ベルの異様性はオラリオを一気に知れ渡った。
「こりゃ、迂闊に外に出てもゆっくり出来なさそうだな。」
「そうだね。」
ザルバと話しながらベルは協会の修理を行っていた。流石にボロボロの床にボロボロの壁、窓もボロボロでは泥棒や蛮族に襲ってきてくださいと言っているようなものである。
だが業者を雇おうにもどこが信頼できるのかがわからない。
よって自分で治すという結論に至ったのだ。
無論、簡単ではない。だがやるしかないのが現状である。金は怪物祭に貢献した冒険者へ倒したモンスターの数の分配分されたものを使っている。
ちなみにご近所には朝早くから報告しました。
「しっかしよくこんなところに住んでいるよね。」
「住めば都って言うけど、無防備にも程があるわ。」
ベルの言葉にザルバが相槌を打つ。
「流石にあの神様の嬢ちゃんにこれは無理だしな。」
「むしろバイトに行ってくれてた方が安心するね。」
ヘスティアは最初手伝うと言い出したが金槌も持ったことのない素人が手伝うと悲惨な姿になるのは目に見えているためバイトの方へ行ってもらっている。
「さて……屋根は終わったね。」
「相変わらず手際いいよな、お前。」
汗を拭うベルにザルバはそう声を掛けた。ベルは屋根から降り、着地する。
「さて…次は壁だがその先は流石に…」
「だな。水道はパイプの交換でよかったが床とかは流石に無理だな。草むしりでいいな。」
「しかないね。」
ベルはそう言うとセメント材と水を混ぜ始める。
「にしても、あのロキ・ファミリアの嬢ちゃん。確かアイズと言ったか?お前をずっと見てたぞ。」
「多分同じ剣を使うものとして興味があったんじゃないかな?」
「そう言うもんか?」
ロープを腰に固定したベルはぶら下がりながらセメントを塗り始める。
「そー言えばレベルアップするとその理由とか書けってハーフエルフの嬢ちゃんが言ってたな。なんて書くつもりだ?」
「ここに来るまでに外で修業を重ねた上に多くのモンスターを倒して経験を積み重ねたからって書いとこ。実際にそうだし。」
「そうだな。それよりもベル。」
「なに?」
「あの時お前は“未熟の牙狼”と言ったな。どうしてだ?」
ザルバの問いに対しベルはこう答えた。
「内なる自分と向き合っていないから。」
その言葉にザルバは納得した。騎士として、いつかは訪れる内なる自分と向き合う時が来る。ベルはそれがまだ訪れていないため、未熟と自分から口としたのだ。
「お前さんは内なる自分と向き合ってやっと黄金騎士と名乗れるって思ってるんだな?」
「うん。」
「俺からすればもう名乗ってもいいと思うぞ。」
「それでも納得してないんだよ。」
ベルはそう言いながら作業を続ける。
そんなベルに一人の訪問者が来た。
「ベルく~ん!」
「え、エイナさん!こっちでーす。」
「ああ、そこに…て、なんでそこにいるの!」
エイナはツッコミを入れる。
「壁の修繕工事中です。ちょっと待ってください。此処終わったらすぐそっちに行くんで。」
数十分してベルは作業を終えるとエイナの元まで降りる。
「それで来たのはギルドの仕事ですか?」
「ええ。それにしても驚いたわよ。町中ベル君のことで大騒ぎ。昨日の鎧のことは伏せておいたけど、私たちの主神ウラノス様には伝えておいたわ。一応、伝えておかないといけないからね。」
「お世話掛けます。」
ベルはエイナに頭を下げる。
「そう言えばベル君、明日の予定は?」
「明日ですか?ヘスティア様から防具や武器を見ておいた方がいいと言われたんですけど、流石に防具は…」
「ダメよ!貴方防具も無しにあのコートだけ着て行っているじゃない。」
心配するエイナにザルバは言った。
「安心しな、嬢ちゃん。こいつが来ているコートはちっとばかし特殊でな。並大抵の攻撃は防いでくれるぜ。」
「そうなの?」
「ええ。」
エイナの問いにベルは答えた。
