じような店が立ち並んでいるんだとか。売ってるのはキャンディ、イタズラ道具、それから生活用品。残念ながら、ノクターン横丁で売っているようなものは何ひとつ無いみたいだがね」

 

 「本屋はあるかしら?」ハーマイオニーは窓の外を眺めながら尋ねた。馬車はホグワーツの城を出て、土の道をひたすら走っていた。空を見上げると、黒いゴミ袋のようなものがいくつか浮かんでいる。あれは恐らく、ディメンターだ。

 

 「本」とドラコが嘲笑った。「これはホグズミードへの旅であって、図書館への旅じゃない」

 

 ハーマイオニーはドラコを流し目で見て、溜息をついた。

 

 雪がチラホラと地面に見え始めた頃、辺りは冷え込み、ハーマイオニーは小さく身震いした。窓の外に再び目を向けると、黒い物が遮った。その瞬間、氷柱で心臓を突き刺されたかのような冷たい痛みが体に走った。ディメンターは馬車の周りを飛び、正面側に一度回り込むと、空へ上昇して行った。

 

 「もっと暖かいコートを持ってくれば良かった」ハーマイオニーは震える体をきつく抱き締めながら呟いた。

 

 

 3人はハニーデュークス店の入り口近くまで送られた。シリウス・ブラックを警戒して、何人かの教師がパトロールしているのが見える。

 

 「それで、何処に行くの?」ハーマイオニーはドラコに尋ねた。「昼食にダフネ達と待ち合わせしているけど」

 

 「ああ。でも、それまでに時間がある。ちょっとした軽食を摂って行こう」ドラコはそう答え、ハニーデュークス店の入り口に群衆を押し分けて向かった。ハーマイオニーはお菓子が軽食になるのか疑問に思いながら、ドラコの後に続いて群衆の中に飛び込んだ。

 

 ホグワーツの近くにある村でお菓子屋を開こうと考えた人物には相当なビジネス勘があったに違いない。ハニーデュークスの店内は学生でごった返しになっていた。

 

 ハーマイオニーはドラコの後を追いながら、どれぐらいの万引き率があり、それが利益にどれほどの影響を与えるか考えていた。恐らく万引きする子供は数百人にも上るであろうし、それを店の関係者が全て捉えられるとは思えない。ある種の不思議な対抗策がない限り。

 

 しかし、実際にその対抗策があったとしても、魔法使いにはあまり効果はないだろう。魔法が幾ら便利だからと言っても、魔法使いに対して万能だとは考えにくい。

 

 「何か買わないのか?」ドラコが楽しそうな表情を浮かべて後ろを振り返った。

 

 「ええ。興味ないもの」

 

 「正気か? ホグズミードに次来れるのは1ヵ月以上先だぞ。買い込まなくちゃ馬鹿を見るぞ」ドラコはピンク色に輝くココナッツ・キャンディをかき集め始めた。

 

 「こんな糖分に過ぎないものにお金を使いたくないの」

 

 群衆をかき分けてこれ以上進むのは、ほとんど不可能に近かった。ハーマイオニーは出来る限り労力を減らそうと、ドラコのジャケットにしがみ付いた。ドラコは大量のお菓子を抱えてレジに進む。レジに着くと、カウンターにお菓子を並べ、ポケットから金貨を取り出した。それから、思い出したようにレジの傍の巾着袋を手に取り、カウンターに置いた。

 

 「あら? 貴女は何も買わないの?」カウンターの向こうから丸い女性が尋ねた。

 

 「私は、その…お腹が空いてないので」

 

 「そうなの? ヌガーとかチョコレートとか、いらない?」

 

 ハーマイオニーは礼儀正しく断ろうとしたが、ふと、ディメンターのことを思い出した。帰りにまたディメンターと遭遇することになるだろう。その時にチョコレートを持っていれば、学校に嫌な気分で戻るのは避けられるはずだ。「では、チョコレートバーを少しだけ」

 

 ハーマイオニーとドラコは店の外でノットと合流した。甘い物が好きではないノットは、ずっと店の外で待っていたようだ。

 

 待ち合わせ場所である『三本の箒』にはドラコが先導して向かった。通りはホグワーツ生でいっぱいだった。ホグワーツ生はみんな笑顔で、誰もが楽しそうに見えた。

 

 数分後、3人は牧歌的な見た目の小さな居酒屋に到着した。店の入り口付近に1匹の犬が座っていて、学生が食べ掛けの食べ物を投げると、嬉しそうに食い付いていた。

 

 中は人でごった返し、うるさくて、煙でいっぱいで、少なくともハーマイオニーには楽しそうな場所には見えなかった。唯一の良いところをあげるとすれば、暖かいことだ。

 

