ベルは生き行く人たちの中を歩いていた。すれ違うのはカップルや風船を持った子供などであった。
(ほんと、平和な光景だね。)
ベルはそう思いながらシルを探す。すると噴水に見覚えのある人が座っていた。
「あの人は確か・・・・・」
ベルはその人に駆け寄る。
「すみません。」
「んっ!君はこの前ジャガ丸くんを買ってくれた子だね。」
「ええ。自己紹介がまだでしたね。俺はベル・クラネル。貴女は?」
「僕かい?僕はヘスティア。こう見えても神なんだよ。」
ヘスティアはそう言うと胸を張って言った。
「神だったんですか?だとしてもなんでアルバイトを?」
「う゛っ!」
(あれ?なんか聞いたらまずかったか?)
ベルはヘスティアの反応を見てそう思った。
「うう……実は………」
ヘスティアは重い口を開いた。神界から地上に降りてきたはいいものの神友のヘファイストスの所で何もすることなくダラダラ過ごしていたら追い出された。それでも住むところがないと泣き付くと仕方なく廃れた協会を提供され、今はそこでアルバイトをしながら生活をしているそうだ。
「アハハ…とりあえず、何もしないヘスティア様が悪いと思いますよ。」
「君まで僕を!」
「こればかりは仕方ないかと。」
ベルは苦笑いしながらそう言った。
「あ、すみません。ヒューマンの銀髪女性を見かけませんでしたか?」
「ううん、僕は見てないよ。もしかして彼女かい?」
「違いますよ。豊饒の女主人って店の従業員に頼まれて探しているんです。財布を忘れたそうなので。」
「そうなのか。早く見つかるといいね。」
「はい。それでは失礼します。」
ベルは一礼するとその場を後にした。
「あの子から別の何かを感じたけど……僕の気のせいかな?」
ヘスティアはゼルの背中を見ながらそう呟いた。
「こうまで見つからないか……だが財布がないのだとしたら他にどこに行く?」
「財布がないなら闘技場に行くんじゃないのか?あそこなら一般公開されているだろうし、金も要らんはずだ。」
「成程ね。」
ザルバのこと奈にベルは納得すると闘技場の方へと足を勧めた。
その頃闘技場からはアイズとティオナ、ティオネが闘技場から出てきていた。
「モンスターの調教すごかったね。さっすがガネーシャ・ファミリア。」
闘技場での調教にティオナがはしゃぐ。
「でもアイズは興味ないみたいね。」
ティオネが横目でアイズを見る。普段からあまり表情を出さないアイズだが、感覚的にティオネはわかった。
「アイズ、もしかして酒場で言ってたベルって子のこと気にかけているの?」
ティオナがそう言うとアイズはうんと返事をした。
「そんなにすごかったの?」
「すごかった。正直、私でも太刀打ちできないと思った。」
「アイズがそう言うなんて…いったいどんな子なの?」
ティオナが尋ねるとアイズは答えた。
「白いコートを着てて赤い目に白髪。」
「あんな感じの?」
「そうそう……て、あ!」
ティオナが指さす方向にはこちらの方へと向かっているベルの姿があった。アイズはベルの姿を見るなり駆け足で近づく。
「ちょっと!」
「待ってよアイズ!」
ティオナとティオネはアイズを追いかけた。
「ここか。結構人が出入りしているから探すのは至難の業だな。」
「だね。ん!」
ベルが近づいてくるアイズに気付いた。
「アイズさん。」
「ベル、久しぶり。」
「久しぶりです。後ろのお二人は?」
ベルがアイズの後ろを向くとアイズもベル同様後ろを向いた。後ろからはアイズを追いかけてティオナとティオネが駆け寄ってきていた。
「アイズってば、私たちを置いて行っちゃうんだから。」
「急に走らないでよね。て、その子がベルって子?」
ティオネが注意し、ティオナが興味を持つ。
「えっと・・・・そちらのお二人は?」
「紹介する。私と同じロキ・ファミリアのティオネ・ヒュリテとティオナ・ヒュリテ。」
「ティオネ・ヒュリテよ。よろしく。」
「ティオナ・ヒュリテだよ!よろしくね、白君!」
「白君!?」
