蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第五章 ホームパーティー

 ハーマイオニーは夕食のために、ピンクのドレスを選んだ。ドレスはかなりシンプルなデザインだったが、胸元に白い花がついていて、ハーマイオニーはかなり気に入っていた。

 

 ナルシッサはハーマイオニーのドレス姿をチェックすると、ドレスの色とよく合う薄いピンクの口紅をハーマイオニーに塗り、最後に髪を整えた。

 

 「貴方はここで待っていてね」とハーマイオニーはクルックシャンクスに言った。クルックシャンクスはベッドの上からハーマイオニーを見上げる。「ミスター・マルフォイは貴方に走り回って欲しくないみたいなの」

 

 ルシウスが初めてクルックシャンクスを見た時に発したのは、「なんだ、その汚い猫は」という言葉だった。ナルシッサがルシウスを説得してくれたおかげで屋敷の中に置いておくことを許可して貰えたが、何か問題を起こせばそれなりの対応が取られるのは簡単に予想できる。ホグワーツに発つのが明日であることは幸運なことだった。

 

 準備を終えたハーマイオニーは、ナルシッサをじっくりと見つめた。ナルシッサはとても美しかった。パーティー用のドレスの胸元にはダイヤモンドのペンダントトップがぶら下がり、耳元には赤い宝石がつけられている。

 

 ナルシッサがハーマイオニーに目線に気が付き、キョトンとした表情を浮かべた。それから意味深に笑うと、ハーマイオニーの視線に合わせてしゃがみ込み、そっと頬に手を当てた。

 

 「ハーマイオニー、とっても綺麗よ」

 

 暖炉で緑色の火が燃え、その周りの空気がユラユラと揺れている。ハーマイオニーとナルシッサは、お客を迎えるためにルシウスとドラコの元へやって来た。

 

 火が大きく揺らぎ、暖炉から2人の男性がやって来た。セオドール・ノットが後ろに続いているのを見るに、がっしりとした体の男は彼の父親だろう。

 

 「エドワード」ルシウスが手を差し出す。ノットの父親はそれを力強く握り返した。

 

 「ルシウス」男は低く渋い声を出した。「それから、ドラコか」

 

 「お会いできてうれしいです、ミスター・ノット」ドラコは笑顔で男を迎え、2人は握手を交わす。

 

 「今晩は、ナルシッサ」男は差し出された手の平に軽くキスした。

 

 「エドワード、君を再び屋敷に招待することが出来て嬉しいよ。この日が来るのは、あまりにも遅かった」

 

 「ああ、そうだな……本当に」男は感慨深く頷く。そしてセオドールを腕で示した。「息子のセオドールだ」

 

 簡素なファッションのセオドールは、これまたシンプルな挨拶をした。ホグワーツにいるときの気楽な姿とは違い、セオドールは明らかに緊張している。

 

 暖炉に火が再び大きく揺れる。暖炉から出てきたのは4人の家族だった。顎鬚をたっぷりと蓄えた男がのんびりと先頭を歩き、男の一歩後ろを背の高い痩せた女性が歩く。2人の後ろには、白いブラウスに黒いスカートを履いたダフネと、ダークグリーンのドレスを着た女の子がいた。ほっそりとした2人の女の子は見た目がよく似ていて、どちらとも長いストレートの黒髪だった。しかし、2人の雰囲気は全く異なっていた。ダフネは涼しい顔つきで周りの様子を見ていたが、妹の方は感情豊かに周りを見渡し、元気いっぱいなのがすぐに伝わってきた。

 

 「ニコラス、それにオリヴィア」ナルシッサは満面の笑みを浮かべて二人を抱きしめた。「よく来てくれたわ。この子が息子のドラコよ。エドワード・ノットのことは覚えてる? あちらが彼の息子のセオドールよ」

 

 グリーングラス夫妻がおしゃべりの輪に加わる。

 

 「ああ、この子がドラコか」ニコラスが言った。「スリザリンのシーカーだろ? 良い息子を持ったな! お前はどうなんだ? 今年、チームに入るのを目指すのか、えっ、セオドール?」ニコラスは朗らかに笑うと、セオドールの肩を小突いた。

 

 セオドールは小さく肩をすくめるだけだった。「まだ、考え中です」

 

 セオドールの肩に父親の大きな手が乗せられた。その瞬間、セオドールの顔が僅かに引き攣る。それはハーマイオニーでさえ理解できる明らかなメッセージだった。『失礼な態度を取るな』という。

 