 ダフネとトレイシー、それからパンジーとミリセントが座っているのが見えた。その辺りを見てみると、スリザリンの3年生が固まって座っている。居ないのはザビニぐらいだろうか。ダフネ達の近くに座っていたハッフルパフ生にノットが何かを耳打ちし、彼らを追い払った。

 

 「向こうの森にブラックが隠れていると思わない?」テーブルに着いたハーマイオニー達にトレイシーが尋ねた。テーブルには2つのバタービールと1つの蜂蜜酒が置いてある。「あの森は随分と隠れやすそうよ」

 

 「森に?」ドラコは嘲笑った。「本当にブラックが危険な魔法使いなら、どこにだって隠れられるさ。例えば……この店の中にだってね」

 

 「あり得ないわ」ダフネはつまらなさそうに呟いた。そしてジョッキを傾けて蜂蜜酒を飲んだ。

 

 「いいや、奴ならできるね」ドラコはムキになって言い返した。

 

 「奴がいれば、ディメンターがすぐに気がつくだろ」とノットが言った。「ディメンターに匂いを覚えられたら、一生逃れることはできない」

 

 「ディメンターは匂いなんて嗅げないわ」ちょっと顔の赤いトレイシーが楽しそうに笑った。

 

 「比喩表現だ」ノットはウンザリした様子で言った。

 

 「だけど、ブラックはアズカバンから逃亡することに成功している」とドラコが静かに呟いた。「奴はディメンターから逃れる方法を知っているんだ」

 

 「じゃあ、本当にブラックは此処にいる可能性があるってこと?」パンジーが声を潜めて聞いた。

 

 「それなら本当にダンブルドアとファッジが間抜けじゃないか」ノットが吐き捨てた。「ディメンターが効果を発揮しないなら、学校に配備する意味なんてないじゃないか」

 

 「ブラックが学校に来るなんてあり得ないわよ」ダフネはジョッキをテーブルに置いて呟いた。

 

 「ブラックはディメンターに厳重に警備された北海の監獄から逃げ出した」ミリセントはテーブルをジッと見つめて言った。「なら、ホグワーツに侵入することなんて訳無いわ」

 

 みんなが黙り込み、テーブルは周囲の雑音の中に取り込まれた。

 

 「ちょっと店の中を見てくる」ダフネが唐突に立ち上がって、テーブルを離れた。

 

 「トイレに行くのよ」トレイシーが笑顔を浮かべて、ハーマイオニーの耳元で囁いた。ダフネの姿が見えなくなったところで、トレイシーはダフネのジョッキを手に取って、蜂蜜酒のほとんどを自分のジョッキに注ぎ込んだ。バタービールと蜂蜜酒が混ざって、液体の色が微妙に変化している。

 

 「ダフネにあんまりお酒を飲ましちゃダメよ」とトレイシーがみんなに説明する。「彼女、飲み過ぎるとベタベタしてくるから」

 

 

 「止まって!」誰かがスリザリン生の集団の後ろから叫んだ。「その場に止まって!」スリザリン生は慌てて停止し、ユラユラと揺れた。「通してちょうだい、さあ」スリザリンの7年の女子生徒が集団の前までやってきた。「みんな、大広間に戻ってちょうだい」

 

 「食事はもう十分に楽しんだよ」と誰かが不満そうに言った。

 

 「部屋で休みたいんだけど」

 

 「口を閉じて」と女子生徒は厳しい口調で言った。「校長が大広間に戻るよう命じたの」

 

 不満の声はより一層高まった。

 

 「さあ、行って!」女の子は怒鳴り、押すようにしてスリザリン生を急がせた。

 

 スリザリンは、ハッフルパフとレイブンクローと途中で合流した。みな当惑した表情を浮かべている。大広間に着くと、すでにグリフィンドールが集まっていた。

 

 「ポッターがまた何か仕出かしたのか?」ドラコは期待を込めて囁いた。

 

 「貴方の思考回路はどんだけ単純なのよ」ハーマイオニーは呆れる思いで呟いた。「何でもかんでもポッターに原因がある訳じゃないわ」

 

 「いいや、いつもポッターには事件と何かしらの関わりがある」ドラコは意地悪気な表情を浮かべていた。

 

 ハーマイオニーは確かにと心の中で同意した。しかし、それを口にはしなかった。

 

 「先生たち全員で、城の中を隈なく捜索せねばならん」と生徒達の前にやってきたダンブルドアが大きな声で告げた。後ろでは、マクゴナガルとフリットウィックが大広間の戸という戸を占めている。

 

