蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第十九章 腕の無いバジリスク

 ディーンとペネロペは石にされた。

 

 ハーマイオニーはこの事実をどう受け止めればいいのか分からなかった。襲撃されるほんの少し前に、ハーマイオニーは二人の姿を見ていたのだ。ハーマイオニー自身も襲われる可能性があったのに、その時ハーマイオニーが考えていたのは、本を破った罪が擦り付けられないようにすることだった。

 

 スネイプはウンザリした声で読み始めた。

 

 「全校生徒は夕方6時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後は決して寮を出てはならない。授業に行くときは、必ず先生が1人引率する。トイレに行くときは必ず先生に付き添ってもらうように。クィディッチの練習も試合もすべて延期だ。夕方は一切、クラブ活動をしてはならん」

 

 スリザリン生はざわざわと騒ぎたった。

 

 「どこに行くのにも先生が一緒?」

 

 「どうしてクィディッチを延期する必要があるんですか?」

 

 「我々はスリザリンです。特別な対策を取る必要はありません!」

 

 「黙りたまえ!」とスネイプが大声で言った。部屋はすぐさま静まりかえった。

 

 「我輩がこの規則を作ったわけではない。だが、この規則には順守してもらう。破れば、それがスリザリン生であろうが、厳しく罰する」

 

 スネイプが生徒を見回すと、納得できない生徒が視線を逸らした。

 

 スネイプが談話室から立ち去ると、談話室に混沌が訪れた。幾人かの生徒は襲撃された生徒を嘲笑い、幾人かの生徒は厳しい規則に不満を零している。そして幾人かの生徒は学校が閉鎖されないか心配していた。ハーマイオニーも学校の閉鎖を心配する生徒の1人だった。

 

 「マルフォイ、学校は閉鎖されるの?」

 

 マルフォイの父親が権力者で、ホグワーツの理事の一員であるならば、マルフォイが何かを知っていても可笑しくなかった。

 

 「そうは思わないね」マルフォイが肩をすくめた。「父上がそんなことはさせない。ダンブルドアが追い出されるだけだ」

 

 次の日、本当にダンブルドアは学校から追放されていた。朝食はその話で騒然としている。噂によると、ルシウス・マルフォイがどうやら追い出したらしい。昨日の夜、ルシウスは魔法担当大臣と共に学校にやって来て、ダンブルドアの追放とハグリッドの逮捕に立ち会ったらしい。トムが言っていたことは正しかったのだ。午前の授業後、ハーマイオニーはトムに伝えるために自分の部屋に急いだ。

 

 部屋に帰って来たハーマイオニーはバッグを開けた。しかし、どこにもトムの日記が無い。ハーマイオニーはバッグの中身をベッドに放り出した。魔法薬、変身術、呪文学、天文学、教科書とノートはすべてある。しかし、トムの日記だけが無くなっている。ハーマイオニーはもう一度バッグをのぞいだ。何もない。机に目を向けるが無い。枕の下。シートの間。ベッドの下。何処にもトムの日記はない。

 

 ――何処に行ったの、トム。

 

 

 ハーマイオニーは医務室の重たい扉をノックした。しかし、扉はすぐには開かない。ハーマイオニーは背後の廊下をチラッと振り返った。何人かの先生から隠れて移動して来ることが出来だが、このままここに立っていれば巡回している先生に捕まってしまうだろう。あるいは継承者に。

 

 ドアが軋み、隙間が出来た。マダム・ポンフリーがその隙間から顔をのぞかせた。

 

 「はい、何の御用でしょうか?」

 

 「ディーンとペネロペのお見舞いに来ました」

 

 「面会は出来ません」と、素気なくポンフリーは言った。「前にも言いましたよね」

 

 「しかし!」ハーマイオニーは小さく叫んだ。「スネイプから許可を頂いています」

 

 「すみませんが、グレンジャー。私はそんな話は聞いていないのです」

 

 廊下の角から二人の男の子が現れた。黒髪と赤毛の男の子。二人は疑わしそうにハーマイオニーを見ていた。

 

 「マクゴナガル先生が、僕たちにディーンを訪問する許可をくれました」と、ウィーズリーはポンフリーに話した。

 

