蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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ディメンター……最悪な記憶を持った者が影響を受けやすい。魂を吸い取られると、邪悪な魂の抜け殻になり、心に最悪の記憶しか残らない状態になる。





第七章 古い洋箪笥に潜む物

 「一体何に切り裂かれたの?」ハーマイオニーは、三角巾で腕を吊るしているドラコをじっと見つめた。ドラコのベッドの周りには、2年のほとんどのスリザリン生が集まっている。

 

 「ヒッポグリフに。馬鹿で危険な生物だ」ドラコは苦々しげに言った。「あいつ、最初の授業で危険生物を紹介しやがったんだ。父上が理事だったら、半巨人なんて教師にしなかったのに」

 

 パンジーがドラコの無傷な方の腕にしがみついた。「かわいそう……。ドラコ、大丈夫?」

 

 トレイシーが怪我をした腕を指で突いた。しかし、ドラコは全く反応しない。「あー、なるほど」トレイシーは口元を緩めた。

 

 ドラコは顔をしかめてトレイシーを睨む。「僕に触るな」

 

 「それ、ヒッポグリフには言ったの?」トレイシーはとうとう声をあげて笑った。

 

 「僕をからかいたくてここに来たなら、さっさと帰って欲しいな、デイビス」ドラコは馬鹿にするような口調で言った。

 

 「貴方の怪我は大したことないでしょう!」ポンフリーが医務室に入って来て、忙しない様子で近づいてきた。

 

 「僕は醜い野獣に切り裂かれたんだ!」ドラコが叫び返した。

 

 「はいはい、とにかく外へ。外へ!」ポンフリーはドラコの周りのスリザリン生を追い払い始めた。「こんなにお見舞い人は必要ないわ」

 

 「じゃ、君たちは授業を楽しんでくれ」ドラコがウィンクを投げかけた。

 

 「そうだ、あなたに宿題があるわ」ハーマイオニーはカバンから大量の羊皮紙を取り出し、ベッドサイドのテーブルに置いた。「必要になるものはすべて持ってきたから」

 

 「宿題?」ドラコは顔を青くする。「この状態で?」

 

 「ええ。これを片づければ、授業に参加しなくても後れを取らないわ」

 

 「普通、こんなに必要ないわよ。みんな、授業なんてほとんど聞いていないんだから」盗み聞きしていたパンジーがぶつくさと呟いた。ハーマイオニーがパンジーに視線を投げると、彼女はニッコリと笑みを作った。

 

 「これを機にポッターたちにちょっかいをかけるのはやめることね」ダフネは穏やかにドラコに言い、パンジーを無視した。

 

 「でも、あいつらを揶揄う(からかう)のは楽しいからな」

 

 ドラコはウンザリした顔で羊皮紙の山を見つめた。

 

 

 勉強会は金曜日に初めて開かれた。地下牢の教室は昨年度よりも綺麗な状態で、新しい机がいくつか用意されていた。ハーマイオニーは誰よりも早く教室に入ったが、学生達が来るのを待つというのは初めてのことで、妙に落ち着かなかった。

 

 教室に入ってきた学生たちは、レイブンクローのプラチナブロンドの女の子と、グリフィンドールの2人の男女と、ハッフルパフのジャスティン・フィンチ以外、全てスリザリン生だった。そして、有頂天なアストリアを除けば、みんな不満そうな表情を浮かべている気がした。

 

 ハーマイオニーは教室の1番前のテーブルにカバンを置くと、話を始めた。「スネイプ先生、あるいは他の先生方に言われてここに来た人は手を上げて貰えますか?」

 

 少し間を置いて、ほとんど全員が手を上げた。手を上げなかったのはたった3人だ。アストリアとレイブンクロー生、それからあともう1人は、驚くことにグリフィンドールの女の子だった。

 

 ハーマイオニーはバッグから羊皮紙を取り出して、1番近くにいた生徒に手渡した。

 

 「勉強会に参加していたことを証明するために、羊皮紙に自分の名前をサインしてください」

 

 ハーマイオニーは羊皮紙が部屋の中を回っていくのを黙って見ていた。ハーマイオニーはまったく授業計画を立てていなかったが、1年生と2年生の内容を質問されれば、完璧に答える自信があった。

