蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第二章 秘密の会議

 「ここで合っているんだよな?」とテリーが尋ねた。そしてハーマイオニーが頷くと車から降りた。

 

 ハーマイオニーは車から降りると、テリーが車のトランクから荷物を下ろすのを手伝った。2人は黙って通りを歩き、みすぼらしいパブの中に入った。雑多な群衆は誰も2人に注意を払わない。ハーマイオニーは用心深げに辺りを見回しているテリーを置いて、カウンターにいるバーテンダーの元へ歩み寄る。

 

 「ミセス・マルフォイは何処にいらっしゃいますか?」

 

 バーテンダーは指をぐいと上に動かす。男はみがいているガラスのコップから決して目を逸らさなかった。

 

 ハーマイオニーは振り返って、2階へ続く階段を見つけた。トランクの取っ手を握り、進み出そうとした時、急にトランクが軽くなった。慌てて抑えようとするが、トランクは徐々に浮き始め、ハーマイオニーの元から飛び去る。見上げると、2階のバルコニーでドラコがいたずらっぽく杖を回している。トランクは柵を越えて見えなくなった。

 

 階段を駈け上がりたいという衝動を抑えて、ハーマイオニーは最大限礼儀正しい態度を取りながら階段を登る。2階についたとき、ドラコは薄笑いを浮かべていた。「自分の荷物はしっかり守らないと」とドラコは意地悪く笑う。

 

 「友達が泥棒になるとは考えてなかったの」ハーマイオニーはドラコを小突いて笑った。そして腕を広げてドラコを固く抱きしめた。ドラコは一瞬静止してから背中にそっと腕を回した。

 

 ハーマイオニーが腕を離したとき、ドラコの頬はピンク色に染まっていた。

 

 「母上が向こうで待ってる」ドラコはハーマイオニーの肩越しにテリーを見つけた。

 

 「そうそう。パパ、こちらがドラコ・マルフォイよ」

 

 「ミスター・グレンジャーですか」ドラコが手を差し出した。「お会いできて嬉しいです」

 

 テリーは不愛想に握り返した。「こんにちは、ミスター・マルフォイ」

 

 「ミスター・マルフォイは父上です。僕のことはドラコと呼んでください」ドラコはにこやかに笑うと、ハーマイオニーのトランクを手に取った。「母上が個室を取っています」ドラコが通路を歩き、部屋へと案内する。

 

 部屋の中で椅子に座る女性は、ハーマイオニーがこれまでに見てきた中で最も上品な女性だった。金色のブロンドの髪は美しく、肩へ流れる途中で渦巻き状に纏められている。そして、彼女の顔は完全に左右対称だった。青い目は滑らかな動作で書き込まれる手紙に向けられ、指、手首、胸元、耳は宝石で飾られていた。

 

 ドラコは部屋の中にトランクを入れると、扉を閉めた。ナルシッサ・マルフォイは顔を上げて、それから手紙に視線を戻した。ハーマイオニーは既に何か失礼なことをしたのかもしれないと思い、気が滅入った。ダフネやパンジーのように、彼女も何か厄介な物を抱えているのかもしれない。

 

 ナルシッサ・マルフォイは素早く手紙に署名すると、立ち上がった。ハーマイオニーは思わず1歩後退する。

 

 「ミスター・グレンジャーですね? ナルシッサ・マルフォイです」

 

 彼女は滑らかに前に進み、まるでキスされると思っているかのように、手首を曲げて、手を差し出した。テリーはそれには気が付かなかったようで、変わった角度で握手を交わした。ハーマイオニーはチラッとナルシッサの顔を窺うが、どんな感情を抱いているか読み取ることは出来ない。

 

 「テリー・グレンジャーです。お目にかかれて光栄です」

 

 挨拶を終えたナルシッサはハーマイオニーの元に歩み寄った。「貴女がハーマイオニーね!」ナルシッサは柔らかに微笑んでいた。

 

 「貴女のことを何度も聞かされていたのよ」ナルシッサは腕を広げてハーマイオニーを抱きしめた。「ドラコが話したことが本当なら、貴方は必ず、大きなことを成し遂げるわ」

 

 抱擁から解放されたハーマイオニーはドラコに顔を向けた。真っ赤な顔のドラコはスッと目を逸らす。

 

 「貴方は娘さんを自慢に思っているでしょうね」

 

 「ええ」テリーは頷くとハーマイオニーの髪を撫でた。「そう思う時が良くあります」

 

