ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第13話

 朝日がまだ昇っていない城壁の上でベルは準備運動がてらに剣を振っていた。

「ふっ!はっ!はぁっ!」

 ベルが声を上げると共に剣を振るう音が発生する。

「おおー、すっごい音。」

「確かに。」

 ベルの剣を振るう音にティオナが感心し、アイズが相槌を打つ。

「ん?来たんだ。」

 ベルは声に気付くと剣を鞘に収める。

「おはよう、二人共。」

「「おはよう。」」

 二人は軽い挨拶をする。

「どっちから始める?」

「私から。」

 ベルが問うとアイズが身を乗り出してきた。

「わかった。ティオナさんもそれでいい?」

「うん、いいよ!」

「じゃ、始めようか。」

 ティオナは少し離れた場所で見学することにし、ベルとアイズは自分の武器を構える。

 先に動いたのはアイズであった。アイズはサーベルを構えると一気にベルにまで接近し突くがベルは右に流すと足払いをする。アイズは軽く跳ぶと前転して回避する。

(初歩的足技は回避。まぁ、これくらいは出来て当然だよね。)

 ベルはそう思うと牙狼剣を鞘に納め、一気に振る。鞘はアイズまで飛ぶ。アイズは反転して鞘を弾く。その隙にベルは城壁の壁を蹴り、アイズがサーベルを振り払った方へと潜り込むと牙狼剣を振り上げる。

「目覚めよ」

 アイズはエアリアルを発動させベルを弾く。ベルは飛ばされるも牙狼剣を城壁に突き刺すと一回転して跳び、アイズの目の前に着地すると剣を構える。

(風の魔法か…ちょっと厄介だな。)

 ベルがそう思っているとアイズは風を纏ったままベルに接近しサーベルを振り下ろす。ベルは正面から受け止めるが、そこにアイズは拳を叩き込もうとする。だがベルは片方の手でそれを受け止めた。

「はっ!」

 ベルはアイズを押し飛ばすが、アイズは土煙を立てながら着地する。その瞬間をベルは逃さず、剣を振った時に生じる風圧をアイズにぶつけた。

「っ!?」

 アイズは咄嗟に腕を十字に組み、風を纏うがそれでもなおアイズは後ろによろめく。

 その瞬間ベルがアイズに飛ばした鞘が、アイズが目認できるほどの高さにまで降りてくる。

 直後、ベルが鞘を逆手で取り、アイズのサーベルを弾き飛ばす。そしてベルは牙狼剣を喉元に突き立てる。

「……俺の勝ちですね。」

「うん、そうだね。」

 ベルは牙狼剣を鞘に納めるとアイズに手を差し出す。アイズはその手を取り立ち上がる。

「すっごいね、ベル君!」

 二人の戦いを見ていたティオナが駆け寄ってくる。

「これでもまだ未熟だけどね。」

「へ~、天狗にならないのはいい所じゃん。」

 ティオナはベルに感心する。

「次はティオナさんがする?」

「いいの!じゃあ遠慮なくやるよ!」

 ティオナはそう言うと二つの大剣の柄が繋がっている大双刃を手に取る。

 二人は同時に駆け出し、そしてぶつかった。

 

 連日早朝にアイズとティオナの訓練をして昼にはリリと一緒にダンジョンに籠る。休みの日もあったが訓練は充実していた。ベルにとってもイメージトレーニング以上の訓練になっていた。

 そして最終日。ベルはティオネと訓練をしていた。

「うおりゃぁああああああ!」

 ティオナはベルに接近しながら八の字を描くように大双刃を振り上げ、接近していた。ベルはその振りに合わせ剣を振り上げていた。

(くっ!なんでこっちが力で押しているのに段々力が…)

(ティオナは気づいてないみたいだけどベルは徐々にティオナの力を奪ってる。今日が最後の日だけど、今日も勝てない……)

