蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第十五章 トム・M・リドル

 ハーマイオニーはページをジッと見つめた。文字はずっと以前に消えていたが、ハーマイオニーは次の何かが浮かび上がるのではないかと待っていた。しかし、結局待っても文字は現れず、ハーマイオニーは羽ペンにインクをつけると、インクをページに滲みこませた。インクは紙の上で一瞬明るく光り、吸い込まれるようにして消える。

 

 それはあり得ないことだった。「魔法」という単語が頭のなかで浮かび上がる。これが魔法であるのは分かっていた。しかし、ハーマイオニーは50年前の日記が返事を返してくるのが不思議でならなかった。ハーマイオニーは震える手で文字を書きこむ。

 

 『トム?』

 

 『返事をくれて嬉しいです。僕は何の役に立てますか、ハーマイオニー?』

 

 『あなたは何者ですか?』

 

 『僕は日記です。貴女がポリジュース薬を調合できる人物なら、日記であることに疑問は持たないでしょう』

 

 『でも、あなたは私と会話できてるわ』

 

 『僕が少し……混乱させてしまっているのは理解できます。でも僕を信じてください。僕は手助けしたいだけなんです』

 

 『あなたは生きていますか? それとも、これはただのプログラム?』

 

 『プログラム……?』

 

 『あなたは私が書いたものに自動的に反応するように作られてますか?』

 

 『僕は自分の意思で返答していると思います。僕を正確に言い表すならば、思い出です。僕は記憶なんです。生きているかどうかの判断は貴女にお任せします』

 

 『日記に記憶を保存することが出来るんですか?』

 

 『ええ。これは珍しい方法ですが』

 

 『なぜ、あなたは日記に記憶を保存したんですか?』

 

 『どうして貴女はダンブルドアへのメッセージを書いたんですか? 僕も誰かに知ってもらいたいと思いました。僕がしたこと、したかったことを。しかし、誰でもいいというわけではなかったので、インクよりも遥かに丈夫なもので、自分の記憶を書き留めました』

 

 ハーマイオニーは一度手を止めた。日記は確かに会話をしていた。それからおそらく、彼は孤独なのだと思われた。50年の間、誰とも話さなかったのだろう。日記は女子トイレに捨てられていた。きっと最初に拾った人物は。返事をしてくる日記を薄気味悪く感じたのだ。マルフォイが指摘したように、拾った人物はハッフルパフ生だったかもしれない。

 

 『あなたは私と共通点があると言いました』

 

 『貴女はマグル生まれだと書きました。ぼくはマグルの孤児院で育てられたんです。ダンブルドアが僕に話をしに来るまで、僕は魔法の存在を知りませんでした』

 

 『私はマクゴナガル先生に知らされました』

 

 『ああ……ミネルバはホグワーツの教師をしているんですか? きっと変身術でしょうね。貴女は彼女がアニメーガスだと知っていましたか?』

 

 『そうです、変身術です。アニメーガスとは何ですか?』

 

 『アニメーガスとは自分の意思で動物に変われる人を指します。興味深い能力です。僕は特に利益を見出せませんが。彼女がグリフィンドールであったことは非常に残念でした。才能に秀でていたのですが……』

 

 『あなたはどの寮が相応しかったと思うのですか?』

 

 『もちろんスリザリンです。

あなたと同じように、僕は僕とは最も異質な寮に分類されました。しかし、それでもスリザリンは僕にとって家でした。私は自分の親は魔法使いであるとひたすら信じていました。あなたと同じように、他のスリザリン生には、マグル生まれの侵略者だとみなされていましたがね。しかし、僕は努力し続けました。そして最終的には、多くの者が認める優れた魔法使いになることができたんです』

 

 『どうして私も一緒だと分かるの?』

 

 『上級生はポリジュース薬を調合する方法を指導してくれましたか?』

 

 『いいえ……』

 

 『やはり、貴女も僕も部外者なんです。だから僕は努力し、自分の道を進んだのです。しかし、僕を認めようとしなかった人物が1人いました。その人物は教師ですが、僕を決して信じてくれませんでした』

 

 『誰?』

 

 『貴女もよく知っていると思います』

 

 『ダンブルドア?』

 

 『そうです。彼は常にグリフィンドールを贔屓しました。彼は才能溢れるミネルバを贔屓しました。彼にとって僕は靴先の小さなほこりだったんです。僕が学年で最も成績が良くても、彼には重要なことじゃなかったんです。

僕は親に捨てられました。そしてスリザリンでした。それと多分、マグルの血が入っていたからでしょう。

僕は彼の……思想について、常々疑問を抱いていました。貴女はダンブルドアがグリンデルバルドと友人だと知っていましたか?』

 

 『グリンデルバルド? 闇の魔法使いの? ダンブルドアは彼を倒したんじゃないんですか?』

 