 「昨年の出来事はさぞ誇らしかったでしょう。誰にでもできることじゃないわ」ナルシッサはハーマイオニーの目を見て微笑んだ。

 

 ――あっ。

 

 「えー、何のことですか?」

 

 ――マズイ……。

 

 ナルシッサの微笑が僅かに揺れる。「彼女は、貴方に何も話さなかったんですか?」

 

 テリーは眉をひそめてハーマイオニーを見下ろした。「僕に……何か話してないことがあるのか?」

 

「えっと……」ハーマイオニーはモゴモゴと口を動かした。

 

 ナルシッサはハーマイオニーから目線を逸らしてテリーを見た。「ハーマイオニーが2学年の首席だったことをご存じないのですか? ルシウスと私はドラコが主席になると期待していたから驚いたわ。でも、ドラコから聞いた話が真実なら、彼女はその名誉にふさわしいのだけど」

 

 「ああ」とテリーは頷いた。「その話は初めて聞きましたよ。でも、あまり驚くことじゃないですね。ハーマイオニーと本は、ピーナッツバターとパンよりも近い」

 

 「何とパンよりも近いのですか?」ナルシッサは礼儀正しく微笑んだ。

 

 「あー、気にしないでください」テリーは気まずそうに笑った。ハーマイオニーは思わず顔を覆い隠したくなった。

 

 「さて、貴方は私達のことについて詳しく知りたいと思っているでしょう? たった1人の子供が自分の元から離れるのを渋る気持ちは、私にも十分理解できます。ドラコが学校に行くときでさえ、不安を感じていますから。でも、優秀なハーマイオニーなら大丈夫じゃないかしら」

 

 ナルシッサは再びホハーマイオニーに微笑みかけた。ハーマイオニーは恥ずかしさで顔が火照るのを感じた。ハーマイオニーはドラコをチラッと見た。ここまでベタ褒めされるのはあまりにも不自然に思える。ドラコは部屋の隅に立ってニヤニヤと笑っている。

 

 「ドラコ、ハーマイオニーを案内して差し上げなさい。構いませんよね?」

 

 テリーは静かに頷く。

 

 ハーマイオニーは小さくお辞儀すると、扉へと向かう。

 

 「ウィスキーはお飲みになりますか? 他に好きなものがあれば取り寄せますが」

 

 「ウィスキー? あー、すみません。帰りに車を運転しなくてはならないので」

 

 「そう、ですか……」

 

 扉が閉まり2人の声が聞こえなくなる。ハーマイオニーはドラコを向いて「私のことなんて話したの?」と問いかけた。

 

 ドラコは肩をすくめると、ポケットに手を突っ込んだ。「良いことだよ」

 

 「良いこと?」

 

 「ポッターを決闘クラブで打ち負かしたとか、ポリジュース薬を調合——」

 

 「あなた、両親にそれを話したの?」ハーマイオニーは頭を仰いだ。

 

 「まあ」

 

 「あなたの父親は、理事会のメンバーよ! 私を退学にしたかもしれない!」

 

 「いいや、父上はメンバーじゃない」ドラコは靴裏で地面を擦った。

 

 「でも、あなた言ってたじゃない」

 

 「他の知事がダンブルドアを校長に戻して……その抗議として辞任した」

 

 「そんな……」

 

 「とにかく、行こう」ドラコは軽いステップで階段を降りる。「ノクターン横丁に入ったことはあるか?」

 

 「いいえ」

 

 「ものすごい所だよ、色々な物が買える」

 

 階段を降りると、ドラコは杖をさっと取り出して、ダイアゴン横丁への入り口がある中庭に急いだ。

 

 「ドラコ!」ハーマイオニーは叫んだ。「魔法は使えないわ! ここは学校じゃない。魔法を使えば捕まるわ」

 

 ドラコは振り返ると笑顔を見せた。「捕まらないよ。どうしてこんなに魔法使いがいるのに、魔法を使ったのが僕だって判断できるんだ?」

 

 ハーマイオニーは眉をひそめる。「魔法省は誰が魔法を使ったか追跡できないの?」

 

 「彼らが分かるのは、どこで魔法が使われたかだけだ。ダイアゴン横丁にはたくさんの魔法使いや魔女がいる。そこで魔法が使われたからって気にする奴がいるか?」

 

 ハーマイオニーの不機嫌な表情は深まるばかりだった。「じゃあ、周りに魔法使いさえいれば、どんな呪文でも使うことができるの?」

 

 「そういうこと」ドラコは薄笑いを浮かべる。

 