 ティオナの戦いを見ているアイズはそう判断した。

「ふっ!はっ!」

 ベルはティオナの大双刃を振り上げ脇を大きく開けるとティオナの胸に鞘を当て、手を放すと鞘に差し込む形で突く。

「かはっ!」

 ティオナは吹っ飛ばされ、地面を滑った。

「あり、やりすぎた?」

 ベルは心配してティオナに駆け寄る。ティオナは気を失っていた。

「やりすぎちゃったかな?」

 ベルは頭を掻きながら言うとアイズが歩み寄って言った。

「大丈夫だと思うよ。ティオナも満足そうな顔で気を失ってるから。」

「そうなの?」

 ベルが尋ねるとアイズは頷いた。

「でもこんな硬い所に寝かせるわけにもいかないよね?」

 ベルの言うことも最もであった。そんなベルにザルバが提案する。

「だったら膝枕してやったらいいんじゃないのか?それならこの嬢ちゃんも問題ないだろ。」

「あ、なるほど。」

 ベルは手をポンッと置き納得する。その時アイズは気づかれないくらいに頬を膨らましたのは余談である。

「んじゃ。」

 ベルは胡坐を掻くとティオナを太ももに乗せる。

「よく寝てるね。」

 ベルはそう言いながらティオナの頭を撫でる。アイズはその光景を羨ましそうに見ていた。

「なんだ、アイズの嬢ちゃん。疲れたのか?」

 ザルバはアイズに気を使ってそう語りかける。

「あっ!いや……」

 アイズは少しばかり恥ずかしそうな顔になる。

「そうなの?だったら休んでもいいですよ。」

「え……あ……はい。」

 アイズは戸惑いながらも返事をする。

「お邪魔します。」

 アイズはそう言うとベルの膝の上に頭を乗せ、寝た。ベルは二人の頭を撫でる。

(こいつもこれで少しは自覚を持ってくれると嬉しいんだがな……はぁ~、全くコイツは人の好意に気付かない分、一緒にいる俺がヒヤヒヤするぜ。)

 ザルバは内心愚痴をこぼした。しばらくしてリズムよく寝息を立てる二人。ベルは撫でるのを止め、魔導筆を取り出すと毛の部分を引っ込め笛にする。

 ♪~~~~~

 英霊たちの鎮魂歌を吹くベル。そんな笛の音色に二人は心なしか笑顔になっていた。

 

 二人が起きたのはそれから二時間も後であった。流石のベルも足が痺れ、すぐには動けなかった。

「お腹も空きましたし、なんか食べませんか?」

 ベルは二人と歩きながら話す。

「だったらジャガ丸。」

「アイズはジャガ丸が好きだね。」

 ジャガ丸を押すアイズにティオナが笑顔でそう言った。

「ジャガ丸ですか……いいですね。軽く口にするなら。」

 ベルも賛同して三人はジャガ丸を売っている店舗へと足を進める。

(待てよ、確かジャガ丸って…)

 ザルバはふとある事を思い出した。ベルのファミリアに大いに関係のあることを。

 そんなザルバを置いて三人はジャガ丸を売っている出店に着くと、アイズが商品を注文する。

「ジャガ丸くんの小豆クリーム味三つで。」

「あ……」

「いらっしゃいませー……えっ!」

 ベルはヘスティアが働いていることを思い出し、ヘスティアはアイズとティオナと一緒にいるベルに驚いた。ティオナも状況的に理解したが、アイズはそんなことに気付かず注文を続ける。

「クリーム多め、小豆マシマシで。……?」

 固まっているヘスティアにベルは首を傾げた。

 とりあえず注文を受けヘスティアの休憩の時間まで待った三人は裏路地で話をした。

「ふ~ん。つまり今日まで一緒に訓練をしていたって話なんだね?」

「はい。俺にとってもいい訓練になりますし、winwinってやつです。」

「な~にがwinwinだ!僕はちっともwinwinじゃなーい!」

「どうしてですか?」

 首を傾げるベルを見てティオナは気づいた。

(ベルって誰にでも優しくて強いけど、そっちは鈍感なんだ。てことは今はフリー?)

 ヘスティアに少しばかり同情するもティオナは笑みを浮かべた。

(ベルはいい神様に恵まれてる。けど…なんでだろう?他の女性と一緒にいると嬉しくないって思う。それに…私とベルは一つレベルの差があるのに、一度も勝ててない。私ももっと強くならないと。)

 アイズは一人そう思った。自分が抱いている感情に気付かず。

 


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