ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第20話

「あれ?」

「どうしたのよ、ティオナ。」

 何故か十八階層にいるロキ・ファミリアのティオナが気付き、ティオネが問う。

「あれ、ベル君じゃない?」

「え?」

 ティオナがそう言うとティオネはよく目を凝らして見る。白いコートに白髪のシルエットが見えた。

「そうね。確かにあのシルエットは……て、ティオナ!」

「ベールくーん!」

 気づけばティオナはベルと思われる人物の元へと跳んで行っていた。

「全く……あのバカは……」

 ティオネは溜息を吐きながらティオナの後を追いかける。ティオナはベルと思われる人物に抱き着く(という名のタックル)をした。当たり所が悪かったのかベルは悶える。

「だ、大丈夫ですか、ベル様!」

 ベルの側にいたリリが心配する。

「バカティオナ。少しは考えて行動しなさいよ。」

 追いついたティオネが注意する。

「うん、ゴメン。それとバカ言うな!」

 謝りながらも反論するティオナ。そんな時ベルが起き上がった。

「……やっぱレベルが上がっても痛いものは痛いね。てか、人間でもアマゾネスでもエルフでも構造上は同じだから痛いか。」

 ベルはそう呟いた。

「あはは、ゴメンねベル君。」

「あー、気にしなくていいよ。ティオナにティオネ、久しぶり。どうしてこの場所に?」

 ベルの問いにティオナが答えた。

「こっちのファミリアで予想外のアクシデントがあってね。それでこの階層で足止めに遭ってる状態なの。」

「成程。足止めって事はアイテムが予想以上に減ったの?」

「うん。それで今地上の方に買い出しに行ってもらってるの。それよりベル君、どうしてここに?」

 ティオナに問われるとベルはそのことに素直に答えた。

「そっか……で、今お腹を空かしているんだよね?だったらこっちのテントに来ようよ!」

「いや、流石にそれは……」

「いいから、いいから!」

 ベルコ言葉を聞かずティオナはベルを引っ張りロキ・ファミリアのテントへと連れて行った。

 残されたリリとティオナはその場に立っていた。

「えーっと……ゴメンね、妹が勝手な真似をして。」

「い、いえ………ベル様がまた無自覚に女性を落としているって思って。」

「……ああ。」

 リリの言葉にティオネは納得した。

 

 ロキ・ファミリアのキャンプ。幹部専用のテントにベルはいた。テントの中には団長のフィン、リヴェリア、ガレスがいた。

「まさか君がここに来るとはね。驚いたよ。」

「そうじゃのう。」

 フィンの言葉にガレスが相槌を打つ。

「同感だな。それに、こういった静かな場所で話したいと私も思っていた。」

 リヴェリアがそう口を開いた。

「でも皆さんもすごいじゃないですか。経験も多く、規模も大きい上に、異形の数々を成し遂げてきているのじゃないですか。」

「確かに……でも君は君で偉業を成し遂げているじゃないか。ランクアップ、しているんだろ?」

『っ!?』

 フィンの言葉を聞いたその場の全員が驚きを隠せなかった。

「……どうして、そう思うんですか?」

 わざとらしくベルが問う。

「僕の親指が疼くんだ。」

「親指?」

 フィンの言葉にベルは首を傾げる。

「ああ、君は知らないか。フィンの親指は危険を知らせる一種のスキルを具現化したものだ。もはやフィンの親指が疼くときは危機的状況だと私たちは認識している。」

「そいつはずげぇな……いろんな意味で。」

 ザルバが口を開くとフィンとガレスはザルバを見て驚いた。

「これは驚いた……こんなものを目にするとは。」

「ワシもじゃい。」

 ガレスは顎髭を撫でながらフィン言葉に相槌を打つ。

「しかし……牙狼であり、Lv.6。そしてこの短期間でもタイムレコード。アイズが知ったら嫉妬するだろうね。」

 フィンは他人事のように言う。

「まあ、硬い話はここまでにしよう。僕らはもう少し準備が整ったら遠征に行くつもりだ。それまでいてくれても構わない。」

「ありがとうございます。」

 ベルはフィンに一礼するとテントを後にした。

「……で、どういうつもりだ?」

「何がだい?」

 リヴェリアの言葉にフィンは恍けた様に答える。

「私が見抜けないとでも思ったのか?単にあの子に興味があるわけでもないのだろう?」

「……流石リヴェリア、わかっているじゃないか。」

 フィンはそう言うと両手を組み、手の甲に顎を乗せる。

「僕はね、出来ればあの時のような戦いを皆に見てもらいと思っているんだ。いい刺激になるだろうしね。」

 フィンはいたずらな笑みを浮かべてそう言った。

 

「なんだか落ち着きませんね。」

「だな。」

「このスープ美味しいね。」

「「ベル(様)は普段通りな反応しないで。」」

 ロキ・ファミリアのキャンプでベルたちは一緒に食事を取っていたが注目の的になっていた。因みにヴェルフは同じヘファイストス・ファミリアが一緒に遠征に来ていることもあって意気投合。ちゃっかり混じっていた。

「でもこうして一緒に食事できて私は嬉しいよ。」

「うん。」

 ティオナの言葉にアイズが反応すると、ベートが動き出そうとするがティオネが足払いからの首にエルボのコンボを決め鎮静させる。

「でも正直場違いな気が……」

「そんなことないって。私たちを強くしてくれているんだもの。」

「そんなことはないよ。二人が強くなっているのは二人が努力した結果なんだから。」

 ベルはそう言うと交互に二人の頭を撫でた。ティオナはわかりやすく微笑み、アイズは若干ではあるが微笑む。その光景にリリとロキ・ファミリアの男性陣は嫉妬する。

 レフィーヤに至っては……

(ああ!アイズさんの笑顔を見られてうれしいです!)

 もはやベルのことは眼中に入っておらず、アイズしか見ていなかった。

「そういやさ、あの日以来私たちベル君と戦っていないじゃん。」

「そうだね。」

「だったらさ、今日戦ってくれない?私今自分がどの段階にいるか知りたいから!」

 ティオナがそう言った途端、聞き耳を立てていた周りが騒ぎ始める。

「おい、どっちが勝つと思う?」

「やっぱティオナだろ。」

「だが意外性であの小僧ってのもあるぜ。」

「じゃあどっちが勝つか賭けてみるか?」

 周りは二人の戦いを賭けの対象とし始めていた。

「おもしろそうだね、その話。」

 そしてなぜか団長のフィンが乗り気であった。ベルはその顔をよく見ると、まるで予期していたかのような顔をしていた。

(ザルバ、あの人って……)

(ああ、食えない奴だな……)

 二人はフィンを見てそう思った。

 


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