ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第3話

「ふっ!」

 ベルは六階層でキラーアントの群れと戦っていた。

「やれやれ、こいつらのフェロモンは少し厄介だな。」

 ベルはそう言いながら剣を構える。キラーアントの持つフェロモンは仲間を引き寄せることから大抵の冒険者は倒したらその場からすぐにエスケープするのが定番である。

 が、ベルの場合はこれも鍛錬の一環と思い剣を振っていた。

「ベル、鍛錬もいいが少しは体を休ませろ。身が持たんぞ。」

「ああ、そうだね。でもどうする?正直言ってこいつらの死骸を放ってたら次の冒険者たちが襲われるよ。」

 ベルは話しながらキラーアントを切る。

「だったら燃やせ。魔導火だったら全て燃やせる。」

「そうする………よっ!」

 ベルは後ろから来るキラーアントを切った。

「さて……魔石を回収してっと。」

 ベルは倒したキラーアントの魔石を回収すると懐からライターを取り出し火を付け、息を吹きかける。火はキラーアントの死骸に燃え移り、そして全てを燃やし始めた。

「さっさと地上へ戻りますか。」

 ベルは駆け足でその場を去って行った。

 

「七階層ですって――――――――――――!」

「うおっ!」

 ギルドの受付でエイナの声にベルは驚き、声を出した。

「君は本当のバカなの!なんでよりにもよって一人でそんな場所に行くの!」

「まあまあ、エイナさん。落ち着いて。」

「これが落ち着いていられるくぁあ!」

 エイナは声を荒げる

「全く…昨日の話と言い、君の実力はわからないけど、命を危険にさらすような真似しないでほしいわ。」

「どうもすみません。」

 ベルは軽く頭を下げる。

「それに今朝は別のことで変なことあったし……」

「別のこと?」

 頭に手を置き溜息を吐くエイナにベルが喰い付く。

「ええ。なんでか知らないけどあのアイズ・ヴァレンシュタインが君を尋ねてきたの。」

「俺を?」

「ええ、そうよ。どこのファミリアだとか、どんくらいのレベルなのかだとか。ま、君はギルドに冒険者としては登録されているけど事実上無所属。なのにあの剣姫が興味を持つだなんて……君何かしたの?」

 そんなエイナの問いにベルはこう言った。

「エイナさん。」

「なに?」

「剣姫………って何ですか?」

 その言葉にキョトンとするエイナだが、ベルが昨日来たばかりのことを思い出し我に返った。

「そうだったわね。君はよく知らないんだっけ。」

「ええ、すみません。」

「まあいいわ。一応一般公開されている程度の情報だけどアイズ・ヴァレンシュタインさんはロキ・ファミリアに所属していてね。たった一年でレベルアップの偉業を成し遂げた人物よ。」

「レベルアップ?」

「そう。今はLv.5よ。そんなアイズ・ヴァレンタインに興味を持たれるなんて…何か心当たりはあるのかしら?」

 エイナにそう言われベルは顎に手を当て考え込む。するとザルバが口を開いた。

「ベル、お前さんがミノタウロスをたった二振りで倒したことにあるんじゃないのか?」

「ミノタウロスをたった二振りで!………て、へ?」

「ア゛……」

「ザルバ・・・・・・・」

 エイナはザルバが喋ったことに間抜けな声を出し、ザルバはそれに気づき、そしてベルは溜息を吐いた。

「ゆ……ゆゆゆゆゆ!」

「エイナさん、ストップ!」

 ベルは両手でエイナの口を押える。流石のエイナも口を押さえられて苦しそうになる。

「—――――ぶはっ!ベル君は私を殺す気!」

「まさか、そんな。でもここで騒がれたら注目の的になってしまうのでどこか二人で話せる場所はありますか?」

「こっち。」

 エイナはベルを応接室の方へと入れる。ベルトエイナは対峙するように座る。

「それで、その指輪は何かのマジックアイテムなの?」

「おいおい嬢ちゃん、俺をそこいらのマジックアイテムと一緒にされちゃ困るぜ。俺はザルバって言うんだ。よろしくな。」

「ど、どうも…」

 エイナはザルバに頭を下げる。

「ベル君。これって生きてるの?」

「ええ。ザルバは俺の家に代々伝わる指輪なんです。」

「ベル君の家に?でもなんで………」

「それについてはちょっと…でもいつか話せる機会があるかもしれないのでその時に。」

 ベルの言葉にエイナはしぶしぶ納得した。

 

 ベルはギルドを後にすると下宿している宿へ足を進めていた。その道中、あるポスターが目に入った。

「怪物祭?」

 ベルはポスターが気になり詳細を覗き込む。

「闘技場でモンスターを公開調教するのか…主催者はガネーシャ・ファミリア。…………て、明日なのか。」

 ベルはオラリオに来たばかりでよく知らなかったため、怪物祭のことも知らなかった。

「どうする、ベル?」

「う~ん、調教の方は興味ないけどお祭りには足を運んでみようかな?楽しそうだしね。」

 ベルはそう答えると下宿の宿へと戻った。

 

 翌日、町は活気に溢れていた。

「すごいね。こんなに活気がある。」

「そうだな。俺も正直ここまで活気がある光景は久しぶりだ。」

 下宿している部屋の窓からベルはザルバと話していた。

「じゃあ、俺たちも行きますか。」

 ベルはそう言うと白いコートを羽織り、祭りへと足を進め始める。

 ベルが祭りがおこなわれている道へ行く道中、豊饒の女主人の前を通った。

「んにゃ?そこの白いコートを着た少年。」

「はい?」

 聞き覚えのある声にベルは振り向いた。豊饒の女主人御店先でアーニャともう一人金髪のエルフが立っていた。

「えーっと…お名前窺っていましたっけ?」

「いや、私は教えてないにゃ。」

「アーニャ。」

 エルフの女性がアーニャにチョップを叩き込んだ。アーニャは頭を押さえてしゃがむ。

「申し訳ございません。私はリュー・リオン。こっちはアーニャ・フロメイルです。」

「これはご丁寧にどうも。俺はベル・クラネルって言います。どうぞよろしく。」

 ベルはお辞儀をするとリューもお辞儀で返した。

「ところでクラネルさん。一つ御頼みがあるのですがよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。それと俺のことはベルって呼んで構いませんので。」

「わかりました。では私もリューと呼んで構いません。それで一つの頼みがあるのですが、これを知るに届けてくれませんか?」

 リューはそう言うとベルに財布を渡した。

「財布?」

「はい。シルは今日休みのため怪物祭を見に行こうとしていたんのですが、私たち従業員からお土産を頼まれていたんです。ところが肝心お財布を忘れてしまっています。私たちはこれから仕事のため財布を届けにはいけませんのでどうしようかと思っていたところにベルさんが現れたのでアーニャが声を掛けたのです。」

 リューが分かりやすく説明する。

「そうだったんですか。分かりました。とにかく俺はシルさんにこれを届けますから。」

「ありがとうございます。」

 ベルはリューから財布を受け取った。

「それじゃあリューさんに渡しておきますね。」

「はい、よろしくお願いします。」

 リューはベルに一礼する。そしてベルはリューを探しに通りへと足を進めた。

 


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