ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第2話

「ミノタウロスと戦った~~~~~~~~~~~~っ!?」

「はい。」

 ダンジョンから離れたギルドでベルは眼鏡を掛けた受付嬢のハーフエルフ、エイナ・チュールに報告をしていた。

「き・み・は!自分がどれだけ愚かなことしてるのかわかってるの!ましてやファミリアにも所属してなくて『神の恩恵』も受けてないのに!」

 エイナは眉間に皺を寄せ、ベルに顔を近づける。

「いや~、結構腕はあるかなーって思ったんですけどそこまでなかったですし、多分弱ってたんでしょーねー。」

「そう言う問題じゃなーい!」

 エイナは声を上げる。その光景に他の冒険者や受付嬢も注目する。

「で?」

「はい?」

「ミノタウロスよ。君はLv.1の冒険者並みだろうから、流石に敵わないと思って途中で逃げたんでしょ?」

「いえ、倒しましたよ。その証拠にほら。」

 ベルはそう言うと魔石やドロップアイテムを集めた袋の中からミノタウロスの魔石と角を出した。

「…………」

 エイナは口をパクパクさせる。もちろんその話に聞き耳を立てていた人たちも口をパクパクさせていた。

「あれ?僕なんか変なこと言いましたか?」

「お……」

「お?」

「大ありよ!なんでLv.1でミノタウロスが倒せるの!常識の範疇を超えているわよ!」

 エイナは大声でそう言うと肩で息をする。

「大丈夫ですか?なんだか呼吸が荒いですよ。」

「誰のせいだと思ってるの!だ・れ・の!」

 そんなエイナの反応にザルバは思った。

(このお嬢ちゃん、仕事人間だな。)

 ザルバが思う通り、エイナは仕事人間であった。

「それよりもこれを換金したいんですけどどこに行ったらいいですか?」

「うん……もうわかった。というか君はそう言う人間なのがよくわかった。」

 エイナは諦めたように呟くとベルを換金所へ案内をした。

 ちなみに今回ベルが獲得した魔石とドロップアイテムはというと…

・ゴブリンの魔石52

・ゴブリンの牙35

・コボルトの魔石44

・コボルの爪51

・ミノタウロスの魔石1

・ミノタウロスの角1

 ……である。そして換金額は合計20万4500ヴァリスであった。

「ダンジョンでこのくらい稼ぐのが普通なんですか?」

「ベル君、君は普通の十倍稼いでいるよ。」

 ベルの問いにエイナは額に手を置きながらそう答えた。

 

 ギルドを後にしたベルは町を散策した。どこもかしこも賑わっていて活気のある都市であった。

「ベル。そろそろ何か腹に入れたらどうだ?」

「うん、そうだね。」

 ベルはそう返事をすると近くにあった屋台の方へと歩き出した。

「すみません、これ一つください。」

「はーい。ジャガ丸くん一つ30ヴァリスだよ。」

「はい。」

 ベルは店員にお代を出す。

「毎度ありー。」

 ベルはジャガ丸くんを受け取ると少し離れた噴水のほとりに腰を掛け、食べ始める。

「うん、調味料もいい感じで食べ歩きにはいいものだね。」

 ベルはそう言うとジャガ丸を食べ終え、ごちそうさまと言った。

「っ!?」

 ベルはどこからか視線を感じだ。

「ザルバ。」

「ああ、間違いなくだれかお前さんを見てる。だが人間じゃない。おそらく神だな。」

「厄介な神もいたもんだ。」

 ベルはそう言うと立ち上がり、移動を始めた。

 

 バベルの最上階。そこに一人の髪が水晶越しにベルを見ている神がいた。その神は美の女神フレイヤ。

「あらあら、嫌われちゃったかしら?」

 罪悪感を全く感じない口調でフレイヤは言った。

「今まで見たことがないくらい好き取っててきれいな魂。……でも、その中に金色に輝くものがあるわね。貴方は何者なの?私に教えて。」

 フレイアは物を欲しがる子供のように微笑んだ。

 