 「ダフネがドラコはいつか最高のシーカーになると話していたよ」とニコラスが立て続けに喋る。

 

 「まあ、」とダフネが少し高い声で呟いた。「ポッターがいなければの話だけどね」

 

 ドラコの顔が一瞬で赤く染まる。

 

 ニコラスは腹を抱えて大きく笑った。「この子は一頭の馬に簡単にお金を賭けるべきじゃないと知っているんだ。だから君とポッターを競い合わせて、様子を伺っているのさ」

 

 「そうだ、私の娘を紹介させてくれ。ダフネのことは既に知っていると思うが、こっちの子はまだ知らないだろう。アストリアだ」アストリアは甘い微笑を浮かべて前に進みでる。「アストリアは明日からホグワーツ生だ。この子はスリザリンに入るから、親切にしてやってくれ」

 

 ニコラスの妻が小さく囁いた。「帽子が組み分けする前に、勝手に寮を決めないで」

 

 ニコラスは嘲笑った。「アストリアが甘い性格だとしても、グリーングラスの血がスリザリンに導いてくれる。それにアストリアが望めば、鋭い牙は自然に生えてくるさ」

 

 ドラコとセオドールはアストリアの元へ近づき、そっと腕を取ると、手に軽くキスし、「お会いできて嬉しいです。ミス・グリーングラス」と挨拶した。

 

 「この子も紹介させてちょうだい」とナルシッサが言った。そして腕をハーマイオニーの背中に回した。「この子はハーマイオニー・グレンジャーよ。彼女は決闘でロックハートを打ち倒し、その後ホグワーツの生徒の命を救った女の子よ」

 

 ハーマイオニーは息を呑み込んだ。9人の目が全てハーマイオニーに向いている。「こんばんは」とハーマイオニーは言った。「皆さんとお会いできて光栄です」

 

 「ほー、面白い」とニコラスが呟いた。そして手をポケットにすべり込ませた。

 

 「お会いできて嬉しいわ」とオリヴィアが小さく言った。

 

 ノット家の2人は何も言わなかった。

 

 アストリアがダフネのブラウスを引っ張り、ダフネに何かを耳打ちした。ダフネはアストリアの肩を掴んで引きはがすと、両親をにらんで、それからハーマイオニーを優しく抱きしめた。

 

「再会できて嬉しいわ、ハーマイオニー。夏は楽しく過ごせたかしら?」

 

 ハーマイオニーは衝撃を受けながら抱きしめ返した。「ええ、楽しかったわ。旅行していたの。あなたは?」

 

 ダフネは腕を解いて言った。「それは良かった。私は両親にアストリアを押し付けられて、最悪な夏だったわ」

 

 「ダフネ!」とオリヴィアが短い非難の声を出す。

 

 ナルシッサが手を叩く音が部屋に響いた。「ヴィリー、飲物を」

 

 ヴィリーは赤い液体で満たされているフルートグラスをトレイに乗せて、ひょいと現れた。大人たちが肘掛椅子に座り、ドラコとセオドールがソファーに腰を掛け始めたので、ハーマイオニーはドラコたちとは違うソファーに腰を掛けた。ダフネがハーマイオニーの後を追ってきて、隣に座った。アストリアはハーマイオニーの顔をチラッと見てからダフネの隣に座った。

 

 ヴィリーからフルートグラスを受け取ったハーマイオニーは、中の液体の匂いを嗅いだ。それは嗅ぎ覚えのある、すこし奇妙な匂いがした。ハーマイオニーは一口味見してみて、それがワインであると確信した。ハーマイオニーはヴィリーにグラスを返却しようとしたが、気軽に飲んでいる男の子たちと、グイグイと飲んでいるダフネの姿を見て、思いとどまった。どうやらここにいる魔法使いたちは、子供が酒を飲むことに反対していないようだった。ハーマイオニーは赤いワインをじっと見つめ、再び口に含んだ。

 

 大人たちの会話は、ホグワーツからゴシップ、政治から経済など、あちらこちらを彷徨っていた。子供たちの会話は、ドラコが初めにクィディッチの話題を出してからずっとクィディッチのままだった。クィディッチの話題はドラコとセオドールとダフネの間で白熱し、随分と盛り上がっていた。しかし、ドラコがファイアボルトの凄さについて演説し始めたところで、ニコラスに大声でうるさいと叱られ、3人は急に静かになった。

 