 「この子に言ったことを聞いていなかったの?」ポンフリーはうめき声をあげ、かなり頭を悩ませているようだった。「この状況下で教師が外出の許可を出すとは考えにくいです」

 

 「入らせてもらえないなら」ポッターはチラリとハーマイオニーの顔を見た。「僕たちはその危険な状況下の中でずっと待ちます」

 

 ポンフリーはぶつぶつと怒りながら、2人が入れるように扉を大きく開けた。ハーマイオニーは後に続こうとしたが、ポンフリーによって遮られた。

 

 「グレンジャーは帰りなさい。私はあなたを入れるべきではないと思います」

 

 「貴方はたった今、ポッター達を中に入れました!? どうして私だけダメなんですか?」と、ハーマイオニーは小さく叫んだ。

 

 「ミネルバは熱い友情に感化されたんでしょうが……」

 

 「彼らは私の友人です! 私だけダメなのは公平ではありません」ハーマイオニーは泣き出しそうな哀れな表情を作った。魔女だからと言っても、泣き落としに免疫があるわけではないだろう。

 

 ハーマイオニーの嘆願を拒否するために、ポンフリーは唇をすぼめた、しかし、拒否する言葉はついに出さなかった。

 

 「負けましたよ、グレンジャー。10分。それ以上は認めませんよ」

 

 ポッター達はディーンの隣の椅子から視線を寄越したが、何も言わなかった。

 

 ハーマイオニーはペネロペのベッドまで素早く歩いた。彼女は完全に石だった。図書館の本から破り去ったページを……ペネロペは持っていない。ハーマイオニーは彼女のポケットの全てをチェックした。彼女の隣のテーブルには本がきれいに重ねられている。そして誰かが花をその傍に置いていた。ハーマイオニーは各々の本のページを急いで捲った。しかし、破られた本は無い。ハーマイオニーは唇を噛んで、反転した。

 

 ポッターとウィーズリーがハーマイオニーを睨みつけている。

 

 「彼女から何を奪おうとしているんだ?」

 

 「ウィーズリー、あなたには関係ないわ」ハーマイオニーはディーンのベッドまで大股で歩いて、彼のポケットを捜し始めた。

 

 「おいやめろ、グレンジャー!」ウィーズリーはハーマイオニーの手首を掴もうとしたが、ハーマイオニーが杖を引き抜くと、後ずさった。

 

 ハーマイオニーは部屋に篭っているポンフリーが出てこないか、後ろをチラチラ見て確認しながら話した。

 

 「ウィーズリー、少しの間だけだから、動かないで。勿論、ポッターもよ」

 

 ポッターはハーマイオニーの杖を用心深く見つめながら尋ねた。

 

 「いったい、君は何がしたいんだ?」

 

 「私は……ディーンと……ペネロペと……ジャスティンに会いに来たの」

 

  罪の意識は胸に痛みを刻みつけた。長い間、ハーマイオニーはジャスティンを訪ねなかった。彼は冬の間、ずっと石だったのにもかかわらず。多分、来るのが怖かったのだろう。多分、ちょうど忙しくて忘れていたのだろう。ハーマイオニーは、どちらがより悪いかについて、よくわからなかった。

 

 「なぜ?」ウィーズリーが怒鳴った。「君がスリザリン以外の生徒を気に掛けるとは思えない」

 

 「彼らが私の友人だからよ」

 

 「1、2年の間、口をきかなかった友人だ」とポッターは反論した。

 

 「私が魔法界で初めて会ったのは彼らよ!」と、杖を向けたまま、ハーマイオニーは怒鳴った。ディーンのテーブルを見ると、誰かが汚い古いサッカーボールを置いていた。面白いが、役には立ちそうもない。

 

 「何を探しているんだ?」ポッターは尋ねた。緑の目はまだ杖を見ている。

 

 「あなたたちには関係ないわ」と、ハーマイオニーは繰り返した。そして、ディーンの体に目を向けた。

 

 ――彼は、どこに隠したの? 破いたページは重要なの?