 

 自分の元に羊皮紙が返ってくると、ハーマイオニーは生徒達の顔を見回した。

 

 「あなた達は何をしたいですか?」生徒達は視線を逸らしたり、肩をすくめたりした。「初めに言っておきますが、この勉強会は普段の授業とは違い、授業計画がありません。スネイプ先生が援助を求める生徒に力を貸して欲しいと依頼したので、今私はここに立っています。ですので、努力しない者は帰って頂いて構いません。それで、何か質問はありますか?」

 

 アストリアが勢いよく手を上げた。「鼻に怪我を負わせる魔法を教えて貰えるんですか? ダフネが貴女はその魔法が使えるって話してました!」

 

 ハーマイオニーは眉をひそめた。「いいえ、教えるつもりはないわ」

 

 「そう、ですか」アストリアはあからさまに落ち込んだ。

 

 「で、他には誰か?」

 

 グリフィンドールの女の子が手を上げた。「貴女の髪が好きです」

 

 ハーマイオニーはキョトンとした顔で女の子を見つめた。「ありがとう……? でも、それは質問じゃないわ」

 

 女の子は肩をすくめた。

 

 「誰か、他に質問は?」

 

 「その前に、互いに自己紹介したら良いと思う」プラチナブロンドのレイブンクロー生がのんびりとした声で言った。

 

 ハーマイオニーは確かにと、頷く。「そうね、そうしましょう。貴女から始めてもらえる?」

 

 「うん。私の名前はルーナ」ルーナは柔らかく微笑み、次の人に目線を向けた。

 

 「コリン・クリービー」とグリフィンドールの男の子が陽気に言った。

 

 「ロミルダ・ベイン」とグリフィンドールの女の子が言った。

 

 「ジャスティン」

 

 以上がスリザリン以外の生徒達だった。スリザリン生はアストリアから自己紹介を始めたが、ハーマイオニーはスリザリン生に関しては名前を知っていた。談話室で時々出会う不気味な双子の姉妹はフローラとヘスティア・カロー。最後に自己紹介したのはハーパーと呼ばれている1年生の男の子だった。

 

 「それで、誰も聞きたい事が無いのであれば、ここにいる意味はまったくないので、今日は解散にしようと思います」

 

 幾人かのスリザリン生が勉強道具をカバンに片付け始める。しかし、ロミルダは手を上げていた。

 

 「貴女はハリー・ポッターを知っていますか?」ロミルダが質問した瞬間、部屋のすべての視線がハーマイオニーに集まった。

 

 「ええ、知っているわ」

 

 「彼はどんな人ですか?」ロミルダは前のめりになって尋ねる。

 

 「ここは有名人の情報を集めるクラブじゃないわ。他に質問がないようであれば——」

 

 「貴女がポッターと一緒に秘密の部屋に入ったという話を聞きました。ポッターがバシリスクを殺して、貴女の命を救ったんですよね?」ロミルダは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 ハーマイオニーは苛立った。ポッターにはハーマイオニーを助ける気は無かっただろう。ポッターが助けようとしたのは、ジニー・ウィーズリーだ。

 

 「私は彼に救われてないわ。ポッターはマヌケで、尊大で、偶々運が良かったから助かっただけ。バジリスクを殺すことができたのは、剣の性能が良かったからで、彼がスーパーマンだったからじゃない」

 

 「でも、ハリーがバジリスクを殺したことに変わり無いです」コリンは不満そうに言った。

 

 「この話は果たして意味があるのかしら?」ハーマイオニーは腕を組んで呟いた。「感動的な物語を知りたいなら、ポッターに直接聞きに行ってちょうだい」

 

 「ハリーは答えてくれませんでした」コリンは悲しげに言った。

 

 「それなのに私が答えると思ったの?」

 

 「ハリーは謙虚だから……」とロミルダが呟いた。「それに比べてスリザリンは、自慢したがるし……」

 

 「謙虚? ポッターは秘密の部屋での出来事を話したくないだけよ。だって、余りにも稚拙な行動だったとバレてしまうもの」

 

 コリンは不満気に「そんなはずは無いです」と呟いた。

 