 夜になるとベルは豊饒の女主人に来ていた。

「んにゃ!いらっしゃいにゃ!」

 ウェイトレスのアーニャ・フロメールがベルに気付き店へと招き入れる。ベルはカウンター席に座るとコートを脱いで掛けた。

「いらっしゃい。坊主、ちっこいけど冒険者かい?」

「はい。ベル・クラネルと言います。よろしくお願いします。」

 ベルは頭を下げる。

「ははは、若いのに律儀なもんだね。アタシはミア・グランドってんだ。ここのおかみだよ。うちの料理はおいしいからたんと食べな。」

「はい、そうさせていただきます。」

 ベルはそう言うとメニューを見る。

「じゃあ……これとこれとこれをお願いします。」

「あいよ。」

 ミアはベルの注文を受け料理に入る。

 そんな時、団体客が豊饒の女主人に来た。

「ん?」

 ベルは気になって団体客を見る。赤い髪の毛を後ろに纏めたいと目の女性を先頭に次々と入ってきていた。ベルは近くにいたウェイトレスに尋ねる。

「すみません。あの団体客は……」

「もしかしてお客さん、オラリオには初めてなんですか?」

「ええ、まあ。」

「そうですか。あ、申し遅れました。私はシル・フロ-ヴァと言います。シルって呼んでください。」

「これはどうも。僕はベル・クラネルです。ベルでいいですよ。」

 互いに自己紹介をするとシルは説明を始める。

「あちらの団体客様はロキ・ファミリアと言ってこのアラリオで知らない人はいないファミリアなんですよ。あそこにいる糸目の女性が分かりますか?」

「ええ。なんか他の人と違う感じがしますが……もしかして神なんですか?」

「その通りです。あの方は神ロキ様です。よくセクハラをする方なんです。」

「?」

 ベルはシルが言った意味をすぐには理解できなかったがダンジョンで出会ったアイズに後ろから胸を揉もうとするところを裏拳で吹っ飛ばされたのを見て理解した。

「おもしろいですね、神って。」

「ベルさん、間違っても全ての神があんな感じじゃないので。」

 シルはベルにそう言った。するとミアがベルが注文した料理を運んできた。

「はいよ、お待ち!そんでシル!早く仕事に戻りな!」

「は、はい!」

 シルは急ぎ足で仕事へと戻った。

「ここにいる人たちはみなさん元気があっていいですね。」

「そうかい?そう言ってもらえると嬉しいよ。」

 ベルはミアにそう言うと料理を食べ始める。

「おいしいですね!」

「そうあろ。ほら、どんどの食べな。」

「はい!」

 ベルは出された料理を口へと運ぶ。ベルが食べる中、ロキ・ファミリアの方から話声が聞こえてきた。

「そういやアイズ、五階層でミノタウロスを倒したんだろ?」

 ベート・ローガアイズに話しかける。

「ううん、違う。」

「は?じゃあ誰がやったんだ?」

「……ベルがやった。」

 アイズの言葉にロキが反応する。

「なんやアイズたん。もしかしてそのベルっちゅう奴が気になるのか?」

「………うん。」

「「「ぐはっ!?」」」

 アイズの言葉にロキ、ベート、そしてアイズを尊敬するレフィーヤ・ウィリディスが吐血して倒れた。

「面白いファミリアだな、ベル。」

「そうだね。」

 ベルはそう言うと出された料理を食べ終え、合唱してごちそうさまでしたと言った。

 ベルは書けていたコートを脇に抱えるとミアに挨拶をする

「ミアさん、僕はこれで。」

「おやそうかい。アンタいい喰いっぷりだったからね。また来な。」

「はい。」

 ベルは一礼するとレジの方へと足を勧めた。

「それじゃあお願いします。」

「はいにゃ。2500ヴァリスになるにゃ。」

「じゃあ丁度で。」

 ベルは2500ヴァリス出す。

「はい、ちゃんと受け取ったにゃ。また来るにゃー。」

 ベルは豊饒の女主人を出るとコートを着て下宿している宿へと足を進め始めた。

 

 ベルがいなくなった豊饒の女主人ではアイズにティオナ・ヒリュテが尋ねていた。

「ねえねえアイズ。アイズがさっき言ってたベルってどんな感じの子?」

「ベル・クラネル……見た目は私よりも少し背が低くて白いコートを着てる赤い目の少年。一見したらウサギみたいな子だよ。でも………」

「でも………なによ?」

 ティオネ・ヒリュテが尋ねる。

「彼はそんなんじゃなかった。ミノタウロスの攻撃を手を使わずに避けて、まるで遊んでいるかのように避けてた。そして何よりたった二振りでミノタウロスを倒してた。」

 アイズの言葉に二人は驚いた。

「そんなに腕が立つんだったら誰か名前やファミリアを知っているはずだよ。ねえ、リヴェリア?」

 ティオナがリヴェリア・リヨス・アールヴに尋ねる。

「すまない。ベルと言う名の少年は私も聞いたことが無い。」

「えー、リヴェリアでも知らないの?」

「ああ。だがもしかしたこの店に来てるかもしれないぞ。すまない、少しいいか?」

「はい。」

 リヴェリアはシルに声を掛ける。

「この店にベル・クラネルという冒険者は来ていないか?」

「ベルさんですか?あの人でしたら……あれ?」

 シルはカウンターの方を見るがすでにベルの姿はなかった。

「ミアお母さん、ベルさんは?」

「ん?ああ、あの坊やなら帰ったよ。なんだい、なんか話でもしたかったんかい?」

 ミアがそう言うとアイズは咳から立ち上がり、店の外に出た。だが右に左に向いてもベルの姿はなかった。

「なんやアイズたん。えろうそのベルっちゅう子にご執心やな。」

 店の中でジョッキを片手に持っているロキはそう呟いた。そんな時シルがあることを口にした。

「ベルさんのコート、背中の真ん中あたりに三画の装飾が施されてましたし、すぐにわかりますよ。」

「「っ!?」」

 その言葉を聞いた途端、ロキとリヴェリアは反応した。

(三角の装飾に白いコート、どっかで聞いたことあるな………)

(なぜだ?ベルと言う少年は知らないが私は彼ではない何かを知っている?)

 


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