 

 ハーマイオニーは眉をひそめた。そしてざっと体に目を通した。何もない。それから、ハーマイオニーはディーンの手を見た。

 

 手は奇妙な形をしている。ほとんど拳だ。まるで何かを握っていたように。

 

 「どいて」

 

 ウィーズリーは唸り声と共に邪魔にならない場所に移動した。

 

 いくらかの努力のすえに、ハーマイオニーはなんとかディーンの手から紙の小さいボールを取り出すことが出来た。誇らしげな微笑が顔に広がり、ハーマイオニーは紙を広げた。

 

 「それは何だ?」とポッターは尋ねた。

 

 「やったわ。怪物の正体が分かった」ハーマイオニーは杖をしまうと、出口に向かった。二人はその後に続く。

 

 「どういう意味だ? 怪物の正体が分かったって」

 

 「そのままの意味よ」ハーマイオニーは自信を持って答えた。そしてページの一部をポケットにしまい込んだ。

 

 「ダンブルドアが解き明かすことが出来なかった謎を私が解いたと知ったら、マクゴナガル先生はどんな表情をするかしら。楽しみだわ」

 

 「狂ってる」

 

 「それで正体は何だったんだ?」ポッターは食い入るように尋ねた。

 

 「教えると思う? あなたが私を信用していない様に、私もあなたを信用していないのよ?」

 

 「君の手柄という訳じゃないだろ!」ウィーズリーは顔を少し赤くしていた。「ディーンとペネロペはかなり前からマグルの神話のことを話していた。正体を突き止めたのは二人だ」

 

 「でも誰かに伝えることは出来なかった。それじゃ、私行く予定があるから」

 

 「どこに?」

 

 「職員室よ、ポッター。ついてこないほうが良いかも。スネイプ先生はあなたたちだけを罰するかもしれないわ」

 

 ハーマイオニーの脅しを聞いても、ポッターとウィーズリーは後に続いた。

 

 職員室は空だった。ハーマイオニーは近くの椅子に座ったが、ポッターとウィーズリーはそわそわと室内を往ったり来たりしていた。

 

 10分後、城の中にマクゴナガルの声が響き渡った。

 

 『生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まりください』

 

 「また襲われたのか?」ポッターが囁いた。

 

 「どうしよう? 寮に戻ろうか?」

 

 「いいえ」ハーマイオニーは断固として拒否した。「私は此処に残るわ。先生方に情報を伝えなくちゃいけないから」

 

  「その通りだ」ポッターが頷いた。「ここに残るべきだ。それで隠れよう。何があったか盗み聞くんだ」

 

 ハーマイオニーは二人がマントがぎっしり詰まったやぼったい洋服掛けの裏に隠れるのを馬鹿にして見ていた。

 

 「さあ、グレンジャー!」

 

 「私も? そこに? あなた方二人と?」ハーマイオニーは鼻を鳴らした。「あり得ない」

 

 ハーマイオニーは彼らから目を離し、ドアに向きを変えた。少しすれば英雄なのだ。ハーマイオニーはホグワーツの教職員の驚く顔を見ることが出来、そして年老いた無能なダンブルドア校長を嘲笑うことが出来るのだ。

 

 4本の手がハーマイオニーの腕を掴んで、後ろに引きずり始めた。

 

 「構うもんか!」

 

 ハーマイオニーは必死に抵抗したが、ただでさえ非力なハーマイオニーが二人の男の子に勝てるわけがなかった。洋服掛けの後ろにハーマイオニーを押し入れると、ポッターは横腹に杖を押し付けて言った。「お願いだから、静かにしてて」

 

 3人は何百人もの人がガタガタ移動するのを聞いていた。やがて職員室のドアがバタンと開いた。かび臭いマントの壁の間から覗くと、先生が当惑した顔、怯え切った顔をして次々と部屋に入ってくるのが見えた。やがて、マクゴナガル先生がやって来た。

 

 「とうとう恐れていた事態になりました。生徒が1人、怪物に連れ去られました。『秘密の部屋』そのものの中へです」

 

 スネイプは椅子の背をぎゅっと握りしめ、「なぜそんなにはっきり言えるのかね?」と尋ねた。

 

 「『スリザリンの継承者』がまた伝言を書き残しました。最初に残された文字のすぐ下にです。『彼女の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう』」

 

 「誰ですか?」腰が抜けたように、椅子にへたり込んだマダム・フーチが聞いた。「どの子ですか?」

 

 「ジニー・ウィーズリー」

 

 ハーマイオニーは隣でウィーズリーが声もなくへなへなと崩れ落ちるのを感じた。

 