 「ということは、気の毒じゃが、皆、今夜はここに泊まることになろうの。みんなの安全のためじゃ。監督生は大広間の入り口の見張りに立ってもらおう。首席の2人に、ここの指揮を任せようぞ。何か不審なことがあれば、ただちにわしに知らせるように。ゴーストをわしへの伝令に使うが良い」

 

 ダンブルドアはハラリと杖を振ると、長いテーブルが大広間の片隅に飛んでいき、何百もの寝袋が現れ、床いっぱいに敷き詰められた。

 

 「ぐっすりおやすみ」大広間を出て行きながら、ダンブルドアが声をかけた。

 

 大広間でお喋りが爆発した。グリフィンドール生はシリウス・ブラックが城にいて、肖像画が引き裂かれたという話を語っていた。

 

 「みんな寝袋に入りなさい!」パーシー・ウィーズリーが大声で叫んだ。ハーマイオニーはパーシーの自我が天文学的なサイズに膨らむのを感じた。どうやらパーシーは、生徒達を『管理』することに快感を感じているようだった。「さあ、さあ、お喋りはやめたまえ! 消灯まであと10分!」

 

 ハーマイオニーは寝袋を掴んで、ダフネとトレイシーと一緒に隅の方に移動した。ドラコはその後を追ってきて、3人の近くに寝袋を置いた。

 

 「君はなんて言ってたっけ、グリーングラス」ドラコはクスクスと笑う。「『ブラックが学校に近づくのはあり得ない』?」

 

 「ブラックかどうか分からないじゃない。ただのポルターガイストかも」ダフネは不愉快そうに寝袋を膨らませた。

 

 「いいや、ダンブルドアが確信していた。ブラックはこの城にいる」

 

 「でもそうだとしても、どうして私たちまで硬い石の上で寝なくちゃいけないの?」ハーマイオニーは不満をこぼした。「ブラックの目的はポッターでしょ? だからグリフィンドールの寮に入り込もうとした訳だし。私、ベッドで眠りたいわ。こんなのじゃなくて」ハーマイオニーは床に置いた紫の寝袋を睨んだ。

 

 「ねぇ、いったいどうやって入り込んだと思う?」もう寝袋の中に入ったトレイシーが尋ねた。「まさか、歩いて入ってきたってことはないでしょ?」

 

 「『姿現し術』じゃない?」ミリセントが寝袋の中に足を突っ込みながら言った。

 

 「もしくは飛んで来たんだ」とドラコが言った。

 

 「きっと、変装してたんだわ」とトレイシーが言った。

 

 ハーマイオニーは彼らの発言に眉をひそめた。「『ホグワーツの歴史』を読もうと思ったことがあるのは私だけ?」

 

 「そうだろうな。そんな物を読もうとするなんて、クラッブやゴイル並みに変人だ」ドラコはニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

 「こっそり入り込めないように、ありとあらゆる呪文がかけられているって知らない? ここでは『姿現し』は出来ないのよ。それに校庭の入り口は一つ残らずディメンターが見張ってるから、空を飛んだって見つかるわ」

 

 「でもディメンターは前に逃走を見逃したわ」トレイシーが素早く指摘した。「多分、今度もまた見逃したのよ」

 

 「灯を消すぞ!」パーシーの怒鳴り声がハーマイオニーを飛び上がらせた。「全員寝袋に入って、おしゃべりはやめ!」

 

 ロウソクの火が一斉に消えた。ハーマイオニーは寝袋の中に入ったが、今夜は眠りにつけない気がした。床は冷たくて固かったし、枕もなかった。それに、大量殺人鬼が学校の中にいるという不安があった。

 

 薄明かりの中、大広間にヒソヒソと囁き声が流れ続け、生徒達が同じような感情を抱いているのがよくわかった。

 

 ディメンターは前にブラックを見逃した。ディメンターは今日もブラックを見逃した。ディメンターは、今夜もブラックを見逃すかもしれない。

 

 パーシー・ウィーズリーが警戒のために部屋をゆっくりと歩いていたが、それはハーマイオニーの恐れを和らげることは決してなかった。

 

 いつの間にか夜は深まり、辺りは静まり返っていた。そして、ハーマイオニーは洞窟の中に座っていた。おなじみの洞穴。1つの光が前方にあった。光はハーマイオニーを暗闇に残して立ち去っていく。恐怖が胸を満たした。この場に残りたくない。ハーマイオニーは立ち上がって、その光を追いかけた。出来る限り早く。しかし、その光はだんだんと離れ、微かなものになった。そして、何時しか光は消え、洞窟は急に狭くなった。

 

 背後で岩が転がる音が響いた。ハーマイオニーは急いで後ろを振り返る。

 

