ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第17話

 神会で次々と二つ名が決められる中、遂にベルの番が来た。

「次は・・・・・・おっ!ヘスティア、お前の所の奴じゃないか。」

 信仰を務めた神がヘスティアの方を向く。

「噂で聞いたけど神の恩恵を受けずにミノタウロスを倒したそうだな。」

「俺は怪物祭でLv.5相当のモンスターを倒したって話を聞いたぜ。」

「あの剣姫や大切断が倒せなかったモンスターを倒しただとか。」

「あの剣姫をLv.5に修行をつけてるって噂もあるな。」

 そんな話を聞いてヘスティアに視線が行く。

「最初のは僕は知らないけど、他は本当だよ。ロキ、君は最初の方の話に心当たりがあるらしい顔をしている気がするけど。」

 ヘスティアがそう語りかけるとロキは言った。

「ああ、本当や。うちのアイズたんがその現場を見たからな。」

 ロキは微笑みながらそう言った。

「ま、それ以外にもベルたんにはもっと重要なことがあるやろ、ドチビ?」

 ロキはわざとらしく言うとヘスティアは諦め気味に言う。

「……わかったよ。どの道、いずれは露見することだからね。ベル君は黄金騎士・牙狼の後継者なんだ。」

 その言葉を聞くなりピタッと神々の声は止まった。

「……ヘスティア、それは本当なのか?」

 最初に切り出したのはタケミカヅチであった。

「タケ、僕もこの目で見たから間違いない。どうかしたのかい?」

「いや……牙狼の伝承は古今東西と広く、そして多くある。極東の方にも伝わっている牙狼がいるんだ。」

「私も知ってるわ。でもまだ後継者がいたとは驚きだわ。」

 タケミカヅチの言葉をきっかけに神々が次々と牙狼について口を開いた。

 ――曰く、魔境の悪魔を倒した。

 ――曰く、魔竜を倒した。

 ――曰く、黄金の馬で戦場を掛けた。

 ――曰く、どんな国より、どんな戦士よりも先に脅威に立ち向かった。

 牙狼の伝説は数多く、そしてダンジョンの偉業を凌駕する偉業を成し遂げてきた。

「皆も分かってると思うけど、下手な二つ名は付けられへん。ましてや……ウチも一つしか思いつかんかった。お前はどうや?」

 ロキはヘスティアの方を見る。

「……うん、僕も同じ考えだと思うよ。」

 二人は口を揃えてベルの二つ名を口にした。

「「希望の騎士(ホープナイト)。」」

 ベル自身を意味する最もふさわしい二つ名であった。

 誰も他に言うことはなく、ベルの二つ名は希望の騎士ということになった。

 

「おめでとうございます、ベルさん!」

「おめでとうございます。」

「おめでとうございます、ベル様!」

 豊饒の女主事でベルはシルとリューに祝われていた。

「みんな、ありがとう。わざわざ祝ってくれて。」

「いえいえ、怪物祭で助けていただいたお礼も兼ねてますので気にしないでください。」

 シルとリューがそう言った。ベルも人の好意は素直に受け取っておくことにした。

「それにしても希望の騎士……ちょっと俺には大それた二つ名な気がします。」

 ベルがそう言うとシルは言った。

「そんなことないですよ!あの時私を助けてくれたあの姿、正に希望の騎士でしたよ!」

「リリも同じ思いです!ベル様に救ってくれたあの姿に、リリは希望を感じました!」

 ベルの二つ名に二人は自分のことのように喜ぶ。

「まぁ…俺はこれからその名に恥じないように頑張るんだけどね。」

 ベルがそう言うとリューはそんなベルの姿勢に感心した。

「ベルさんのそう言う姿勢は尊敬します。」

「俺には目標がありますから。」

「「目標?」」

 ベルの言葉に二人は興味を持つ。二人は聞こうとするがそこへ別の冒険者が来た。

「おい、お前。」

 突然出てきた冒険者にベルはキョロキョロすると自分を指さした。

「そうだよ。どんなイカサマ使ったか知らないが、あまり調子に乗ってんじゃないぞ。」

「いや、イカサマも何も使ってなく自分の実力で頑張っただけですけど。」

 ベルは素直にそう言うと冒険者は眉間に血管を浮かせる。

「俺はなぁ……お前みたいに調子乗ってる奴が大嫌いなんだよ!」

 冒険者はそう言うとベルに拳を振り下ろす。

『っ!?』

 その光景を見ていた誰もが驚愕した。

座っていたベルがいつの間にか立ちあがり、冒険者の拳を左手で受け止めていた。

「正直、あまりここで騒ぎたいとは思いません。穏便に済まさせていただきますね。」

 ベルはそう言うと右手で懐から牙狼剣を出し、手を放した。牙狼剣を手を放す際にベルは牙狼剣を鋼鉄よりも重いとイメージをした。その牙狼剣が冒険者の足に落ちる。

 ジュグキッ!

「イ゛ッ!」

 肉が潰れ、骨が砕ける音が一瞬聞こえる。

 キンッ!ゴッ!

 ベルが牙狼剣の柄を親指で上へ弾く。柄頭が冒険者の顎に直撃し冒険者は気を失う。

「テメェ!」

連れの冒険者が席を立ち、ベルに突っかかろうとするがベルは殺気を込めて睨みつける。

「っ!?」

 ベルの睨みに冒険者二人はたじろぐ。するとベル微笑み気絶させた冒険者を担ぎ、連れの冒険者二人の元へと運ぶ。

「酒は飲んでも吞まれるな……言いたいこと、わかりますよね?」

 ベルは笑顔でそう言うが全く笑っていなかった。

「帰り道はお気を付けて。」

 ベルはそう言うと冒険者二人の肩をポンポンと叩いた。冒険者たちは逃げるように豊饒の女主人を後にした。

「さて……ミアお母さん。」

 ベルはミアのいるカウンターの前に立つと三つの金の入った袋を差し出した。

「あの人たちの食事代と迷惑料です。俺は悪い子なんで。」

 ベルが微笑むとミアは笑った。

「ははは……全く抜け目ないね。本当に悪い子だ。」

 そうは言いながらも笑顔なミアにベルも微笑んだ。

 アクシデントはあったものの、ベルの二つ名を祝われた。

 

 そして数日後。ベルはリリとヴェルフと共にダンジョンの入り口にいた。

 ベルは白いコートに牙狼剣、懐にはポーション、ハイポーション、エリクサー、そして魔導筆が入っていた。

 リリは火精霊の護布に大きなバッグ、そして護身用のナイフを装備していた。バッグにはベル特性の痺れ薬に煙幕玉、閃光玉やキャンプ道具一式が入っていた。

 ヴェルフは着流しの上に火精霊の護布を着て、背中には大刀を装備していた。

「じゃあ、二人共。分かっているけど今回はまだ行ったことのない安全地帯の十八階層まで行く。正直、俺もどこまで戦えるかわからない。最悪ケガで済まないかもしれない。それでも俺と共に冒険する覚悟はあるか!」

 ベルの言葉に二人は言った。

「当たり前です!リリはベル様のサポーターなんですから!」

「あの時かわした言葉に嘘偽りはないぜ!」

 その言葉を聞くとベルは微笑む。

「よし…………じゃあ、行くぞ!」

 ベルを先頭に三人はダンジョンへと入って行った。

 


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