 「ドラコ、もしかして家でも魔法を使ってる?」

 

 「もちろん」

 

 「そんなのズルすぎるわ!」

 

 ドラコ笑みを深めた。「それに、屋敷には痕跡を消す魔法がかかっているから、役人が調べに来ても困らない」

 

 「痕跡?」

 

 「痕跡を調べれば、いつ魔法が使われたとか、どんな魔法が使われたとかを調べることが出来るんだ。大体だけどね」

 

 ドラコはダイアゴン横丁を慣れた足取りで進み、グリンゴッツが近付いたところで、暗い裏通りに入った。その先は大通りの雰囲気とは全く異なっていた。闇の魔術に関する物しか売っていないような店が軒を連ねている。 

 

 「あまり明るい場所じゃないわね」とハーマイオニーは言った。みすぼらしい身なりの魔女や魔法使いが薄暗りの中からこちらを見ていた。

 

 「たしかに」とドラコは頷く。「でも、ここには幾つか優れた店がある」

 

 ドラコは薄汚い店にハーマイオニーを引き寄せた。看板には『ボージン・アンド・ボークス』と書かれている。ドラコがドアを開け、小さなベルがチリンと音をたてる。「ボージンの店なんかがそうだ」

 

 店は古い骨董屋のように見えた。埃臭い店には、たくさんのショーケースがあり、中にはしなびれた手や、血に染まったトランプなどが入っている。どれもが薄気味悪く、古臭く見えた。

 

 「ああ……マルフォイお坊ちゃま……」猫背の男が脂っこい髪を撫でつけながら現れた。男の声はかすれ、しわがれている。「お父様もご一緒で?」

 

 ドラコは首を振った。「父上は来ない。今日はちょっと覗きに来ただけだ」

 

 多分、男の名前はボージンか、ボークスだろう。男の目はあてもなくさまよって、ハーマイオニーを捉えるとわずかに細くなった。「貴女とお会いしたことがありましたかな?」と男は尋ねた。そしてカウンターにもたれかかった。「お坊ちゃまの従姉妹か何かで?」

 

 「いいや」とドラコが答えた。「ハーマイオニーは同級生だ」

 

 男は頭を傾けた。売りに持ち込まれた商品を査定するかのように、男はハーマイオニーをじっと見ている。「下がってもよろしいですか?」

 

 「ああ、大丈夫だ」

 

 「必要以上に触るのは控えたほうがよろしいですよ。それでは、何かあれば声をお掛けください……」男はもう一度ハーマイオニーを見つめてから、カウンターの後ろに下がった。

 

「彼って、少し気味が悪いわ」とハーマイオニーは囁いた。

 

「ああ。でも、この店は凄いんだ。1世紀以上前からここにあって、歴史のあるものがたくさん集まっている」

 

 錆びついた棘だらけの道具、絞首刑用の長いローブの束、名札にアーサー王と書かれている胡散臭い剣、黒い大きなキャビネット。ここは店と言うよりも博物館に近い。

 

 「ダイアゴン横丁に戻ろうか」とドラコが呟いた。「母上は待たされると機嫌が悪くなるし」

 

 ハーマイオニーは頷いた。

 

 幾つかの暗い路地を曲がると、グリンゴッツの前に出た。そこから漏れ鍋に向かって歩いていたドラコは、ショーウィンドーの前で急に立ち止まった。非常に高そうな箒が展示されている。箒のわきにある説明文にはファイアボルトと書かれていた。

 

 「アイルランドチームの1人が空輸で持ってきたらしい」

 

 「すごく……速そうね」

 

 ドラコは鼻で笑い、ガラスに手をついた。「速そう、だって? これは世界最速の箒だぞ」

 

 「あまり見すぎないほうが良いわよ。今にもよだれを垂らしそうだから」ハーマイオニーは笑顔でからかう。

 

 ドラコは後ろに1歩下がった。「僕はよだれを垂らしたりしないぞ、グレンジャー」

 

 「私をそれで呼ばないでって言ったでしょ」とハーマイオニーは鋭く言った。

 

 ドラコは舌をベーと見せた。「ほら、よだれが垂れたりしないだろ?」

 

 「いったい何。馬鹿になったの?」

 

 「いや、その……」ドラコは頭をかきむしった。

 

 「もういいわよ。戻りましょう?」ハーマイオニーは微笑んだ。

 

 「いいや」とドラコは首を振る。「元からここに立ち寄る予定だったんだ」ドラコはハーマイオニーの手を掴んでクィディッチ専門店の中へ入って行った。

 

