ヘスティアはベルが持っていたナイフで指先を切るとベルの背中に血を垂らす。ベルの背中にヘスティア・ファミリアのエンブレムが刻まれる。
ヘスティアはベルが持っていた羊皮紙とペンで彼のステータスを書き写す。だたひたすら、気にすることもなく。
「はい、書き終わったよ。これで君は僕のファミリアの一員だ。」
「ありがとうございます、ヘスティア様。」
ベルは礼を言う。そんな中エイナはベルの上半身に顔を赤くしていた。
ベルの上半身には細身にもかかわらず引き締まった筋肉をしていた。一種の芸術の様なものであった。
「それじゃあ先にアイズさんたちの方へ行きますね。」
ベルはそう言うと上着を着てコートを羽織る。
「ザルバ、気配はわかるか?」
「俺を誰だと思ってんだ?そのくらい朝飯前だぜ。」
「そうだったな。」
ベルはザルバにそう言うと走り始める。
「ベル君…」
ヘスティアは心配そうな顔でステータスを書いた羊皮紙を見る。
「ん?…………………んなっ!?」
ヘスティアはステータスを見て驚く。
「どうしたんですか、神ヘスティア?」
「………サポーター君。」
「はい?」
「……………ベル君は、いつオラリオに来たんだい?」
「えっと………四日くらい前ですが………それが何か?」
「………君は今、歴史を大きく狂わせる存在を担当したことになるよ。」
ヘスティアの言葉にエイナは首を傾げた。
その頃、アイズたちは突如地面から出現した極彩色のモンスターに苦戦していた。モンスターが出す触手によりレフィーヤは掴まっていた。ティオナとティオネは触手からレフィーヤを解放しようと奮闘するが、全くモンスターは興味を示してはいなかった。
(このままじゃ…………誰か、助けて!)
レフィーヤは目を瞑り、切にそう願った。徐々にモンスターの口へと運ばれるレフィーヤ。それを止めようと三人は近づこうとするが触手が邪魔をして近づけなくなっていた。
「諦めるな!」
突如、彼女へ投げかけられた言葉と共にレフィーヤを縛っていた触手が切られ解放される。触手を切ったのはベルであった。ベルはレフィーヤを腕に抱えるとそのまま後ろに跳びモンスターから距離を取る。
「大丈夫ですか?」
「ええ……………痛っ!?」
レフィーヤは痛めた腕を抑える。ベルは迷うことなくコートの中からハイポーションを取り出すとレフィーヤに渡した。
「これを飲んでください。」
「でもこれは!」
「いいから!」
ベルはそう言うとモンスターの方を向く。
「ふっ!」
ベルはモンスターに向かい跳ぶと剣を振り触手を切る。しかし触手は切っても切っても減りはしなかった。
「ベル君、やるじゃん!」
「でもコイツ、全くなんとも思ってないみたいけどね。」
ベルの隣でティオナとティオネが言った。
「やっぱりコイツの魔石はあの胴体……だが………っ!」
ベルはその時モンスターの後ろで動けなくなっているシルに気付いた。
「マズイ!」
「あっ!」
「ちょっと!」
突如駆け出したベルに二人は声を掛けるが止まること無く突っ走る。
「ベル?」
別の場所にいたアイズはベルの行動が理解できなかった。
「どけぇええええええええええええ!」
いくつも迫りくる触手をベルは走りながら全て斬り捨てる。そしてシルの元へ辿り着いた。
「シルさん!」
「っ!ベルさん!」
「掴まって!」
ベルはシルを腕でがっちり捕まえると後ろへ飛び始める。
触手が後ろから来るがベルは身体を捻らせ回避、そして切るを繰り返す。
「………すごい!」
アイズはベルの技量に驚かされる。並の冒険者でもあそこまでの技量は持ち合わせていなかった。
そして同時にベルに抱えられているシルへ嫉妬していた。本人自身その感情が何なのかは理解はしていないが、それは嫉妬であった。
ベルはシルをティオネとティオナがいるところまで運ぶと降ろした。
「シルさんはここに。後は俺が。」
ベルはそう言うとモンスターの方を向く。そこへアイズが来て、目に入った。
「待ってベル。ファミリアに入ってない貴方じゃあのモンスターには勝てないわ。」
「大丈夫です。それにさっき入りましたから。」
ベルとアイズが話しているとヘスティアとエイナが駆け付けてきた。
「ベルくーん!」
「はぁ…はぁ…速いですよ、ベル君。」
二人はベルの元に着くと膝に手を置き肩で息をする。
「ベル君、き、君のステータスを見たけどあのモンスターを倒せるのかい?僕は今日ファミリアになった君を失うのは…」
「大丈夫ですよ、ヘスティア様。」
ベルはそう言うとヘスティアの頭を撫でる。
「俺は必ず帰ってきます。それに俺は、いや俺たちは希望ですから。」
ベルはヘスティアにそう言うとモンスターの方へとゆっくりと歩み始める。
その背中は大きく、どこか安心させるものがあった。
「ザルバ、行けるか?」
「ああ。オラリオで初の召喚だ。気合入れろよ!」
「わかってる。」
ベルは身体の前に剣を構えるとゆっくりと剣を抜刀。そして刃をザルバに擦り付けると火花を散らしながらゆっくりと引く。
「貴様のその命、俺が断ち切る!」
ベルは剣先を天に向けると円を描くように振り、振り下ろした。空間を割いて画かれた円から光が溢れ、ベルを照らすと足、腰、胸部、腕、そして頭と金色の鎧が身に纏われる。顔は狼の形をしており、剣も赤みの剣から金の装飾が施された牙狼剣へと変わっていた。
かつて世界に脅威と言われるモンスターたちを倒してきた“騎士”と呼ばれる者たちの中で最高位に立ち、希望の意味を持つ戦士。いくつもの伝説を残した者。
その名は牙狼。黄金騎士・牙狼である。
ベルの牙狼としての姿にアイズたちは言葉も出なかった。
ベルは牙狼剣を構えるとモンスターに向かい直進。触手が襲い掛かってくるがベルはその触手を切裂き捌くと本体へ一太刀入れる。
モンスターは悲鳴を上げる。前後左右からモンスターの触手が襲い掛かってくるが牙狼は上へと跳び回避する。触手は空中の牙狼へと伸ばされる。
「舐めるな!」
牙狼は牙狼剣で迫りくる触手を次々と切る。
「ふっ!はっ!はっ!はぁああああああ!」
牙狼は剣先を下へ向けるとそのまま地面へ降りると共に牙狼剣をモンスターへと突き刺した。
「ふっ!はぁあああああああ!」
牙狼は牙狼剣を深く突き刺し、そして―――
「はっ!」
一気に捻りモンスターを消滅させた。
魔石だけが残り、そこには牙狼だけが立っていた。牙狼は牙狼剣の剣先を鞘に納めると縦にして柄まで収めた。その直後、鎧は召還された。
ベルはシルの下へ行くとコートから財布を取り出した。
「ベルさん、これは?」
「授業員の人から頼まれていた物です。最も、こんなんじゃお土産も買えませんけど。」
ベルは皮肉交じりに言った。そんなベルにアイズは尋ねる。
「ベル…あなたは何者?」
その問いに対しベルはこう答えた。
「俺はヘスティア・ファミリア所属のベル・クラネルです。そして半人前ですけど、牙狼です。」