ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第11話

「十階層に?」

「ええ、今日はそこまで行ってみませんか?」

 あの後来たリリと合流したベルはダンジョンのどの階層に行くかを話し合っていた。

 ベルの実力なら簡単ではあるものの、リリのレベルに合わせる必要があった。リリ自身は構わないとは言っていたものの、危険なことは避けたいのがベルの本心だ。

「だがまだ早すぎないかな?リリの安全を―――」

「リリの安全よりもベル様の方を心配してください。それに今日は最後の日なんですから行ってみたいんです。」

 リリにそう言われるとベルは根負けした。

「わかったよ……でも危なくなったらすぐに撤退する。いいね?」

「はい。」

 ベルの言葉にリリは元気よく返事をした。

 

 十階層。霧が掛かって見通しが悪い状態となっているダンジョン。ランドフォームが生え、冒険者の行く道を邪魔する。

だがベルはそんなランドフォームを避けながら進む。

「リリ、ストップ。」

 ベルは急に立ち止まりリリにそう言った。

「どうしたのですか、ベル様?」

「……モンスターだ。」

 ベルはそう言うとコートから牙狼剣を取り出し抜刀する。

 その直後奥からオークが姿を現した。

「待ってて。すぐに片づけるから。」

 ベルはそう言うと一瞬でオークの所まで近づき心臓に剣を突き刺し、続いて一気に抜いた。オークは苦しみながら息絶え、オークの皮だけを残して消滅した。

「終わったよ、リリ。……リリ?」

 ベルはリリの姿を探すが見当たらなかった。そしてベルの周りにあるものに気付いた。

「どうやら化けの皮を現したようだな。」

「被ってたのはコートだけどね。」

「上手いこと言うな。」

 ベルとザルバがそう言っている間にオークが集まってきた。

「さて……ひと暴れしてから叱りに行きますか!」

 ベルはオークに向かい走り出し、剣を振った。

 

 その頃リリは八階層辺りにまで逃げていた。

「ここらへんでいいかな?【響く十二時のお告げ】シンダー・エラ。」

 リリは解呪式を詠唱するとシンダー・エラが解除される。

(ベル様が悪いんです。ベル様が、アイツにさえ会わなければ……)

 リリは少しばかり後悔するがその感情を振り払った。

(ううん、これでいいんです。ベル様も、冒険者のなのですから。リリの嫌いな、冒険者なのですから。)

