三か月に一回開かれる神会。そこの廊下をヘスティアは真剣な表情で歩いていた。
そんなヘスティアに一人の神が肩を叩き話しかける。
「よう、ヘスティア。」
「なんだ、タケか。」
話しかけてきたのはタケミカヅチ・ファミリアの主神、タケミカヅチであった。
「お前んところの坊主、Lv.6になったんだろ?それも一か月くらいで?」
「っ!う、うん……まあね。」
ヘスティアは照れ臭そうに髪の毛を弄る。
「すごいな。あの剣姫ですら一年掛かったのに。ま、そもそもステータス最初に更新してLv.5って時点ですごいけど。神連中の間じゃ、その話題で持ちきりだぞ。」
「そう言えば今回はタケミカヅチ・ファミリアからも一人いるんだっけ?」
「ああ。ヤマト・命って子だ。今日の神会、俺は本気で行くぜ!アイツの二つ名が掛かっているからな。」
「そうだね。」
タケミカヅチの言葉にヘスティアは共感する。
そして二人は神会が行われる部屋の扉の前に立つ。
「お互いい二つ名を勝ち取ろう。かわいい子供たちのために。」
そして扉は開かれた。
その頃ベルは気分転換も兼ねてリリと木の下で昼食を取っていた。
「ベル様、どんな二つ名がもらえるんでしょうかね?」
「さあね。でもマトモなのが欲しいな……」
ベルは切にそう願った。
「そう言うリリだってもう少しでレベルアップできそうじゃないか。」
リリルカ・アーデ
Lv:1
力:B 800(+800)
耐久:C 750(+750)
器用:C 720(+720)
敏捷:A 912(+912)
魔力:B 842(+842)
《魔法》 【シンダー・エラ】
・変身魔法
・変身後は詠唱時イメージ依存
・模倣推奨
・詠唱式【あなたの刻印は私のもの。私の刻印は私のもの】
・解除式【響く十二時のお告げ】
《スキル》縁下力時
・一定時間以上の装備過負荷時のおける補正
・能力補正は重量に比例
「リリもステータスの伸びがすごかったよね。」
「リリの場合は前のファリアで一度もステータスを更新していなかったからね。」
「そうですね。」
ベルとリリは茶を飲む。
「ベル様、この後はどうなされるおつもりですか?」
「ヴェルフ・グロッゾに会うつもりだよ。」
「グロッゾって……あの没落貴族のグロッゾですか!?」
「没落貴族?」
ベルはリリの口からグロッゾの一族について話を聞いた。
かつては魔剣を作るほどのスキルを発言していなかったヴェルフの一族であったが、代を重ねるごとに魔剣を打てれるようになり、何代目かが魔剣を王国に売り込んで貴族の地位を手に入れた。
しかしその魔剣を使う者によって多くのエルフの国や精霊の住処も滅ぼしてしまった。精霊の怒りを買ったヴェルフの一族が作った魔剣は一気にすべて砕け散った。そしてその責任をヴェルフ一族に押し付けられ、没落した。加えて魔剣も作れなくなったという話である。
「でも聞く話では今のグロッゾは魔剣を作れるのに作らないそうなんですよ。私にはわかりません。」
そんなことを言うリリにベルは言った。
「……みんなが魔剣を求めるからじゃないのかな?」
「どういうことですか?」
「リリはさ、もし冒険者であったらヴェルフの魔剣は欲しいと思う?ローンを組んでも。」
「それは欲しいですよ。自分の名を上げられますし。」
そんなことを言ったリリにベルは自分の考えを言った。
リリと別れたベルはヘファイストス・ファミリア本店があるバベルへ向かった。
「改めて来るが、すごいよなここの武器。」
「ああ、だが……ここにいるのはこれに頼ったばかりの奴らばかりだな。」
ベルはザルバとそう話しながら本店に入る。
「すみませーん。ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルと言います。ヴェルフ。グロッゾさんと少しお話があって参りました。」
ベルがそう挨拶をすると店の奥から眼帯を付けた一人の神が出てきた。
「あら、ヘスティアの眷属が来るなんて驚きね。」
「えっと……ヘスティア様をご存じで?」
「ええ。私はこのファミリアの主神のヘファイストスよ。」
「貴女が……あれ?」
「どうかしたの?」
突然疑問い持ったベルにヘファイストスは尋ねる。
「神様は今日は神会に行っているのでは?」
「あれは半分ふざけたものだから出席は自由なのよ。」