 ぼーっと大人たちの会話を聞いていたハーマイオニーは、何度かアストリアがダフネの横から自分を凝視しているのに気が付いていた。しかし、その度にダフネがアストリアをシッと叱って押し戻すのを見て、何となく気が付かない振りをした。

 

 ハーマイオニーは再びワインを口に含んだ。他の人たちのように優雅に飲もうと練習していたが、どうにもしっくりこない。ナルシッサが夕食を告げた時、ハーマイオニーのワインは3分の1まで減っていた。

 

 食卓の席順はすんなりと決まった。大人たちはテーブルの上座に座り、子供たちはテーブルの中央に集められた。

 

 夕食はステーキ、ジャガイモ、インゲン、スープと、昨日の夕食よりも費用が掛かっているように見えた。大人たちは食事中も会話を続けていたが、先程よりもゆっくりとしていた。ハーマイオニーはダフネがグラスを大きく傾けるのをチラッと見た。彼女は随分とワインを飲んでいた。恐らく、大人たちよりもはるかに。

 

 ハーマイオニーは大人たちと子供たちの会話をすべて無視した。グリンゴッツの税金の話や箒の特徴についての話は全く興味が無かった。それよりもハーマイオニーは、料理に集中していたかった。ジャガイモの味の違いはよく分からなかったが、ステーキは今まで食べてきたものとは明らかに別格だった。レアなのにもかかわらず、こんなにも穏やかな味で、旨みが溢れるなど、不思議でならなかった。

 

 ダフネの母親が近づいてきて、ダフネからグラスを取り上げた。ダフネが飲みすぎなのにようやく気がついたようだ。しばらく口をとがらせていたダフネは、アストリアの飲みかけのグラスに手を伸ばすと、ゴクゴクと飲み始めた。しかし、それはすぐに母親に見つかり、グラスを没収されたダフネはうんざりとした顔で椅子にもたれかかっていた。

 

 夕食が終わると、全員で夕方の暖かい外へと出た。子供達が裏庭のグラウンドへ向かう中、大人たちは屋敷のテラスへと向かった。ハーマイオニーは呆れずにはいられなかった。夕食の直後に空を飛ぶなど、愚かなことにしか思えない。

 

 しかし、男の子にとっては、それは素晴らしいことのようだった。ドラコは1つの柱の近くにある小屋に案内すると、全員に箒を配った。ドラコとセオドールはすぐに飛び立ったが、女の子は全員地面に残った。ダフネは退屈そうな表情を浮かべ、アストリアは困った顔で箒を見つめている。ハーマイオニーは何も考えることなく箒を地面に放り出した。

 

 グランドの上を飛び回っていた2人は女の子が誰も飛び上がってこないのに気がつくと、地上に滑空して降りてきた。

 

 「どうかしたか? 箒は壊れていないだろ?」とドラコが尋ねた。

 

 「ええ」とダフネは短く答える。そして隣に立つアストリアをチラリと見た。

 

 「じゃあ、どうしたんだ?」とドラコは焦ったそうに聞く。

 

 「私、どうやって飛んだら良いか……分からなくて」アストリアは困った表情で柔らかな声を出した。

 

 ドラコがハーマイオニーに目を向ける。ハーマイオニーはすぐに首を横に振った。

 

 「じゃあ、ダフネが来てくれよ。もしかして高い所が怖いのか?」

 

 ダフネは爪から目を上げて、ドラコは睨みつけた。「そんなわけないでしょう」ダフネは箒にまたがり、およそ1メートルほど浮かび上がった。

 

 ノットが馬鹿にするように鼻を鳴らす。

 

 「なに?」とダフネは不機嫌に尋ね、地面に降りた。

 

 「貴方は私がスカートを履いたまま空を飛びまわることを期待しているかもしれないけど、お生憎様、絶対にそんなことはしないわ。私は娼婦じゃないの。2人で軽いゲームでもしてきなさいよ。私達は下で楽しむから」

 

 ドラコは眉をひそめ、しばらくすると、アストリアに振り向いた。「僕たちは君に飛び方を教えられるけど、来るかい?」

 

 「本当に?」アストリアが笑いながら小さく跳ねる。

 

 「ダメよ、アストリア」ダフネが鋭く言った。「ドラコに箒を返しなさい」

 

 アストリアの顔は目に見えて暗くなった。そしてドラコに箒を手渡した。

 

 ドラコがダフネを睨みつける。「せっかくの楽しみを邪魔しないで頂きたいね。行くぞ、セオ」

 

 2人の男の子は空高く上昇し、暗い顔のアストリアと頑固なダフネと退屈なハーマイオニーが地上に残った。

 