「それより俺は投擲用の武器がいります。」
「投擲用?」
エイナは首を傾げる。
「牙狼剣で斬ってて気づいたのが普通の金属で投擲して倒せるモンスターが結構いたので投擲の武器があったらいいなーって思って。」
「上級冒険者みたいな発言しないで。私の胃が痛くなるから。」
エイナは頭を抱える。
「まあ、そう言うのだったら一緒に行ってあげようか?」
「え?でもエイナさん予定は…」
「ううん、無いからベル君と一緒にどこか行こうかなーって思って。」
若干頬を赤らめながら言うエイナにザルバは思った。
(こりゃ惚れちまってるな、この嬢ちゃん。)
しかし当の本人は色恋に関しては鈍感であった。
「そうですか。ありがとうございます。」
ベルは頭を下げた。
翌日の噴水広場でベルはエイナを待っていた。
予定の十分前に既にスタンバイしているベル。だが道行く人々からは注目されていた。
「おい、あいつって…」
「ああ、あのLv.5だ。」
「とてもそうには見えないけどな。」
「だがギルドの人間がちゃんと確認したんだから間違いないだろ。」
ベルの威容性に信じられない人は多かった。
そんな時エイナが声を掛けてきた。
「ベルくーん。」
「え、エイナさん。」
ベルは立ち上がり、エイナの方を向く。
エイナの服装は眼鏡を掛けておらず、胸元が少し開いた白い服に少し短めのスカートを穿いた姿であった。
その姿を見て少しばかりベルは驚いた。仕事一筋の人からは想像がつかないほどのギャップがある。
「どうかな、ベル君?」
「似合ってますよ。それに可愛いですし。」
ベルは正直な意見を言うとエイナは少し顔が赤くなった。
(こりゃそっちの才能があるな。)
ザルバは一人そう思った。
「ベ、ベル君はその恰好なんだね。」
「ええ、まあ。」
ベルは相変わらず黒い服に白いコートである。
「じゃあ、行きますか。」
「はい。」
ベルはエイナに付いて行く。
「どこなんですか?」
「バベル。」
「バベル?あそこに何かあるのですか?」
「ヘファイストス・ファミリアが運営している店があるの。目当ては上の階だけど、下の階のも見てみない?」
「エイナさんがそうしたいのなら。」
「じゃ、行きましょ!」
エイナはベルの手を引っ張り、バベルの中へ入る。
エレベーターを少し上った階。そこは豪華に装飾され、高価な鎧や武器がガラス張りに展示されていた。
「結構高価ですね。とても上層でモンスターを狩ってても買えないくらいに。」
「初日にとんでもない額を稼いだ君が言うかな?」
エイナは心底そう思った。
「けど…俺には縁がないですね。」
「そうなんだ。その剣ってどんなもので出来てるの?」
「ここではちょっと。人が多いですから。」
ベルはそう言うと他の展示物を見始める。そんな姿にエイナは微笑んだ。
そして上の階へ上る。そこはまだ名も売れていないヘファイストス・ファミリアの眷属たちが作った武器や防具が置かれていた。
「へー。名が売れてはいないけど、頑張ってるのが感じられる武器がありますね。」
「そうなんだ。でも下のとは違って甘いの?」
「ええ、まあ。重心が少し悪いのもありますから。」
ベルは武器を手に取りながらそう言った。
「それよりもちょっと……ん?」
ベルは束で置かれている投擲用の小型ナイフに目が留まる。
「これは…」
「どうかしたの、ベル君?」
「ええ、ちょっと…」
ベルはナイフを念入りに見る。
(いい作りだ。投げやすくて隠しやすい。それに軽い上に使かっているのは普通の鉄。ここまでの物を作るとは……)
「どうだベル?目当てはあったか?」
「ああ。これにするよ。それに個人的に作った人物に会いたくなりました。」
「そこまで…そんなに良かったんだね。」
「ええ。じゃあ俺はこれ買います。」
ベルはそう言うと会計へ向かった。因みにお値段は30本セットで7,500ヴァリスとお買い得であった。