 リリはそう自分に言い聞かせダンジョンを出ようとする。すると突然足を引っかけられた。

「嬉しいじゃねぇか。大当たりだ。」

「っ!?」

 リリはその声に聞き覚えがあり反応した。その直後、腹を蹴られ仰向けにさせられる。そこにはベルに話しかけてきた冒険者がいた。「散々舐めやがって。この糞小人が!」

 男はリリの顔を何度も蹴る。

「いい様だなコソ泥、そろそろあのガキを捨てる頃合いだと思ったぜ。此処で網を張ってりゃ必ず会えると思ってな。」

 男はリリの髪の毛を引っ張り持ち上げる。

「網?」

「この階層でお前が使える道はそう多くねぇ。四人で手分けをしてたんだが、見事に俺のところに来るとはな!」

 男はリリのローブをはぎ取る。すると他の三人も集まってきた。

 その内の一人、カヌゥが男にある袋を渡した。男はその袋を開けるとそこにはキラーアントが入っていた。

「キラーアント! テ、テメェ! 何やってるかわかってんのか!?」

「ええ、キラーアントは仲間を集める信号を出す。冒険者の常識です。」

「しょ、正気か?テメェ…」

 男はそこから先の言葉を言おうとすると急に前のめりに倒れた。

「い、一体何が!」

 突然の状況に戸惑うカヌゥ。その時、ほかの二人も声を上げ倒れ始めた。

「い、一体何が!」

「俺がそいつらに毒入りのナイフを投げつけたのさ。」

「っ!お前は…二つ名の無いLv.5!」

「え!」

 カヌゥとリリは驚きを隠せなかった。先ほどまでオークの大軍がいたにも関わらず、今この八階層にいるのだから。

「な、なんでお前がここに!このガキがお前を…」

「あの程度の数で負けると思ったか?舐めんな。それと黒髪、お前に言ったよな?」

―――リリに危害を加えたりこっちの邪魔をしたら、殺すから―――

「あの言葉、今お前の仲間である他の三人にも当てはまるよな?だったらお前ら三人も同罪だ。リリは別件で。」

「ふ、ふざけるな!」

 カヌゥはベルに声を荒げる。

「お前なんか新人に、俺たちベテランが―――」

「ベテランと言いながら酒におぼれている奴に言われたくないよ!」

「なっ!?」

「知らないとでも思ったか?ある人に頼んで俺は情報を収集していた。何分、ギルドで騒ぎ立てられた身だからな。素性を隠してもすぐにバレる。そしてお前たちが失敗作の《神酒》に溺れていることも、そのためにどんな非道もやってのけることも知ってる。正直言うとな、俺はお前らみたいなやつらが大っ嫌いなんだ。仲間を見捨て、道具のようにするお前らがな。」

 ベルに言われ反論できないカヌゥはリリを人質に取ろうとする。

 だがその前にベルは毒を仕込んだナイフを投げ、カヌゥを動けなくする。

「な……ぁ……!?」

「喋れないだろ?ちょっと外に出れば生えてる毒植物から取った痺れ薬だ。濃縮しているから効き目は抜群だ。さて……これは少し相手をしないとな。」

 ベスはカヌゥたちを無視してキラーアントの大群を見る。

「リリ。」

「っ!」

「お前がやったことは本来ならば許されない。……が、俺は許す。」

「な、なぜですか!リリは、魔石をちょろまかして騙したことだってあります!ベル様の装備だって盗もうとしました!」

「知ってる。」

「……へ?」

 ベルは間抜けな声を出す。

「リリがそうしてたことも、全部知ってる。けど俺は目を瞑っていた。なんでか分かるか?一瞬だがお前に罪悪感を抱く表情を見せてたし…それにお前、いつも悲しい目をしてた。」

「……」

「俺はな、そんな目をしたやつを見たくない。リリの様に、俺より辛い人生を送っていても、希望を捨てないで、人を信じて生きて欲しいと思ってる。」

 ベルはそう言いながら牙狼剣を抜刀し、ザルバに刃を当て引く。

「もしお前に希望が無いと言うならば、俺が希望になる!俺は!」

 ベルは剣先を天に向け円を描く。円からは光りが溢れ牙狼の鎧が召喚される。牙狼の赤い目が光り、方向がダンジョンに響き渡る。

「希望の騎士、牙狼だ!」

「……黄金の……騎士?」

 リリは牙狼の姿に目を奪われる。

 牙狼はゆっくりと歩きながら剣を抜刀し、迫り来るキラーアントを一匹、また一匹と倒してゆく。決してリリには近づけないように、剣を振るう。

(なんて……大きな背中なのですか……リリは、こんな人を騙そうと…いや、そもそも出来っこない事をとしようとしていたんですか?)

 リリは牙狼の戦いように目を奪われた。

「ベル、一気に焼いちまいな!」

「承知!」

 ベルは魔導ライターを取り出すと剣に纏わせ一閃。魔導火の刃がキラーアントたちを消し炭に変え、魔石だけを残していった。

 その場にいた全てのキラーアントを消滅させるとベルは鎧を召還し、リリの方へと歩み寄る。

「っ!?」

 リリは殴られるかと思い、目を閉じた。しかしいつまで経っても痛みは来ず、顔の痛みが徐々に取れてきているのを感じた。リリはおそるおそる目を開けるとそこには【ディア】を使っているベルの姿があった。