 「私は別に、高く飛ぶ気は無かったのに」アストリアはふさぎ込んだ。

 

 「もしも落ちたらどうするの? 箒が暴走したら自分の力で抑えられる? 貴方が怪我をしたら、ママが激怒するわ。そして、怒られるのは私よ。ほら、どこかに座りに行きましょ」ダフネはアストリアの腕を掴んだ。そして、ハーマイオニーに顔を向けた。「ハーマイオニー、来ないの?」

 

 「うん? ああ、行くわ」

 

 ダフネはハーマイオニーの腕も掴み、2人をリードして歩いた。ダフネが座る場所を噴水の側のベンチに決めるまで、3人は垣根と茂みを彷徨った。ベンチに座った3人は、しばらくの間、無言だった。

 

 「ごめんなさい」とダフネは静かに言った。「でも、私は貴女に何をしなければならなくて、何をしてはならないか分かっていて欲しいの」

 

 「どうせホグワーツで飛び方を教わるんだから、今教えてもらっても良かったじゃない」とアストリアは拗ねた口調で反論した。

 

 「空を飛ぶのはそれほど重要なことじゃないって、貴女だって分かっているでしょ?」

 

 「もちろん」

 

 「なら、納得して。貴女が怪我したら困るの」

 

 アストリアは不満気に鼻を鳴らした。納得したようには少しも見えない。

 

 「貴女が心配なのよ」とダフネは付け加えた。それからダフネはハーマイオニーの方を向いた。「貴女のドレス、とても可愛いわ」

 

 「本当に?」ハーマイオニーは自分を見下ろした。

 

 「ええ、それに良く似合ってる」ダフネはハーマイオニーのドレスを優しく触る。「生地は綿かしら」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「とても素敵ね」ダフネは妹の様子をチラッと伺った。「家族ドラマにつき合わせちゃってごめんなさいね」

 

 「それは全然大丈夫」ハーマイオニーは肩をすくめた。会話をスルーするのは慣れたことだった。

 

 「妹は貴女について沢山の質問をしてきたわ」

 

 「え?」ハーマイオニーは素早い瞬きをすると、アストリアに目を向けた。アストリアは目を合わせないように顔を伏せていたが、数秒ごとにチラチラと様子を伺っていた。

 

 ――どうして私のことを?

 

 「バジリスクのことと、貴女が昨年したことについて話したの。そしたら、それからずっと貴女に夢中なのよ」

 

 辺りは段々と暗くなっていたが、それでもアストリアが赤面しているのは、はっきりと見えた。「バジリスクに関しては、私はほとんど何もしていないけどね」

 

 アストリアはソワソワと足を動かし、ハーマイオニーとダフネの間で目を彷徨わせた。

 

 「妹が貴女に幾つか質問したいみたいなんだけど、答えてもらえるかしら?」

 

 「私はその……あまり話すべきじゃ……」

 

 「お願いしても?」ダフネが再び言った。彼女は柔らかな微笑を浮かべている。「小さな恩でも私は報いる方よ」

 

 ハーマイオニーは唇を噛み締めた。秘密の部屋での出来事を詳しく話しても良いのか、分からなかった。しかし、ダフネ・グリーングラスの言葉は、彼女に憧れているハーマイオニーには余りにも魅力的に思えた。

 

 「分かった。良いわよ」ハーマイオニーは躊躇いがちに言った。

 

 「怪物の正体がバジリスクであることに、貴女が気がついたんですよね?」アストリアが早口で質問する。

 

 ハーマイオニーは少し考えてから頷いた。本来伝えられなかったことを伝えたのだから、功労者は自分だろうと、考えて。

 

 「凄い! どうしてダンブルドアは気が付けなかったのかしら。貴女がバジリスクを殺したんですよね?」

 

 「いいえ、殺したのはポッターよ」

 

 「でも、貴女はバジリスクを殺す方法を知っていて、男の子にそれを伝えたんでしょ?」

 

 「まぁ、私が伝えたようなものだけど、それはちょっと違うわよ」

 

 「それから貴女はロックーー」ダフネがアストリアの舌を止めるために手首を掴んだ。

 

 「誰が継承者だったか知ってるの? ポッターではなかったのよね?」とダフネが尋ねた。

 

 克服したとはいえ、ロックハートとの事末を話したくなかったため、ハーマイオニーはダフネの気遣いが嬉しかった。

 

 「ええ、継承者はポッターではなかった」

 