 「本当に寄るの?」ハーマイオニーは不平をこぼした。

 

 店はサッカーチームの公式店と似たような雰囲気だった。赤いクアッフルが箱に詰められて山を築いている。ドラコはガラスケースの周りを回って店の奥に向かう。店の奥の棚には箒が1列に並べられていた。箒にはたくさんの種類があるようだったが、ハーマイオニーはほとんど名前を知らなかった。

 

 ユニフォームのレプリカが棚に沢山並べられ、英国のあらゆるチームの物があるように思えた。旗、ペンダント、スカーフが棚のそばの壁に掛けられている。ホグワーツの校章をモチーフにしたものまでも。

 

 ハーマイオニーは沢山の種類の商品があることに驚いたが、クィディッチにまったく興味を持っていなかったので、ドラコの後を黙って付いて行った。

 

 ドラコは1本の箒を手に取ると、振り返った。「ハーマイオニーはどんな箒を持ってるんだ?」

 

 ハーマイオニーは呆れた顔で答えた。「箒なんて持ってないわよ。私には必要ないもの」

 

 「勿体無い」ドラコはそう呟くと、近くの棚からグローブを取った。

 

 「別に飛びたくないのよ。地面に足をついてるだけで、十分に満足だわ」

 

 「そう思うのは、君が箒で飛んだことが無いからだよ」

 

 「飛んだことはあるわ」ハーマイオニーは腕を組んだ。

 

 「1年のときの飛行訓練で?」ドラコは薄ら笑いを浮かべている。

 

 「ええ」

 

 ドラコはグローブを棚に戻すと、別の物を手に取って自分の腕と大きさを比較した。

 

 「それじゃ、10メートルぐらいしか飛んでないじゃないか」

 

 「私にはそれで十分だったの」

 

 ドラコは棚にグローブを放り投げた。「飛行訓練じゃ飛んだ内に入らない。ちゃんとした形で飛べば、きっと君も飛ぶのが好きになるはずだ」

 

 「人間が自分の力で飛ぶ必要なんてないわ」

 

 ドラコは相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。「魔女なら飛んで当たり前だ」

 

 ハーマイオニーはドラコを睨みつけた。

 

 クィディッチは明らかに、魔法界に必要のないスポーツだった。学生の本分は勉強することであるというのに、クィディッチというスポーツがあるせいで、男の子たちはどれだけ高く飛ぶか、どれだけ早く飛ぶかに脳みそを働かせてしまっている。

 

 男の子たちがいくら堕落しようが、ハーマイオニーには関係のない事ではあるのだが、ドラコが堕落するのは許せなかった。今年も授業でペアを組むことになるなら足を引っ張って欲しくなかったし、ドラコは優秀な生徒になり得ると考えていたからだ。ドラコはだらける癖があったが、知性が欠如しているわけではない。

 

 「おい、あれを見てみろよ」とドラコは気取った口調で言った。顔を向けると、ドラコは外を見ていた。「闇の帝王を征服した、英雄だ」

 

 小さな、やせこけた、黒髪の男の子が立っている。ポッターだ。ポッターはファイアボルトをじっと見ている。

 

 「『彼がわたしのものならいいのに』」とハーマイオニーは悪意を持って笑った。ジニーの歌は未だに頭の中に残っていた。

 

 「『彼は素敵』」二人は同時に言い、顔を合わせて笑った。

 

 2人は並んで店の外へ向かった。「ポッター、マグルに家を追い出されたのかい?」ドラコはポケットに手を突っ込んで、威張った雰囲気で近づく。

 

 ポッターはハーマイオニーたちの登場に驚いたようで、1歩後ずさりした。ポッターはドラコを見てから、視線をハーマイオニーの方へ動かした。

 

 「ここで何をしてるんだ? 父親をもう一度理事にするための署名活動か?」

 

 「僕は友人と買い物をしているだけだ」ドラコは余裕そうに肩をすくめる。

 

 「でも、君はそうじゃないようだな。ウィーズリーは君を放り出してエジプト旅行に行ったようだし」

 

 「ロンは家族で休暇を楽しんでいるだけだ」ポッターは無関心を装って言い返したが、気にしていたのは見え見えだった。

 

 「ああ。君無しでね」

 

 「だから?」

 

 「マグルの家にあなたを放置して、彼らは旅行に出かけたの?」とハーマイオニーは尋ねた。

 