 「ポッターはまともな対抗手段を持っていない状態で、バシリスクの巣に突入したの。それは余りにも稚拙な行動だったわ」

 

 「でも、それは貴女にも同じことが言えるでしょう?」

 

 「私は自分の意思で突入したわけじゃ無い。意思に反して無理やり入らされたの。あなた達グリフィンドールとは違って、私は英雄的な救出に憧れていない」ハーマイオニーはバッグを掴み、肩で背負った。「建設的な質問が出そうに無いから、今日は解散にするわ」

 

 

 「やぁ、みんな」教室に入って来たルーピンが挨拶した。「教科書はカバンに戻して貰おうかな。今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

 

 ルーピンは生徒たちを引き連れて教室の外に出ると、誰もいない廊下を歩き、職員室の前にやってきた。

 

 「さあ、お入り」

 

 スリザリン生は全員職員室に入った。細長い部屋の向こう側に古い洋箪笥がある。箪笥はガタガタと揺れ、音をたてている。

 

 「心配する必要はない。まね妖怪——ボガードが入ってるんだ。ボガードは暗くて狭い所を好み、洋箪笥、ベッドの下の隙間、流し台の下の食器棚などに隠れる。ここにいるのは今日入り込んだばかりの奴で、3年生の実習に使いたいから、先生方にはそのまま放っておいていただきたいと、校長先生にお願いしたんだよ」

 

 「それじゃあ、最初の問題だけど、まね妖怪ボガードとは一体なんだろうか?」

 

 生徒たちはハーマイオニーに目を向けるために、僅かに頭を回転させた。そして、彼らの予想通り、ハーマイオニーはすでに手を上げていた。

 

 「形態模写妖怪です。わたしたちが一番怖いと思うのはこれだ、と判断すると、それに姿を変えることが出来ます」

 

 「わたしでもそんなにうまくは説明できなかっただろう」とルーピンが言った。「だから、中の暗がりに座り込んでいるまね妖怪は、まだ何の姿にもなっていない。箪笥の戸の外にいる誰かが、何を怖がっているのかまだ知らない。まね妖怪が一人ぼっちのときにどんな姿をしているのか、誰も知らない。しかし、わたしが外に出してやると、たちまち、それぞれが一番怖いと思っているものに姿を変える」

 

 「つまり、初めからわたしたちの方がまね妖怪より有利な立場にあるんだが、なぜだかわかるかな?」

 

 ハーマイオニーは再び手を上げた。他は誰も手を上げない。

 

 「私たちの人数が多いため、どんな姿に変身すればいいか判断できないからです」

 

 「その通り。まね妖怪を退治するときは、誰かと一緒にいるのが一番良い。むこうが混乱するからね。首のない死体に変身するべきか、人肉を食らうナメクジになるべきか? わたしはまね妖怪がまさにその過ちを犯したのを1度見たことがある——1度に2人をおどそうとしてね、頭のないナメクジに変身したんだ。どう見ても恐ろしいとは言えなかった。

 まね妖怪を退散させる呪文は簡単だ。しかし精神力が必要になる。こいつをほんとうにやっつけるのは、笑いだ。君たちは、まね妖怪に、滑稽だと思える姿を取らせる必要がある。

 はじめは杖なしで練習しよう。私に続いて……リディクラス!」

 

 「リディクラス!」全員が一斉に唱えた。

 

 「そう。とっても上手だ。でもここまでは簡単なんだけどね、呪文だけでは十分じゃないんだよ。誰か、手伝ってくれる人はいないかい?」

 

 しかし、誰も手を上げない。

 

 「君はどうだい?」ルーピンはザビ二を引っ張り出した。「よーし、ブレーズ。君が世界で一番怖い物はなんだい?」

 

 ザビニは顎を引いて俯いた。「分かりません」

 

 「さあさあ、何か一つくらいはあるだろう?」

 

 「分かりません」ザビニは繰り返す。

 

 「じゃあ、一緒に考えてみよう。何が怖い? クモ? ヘビ? それともトロール?」

 

 ザビニは落ち着かない様子でモゴモゴと何かを言った。

 

 「ごめん、聞こえなかった。なんだって?」

 

 「溺れるのが……怖いです」

 

