ある雪の降る晩の事……
「……女子寮の門限はとっくの昔に過ぎてると思うんだけどな」
大江戸学園生徒会執行部の仕事を手伝っていたために、帰宅が日付変更ギリギリになってしまった斎藤九十郎を待っていたのは、戸締りをしていた筈なのに何故か開きっぱなしの玄関ドア、楽しみに取っておいたのに勝手に食われているプリン、押入れの奥にしまってあったのに引っ張り出されている忍者戦隊カクレンジャーのDVD、そして1つしかない布団を占拠する女の子の姿であった。
「何やってるんだこんな時間に、奉行所の連中に叱られても知らんぞ俺は」
「奉行所が怖いんじゃ夜更かしはできないよ」
「さよけ」
九十郎が布団を占拠する女の子をとりあえず放置し、制服を脱いで寝巻に着替え始める。
少女の……精神年齢はさておき、肉体年齢上は少女である人物を前でおもむろに着替え始めた九十郎であるが、この2人は互いの全裸を何度も何度も見た仲であるため、今更遠慮とか羞恥心とかは生じない。
少女はすぐ近くで着替えるマッチョを無視して、子泣き爺と死闘を繰り広げる忍者戦隊カクレンジャーの姿を凝視していた。
「うっかり歴史に名を残すと大変だにゃー」
九十郎の着替えが終わった頃、少女はそんな事を呟いた。
「カクレンジャーの話か?」
「それもあるね。 あの佐助がねえ、あんなカッコ可愛い男の子になっちゃってさ。
本人が聞いたらビックリするよきっと。
才蔵と清海入道もコレを見たらどんな顔をするんだか」
「……で、このプリン食ったのはお前か?」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様じゃねえよ勝手に食いやがって!」
「まあまあ、その分今夜はサービスするからさ。
パイズリでもフェラチオでも、それともアナルセOクスとか?」
「プリン一個で股を開くなドスケベ女」
「しかし一方、ドスケベにしたのは君だよ」
そう言うと少女は、服の胸ポケットから新品のコンドームを取り出して、ぴらぴらと振って見せる。
部屋の隅に転がっているごみ袋の中には、キュッと結ばれた使用済みコンドームが何個も詰められている。
それらは全て彼女が九十郎のモノにハメて、自分のナカに挿れて、九十郎の孕ませ汁を受け止めた使用済みコンドームである。
「それとも今晩はナマでスルかい? 私は構わないよ」
「学生だろ、今の俺達は。 ガキなんて抱えられるかよ」
「どうにでもするさ、退学でもなんでもして」
「女にそんな真似させられるか、恰好悪いだろ」
「……いけずさんめ」
「いけずで結構だ」
「戦国時代生まれとしてはさ、早く産みたいし、沢山産みたいんだよ。
こうも毎日平和じゃ、それくらいしかヤル事が無いしね」
「卒業まで我慢しろよ。 あと1年ちょっとだろ」
「いっそ乱れろ天下! 崩れろ平和!」
「ははは、洒落にならねえ事を言ってんじゃねえよ」
「もしも今、天下泰平か再び乱世かを賭けた戦いが起きたら、
喜んで乱世側に行くだろうね、そして真田丸とか作っちゃうかも」
「マジで洒落にならねえからやめろよ」
「孕ませたくないの? ナマで私のおOんこを掻き分けて、
一番奥にビューッ! ビューッ! って中出ししてさ。
昔は何度も生でシたのに、こっちに来てからは全部避妊で」
何度もって言える程シてねえよとか、その他諸々を言いかけて……やめた。
「歴史上の偉人をさ、無理矢理組み伏せて、押さえつけて、
ワレメに固ぁ~いおOんぽを突き立てて、がっつんがっつんと腰を振って、
お前は俺の女だ~って言いながらゲラゲラ笑うの、興味無い?」
「そういうのは性分じゃねえよ、俺は剣丞とは違うんだ」
九十郎がバッサリと切り捨てる。
九十郎の言い訳は、少女が予想した通りにものであった。
予想した通りのものであったから……少女は深くため息をついた。
「うっかり歴史に名を残すと大変だにゃー」
ため息をつきながら、少女はそう呟いた。
「カクレンジャーか?」
「それもあるよ、それも……」
テレビ画面には、カクレンジャーにブチのめされた子泣き爺が巨大化する光景が写されている。
戦国時代を生きる者にとっては意味不明な光景であろうが、スーパー戦隊シリーズでは毎年……もとい、毎週恒例の光景である。
「君は私の事、どう思ってるのかな?」
少女が呟く。
「幸村ママン」