 『彼の弱点を全て知っていたのですから、簡単なことだったでしょうね。

そういえば、スラグホーン先生はまだ教鞭をとっていますか?』

 

 『いいえ』

 

 『それは残念です。彼は非常に優秀な教師で、スリザリンの寮監でした。今は誰がスリザリンの寮監をしているんですか?』

 

 『スネイプ先生です。彼も優秀な教師です。私を認めてくれています』

 

 『スネイプ……スネイプは……いや、ダンブルドアに近すぎます。スネイプはダンブルドアをどう思っているか分かりますか?』

 

 『スネイプ先生はほとんどの人を嫌っています。しかし、ダンブルドア校長のことは尊敬していると思います』

 

 『尊敬。それはダンブルドアが私に与えたことのないものです』

 

 『ダンブルドア校長は現在も特定の生徒にはそれを与えていないようです。彼は私も信じていません。私はポッターが秘密の部屋を開いたと主張し続けました。しかし、彼はお気に入りの生徒であるポッターを守り続けています』

 

 『ポッター。……貴女はどのようにして部屋を開いたと考えていますか?』

 

 『私には分かりません。ですが、部屋にあった何かを使って襲撃しているのは間違いないと思います』

 

 『その推測は杜撰すぎませんか?』

 

 『ポッターはまだ12歳です。彼自身が誰かを襲撃しているのは考えにくいです』

 

 『それは根拠にはならないと思います』

 

 『どうしてですか?』

 

 『年齢だけでは魔法使いとしてのレベルを判断できない、と考えているからです。貴女も3年生なのにポリジュース薬を調合した訳ですし』

 

 『2年生』

 

 『?』

 

 『私は2年生です』

 

 『僕の計算が間違っていますか?

 1993-1979=14

 3年生では……?』

 

 『今は2月です。13年と約半分です』

 

 『……半分は非常に重要ですね』

 

 ハーマイオニーは彼が自分自身を皮肉っているのに気がついた。

 

 『私は9月に生まれました。早生まれなんです』

 

 『そうですか、二年生ですか。その年でポリジュース薬を。いや、驚きました。同じ学年だった頃に、果たして僕は調合することが出来たか……。

話が逸れました。それで、ポッターがスリザリンの継承者だというのは確かなんですか?』

 

 『ええ』

 

 『彼はパーセルタングが話せますか?』

 

 『ええ。決闘クラブの時に正体を現しました』

 

 『その時、貴女は何をしていましたか?』

 

 『決闘クラブで?』

 

 『勿論』

 

 『舞台でポッターと戦っていました』

 

 『ポッターの実力はどうでしたか?』

 

 『それほどではありませんでした。私は彼に勝っているので』

 

 『つまり、貴女はスリザリンの継承者を破ったということですか?』

 

 『まぁ……そうとも言えます』

 

 『グリフィンドールの、スリザリンの継承者……』

 

 『もしかして、信じていませんか?』

 

 『いえ、そうではありません。面白いことに気がついたんです』

 

 『何ですか?』

 

 『僕の時代の継承者は……ポッターと同様に、グリフィンドール生でした』

 

 『あなたは継承者を捕まえた、と自己紹介していました』

 

 『はい』

 

 『誰だったんですか?』

 

 『僕は自分の成果について話すのがあまり好きじゃありません』

 

 『教えてください。これは役立つ情報かもしれません』

 

 『奇妙な人物でした。彼はいい人間だったんです。とても素晴らしく。まさか怪物を隠しているなんて思いもしませんでした』

 

 『誰ですか?』

 

 『ハーマイオニー、貴女に僕が残酷な人間であると思って欲しくありません。彼は悔い改めようとしていました。しかし、僕は見逃すことが出来ませんでした。襲撃が止んだとしても、学校は閉鎖することになっていたことでしょう。ハーマイオニー、ホグワーツは僕にとって家でした。私は孤児院に、マグルの世界に戻りたくはなかったんです』

 

 『トム、教えてください』

 

 『彼の名前はルビウス・ハグリッド。逮捕後、彼は杖を折られ、退学になりました』

 

 『ハグリッド?』

 

 『はい。もしかすると、彼について何か耳にしたことがありますか?』

 

 『ええ……。彼は森の番人をしていて、禁じられた森の近くの小屋に住んでいます。それから1年生が初めて学校にやって来た時の案内人を務めています。そして私は……彼の鶏で魔法の練習をさせてもらいました』

 

 『彼は危険です、ハーマイオニー。彼はそのことをよく思っていないかもしれません。彼には注意が必要なんです。マグル界であれば、彼は殺人罪に問われ、刑務所に入れられていました。それに、彼は短気です。もう二度と彼の小屋に近づかないでください。彼の近くに行かないでください』

 

 リドルはすぐに続きを書いてきた。急いで伝えようとしているかのように、文字が乱れている。

 

 『ハーマイオニー、ルビウスの近くには行かないと、僕に約束してくれ』


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