 「溺れるのが? うーん?」ルーピンは顎をさすって考えていた。

 

 「巨大な水たまり、いや、水の中に住む生物かな? ブレーズ、ボガードはきっと水の生物の姿で出てくる。だから君は、杖を上げて、面白いと思う姿を頭に思い浮かべながら『リディクラス』と叫ぶんだ」

 

 ルーピンが他の生徒たちに目を向けた。「ブレーズが首尾よくやっつけたらそのあと、まね妖怪は次々に君たちに向かってくるだろう。みんな、ちょっと考えてくれるかい、何が一番怖いかって。そして、その姿をどうやったらおかしな姿に変えられるか、想像してみて……」

 

 ハーマイオニーは眉をひそめて考えた。

 

 ――私が一番怖いと思うもの? 核戦争は嫌だわ。落第することも怖い。もしかするとバジリスクだったりするのかしら?

 

 「みんな、いいかい?」ルーピンが言った。「ブレーズ、わたし達は下がっていよう。次の生徒は前に出るようにわたしが声をかけるから……」

 

 みんな後ろに下がり、ザビニだけ洋箪笥の傍に残された。ザビニは神経質そうに杖をいじっていたが、顔は落ち着いていた。

 

 「3つ数えてからだ。いーち、にー、さん、それ!」

 

 洋箪笥が勢いよく開き、ぬるぬるした緑の腕で、下半身は人魚で、爬虫類のような恐ろしい顔の生物が現れた。その生物は口を開けて黄色の牙を見せると、甲高い声で鳴いた。みんなは耳を手で塞ぐ。

 

 ザビニが杖を上げて叫ぶ。「リディクラス!」

 

 人魚は突然黙り込んだ。そして喉とエラを爪で引っ掻き出し、ゼーゼーという呼吸を出して、地面に倒れた。

 

 「パンジー! 前へ!」ルーピンが吠えるように呼んだ。

 

 パンジーは急いで前に出た。ザビニは誇らしげに教室の端に移動する。

 

 パチンと音がして、謎の生物がいた場所に醜い小鬼が現れた。小鬼は真紅と金色の制服を着ている。小鬼は「ミス・パーキンソン!」と名前を呼んだ。

 

 パンジーは金切り声で叫んだ。「リディクラス!」小鬼は再び口を開くが、出てきたのはガチョウの鳴き声だった。

 

 「ビンセント!」

 

 クラッブは大股で前に出た。パチン! ゴブリンは大きなドラゴンに姿を変える。ドラゴンは吠え、翼を大きく広げる。「リディクラス!」ドラゴンの翼は紙のように皺くちゃになった。

 

 「さあ、ダフネ!」

 

 ダフネがゴイルの前に躍り出た。

 

 パチン! ドラゴンがいたところに、アストリアが現れた。アストリアの顔には打撲痕があり、目から涙があふれ出ていた。「ダフネ!」アストリアはすすり泣く。「助けて、ダフネ……」

 

 「リディクラス!」ダフネが震える声で叫ぶ。

 

 アストリアが喉を抑えた。辺りを見渡して、再び話そうとしている。しかし、彼女は何の音も出すことが出来なかった。

 

 「グレゴリー!」

 

 ダフネは顔を青白くして、教室の端に素早く移動した。

 

 パチン! アストリアの姿が、上半身は女性で、下半身がライオンの生物に変わった。スフィンクスだ。ゴイルは少し伸びた発音で「リディクラス!」と唱える。突然、ライオンの毛皮が消えた。スフィンクスは慌ててしゃがみ込み、下半身を覆い隠そうとした。

 

 何が出てくるか分かっているならば、怖がることは無いのではないかと、ハーマイオニーは疑問を抱き始めた。

 

 「トレイシー!」

 

 トレイシーはスキップするように前に躍り出た。パチン! スフィンクスのいたところに、回転する黒い空間のようなものが現れた。

 

 ――もしかしてブラックホール? どうして彼女がマグルの世界の化学を知っているの?