 ポッターは睨みつけた。「随分な言いぐさだな。君もマグルの家に住んでいるのに」

 

 「彼女の家族は、適切な服を買って、食事を用意してくれる」ポッターのだぶだぶのジーンズと特大のシャツを見て、ドラコは冷笑した。

 

 「去年は魔法のかかった車であなたを助けに来てくれたのにね」ハーマイオニーはダンブルドアの不当な罰則を思い出しながら呟いた。「今年はどうして助けに来なかったのかしら。旅行が楽しみであなたを忘れちゃったとか?」

 

 「ああ、そういえば車は失くしたって聞いたな」

 

 「そうなの? じゃあ、新しいのを用意すればいいのに。マグルに見つかっても平気なんだから、いっそのことバスにでもすればいいわ」

 

 ドラコはあざ笑った。「買うお金が無いんだよな、ポッター? 君はウィーズリー家の家を見たかい? 崩壊した話をまだ聞かないのは驚くべきことだよ」

 

 「マルフォイ、屋敷しもべ妖精は元気か?」とポッターが吐き捨てるように言った。

 

 ハーマイオニーはポッターがポケットに手を入れるのを見て、自分もポケットに手を入れ、杖を握りしめた。

 

 「警告しておくわ、ポッター。決闘クラブでの事を繰り返したくはないでしょう?」

 

 ポッターは怒鳴った。「またゲロ吐いて、泣くことになるかもしれないぞ?」

 

 ハーマイオニーは杖を引き抜いて、呪文を唱えるために口を開いた。が、結局呪文を唱えることは無かった。ポッターが杖を引き抜くのを見て、ドラコが突進し、体当たりをくらわせたからだ。ポッターは地面に倒れ、ドラコは馬乗りになった。ドラコは拳を握りしめて腕を高く上げる。

 

 「ドラコ!」鋭い声が響いた。振り向くと、ナルシッサとテリーが厳しい表情を浮かべてこちらに向かって歩いてきていた。

 

 ポッターは呆気にとられているドラコを押しのけると、体を起こして杖をドラコに向けた。

 

 ポッターが呪文を唱えるために口を開いた瞬間、ナルシッサはポッターの杖を魔法で弾き飛ばした。ポッターは表情を凍り付かせる。

 

 「一体これは何ですか?」

 

 「ポッターがハーマイオニーを侮辱したんだ」ドラコはポッターを睨みつけた。「それから僕たち家族のことを」

 

 ナルシッサはポッターをじっと見つめた。「それが本当なら、納得はできます。しかし」ナルシッサは不機嫌な顔でドラコを見た。「喧嘩をするなら杖を使うべきでした。拳で殴るなど、野蛮な者がすることです」

 

 ドラコは顔を赤く染めた。「はい、母上」

 

 「あなたに関しては」ナルシッサはポッターを再び見下ろした。「女性を侮辱したことを恥じるべきです。子供は父親に似ると言いますが、どうやら本当のことだったようですね」ポッターはそれを聞いて再び表情を凍り付かせた。

 

 テリーは少し混乱している様だったが、ハーマイオニーに近づき、肩に手を置いた。「ハーマイオニー、謝罪しなさい。何があったにせよ、お前も彼に杖を向けていたのだから」

 

 ハーマイオニーは渋々ポッターに顔を向けると、小さく頭を下げた。顔を上げると、ポッターはズボンの砂を手で払いながら、嫌な顔でハーマイオニーを見ていた。

 

 それからハーマイオニーたちは、黙って漏れ鍋の入り口まで戻った。

 

 テリーはトランクを下ろすと、「ハーマイオニー、お前がきちんとした生活をしてくれると信じているぞ」

 

 「もちろんよ、パパ」ハーマイオニーは頷き、微笑を浮かべた。

 

 どうやら勝負はナルシッサが勝ったようだった。外出禁止のはずだったのにも関わらず、マルフォイ夫妻から新しい手紙を受け取っただけで、2人が外出禁止を解いたことを考えると、マルフォイ夫妻の交渉スキルはとんでも無く高いのかもしれない。

 

 「あまりぶらついてはいけないよ」

 

 「ぶらつかないわ」

 

 「よろしい。じゃあ、クリスマス休暇にまた会うのを楽しみにしてる」テリーは少しの間ハーマイオニーを抱擁すると、頭のてっぺんにキスをして、名残惜しそうにパブを出て行った。

 

 「屋敷に向かっても良いかしら?」ナルシッサは杖を取り出して笑った。

 

 


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