(いいのだろうか、神がそんなので……)
ベルはそう思った。
「それで、彼に何の用なの?」
「これを作ってもらいたくて。」
ベルはそう言うとヴェルフの作ったナイフを出す。
「ああ、これあの子が作ったものね。そう言えば上の方であの子の武器をえらく買ってくれる人がいるって聞いてたけど、貴方のことだったのね。」
「どうも。」
ベルは頭を下げる。
「付いて来て、彼は今奥で休んでいるから。」
ヘファイストスにそう言われベルは付いて行く。
店の奥に入るとテーブルに一人休んでいる赤髪の男がいた。
「ヴェルフ、貴方に客よ。」
「ん?俺に?」
ヴェルフはベルの方を見るなり嫌な顔になる。
「はじめまして、ベル・フラネルです。」
「おう、挨拶ありがとよ。だが一つだけ言っとくぞ。」
「はい。」
「魔剣は作らねぇ!」
ヴェルフがそう言うとベルはヴェルフの目を見る。その眼には、覚悟が見えた。
するとそこへ公房から椿・コルブランドが出てきた。
「なんじゃお主、またそんなことを言っているのか。手前にはわからん。」
椿はそう言うと腕を組んで溜息を吐く。ヘファイストスも椿と同じ心境であった。
そんな状況を見てベルは懐からヴェルフが作ったナイフと自身の牙狼剣を机の上に置いた。突然の行動に一同首を傾げる。
「どんなに強い武器を手にしても、人は弱い。武器を扱うということは、命を奪うこと。魔剣にしろ、普通の武器にしろ同じだ。それに……」
ベルはヴェルフの方を見る。
「武器を作る方にも、その責任はある。それを誰よりも分かっているのは、貴方なのでしょ?」
「……ああ、そうだ。俺が会ってきた奴らは全員自分の名を上げたいばかりに魔剣を欲しがった。だがそうじゃないだろ? 武器は道具じゃない、使い手の半身だ。使い手がどんなに窮地に立たされたとしても、武器だけは裏切っちゃいけない。だから俺は嫌いだ、使い手だけを残して魔剣だけ砕けいっちまう。あれの力は人を腐らせる。使い手の享受も、鍛冶師の誇りも、だから俺は魔剣を打たない。」
その決意を聞くなりベルは微笑んだ。
「その言葉、芯があると受け取りました。いい人ですね、ヘファイストス様。」
「え、ええ……」
「……」
ヘファイストスも椿もヴェルフの思いを聞いて驚きを隠せなかった。
「ま、魔剣をなぜ打たないかって疑問に思うのは当然だ。気にすんな、ヘファイストスに嬢ちゃん。」
「「「は?」」」
突然ザルバの声が聞こえたことに三人は驚いた。
「すみません。紹介が遅れました。相棒のザルバです。」
「よろしくな。」
ザルバを見るなり三人は驚きを隠せなかった。
「驚いた……まさかこの目で魔導輪を見ることができるなんて。」
「魔導輪?」
「お主は知っておるのか?」
ヘファイストスと椿がヴェルフを見る。
「ああ。誰が作ったかは知らないが。騎士をサポートする摩訶不思議な道具と聞いたことがある。指輪にペンダント、鏡やバッジと色々あるらしいが目にかかることはほとんどない。俺も噂では聞いたが本当にあったんだな。」
ヴェルフはまじまじと見る。
「まぁ……俺のことは後にして、こいつの話を聞いてやってくれるか?」
「え?……あっ!?」
ヴェルフは我に返った。
「それで、何を俺に頼みたいんだ?」
「これを少し多めに作って欲しいんです。」
ベルはそう言いながらテーブルの上に置いたナイフを取り出す。
「そんなんでいいのか?」
「あと一つあります。俺と同じファミリアのリリって小人族のサポーターがいるんですけど、そいつのために護身用のナイフを作って欲しいんです。」
「護身用のナイフをか?」
「はい。」
ベルはそう答えた。ヴェルフをヘファイストスを見る。ヘファイストスは頷いた。
「わかった、出来るのは二日後だ。その時に取りに来てくれ、それと俺から頼みがある。」
「頼み?」
今日会ったばかりの人間に頼まれると聞いてベルは間抜けな声を出す。
「俺と専属契約を結んでくれないか?俺はお前の、冒険が見てみたい!」
ヴェルフの真剣な目を見てベルは微笑む。
「いいですよ。でも、俺の行く道は危険ですけど、いいんですか?」
「構わない!」
「じゃあ、よろしくお願いします。」
ベルはそう言うと手を差し出した。ヴェルフはその手を握った。
ここにベルとヴェルフの契約が結ばれた。