 しかし、そこには何もない。何時もの壁もない。自分が落下しないため、床があるということだけしか分からない。

 

 柔らかい擦れる音が暗闇の中で聞こえた。ハーマイオニーは後退りして、目を凝らした。しかし、何も見えない。杖を取り出すためにローブに手を入れる。が、何もない。空だ。ローブのあちこちを触って確かめるが、何もない。ハーマイオニーは武装していなかった。無防備だった。暗闇の中でまた動く音がする。

 

 ハーマイオニーはできるだけ静かに後方に下がった。前方には何も見えない。しかし、何かがいるのはわかっていた。1歩1歩退がるのがやたら長く感じる。

 

 前方の闇が揺れた気がした。

 

 ハーマイオニーは耳をすませた。しかし、何も聞こえない。自分が後ろに退がる音しか聞こえない。次の瞬間、辺りが急に冷え込んだ。ハーマイオニーはこの現象を知っていた。暗闇で青い目が光った。ハーマイオニーは後ろに向かって全速力で走り出した。

 

 しかし、ハーマイオニーは何かに足を掴まれ、激しく転んだ。叫ぶ暇もなかった。ハーマイオニーは地面を転がり、そして、落ちた。

 

 ハーマイオニーは目を開けた。目の前には星空が広がっている。周りを見ると、洞窟ではなく、大広間に寝っ転がっていた。

 

 寝袋の内部が湿っていて蒸し暑い。ハーマイオニーはジッパーを上げて寝袋に外の空気を入れた。ひんやりとした空気が身体を冷やし、気持ちが良い。背中に若干の痛みを感じ、軽く寝返りを打つ。

 

 薄暗い星明りの中を、黙って動き回っている者が2人ほどいた。彼らはパトロールを続けているのだろう。ハーマイオニーは寝袋から腕を出して、杖を探した。杖はすぐに見つかり、ハーマイオニーは手に取ると胸に抱いた。そして星が瞬く魔法の天井を見上げた。ハーマイオニーは深い眠りにつきたかったが、中々眠れそうになかった。

 

 どこかでダンブルドアの声が聞こえ、ハーマイオニーは耳を傾けた。「ここは大丈夫かの?」

 

 「異常無しです。先生」監督生のどちらかが答えた。

 

 「よろしい。何もいますぐに全員移動させることはあるまい。グリフィンドールの門番には臨時の者を見つけておいた。明日になったら皆を寮に移動させるがよい」

 

 新しい誰かが会話に加わるまで、ハーマイオニーは他に何も聞き取ることが出来なかった。「校長ですか?」特徴的なスネイプの声が聞こえた。「4階は隈なく探しましたが、ヤツはおりません。地下牢にも何も」

 

 「天文台の塔はどうかね? トレローニー先生の部屋は? ふくろう小屋は?」

 

 「すべて捜しましたが……」

 

 「セブルス、ご苦労じゃった。わしもブラックが長居しているとは思っておらんかった」

 

 「ヤツがどうやって入ったか、何か思い当たることがおありですか?」

 

 「いろいろとあるが、どれもこれもあり得ないことでな」

 

 ハーマイオニーは会話主達の表情を見るために寝返りを打った。ダンブルドアの表情は見えなかったが、パーシーとスネイプの表情は見えた。スネイプは怒っているようだった。

 

 「校長、1学期の始まったときの我々の会話を覚えておいででしょうか?」

 

 「いかにも」とダンブルドアはやけに冷たい声で言った。

 

 「ブラックが内部の者の手引き無しに、本校に入るのはほとんど不可能かと。我輩はしかとご忠告申し上げました。校長が任命を――」

 

 「内部の者が手引きしたとは、わしは考えておらん」ダンブルドアはきっぱりとした口調で遮った。「わしはディメンターたちに会いにいかねばならん。捜索は終わったと告げにな」

 

 3人はバラバラに散った。ダンブルドアは大広間を出て行き、パーシーはパトロールを再開した。そして、スネイプはその場にジッと立っていた。憤懣やる方ない表情で、杖をイライラと弄っていた。

 

 ハーマイオニーは熱心にスネイプの顔を見つめた。

 

 ――スネイプ先生は何のことを訴えていたの? 誰が内部犯だと考えているの?

 

 スネイプは急に動いて、ハーマイオニーの目をピタッとロックした。

 

 スネイプの顔は怒りで引き攣っている。ハーマイオニーは凍りついた。

 

 スネイプは大股で近寄ってくると、ハーマイオニーのことを見下ろした。ハーマイオニーは何か言おうとしたが、スネイプは寝袋の中にハーマイオニーの腕を押し込むと、杖を使って顎までジッパーを締めた。

 

 


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