妙なあだ名にベルは声を上げる。
「うん!だってコートも髪の毛も白だからね!」
「変なあだ名つけないの!」
ティオナがティオネに拳骨を振り下ろした。ティオネは頭を抱える。そんな光景にベルは苦笑いする。
「そう言えば銀髪のヒューマンの女性を見ませんでしたか?少し頼まれごとがあって。」
「ううん、見てない。二人は?」
アイズ首を横に振ってがティオナとティオネの方を向くと二人も首を横に振った。
「そうですか。それじゃあ……っ!?」
ベルは闘技場の方に警戒心を出す。
「ベル、どうかしたの?」
アイズが問うとベルは答えた。
「どうやら………今回のお祭りは和やかに終わりそうにないですね。」
ベルはそう言うと懐から赤身の鞘の剣を取り出した。
「ベル?」
アイズ同様、ティオナとティオネもベルの行動に疑問を持つが、その答えはすぐにわかった。
「グォオオオオオオオオオオオオオオ!」
突如として聞こえてきたモンスターの雄叫びと共にベルの方へとモンスターが拳を振り下ろしながら迫ってきた。
「避けろ!」
ベルがそう声を飛ばすと三人はその場から一斉に離れる。ベルも少し後ろへと飛び回避する。
刹那、ベルのいた場所に真っ白な毛に覆われ両肩と両腕の筋肉に特化しているモンスター、シルバーバックが現れた。
「これは……俺目当てで間違いね。」
ベルはそう言うと体の前に剣を持ってきてゆっくりと剣を抜刀する剣先をシルバーバックに向け構える。
「ベル、逃げて!」
アイズがベルに向け叫ぶが、ベルはシルバーバックをじっと見ていた。
シルバーバックが左の拳を振り下ろす。ベルは動きに合わせて剣の地肌を使いシルバーバックの攻撃を流すと一回転する。シルバーバックの拳は地面へと落ちる。ベルはシルバーバックの腕を伝い一気に頭部へ近づくと剣を横一線に振り払い、シルバーバックの後ろに立つ。
ベルは剣先を鞘に入れると体の前で縦に剣を収め、柄まで収めた。
その瞬間、シルバーバックの頭と胴体が落ち、身体はチリと化し魔石だけが残った。
「………………すごい。」
アイズはベルの強さに感心した。
だが通りの至る所から悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっと穏やかじゃないな。誰か状況を分かってる人はいないのか?」
ベルが探そうとすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ベル君!アイズさん!」
「エイナさん…どう追う状況なんですか、これは?」
「教えてください。」
ベルとアイズが問うとエイナは答えた。
「実は闘技場からモンスターが何体か逃げ出したらしくて、それで大騒ぎなの。今は避難誘導をギルド職員がやっているところなんだけど…」
エイナの言葉だけでベルは理解した。パニックになっている一般市民では逃げ遅れが出てもおかしくない。最悪、死者が出る可能性がある。
「わかりました。俺は出来る範囲でモンスターを倒します。」
「な、なに言ってるのベル君!君は神の恩恵も受けていない無所属の人間なのよ!」
『なっ!?』
エイナの言葉に三人は驚いた。
「そんなことは今いいんです。一刻も早く助けないといけない状況ですから。」
ベルはそう言うと騒ぎのある方へと跳びながら移動した。
「………ベル君、普通の人間はそこまでの脚力ないよ。」
去りゆくベルにエイナはそう呟いた。そんなエイナにアイズが尋ねる。
「すみません。」
「は、はい?」
「今のって、本当ですか?」
「へ?」
「神の恩恵も受けていない、つまりどこのファミリアにも所属していないって話です。」
アイズの質問にティオナとティオネも興味を示していた。
「え、ええ……彼はこのオラリオに来てまだ三日くらいよ。どうかしたの?」
『…………………』
三人は何とも言えない表情になった。後に先程ベルがしたことを聞くなりエイナの声がこだましたが町に響き渡る悲鳴とモンスターの声で掻き消された。