戦国†恋姫X 犬子と九十郎   作:シベリア!

90 / 128
第122話にはR-18描写があるので、犬子と九十郎(エロ回)に投稿しています。
第122話URL「https://syosetu.org/novel/107215/41.html

第124話にはR-18描写があるので、犬子と九十郎(エロ回)に投稿しています。
第124話URL「https://syosetu.org/novel/107215/42.html


犬子と柘榴と一二三と九十郎第123話『しばらくよろしく』

「おかえり~」

 

「おっかえりー。 ご飯にする? お風呂にする? それとも……ひ・ふ・み?」

 

「一二三、その台詞は犬子専用だよ!」

 

練兵館に帰宅した九十郎を、何も知らない犬子と一二三(裸エプロン)が能天気に笑いながら出迎える。

敬語を使うべき相手ではないと判断したためか、最近犬子の一二三に対する言葉遣いはタメ口である。

 

「………………」

 

九十郎は無言のまま草履を脱ぎ捨て、廊下を歩く。

明らかにいつもと様子がおかしいと犬子も一二三も気がついた。

 

そして一言も喋らずに、まるで力尽きるかのように自室の畳の上にばたりと倒れ込む。

 

「く、九十郎……何かあった……?」

 

犬子が恐る恐る呼びかけるが、九十郎は何も答えない。

気絶したかのように倒れ込み……筋肉質な大男の目に大粒の涙がにじんだ。

 

「う……ううぅ……」

 

声が出なかった。

美空と別れ、1人になって、ようやく九十郎は自分の心に来たダメージを自覚した。

目を閉じれば嫌でも思い浮かぶ、思い浮かんでしまう。

自分以外の男のちOこを下のお口で咥え込み、心底気持ち良さそうに喘ぎ声をあげる柘榴の姿を。

 

思い出してしまう、何度も何度も思い出してしまう。

何度も何度も何度も何度も脳裏に浮かぶ。

 

そして思う……

 

「ざく……ろぉ……」

 

……悔しいと。

 

悔しい、悔しい、悔しいと叫びたかった。

柘榴は俺の女だと叫びたかった。

柘榴は俺の嫁だと叫びたかった。

 

俺だけが柘榴を抱けるのだと。

俺だけが柘榴を独占できるだと……叫びたかった。

 

「ちく……しょぉ……が……」

 

だが現実には、九十郎はボロボロと涙を零すばかりだ。

立つこともできない、叫ぶこともできない。

底なしの無力感に苛まれながら、柘榴を守れなかった事への後悔と、柘榴の不調に気づけなかった自分自身の不甲斐なさを恨み、ただただ涙していた。

 

「こ、この落ち込みっぷりは過去最大かも……」

 

「そうだね、とりあえず君が天人殿とエッチしてた時より落ち込んでるね。

 あの時は会話は成立してたから」

 

「一二三、ブチ殺すよ」

 

犬子が何とも味わい深い笑顔でそう告げる。

 

「本当に何があったんだろ」

 

「とりあえず話が聞ける状態になってもらおう」

 

「……できるの?」

 

1人泣き続ける九十郎を前に、犬子が半信半疑といった様子で一二三に尋ねる。

 

「できるできる。

 こういうのは一回傷口を思いっきり抉ってうんこを投げつけるのがコツだよ」

 

「何か物凄く不安になる事を……」

 

犬子が盛大に顔を引きつらせながらも、かといってこの状態の九十郎をどうこうする手段も思い浮かばず、やむなく一二三に道を譲る。

 

そして一二三は九十郎の耳元にそぉ~っと口を近づけて……

 

「柘榴が目の前で他の男に股を開いてたのを見て、

 鬼に変わってぶった切ったのかな~?」

 

……物凄く物凄く嫌味ったらしい口調でそう呟いた。

 

「この人鬼より鬼だ……」

 

犬子が思わずそう呟く。

表裏比興と書いてクソヤロウと読む真田昌幸は今日も平常運転である。

 

しかし効果は敵面だ。

うつ伏せに倒れて泣き続けていた九十郎の目がギョロリを見開かれ、強烈なまでの殺意と共に一二三にアイアンクローをかける。

 

「……鬼にはなってねぇよ馬鹿野郎」

 

静かに、しかし激烈に怒っていた。

自分自身に向いていた過去最強の怒りが、目の前にいるクソヤロウに……外側に向いたのだ。

 