 

 「リディクラス!」

 

 ブラックホールは回転を止め、ゲップのような音を出して食べかけのハンバーガーを出した。

 

 「ドラコ!」

 

 パチン! ボガードは高価な黒いローブを着るルシウス・マルフォイに姿を変えた。ルシウスはステッキを握りしめ、ドラコをじっと見つめる。「ドラコ」ルシウスは穏やか言った。「お前には失望した。お前はマルフォイ家にふさわしくない人間だ」

 

 「リディクラス!」

 

 ルシウスは身じろいだ。黒いローブが消え、代わりに、ピッタリと体にくっつく赤いセクシーなドレスに入れ替わった。教室に笑いが湧き、ドラコは笑顔を浮かべて、終わった生徒たちの元へ歩いた。しかし途中でピタッと立ち止まると、表情を凍り付かせた。「誰かに話せば、お前たちを殺すからな!」

 

 ハーマイオニーはニヤリと笑う。先ほどの光景は一生忘れないだろう。

 

 「ハーマイオニー!」

 

 ハーマイオニーは少しだけ躊躇した。

 

 ――出てくるとしたら、バジリスクかしら。それとも……。

 

 ハーマイオニーは杖を構えて、古い洋箪笥に目を向けた。しかし、そこにはバジリスクはいなかった。恐れていたロックハートの姿もない。如何なる怪物の姿もない。

 

 洋箪笥の傍にいるのはダンブルドア1人だった。洋箪笥を調べていたダンブルドアは振り向いて、生徒たちに目を向けた。それからダンブルドアは、「ああ、ミス・グレンジャー」と、驚いた表情でハーマイオニーを見た。「一体ここで何をしておるのじゃ?」

 

 「えーと、授業です。ルーピン先生が私達をここに連れてきたんです」ハーマイオニーはルーピンに説明をしてもらおうとしたが、ルーピンは何も言わず、目を細めてダンブルドアを観察していた。

 

 「それは見れば分かる」ダンブルドアはニッコリと笑みを浮かべる。「君がわしの学校で何をしておるのか聞いたのじゃ」

 

 ハーマイオニーは戸惑い、不安げに答える。「それは……勉強を」

 

 「ミス・グレンジャー」ダンブルドアはゆっくりと言った。ダンブルドアの顔から微笑が消えていく。「君はどうしてまだ学校にいるのじゃ? 去年のわしの計画は上手くいくと思っていたのじゃがな」

 

 「去年の計画?」ハーマイオニーは静かに尋ねた。鼓動が徐々に高まっていく。

 

 「バシリスクは何ヶ月も学校で行動をしておった」ダンブルドアは一歩前に踏み出る。「それなのに、わしが本当に気が付かなかったと思うかね? わしが学校のことを把握していないと思うかね? ……わしは、秘密の部屋に君を連れて行くよう、ギルデロイに命じた」

 

 ハーマイオニーは呆気に取られて口を開けた。心臓が激しく胸を叩いている。

 

 「わしは君を学校から追い出したかったのじゃ」ダンブルドアは悲し気に頭を振り、ローブに手を突っ込んだ。「しかし君は、ギルデロイが対処するにはあまりにも賢すぎる汚れた血だった」

 

 ダンブルドアが杖を引き抜く前に、ハーマイオニーは杖を向けて叫んだ。「ボンバーダ! 砕けよ!」

 

 骨が砕けるゴリゴリとした音が響き、ダンブルドアは膝から崩れ落ちる。ダンブルドアの頭は完全に破壊されていた。しかし、徐々にその頭は形を変えていく。ダンブルドアの髪は黒くなり、抜け始め、皮膚が爛れていく。ギルデロイ・ロックハートの傷ついた顔が、ハーマイオニーをじっと見つめた。口の中で血が泡立つ。「グレンジャー……」

 

 ロックハートはハーマイオニーに跳びかかった。ハーマイオニーは短く叫び、後ずさりする。血まみれの手が足首を掴み、ハーマイオニーは倒れた。

 

 ロックハートは血飛沫を飛ばしながら叫んだ。「グレンジャー!」

 

 「ボンバーダ! ボンバーダ!」頭が窪み、クレーターが出来るが、ロックハートは決して手を離さない。

 

 「グレンジャー……」ロックハートがうめき声をあげ、脚を掴む手とは別の手から黒い日記を滑らせた。日記は勝手に開き、空白のページが現れた。そして、ページから墨汁のような液体と黒い影があふれ出てきた。