 「誰?」アストリアが噛み付くように聞いた。

 

 「ある……ある人が所有していた本が継承者だったわ」ハーマイオニーはあえて名前を隠して話した。詳しく話せば、何かが起きてもおかしくないからだ。

 

 「本?」アストリアは口を手で覆い隠して驚いていた。

 

 「聞いた話によると、貴女はポッターが継承者じゃないって確信していたみたいだけど、それは本当?」ダフネが身を乗り出して尋ねた。

 

 「ええ」

 

 「どうして確信したの?」

 

 「私はその……ポッターに直接尋ねたの」

 

 「それで、彼は貴女になんて?」

 

 「私というか、パドマにだけど……」

 

 ダフネは眉をひそめる。「言っていることがよく分からないわ」

 

 「私は……パーバティーになって、グリフィンドールの制服を着て、パドマのフリをしたの。で、私はパドマとしてポッターに質問をして、ポッターは継承者じゃないと答えた。それで私は彼の言葉を信じたの」

 

 「その、パーバティーになって、というのはどういうこと? 髪の色とは違って、身体は変えられないでしょう?」

 

 「魔法薬を使ったの」

 

 ダフネの不機嫌な表情が深まる。「……スネイプが貴女に魔法薬を用意するとは思えないわ」

 

 「スネイプに貰ったんじゃないわよ。私が調合したの」ハーマイオニーは自慢気に微笑んだ。

 

 「何を作ったの?」アストリアがハーマイオニーを見て、それからダフネを見た。

 

 「いくら貴女が優秀だからといっても……まさか、あり得ない」ダフネはショックを受けているように見えた。

 

 「ドラコに聞けば本当だってわかるわ」

 

 「ねぇ、ダフネ。何を作ったの?」

 

 ダフネはしばらく黙り込み、言葉も出ない様子だった。「どうやって?」

 

 ハーマイオニーは肩をすくめた。「簡単には説明できないわよ」

 

 「ダフネ? ねぇ、ダフネ! 何を作ったの?」アストリアはダフネの腕を掴み、前後に揺らす。

 

 「……ポリジュース薬」

 

 アストリアは口を大きく開けて、『0』の形を作った。「でも、ポリジュース薬って……調合が難しいはずじゃ」

 

 ダフネが鼻を鳴らす。「ええ、その通りよ」

 

 「それなのに貴女は調合することが出来たの?」アストリアは有頂天だった。「すごい!」

 

 ハーマイオニーは得意になってクスクスと笑う。「時間はかかったけど、そんなに難しくはなかったわ」

 

 「すごい! 貴女ってホントにすごいのね!」アストリアは立ち上がって叫んだ。「私、絶対スリザリンに入る! それで、ハーマイオニーにポリジュース薬の作り方と怪物を倒す方法を教えてもらうの。それから、ハーマイオニーと同じように首席になるの! それで、それで、きっとハーマイオニーは女校長になるだろうから私も——」

 

 ダフネがアストリアの腕を引っ張って、ハーマイオニーから引き離した。「はいはい、落ち着いて」

 

 ハーマイオニーは嬉しかった。自分の才能を素直に認めてくれ、自分に憧れてくれる存在は初めてだった。「私、ポリジュース薬を調合するよりも凄いことが出来るの。それが何だか、知りたい?」

 

 アストリアは30センチほど跳ねた。「はい、はい、はい! 知りたい、知りたい! ね、ダフネもそう思うでしょ?」

 

 「ええ、私も知りたいわ。何なの?」

 

 ハーマイオニーは立ち上がると、2人の手を取った。「さあ、ついてきて」

 

 屋敷の外周を回って、砂利の道を歩き、庭の端までハーマイオニーは2人を案内した。そして古いあばら屋の扉の前で止まって、扉をノックした。

 

 ハーマイオニーは杖を取り出し、扉に向ける。マージーが扉を開いて小屋の外に出てきた。

 

 「インペリオ!」マージーは虚ろな目で立ち竦む。「宙返り! 側転! それから逆立ち!」マージーが言ったことに全て従ったため、ハーマイオニーはクスクスと笑った。

 

 姉妹を振り返ると、アストリアが顔に純粋な喜びを浮かべてあちらこちらに飛び跳ねていた。ダフネは口を開けたままの状態で、マージーとハーマイオニーをジッと見つめていた。

 

 「すごい、すごい!」アストリアは悲鳴に近い声で叫んだ。

 