「そーかいそーかい、最悪の最悪だけは免れてるのか。

 良かった良かった、めでたしめでたし」

 

「何も良くねぇしめでたくもねぇよっ!!」

 

九十郎がさらに激高する。

当然の事だが、一二三はワザと九十郎を怒らせようとしているし、九十郎にもそれが分かっている。

 

「く、九十郎! 柘榴に何かあったの!? 鬼にはなってないって……」

 

「俺じゃねえ男とセックスしてたよ。 そんで鬼になりかけて……美空が引き戻した」

 

「そ、それからどうなったの……?」

 

「美空が連れて行った。 必ずどうにかするから時間をくれってよ……」

 

「そっか、美空様がついてるなら大丈夫かな……」

 

犬子がそっと胸を撫でおろそうとして……普段の美空の言動を思い出し、むしろ余計に不安になった。

 

「……ところで犬子、それに一二三」

 

九十郎が顔を畳に付したまま尋ねる。

 

「……知ってて黙ってたな?」

 

……瞬間、部屋の温度が2~3度下がる、

 

「うぐっ……」

 

図星を突かれ、犬子が言葉を詰まらせる。

 

「ああ、知ってて黙っていたとも。

 当の本人が土下座しながら九十郎にだけは知らせないでと頼んできたからね」

 

「言えよ! それでも!」

 

「え? 何で?」

 

「全部俺に知らせろとは言わねぇけどな、柘榴の生き死にが関わってんだろ!?

 だったら知らせろよ俺に!!」

 

「違うね、生き死にが関わるからこそ知らせなかった(嘘だけど)。

 命懸けで頼まれた、命懸けで応じた、

 そういう命懸けの約束は命懸けで守らないといけない(一般論で)。

 こう見えても私、信義と誠実は大事にしているんだ(これも嘘だけど)」

 

一二三が恰好つけて恰好良さげな事を言う。

なお、あの約束をした時命懸けだったのは柘榴だけで、一二三は命懸けで応じる気も、命懸けで約束を守る気もサラサラ無かった。

表裏比興と書いてクソヤロウと読む真田昌幸は今日も平常運転である。

 

「九十郎、ごめんね。 柘榴にああまで頼まれちゃうと、犬子としても……」

 

「1人でどうにかするという発言を真に受けて、

 本当に1人でどうにかすると思って放置して、状況を悪化させました、マル」

 

「う……そ、そういう見方もできるけど……そういう言い方は……」

 

凄く痛い所を抉られて、犬子が思わずたじろいだ。

同じ立場に見えてこの2人には大きな差がある。

 

犬子は柘榴ならどうにかすると信じ、九十郎には何も伝えなかった。

一二三は柘榴が盛大に爆発四散する可能性が大いにありうると予見しながら、それはそれで利用すれば良いかと九十郎に何も伝えなかったし、柘榴にも忠告しなかった。

 

なお、柘榴は盛大に爆発した。

一二三の予想とは異なり、美空の応急処置と言うか火事場のクソ力的な何かで四散は免れたが。

 

「……犬子、柘榴のお見舞いに行ってくる」

 

犬子がそう言って立ち上がる。

こんな状態の九十郎を放置するのは心配だったが、それ以上に柘榴が今どんな状態なのかが気がかりだった。

それと美空が傍にいるというのも地味に心配を加速させていた。

 

「行ってらっしゃい、留守番はしておくよ」

 

「一二三は来ないんだね」

 

「あまり接点も無いから」

 

「じゃあ、九十郎をお願い」

 

「了解」

 

犬子がこの場を一二三に任せて部屋から出ていった。

付き合いが短い2人であるが、こういう状態の九十郎を任せる程度の信頼はあった。

 

そうして部屋には、声も無く慟哭する大男と、胡坐をかきそれを見つめる少女の2人だけになった。

 

「……羨ましいな、こんなに愛されてるなんて」

 

一二三は小さく小さくそう呟き……

 

「……それはそうと、長尾景虎殿が山籠もりしたら、誰が対武田の指揮を執るんだろう?」

 

そんな非常に非常に大きな問題に気づいた。

 

……

 

…………

 

………………

 

「美空様のアホオオオォォォーーーッ!!」

 

翌朝、名月の叫び声が春日山城に木霊した。

対武田への侵攻作戦が始まろうとしている時に、よりにもよってその中心人物になるべき長尾美空景虎が『しばらくよろしく』との置手紙1枚残して行方不明になってしまったのだ。

 

「しばらくっていつまでですの!? よろしくって何をやれば良いのですの!?