「ベル……様?」

「もうちょっと待って。これで傷とか腫れとか、無くなるから。」

 ベルにそう言われリリはじっとする。

「はい、お終い。」

 ベルはそう言うとリリをお姫様抱っこする。

「ベ、ベル様!?」

「動かないで。治したけど、まだ体力は回復してないんだから。」

 ベルはそう言うとリリを少し離れたところに置き、ソーマ・ファミリアの四人の方へと足を進める。

「お、お前……」

 黒髪の男はベルを見る。

 ベルは牙狼剣ではなく、ランドウォールで作った杭を男の掌に突き刺した。

「ぐぁあああああああああ!!」

 男は悲鳴を上げるがベルは表情一つ変えることなくもう片方の手に突き刺すと今度は足に突き刺した。そして他の三人も同様に杭を突き刺す。

「こ、こんなことして許されると思ってるのか?お前、ギルドのブラックリストに入るぞ。」

 男がそう言うとベルは言った。

「証拠を残さなければいい。ただそれだけだ。」

 ベルはそう言うと懐から小瓶を取り出し、四人に掛けた。

「キラーアントのフェロモン。魔石を抜く前に前もって集めてたんだ。こんなところで役に立つとは思ってもみなかったけど。」

 ベルはそう言うと瓶を魔導火で燃やす。

「じゃ。」

「ま、待ってくれ!俺を…俺を助けてくれ!」

 慈悲を求める男に対しベルは言った。

「お前は俺の警告を無視した。もう遅い。俺に殺されようが、キラーアントに戦って食われようが、動けなくて喰われようが、死ぬことに変わりはないだろ?」

 ベルはそう言うとリリの荷物を回収してリリをお姫様抱っこで入口へと昇って行った。

 男は逃げようともがくベルの毒のおかげで満足に動けなくなっていた。そこへキラーアントの大群がじわじわと近づいてくる。男たちは助けを求めるが近くには誰もおらず。そして肉を食いちぎり、骨を砕く音と悲鳴がダンジョンに響き渡った。

 

 ベルは地上に出て人気のない広場でリリと対峙していた。リリは何も言わず、俯いていた。

「さて……あれだけのキラーアントに襲われればあいつらも死んだだろう。後はすべきことをすればすべて解決だよ、リリ。」

「……うして……」

「?」

「どうしてリリを助けたのですか?だってリリは…」

「俺を騙そうとした?」

 ベルがそう言うとリリは頷いた。

「知ってたよ。換金所のこともね。だから多めにモンスターを狩ってたんだ。それに…リリが悪いとは思わない。」

「……へ?」

 リリはベルの言っていることが分からなかった。どう考えても自分が悪いのに、ベルは悪くないと言っているのだ。

「確かにリリがしたことは悪い。けど原因は、ソーマ・ファミリアのソーマと、それに憑りつかれたファミリア全員だ。リリはまだ俺より年上でも、心は幼い。その時に時間が止まったままなんだ。」

 ベルはそう言うとリリを抱きしめた。

「もう……悲しまなくてもいいんだよ。苦しまなくてもいいんだよ。」

 その言葉を聞くと、リリの張りつめていた思いが一気に溢れ、泣き出した。

「う、うぁあああああああああああああ!」

 ベルは静かに、リリが泣き止むまで一緒にいてあげた。

 

 夜のソーマ・ファミリア。ソーマ・ファミリアの主神であるソーマが一人の骸骨と対峙していた。骸骨はこの世のものとは思えない程の肉体構成と神と対当するほどのオーラを放っていた。

「何の用だ? 私は忙しい。」

「そう言うな。お前はだた自分の趣味のために眷属を得ているクズ神だろ?」

「貴様……私に向かって……」

「おや、いいのか?なんならお前のこれまでにやってきた恥や罪、知られてないこと全ての神にバラしちまうぜ。」

 髑髏がそう言うとソーマは舌打ちする。

「何が望みだ?」

「簡単なことだ。お前の所にリリルカ・アーデって嬢ちゃんがいるだろ?そいつを解放してヘスティア・ファミリアに改宗させろ。」

「なんだと?ふざけるな!」

 ソーマは声を荒げる。

「ただ眷属を金稼ぎの道具に使っているお前にとって、たかが一人減るくらい、どうってことないだろ。」

「私の《神酒》づくりの邪魔をすると貴様は言ったんだぞ!ふざけるな!」

「どっちがふざけているかな?いいんだぜ、お前のことを、真実をアイツに話しても。ガジャリに」

「っ!?」

 ガジャリの名を聞いた途端、ソーマは表情が一変した。

「……わかった。ガジャリに絶対言わないのであればそいつの改宗を許す。もう十分だろ!」

「……ああ、十分だ。此処に血で刻みな。」

 骸骨はそう言うと契約が書かれた羊皮紙を取り出した。

「ゲッシュか……わかった。」

 ソーマは骸骨の言葉に従い血で名を刻む。

「これで契約は成立した、じゃあな。」

 骸骨はそう言うとその場から姿を消した。

「……クソッ!」

 ソーマは行き場のない怒りをものにぶつけた。

 後日、リリはソーマから改宗の許可をもらったことに驚いたがすぐに荷物を纏めてベルたちのいるヘスティア・ファミリアに改宗した。

 


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