広大な地下迷宮、通称“ダンジョン”を中心に栄える迷宮都市オラリオ。
今一人の若者がダンジョンに五階層を歩いていた。
服装は上下とも黒い革に装飾が施された服、そして白いコートを羽織っていた。左手には髑髏の様な指輪を付けていた。
「しっかしダンジョンと聞いていたが・・・・・・・外にいるモンスターよりも弱いとはな。」
指輪が口を動かし喋る。
「仕方ないよ。ここは上層なんだから。それにしても・・・・・」
若者は違和感を感じた。先ほどまでの道中、モンスターは何十体も出てきた。ゴブリン、コボルトに出てくる基本的なモンスターは次々とその若者の手によって倒された。
だが今いる五階層はあまりにも静かすぎるのだ。
「なんか嫌な予感がするな。」
「俺もそう思うよ、ザルバ。」
直後、獣の様な雄叫びがダンジョンに響き渡った。
「これは……」
若者の目の前に現れたのは膨らんだ筋肉に茶色い表皮、下半身は毛で覆われ尻尾が生え、片手に石の斧の様なものを持っている牛の様なモンスター、ミノタウロスであった。
「ちょっとは手ごたえがありそうだな。」
「油断しないでいくよ。」
若者がそう言った途端、ミノタウロスは若者に向け斧を振り下ろした。若者は最小限の動きで身体を反らし、斧を回避する。そのことに呆気にとられるミノタウロスではあるがすぐに次の行動へと移った。
ミノタウロスは我武者羅に斧を振るい若者へ攻撃をするがその攻撃は全く当たらず、全て見えているかのように若者は避けていた。
ミノタウロスは斧を横に振るい若者の上半身と下半身を分けようとしたが若者は弧を描くようにミノタウロスの上を跳び回避する。若者は着地すると片足に掛かっていたコートを祓う。
「どうだ?もうパターンは覚えたか?」
「うん。大分ね。そろそろこっちも相手してあげないとね。」
若者はそう言うとコートから剣を出し左手に持つと抜刀する。
「さて……行かせてもらうよ。」
若者は嫌悪地肌を左手の甲に置き、ゆっくりと引く。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ミノタウロスは雄叫びを上げながら若者へ接近する。
「ふっ!」
若者はミノタウロスへ向かい駆け出し、そしてすれ違い様に剣を右へ振った。空中を何かが回転しながら地面へと落ちた。
地面に落ちたのはミノタウロスの斧であった。
「ヴモッ!」
ミノタウロスは驚きを隠せなかった。しかし若者はそんなことに気にも留めず後ろからミノタウロスの背中を突き胴体を貫いた。
「ふっ!」
若者が剣をひねるとミノタウロスは体が一気に爆発するように消え、魔石とミノタウロスの角だけが残った。若者はその二つを回収する。
「そろそろ切り上げたらいいんじゃないのか?初日だぞ。」
「そうだね。」
若者はザルバの言葉を聞き、地上へ戻ろうとするがその時視線を感じた。
「ん?」
視線が感じる方へ若者は顔を向けるとそこには一人の少女がいた。
気品と気高さを感じさせるオーラ、腰まで伸びた長い金髪、銀の鎧を身に着けていた。
「……ねえ、君名前は?」
「えっと……まずは自分で名乗るのは礼儀ではないですか?」
若者がそう言うと少女は言った。
「……ごめんなさい。私はアイズ・ヴァレンシュタイン、アイズって呼んでいい。」
「アイズさんですね。僕はベル・クラネルです。」
「そう……聞いてもいい?」
「なんですか?」
「どうしてそんなに強くなれるの?」
アイズの問いにベルは少し悩み、そして答えた。
「守りし者に、なりたいからかな?」
「守りし者?」
アイズは首を傾げる。
「うん、誰かの笑顔を、未来を守れる存在。そんな存在になりたいからかな。」
ベルがそう答えると、アイズは理解した。
「そう…………なれるといいね。」
「うん。」
そんな話をしているとアイズを呼ぶ仲間の声が聞こえてきた。
「おっと。大事な仲間が呼んでるみたいだから行った方がいいよ。」
「うん。そうする。」
「それじゃあ。」
ベルはそう言うと一礼して合図に背中を向け、歩き出した。
「ベル……」
アイズはベルに興味を示した。
正直見切り発車みたいなものですのであまり期待はできません。
後、非難罵倒のコメントは受け付けません。