 不在になるのはともかく、理由くらい説明していって」

 

「またか……」

 

「また……」

 

「ああ、まただのう」

 

評定の間で名月は頭を抱え、沙綾は苦笑し、秋子と松葉はげんなりとした表情でつぶやき合う。

そう、美空は過去に1度、全然言う事を聞かない豪族共に嫌気が差して突然行方不明になった事があるのだ。

 

「置手紙があるだけ、成長した」

 

「あの時は手紙すら無かったものねえ」

 

「あんなのあって無いようなものじゃろ」

 

「ですよねぇ……」

 

言っちゃ何だが、越後長尾家は長尾美空景虎個人の武名で保っている所がある。

 

決して武田ほどではないが。

信玄の病死と同時にグダグダになって滅亡した武田ほど深刻ではないが、越後長尾家内には、あの武田晴信と互角に渡り合える長尾美空景虎だから大人しく従っている者は大勢いる。

当然、美空が失踪した事で越軍がバラバラになる事は火を見るよりも明らかだ。

以前急に美空が失踪した時の悪夢のような出来事は正直思い出したくも無い。

 

美空が急に失踪したのも問題だが、美空が急に失踪した程度でバラバラになる越軍はもっと問題だと秋子は思った。

 

「とりあえず全員斬って俺最強という訳で」

 

越後最強と名高い剣客、小島貞子貞興キリッとした表情でそう告げる。

 

「貞子さん、それが無茶だって事は犬子にも分かりますよ」

 

「分かってますよそんな事!

 ちょっと雰囲気が暗くなってるから冗談で言ったんですよ!」

 

「貞子、しばらく黙っとれ」

 

「はい……」

 

貞子がしゅ~んとした表情で隅っこで体育座りをした。

 

貞子は確かに越後最強の剣客で、剣の腕では甲斐最強の粉雪と同等である。

ただし貞子は練兵の名手であると同時に優秀な前線指揮官でもある粉雪と違い、剣を振るう以外の事は全然できないし、しようと思った事も無い。

 

この人材の層の薄さこそが越後長尾家が今まで散々武田晴信に苦戦し続けた原因であり、同時に曲がりなりにも一進一退の攻防にまでしてみせた長尾美空景虎の異常さの証明でもある。

 

「どうします? 沙綾さん」

 

「どうって、比較的纏められそうな者に纏めてもらう他あるまいて」

 

「それって……」

 

「当然……」

 

「あの人」

 

秋子と沙綾、そして松葉の視線が同時に同じ方向に向いた。

その先にいるのは、簡素過ぎる置手紙を手に喚き散らしながら涙を流す名月である。

 

「次期当主様……ですよね?」

 

「むしろ他に誰がおるのじゃ?」

 

「ですよねぇ……」

 

分かっちゃいるが心配だと、秋子は思う。

しかし沙綾の言う通り、他の選択肢は考えにくい。

元より、次期当主というものはそのために決めて、そのために存在するのであるから。

 

そしてそんな3人の視線が集まっている事に気づいて、名月は泣き喚くのをやめ、こほんと咳ばらいをして姿勢を正す。

 

「降りるのなら、今しか無いぞ」

 

3人を代表し、沙綾がそう声をかける。

 

「……降りません」

 

「何故じゃ?」

 

「勝った者の責任として」

 

「それだけか?」

 

そう尋ねられ、名月は何かを言おうとして……何も言えなかった。

余りにも真剣な沙綾の、秋子の、松葉の視線に圧倒され、口が動かなくなっていた。

 

「……まあ、それは宿題としよう。 いずれ本当にこの家を継ぐ日が来ればもう一度問う。

 その日まで答えを見つけておく事じゃ」

 

「良いのですか?」

 

「優し過ぎ」

 

「馬鹿者、本当に降りると言われたら我等は武田に皆殺しにされるぞ」

 

「それはまあ、そうですけど」

 

「足りぬ所があるのは百も承知、足りぬ部分を補うのが家臣であろうて」

 

秋子と松葉が顔を見合わせる。

現在の長尾美空景虎と比べれば、今の名月はハッキリ言って頼りない。

だがしかし、成長しようとする意志がある限り、人は学び、成長するものだ。

秋子も、松葉も、そして沙綾もそれを知っている。

 

……長尾美空景虎の戦いを、苦しみを、葛藤を見てきたが故に知っている。

 