 職員室のドアがもう一度バタンと開いた。ロックハートだ。ニッコリほほ笑んでいる。

 

 「大変失礼いたしました――ついウトウトと――何か聞き逃してしまいましたか?」

 

 「なんと、適任者が。まさに適任だ。ロックハート、女子生徒が怪物に拉致された。秘密の部屋の中に。いよいよあなたの出番が来ましたぞ」

 

 「その通りだわ、ギルデロイ。昨夜でしたね、たしか、秘密の部屋の入り口がどこにあるか、とっくに知っていると仰ったのわ」

 

 「私は、その」

 

 「そうですとも。私にも話していました」

 

 「い、言いましたか? 覚えていませんが……」

 

 「我輩は覚えておりますぞ。自分の好きなようにやらせてもらえればすべてがうまくとか」

 

 「私は……何もそんな……」

 

 「それでは、ギルデロイ、あなたにお任せしましょう。おひとりで怪物と取り組むことが出来ますよ。お望み通り、お好きなように」

 

 「よ、よろしい。へ、部屋に戻って、し――支度します」

 

 

 先生が職員室から列をなして出て行くのをハーマイオニーは見ていた。

 

 ジニー・ウィーズリーが襲われたということは、純血の者が襲われる可能性があることを意味していた。ウィーズリーはグリフィンドールだが、純血であることは確かだ。

 

 しかしよく考えてみると、ジニーは単純に襲われたわけではない。秘密の部屋に連れ去られたのだ。それは何か、今までとは違う意味を成しているのは確実であろう。

 

 スリザリンの怪物、バシリスクは、城から価値のない魔法使いを一掃するのが目的のはずだ。しかし、純血のジニー・ウィーズリーを連れ去った。バジリスクはドラゴンではないのだ。どういう理由があったのだろうか。

 

 ハーマイオニーは頭を悩ませた。頭のなかにあるピースはバラバラで、形を成していない。

 

 ――どのようにしてバシリスクは部屋に女の子を連れ去ったのかしら?

 

 蛇には腕が無い。バシリスクの牙は有毒だ。彼女を運ぶために口を使うことは出来ないだろう。彼女を殺すつもりが無い限り。

 

 ――ジニー・ウィーズリーは恐らく……死んでいるわね。

 

 伝言を思い返すと、やはりその可能性は高かった。

 

 ――でも、わざわざ部屋に連れ去る意味は?

 

 今までとは違う点。

 

 ――推察が正しければ、彼女が初めて殺される生徒になる。それから彼女は他の人とは違って純血。死体。純血。

 

 ハーマイオニーはふと、ウィーズリー家の人間が何と呼ばれていたか思い出した。血を裏切る者。パンジーにそう呼ばれたマルフォイが、彼女を殺さんばかりに怒った言葉だ。

 

 おそらく、それも理由の1つだ。だが、学校にはたくさんの血を裏切る者がいる。しかし、ジニーが襲われる前の被害者は全員マグル生まれだった。血を裏切る者が襲われなかったのはたまたま? それとも純血が必要で、血を裏切る者のジニーを仕方が無く連れ去った? 疑問が次々と頭に浮かび上がるが、どれも答えを出すことが出来ない。

 

 ハーマイオニーはポッターによってそっと背中を押され、洋服掛けの外に出た。そして、その後にゆっくりとウィーズリーが出てきた。赤毛の男の子は顔を真っ白にし、視線は焦点が合っていなかった。ハーマイオニーはウィーズリーが気絶するように思えた。

 

 3人は部屋の角に、三角形の形で立っていた。誰も何を言うべきか分からず、黙って立っていた。

 

 ようやく沈黙を破ったのはポッターだった。「怪物の正体はなんだ?」

 

 ポッターの声は、ハーマイオニーの背中にゾワッとした感覚を走らせるほど冷たかった。そしてエメラルドの目は決心で激しく輝いていた。

 

 「バシリスク」と、ハーマイオニーは囁いた。そしてボロボロのページを取り出して、それをポッターに手渡した。

 

 「バシリスク?」ウィーズリーは引き攣った声を出した。

 

 「バジリスクの弱点は……雄鶏のつくる声」とポッターは読んだ。

 

 「そう。だから私たちは雄鶏を連れてくるだけでいい」ハーマイオニーは素早く伝えた。

 