 2、3秒後、男子生徒がハーマイオニーを見下ろしていた。男子生徒の髪は滑らかで、顔はハンサムだった。男の子はハーマイオニーに優しく微笑む。

 

 「こんにちは、ハーマイオニー」トム・リドルは穏やかに言った。そして、身を屈めて囁いた。「君はとても美しい女性だ」

 

 ハーマイオニーは切り裂くように杖を振り、叫んだ。「コンフリン——」

 

 手から杖が弾け飛んだ。空気がハーマイオニーの頬を叩き、ハーマイオニーとトムの間に黒の長いローブが現れた。横から覗くと、トムはホグワーツの制服から黒いローブに着替えていた。トムの白い肌は黄ばみ、皮膚はしわがれて、頬骨の向こうに伸びていた。そして、トムの目は赤く光っていた。トムはゆっくりと頬を上げ、笑みを浮かべる。

 

 

 スネイプが素早く杖を振った。トムは後方に弾き飛ばされ、洋箪笥の中に吸い込まれた。ドアが勢いよく閉まり、バタンという大きな音をたてる。

 

 ハーマイオニーの大きく呼吸する音を除いて、部屋はとても静かだった。ハーマイオニーは目がウルウルと滲み出し、涙がポンプでくみ上げるかのように湧き上がってくるのを感じた。ハーマイオニーは膝を抱え、腕に顔を押し付けた。涙を流すところを誰にも見られたくなかった。

 

 「ルーピン、学生を恐怖に陥れて何がしたいのかね?」セブルス・スネイプの冷え切った声が頭上で響いた。

 

 「これは防衛術の授業だ、セブルス」ルーピンは静かに言った。「恐怖は常に付き纏う」

 

 「どうやら我輩が考えていた以上に君は優秀な教師であるようだ」スネイプは嘲るように言った。「ボガードを3年生の授業で使う。まったくもって素晴らしい考えだ。しかし、恐怖で怯える学生をどうして傍観していたのかね? ルーピン、おまえは昔から——」

 

 「セブルス、今ここで昔のことを振り返る必要はない」ルーピンは話を断ち切って言った。

 

 「毎度のことながら貴様の行動力には感心させられる。おまえの友人も誇らしくて大笑いしているだろう!」

 

 ハーマイオニーは自分の頭の上にローブをかぶせられるのを感じた。スネイプはハーマイオニーを無理やり立ち上がらせると、職員室の扉に向かって歩いた。

 

 「セブルス、まだ授業は終わってないぞ!」ルーピンが叫んだ。

 

 スネイプは扉の前で振り返り、不敵な笑みを浮かべた。「そうか。なら、授業を続けたまえ」

 

 スネイプは扉を開け、ハーマイオニーの腕を掴んで、職員室の外へと連れ出した。




・ハーマイオニーの時にまね妖怪がコロコロと姿を変えたのは、魔法を使って倒したと誤解したために、最も恐怖するものが心の中で瞬間的に入れ替わったからです。

・今後人間関係がややこしくなっていくので、今の状況を簡単に説明しておきます。
 ハーマイオニーは、ドラコ、アストリア、ダフネ(理由不明)、トレイシー(ダフネが仲良くしているためと思われるが真偽不明)と表面上仲が良いです。ミリセント・ブルストロードは敵対的ではありませんが、特別仲が良いという訳ではありません。そして、それ以外のスリザリン生には基本的に嫌われています。
 パンジーに関してですが、ダフネと仲が悪くなった以外は、他のスリザリン生との関係は特に変わっていません。

・どうでもいいですが、勉強会のメンバーを紹介しておきます。
 ロミルダ・ベイン……惚れ薬の入ったチョコをハリーに食べさせようとした女子生徒。
 ハーパー……ドラコの代わりにシーカーをやった男子生徒。
 フローラ、ヘスティアの双子の姉妹……映画オリジナルキャラ。まさにスリザリン生って感じの見た目。

・あくまで保険ですが、遠い未来で該当することがあるかもしれませんので、ガールズ・ラブとボーイズ・ラブの警告タグを追加しました。

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