 「その男を小屋に戻すべきよ」とダフネが穏やかに言った。そしてハーマイオニーに近づくと、杖手を下げた。ダフネは笑っていたが、目は不気味にハーマイオニーを観察していた。ハーマイオニーは男を小屋に戻すと、魔法を解いた。

 

 「だいぶ暗くなってきたわ。そろそろ屋敷に戻りましょう」ダフネはハーマイオニーの手を握って歩き出した。アストリアは何度も「すごい」と叫びながら、2人の後を追ってついてきた。一緒に歩く間、ダフネは何度かハーマイオニーに視線を投げかけていた。

 

 屋敷に戻ると、すぐにナルシッサが現れた。「あら、女の子だけ? 男の子たちは何処にいるの?」

 

 「まだ箒で空を飛んでいると思います」とハーマイオニーが答える。

 

 「まったく、もう……」ナルシッサは唸り声をあげる。「ああ、貴女たちじゃなくて……3人とも居間で休んでなさい」

 

 居間に向かう途中、ルシウスの仕事部屋で大人たちが話す声が少しだけ聞こえた。ハーマイオニーは気にはなったが、ダフネたちのいる前で盗み聞きするわけには行かず、真っ直ぐに居間に向かった。居間に着くと、ダフネとハーマイオニーはワインの入っているグラスを1つずつ手に取り、一緒のソファーにドスンと座った。

 

 アストリアは2人にホグワーツのことについて色々と質問した。質問はやたらと広がったが、一緒のコンパートメントに乗って学校に行く約束を取り付けると、満足した表情を浮かべて、眠りについた。

 

 「一晩中質問を続ける気かと思ったわ」とダフネが呟いた。そしてため息を吐き出すと、ハーマイオニーの肩に頭を置き、ワインを全て飲み干した。

 

 「妹さんはとても……可愛らしいわね」ハーマイオニーはダフネからグラスを取り上げ、テーブルに置いた。

 

 ダフネは鼻をすすり、頭を小さく振る。「私たち、どうして学校で話さなかったのかしら?」

 

 ハーマイオニーは唇を噛み締めた。それは厄介な話題だった。だからシンプルで当たり障りのない答え方をした。

 

 「貴女はいつも……トレイシーと一緒だったから」

 

 ダフネは頷く。「トレイシーは私の親友だから」ダフネはハーマイオニーの腹部に腕を回し、きつく抱きしめた。

 

 「貴女は決して親友の代理にはなれないわ。でもそれは、私達が親しくなれないということを意味しているわけじゃない」

 

 ハーマイオニーはダフネの背中を抱いて、微笑んだ。「ええ、そうね」ハーマイオニーはダフネに頭を傾けて、目を閉じた。ハーマイオニーはもしかすると2人目の友達ができるかもしれないと、淡い期待を抱いていた。新年度が始まっていないというのに、事は良い方向へと進んでいるように思えた。

 

 しばらくして、重荷が急に消えたため、ハーマイオニーは居眠りから目を覚ました。ニコラスが就寝中のアストリアを背負い、オリヴィアがダフネの肩を支えて立ち上がらせていた。

 

 「素晴らしいパーティーだったよ、ナルシッサ」とニコラスが朗らかに笑った。そして彼らは暖炉の方へと歩いた。

 

 「ええ、楽しい夜だったわ。今日は来てくれてありがとう」

 

 ヒューッと風が流れた。そして緑の光が瞼を照らした。

 

 「エドワード」とルシウスの声が聞こえた。「明日会う約束を忘れるな」

 

 「もちろんだ。セオドール、帰るぞ」再び微風と緑の光がハーマイオニーを襲う。しばらくして、ハーマイオニーの肩に手が置かれた。

 

 「ハーマイオニー」とナルシッサが言った。「ソファーの上で眠っちゃダメよ。ベッドに行きましょう」

 

 「でも、とても眠いの……」とハーマイオニーは不平をこぼしたが、自力で立ち上がった。ナルシッサはハーマイオニーの肩を抱いて部屋まで一緒に歩いた。そしてベッドにハーマイオニーを座らせると、靴紐を解き始めた。クルックシャンクスがベッドに飛び上がり、ハーマイオニーに鼻を擦り付ける。ナルシッサが靴を脱がしてくれたのを確認すると、ハーマイオニーは彼女の顔を見上げた。

 

 「ナルシッサはとっても……優しい女性だわ」

 

 ナルシッサはベルのような音で笑いながら言った。「それなら貴女はとっても可愛らしい女性だわ。それじゃあ、お休みなさい」


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