 「それは無理だ」と、ポッターは厳しげな声で言った。「鶏は全羽死んでいる」

 

 「全羽?」と、ウィーズリーはささやいた。

 

 「ハグリッドは誰かに鶏を殺されているって話してた。そしてこの間、全羽やられた」

 

 ハーマイオニーは眉をひそめる。「知っていたのね、ハグリッドは。自分の怪物が雄鳥に弱いってことを」

 

 「自分の怪物?」

 

 「ハグリッドは前の継承者よ。50年前の」

 

 「ハグリッドじゃない!」

 

 「50年前に彼は学校を追い出されたわ、ポッター。そして今回、彼は逮捕された。ハグリッドが継承者よ。怪物は、多分、それで復讐をしているんだわ」

 

 「ハグリッドは継承者じゃない」と、ポッターは真剣な顔で言った。「50年前、ハグリッドは捕まったが、飼っていた動物はバジリスクじゃなかった」

 

 「どうして分かるの?」

 

 「僕たちはハグリッドが飼っていた怪物に会って来たんだ」とウィーズリーは泣き声で言った。

 

 「怪物に会った? 本当に?」

 

 ポッターは頷いた。「巨大なクモだった。名前はアラゴグ」

 

 ハーマイオニーは鼻で笑った。「巨大なクモ? アラゴグ?」

 

 「ハグリッドは継承者じゃなかった」と、ウィーズリーが目を見つめて言った。「どうやってバジリスクが壁に文字を書くんだ? 継承者はまだ学校にいる」

 

 ハーマイオニーは唇を噛み締めた。先程自分が考えていたことをウィーズリーに指摘されたのだ。腹が立たない訳がない。

 

 しかし、ウィーズリーの指摘するように、バシリスクには腕がない。指がない。

 

 「しかも蛇が英語をかけるとは思えない」と、ハーマイオニーは渋々認めた。「ポッター、ヘビってパーセルタングが書けるのかしら?」

 

 ポッターはもどかしそうに騒いだ。「いや、分からない。でも、話すのは聞いた! そうか、僕はバジリスクが話しているのを聞いたんだ!」

 

 「バジリスクの声を?」ハーマイオニーはウィーズリーが神妙な顔で頷くのを見た。

 

 「それは何時の話?」

 

 「襲撃の前に毎回何かが話す声を聞いていた。他の誰も気が付いていなかったけど。でもそれは、みんながパーセルタングを理解できていなかったからだ!」

 

 「襲撃の前に声を聴いた? どの襲撃でもそうだったの?」

 

 「そう」ポッターは肩をすくめた。「だから、バジリスクはパーセルタングを話せる」

 

 ハーマイオニーは頭を掻きむしった。バジリスクはヘビなのだからパーセルタングが話せるのは当然のことだ。「今回は聞こえた? さっき医務室にいた時、あるいはそれ以前に声は聞こえた?」

 

 「いや……聞いていない」

 

 それは不自然だった。毎回聞こえていた物が今回だけ聞こえなかった。偶然で片づけていい物ではない。

 

 「バシリスクが連れ去ったわけじゃない……」あらゆる要素がそれを証明していた。

 

 「じゃあ、何がジニーを秘密の部屋に連れ去ったんだ?」ウィーズリーが急いて尋ねた。

 

 「待って、考えてる」とハーマイオニーはゆっくり言った。そして間を置くと、口を開いた。

 

 「継承者ね」ハーマイオニーは微笑んだ。

 

 「ちょっと待て。どうして笑ってるんだ?」ポッター怒って尋ねた。

 

 「継承者を捕まえられるからよ」微笑は顔中に広がった。

 

 「継承者は秘密の部屋に行く、あるいは出てくるために姿を現すわ。各寮の前で待ち伏せしていれば、現行犯で逮捕することが出来る!」

 

 「ロックハートが部屋の場所を分かっている! さっきの会話を聞いていなかったのか? ロックハートは怪物と戦いに行ってくれる!」ウィーズリーは叫んだ。しかし、ハーマイオニーは静かに首を振った。

 

 「そうは思えないわ」

 

 「僕も疑わしいと思う」ポッターが同意した。「僕たちは自分たちで見つける必要がある」

 