「全員ハラを括れ、やるぞ」

 

「美空様抜きで甲斐に打って出て、あの武田晴信を討つ……

 全く、無茶ぶりここに極まれりと言いたいですね」

 

「いつもの事」

 

「ええ、いつもの事です。 あの人のやる事はいつだって無茶ぶりですから」

 

「かっかっかっ、違いないのう」

 

3人がそう言って笑い合う。

 

「で、でも……やるしかないのはともかく、具体的にどうすればよろしいのですか?」

 

名月が心配そうにそう尋ねると、咲綾が、秋子が、そして松葉が自信満々といった様子で頷きあい、胸を張り……

 

「ノープランじゃ!」

「ノープランです!」

「ノープラン」

 

3人同時にそう言った。

彼女らも美空と同様、ノープランという語感が好きになっていた。

自信満々に、胸を張ってノープランと言い放った。

 

ノープランだ、だがやるのだ。

それでもやるのだ。

それが越軍の心意気なのだ。

 

「あの……盛り上がっている所申し訳ないんですけど……」

 

そんなドヤ顔の3人に、犬子がおずおずと声をかける。

 

「柘榴……じゃなくて、柘榴様って、越軍の諜報組織を指揮していましたよね。

 確か軒猿っていうのを。 誰が引き継ぐんですか? 犬子は無理ですよ」

 

3人がキョトンとした表情で互いの顔を見合わせる。

 

「儂は無理じゃぞ」

 

沙綾が真っ先に否定の言葉を告げる。

おそらく諜報組織を卸し切るだけの能力はあるだろうが、残念ながら彼女は越後の目と耳を預けられる程信用されていない。

それ故に、彼女には軒猿に関する情報を一切知らされていないし、本人も美空から信用されていない自覚があるため、あえて知ろうとはいていない。

 

急に今日から軒猿の指揮命令を行えと言われても無理だ。

 

「松葉はあくまで親衛隊、美空様を御守りするだけ」

 

意訳・自分は脳筋です。

 

「美空様には常々言われていました……秋子には向いてないと」

 

意訳・自分は基本お人好しなので、情報の裏取りが甘いです。

 

会議を主導していた3人が揃って無理だという事が分かり、その視線が評定の間にいるその他大勢の方に向く。

 

「あの、さっきも言いましたけど犬子は無理ですよ。

 柘榴……じゃない、柘榴様、公私はキッチリ分けてましたから、

 軒猿がどうゆう風な指揮系統で、どうやって情報を取って来てるか全然知りませんから」

 

まず犬子が首を横に振る。

 

「人斬り包丁の扱いなら任せてください」

 

意訳・自分も脳筋です。

貞子も松葉と同様、諜報組織を率いる事は無謀極まり無い。

 

そして全員の視線が名月に向き……

 

「え? 私ですの?」

 

全員がハッキリと理解する。

いくらなんでも名月に越後長尾家当主代行の仕事と、軒猿の指揮命令の仕事を同時にやれというのは無謀だと。

 

そもそも、先程犬子が言ったように、この場の誰一人として軒猿の指揮系統や活動の内容を知らなかった。

 

つまり……

 

「も、もしや……だ、誰も軒猿を動かせない……?」

 

「……やばいの」

 

「越後終了のお知らせ」

 

「えっと、全員斬って俺最強という訳には」

 

「それでどうにかなるのなら美空様は苦労していませんわ」

 

「いなくなって初めてわかる、柘榴の重要さ……

 ごめんね柘榴、犬子は正直見くびっていたよ……」

 

この日、越後長尾家の目と耳が機能不全になった。

 

……

 

…………

 

………………

 

「いない?」

 

「ええ、急に消息を絶ちました」

 

一方、甲斐の武田晴信の目と耳は依然として健在である。

美空と柘榴が突如として行方を眩ませたという情報は、即座に武田光璃晴信の耳に届いた。

 

躑躅ヶ崎館の茶室にて、光璃と一二三、そして湖衣が密かに情報を交換する……

 

「(こ、この人絶対一二三ちゃんじゃない……たぶん霧隠才蔵って人だよね……)」

 

……訂正、光璃と霧隠才蔵、そして湖衣が密かに情報交換をしていた。

 

なお霧隠才蔵とは一二三が抱えている忍びの1人で、変装と物真似が超上手い人である。

特に一二三の物真似は得意中の得意であり、彼女が全力で一二三の物真似をした時、それを見分けられるのは湖衣だけである。

 

もう一度言おう、見分けられるのは湖衣だけであり、光璃は当然のように目の前の人物が一二三だと思い込んでいた。

 

柘榴の失踪により越後長尾家は目と耳が機能不全に陥っていたが、光璃は光璃で、目の前の人物の見分けがついていない。

ある意味五十歩百歩な関係である。

 

「(い、言った方が良いのかな……?

 で、でも一二三ちゃんの事だから、何か理由があってどこか別の場所にいて、

 何か理由があって才蔵さんに代役を頼んでるんだよね……そうなんだよね……)」

 

湖衣は聡明だ。

湖衣は聡明であるが故に、一二三が何か理由があって入れ替わっているのではと深読みしてしまう。

そして自分の判断でそれを光璃に告げて良いものかと考えてしまう。

 

「(そもそも、御屋形様も才蔵さんも普通に喋ってるよね?

 もしかして承知の上で喋ってる?

 いくらなんでも御屋形様相手に影武者を本気で影武者で騙そうとなんてしないよね?

 いくら一二三ちゃんでも……あ、駄目だ一二三ちゃんだからこそやりそうだ)」

 

そして基本聡明だが、気弱で、迷うと手が止まってしまう性格の湖衣は光璃に対し『その人は才蔵です』と告げる事が出来ない。

 

一二三はそこまで読み切った上で、才蔵に自分の代わりを頼んでいるのだ。

 

「……あの長尾景虎の事です」

 

「当然、何の考えも無く行方を眩ませた訳ではない」

 

「はい、近々越軍はこの甲斐に侵攻するとの情報もあります。

 おそらくは別動隊が……」

 

……そして才蔵は一流の忍者……いや、超一流の忍者だ。

一二三が自分に代役を頼んだ意図を完全に理解し、光璃の思考を誘導する。

 

実際には美空は全くのノープラン、脊髄反射的に山籠もりを敢行している。

 

「目的は……?」

 

「やはり新田剣丞殿でしょう。 長尾景虎殿の入れ込みようは凄まじかったので」

 

なお実際には、好感度がマイナス方向に振り切れている。

名目上は夫婦ではあるが、剣丞が惨たらしく殺されたら万歳三唱する程度の好感度である。

 

才蔵は……いや、一二三は今、光璃を殺すために全力を尽くしていた。

 

後日光璃を殺した事を死ぬほど後悔する羽目になるのだが……

 

……

 

…………

 

………………

 

一方その頃。

 

「オラァッ!!」

 

美空の右ストレートが柘榴の顎を捉えた。

 

「お、御大将……いきなり何するっすか……?」

 

「今エッチな事考えてたでしょ?」

 

「うぐ……」

 

柘榴が言葉を詰まらせる。

 

美空が見抜いた通り、瘴気の影響か、それとも柘榴の生来のエロさ故にか、柘榴の頭はエロエロへと向きつつあった。

 

「全く気をつけなさいよ」

 

直後……

 

「ドラァッ!!」

 

柘榴の右ストレートが美空の顎を捉えた。

 

「な、何すんのよっ!?」

 

「御大将、今右手が酒瓶に伸びてなかったっすか」

 

「うぐ……」

 

今度は美空が言葉を詰まらせる。

確かに美空は無意識の内に酒瓶に手を伸ばしつつあった。

既に美空にとって就寝前の酒は生活の一部になっているのだ。

 

そして柘榴も、美空も、さっき殴られた頬を押さえながらジト~っと相手を睨みつける。

 

「……一度御大将とは決着をつける必要があるっすね」

 

「奇遇ねぇ柘榴、私も丁度貴女と同じ事を考えていたのよ」

 

柘榴の右手と、美空の左手を繋ぐ頑丈な鎖がじゃらりと鳴った。

その鎖がある限り、柘榴は美空から、美空は柘榴から決して離れる事は出来ない。

当然、柘榴は美空に隠れてセックスやオナニーをする事はできず、美空は柘榴に隠れて飲酒する事は不可能だ。

 

柘榴は日課の自慰ができず、美空は日課の一人酒ができず、急激にストレスが溜まりつつあった。

 

結果……

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

「ドラララララララララララララウラァッ!!」

 

美空と柘榴によるラッシュの速さ比べが始まった。

 

既に2人は越後長尾家の事も、軒猿の事も、武田晴信の事も綺麗サッパリ忘れ去られていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。