 「自分たちで見つける? 私、手がかりなんて何もないわよ。スリザリン寮の近くにバジリスクが通れる穴があったら、私も気が付いてるでしょうし」

 

 「もしバジリスクがそんな近くにいたら、君は殺されてるか、石にされている」と、ポッターは言った。

 

 「継承者は頭がおかしいから可能性は……」

 

 「あなたこそ頭が可笑しいわ」ハーマイオニーはウィーズリーを睨んだ。「貢献したいなら、知っていることを全部話して」

 

 「アラゴグが言ってたんだけど、」

 

 「あなた蜘蛛語がわかるの?」

 

 「アラゴグは言っていた!」ウィーズリーが怒鳴った。「50年前に殺された女の子は女子トイレで発見されたって」

 

 ハーマイオニーは手を上げて制止した。「役に立たない情報よ。今回、石化された人たちは廊下にいたの。バシリスクは至る所で滑り回っていたのよ――ちょっと待って」ハーマイオニーはゆっくと口を閉じた。「なぜ、誰もバジリスクを見ていないの?」

 

 「見た人は石になって――」

 

 「いいえ、ポッター。城を這いずり回っているヘビがいるなら、誰かがヘビの尻尾や体を見てなきゃ可笑しいわ。だってバジリスクは巨大なヘビなのよ」

 

 ウィーズリーが何か言ったが、ハーマイオニーは聞いていなかった。

 

 「それに人を襲った後、バジリスクは素早く逃げなくちゃいけない。人が集まってくる可能性があるんだし。どうやって……」ハーマイオニーは髪を引っ張り、指に巻きつけた。

 

 「天井? 床? 壁? どこかに抜け穴が? いいえ、そうじゃない。そういうものじゃない。バジリスクが通れるほどの抜け穴であれば、ダンブルドアが知っているはずよ。彼は半世紀以上の間、ここにいるんだから」

 

 ハーマイオニーはもう1つの手にも髪を巻き付けた。

 

 「ダンブルドアは調査したはずよ。どんな抜け穴でも見逃さない様に。でも、分からなかった。それはなぜ? ……バジリスクが特別な抜け穴を使ってないから? 初めからあった物を利用している? 壁の中。そう、壁の中。配管がある。パイプがある。パイプが、壁にある。パイプよ!」

 

 ハーマイオニーは笑顔で叫んだ。

 

 「パイプは……トイレにつながっている」ハーマイオニーはウィーズリーをジッと見つめた。

 

 「マートルだ」2人は一緒に呟いた。

 

 ウィーズリーはまばたきした。「マートルだってどうして分かったんだ?」

 

 ハーマイオニーは女子トイレで体調を崩すウィーズリーに会ったが、彼はパーバティーの姿を見ていたため、ハーマイオニーと会ったことを知らなかった。

 

 「あなたこそ。マートルは女子トイレにいるのよ?」

 

 ウィーズリーは頬を真っ赤にした。

 

 「えー、フレッドとジョージは、ホグワーツについて、たいへん知っているので、マートルについて話してくれたんだ」と、ウィーズリーはブツブツ言った。

 

 「マートル?」ポッターは二人の顔を見て尋ねた。

 

 「マートルは、幽霊よ」

 

 彼女は、トムを知っていた。トムは部屋が開かれた時にホグワーツにいた。つまり、女子トイレで殺されたのは彼女だ。

 

 「その幽霊は女子トイレにずっといるの。トイレで殺された女子生徒は、その幽霊だっていうのが私達の推測よ。彼女は、何か知っているかもしれない」

 

 「何を待っている? 早く行こう!」ウィーズリーは叫んだ。

 

 「ちょっと待って」ハーマイオニーは駆け出そうとする二人を制止した。

 

 「ロックハートに話しに行きましょう」

 

 「彼は嘘つきだ」と、ポッターはすぐに言い返した。

 

 「そのとおりね。でも……闇の魔術に対する防衛術の先生よ」ハーマイオニーは肩をすくめた。

 

 「頭は悪いかも知れないけど、手助けはしてくれるはず」

 

 「そうだ! ロックハートに助けを求めるべきじゃないかな?」ウィーズリーがソワソワしながら言った。

 

 「ええ、役に立たないでしょうけど、盾ぐらいにはなってくれるはずだもの」

 


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