九十郎は少しも迷わずに即答した。
「セフレとは思ってくれないの?」
「思えるかっ!」
「いつ無責任種付けセックスしても全く問題無い都合の良いおOんこだとは?」
「もっと思えるかっ!!」
そんな九十郎の悲鳴のようなツッコミを聞き……少女はふぅっと悲しそうに視線を落とす。
「……だから君は九十郎なんだよ」
「どういう意味だこらぁっ!! 犯すぞてめぇっ!!」
「え? 良いよ」
「デコピンするぞてめぇっ!!」
「あ、ヘタレた」
九十郎がぶつくさと文句を言いながら、途中のコンビニ(驚くべき事に24時間営業)で買ってきた弁当をちゃぶ台に広げる。
店舗内レンジで温めてからそれなりの距離を歩いたために、暖かかくもなく、冷たくもなく、なんとも食欲をそがれる温度になっている。
「やっぱり、手料理ができた方が良いのかな?」
ちくわの天ぷらをひょいと摘まみ食いしながら、少女がそう尋ねる。
「あん?」
「君の好みの話、手料理はできた方が好みかい?」
「さてね、俺の周りにいる女はどいつもこいつも大飯喰らいの料理下手だったからな。
その辺の感覚は良くわからん」
「でも、こんなに美味しい物を毎日食べているのだから、
ちょっと練習した位じゃどうしようもないと思うけど」
「幸村ママンに飯炊きなんてやらせられねーよ」
「そりゃあ昔はそれなり大変だったさ、昔は。
でもこの時代では火を起こすのも、火加減の調整もスイッチ一つなんだよ。
本を読みながら料理ができるなんて、私にとっては衝撃的だったさ」
「それでもな、ああ、それでもだ」
九十郎がそう言うと、少女は頬をぷくーっと膨らませた。
「そうそれ、それだよ。 その厄介な性分こそが問題なのさ」
「俺の何が問題だって」
「私を幸村ママンと呼ぶその神経さ。 私はまだ誰の児も産んでいないんだよ」
「だがお前は正真正銘、真田幸村の母親だろうに」
「そうなる可能性があった、ただの一二三とは思えないのかい?」
「思えないね、全く」
少女は九十郎のそんな言葉を聞くと、またもや頬をぷくーっと膨らませる。
「……だから気に入った」
そしてある時にかっと笑い、そう告げるのだ。
「岸部露伴は動かない、気に入ってるのか?」
「曹操殿や御屋形様が気に入るだけの事はあるね、あれは良い物だ」
「あの壺をキシリア様に届けてくれってか?」
「ガンダムかい? あれも見たけど、私はあまりしっくりこなかったねえ」
「ははは、吉音が聞いたら泣くな、その台詞」
「ビームライフルとかバズーカで戦争するって感覚が今一つなんだろうね、きっと」
「かも……な……」
少女と九十郎がしみじみと昔を思い出す。
槍と弓矢と鉄砲で人と人が殺し合いを続ける時代を……後半部分は鬼と戦ったり、北欧神話の神々と戦ったりしたが。
「早いものだね、あの戦いからもう1ヶ月だよ」
「エンド・オブ・リバースの事を言ってんなら、ありゃ戦いなんてもんじゃないだろう」
エンド・オブ・リバース……それはオデュッセアという名の架空の巨大ロボの武装の一つ。
九十郎はあの恐るべきオーディンとの戦いの事を、いつもそう呼んでいた。
その理由は……今はまだ語るべきでは無いだろう。
「あんな戦いは古今例が無いという所は同意するよ」
「あってたまるかあんなもん」
「私達は勝った、英雄の魂を兵器へと作り替える企みは打ち砕かれて、
こうして欠伸が出るくらい平和な大江戸学園で過ごせるのだから。
まあ、世界の平和を願うのも、世界の平穏を祈るのも結構だけど、
そのために他人の魂をアテにするのは迷惑千万って話だね」
「平和……大江戸学園が平和かなぁ……」
なお、大江戸学園で悪漢に襲われる確率は150%、一回襲われてまた襲われる確率が50%という意味である。
「あの時代に比べれば平和さ、とても……夢みたいな話だよ。
鳥肌が立って悪寒がして、反吐が出る位に平和だよ。
こんな平和過ぎる時代で、
私みたいな人殺ししかできない女がどうやって生きれば良いのかまるで分からない……
その位平和だよ」
「そうだな、確かに夢みたいな話だ。
あの幸村ママンと机を並べて一緒にお勉強する日が来るなんて思いもしなかった」
「御屋形様とはずっと昔から一緒にお勉強をしていたのだろう?」
「昔は光璃が武田信玄だなんて思ってなかったんだよ。 だからノーカンだ、ノーカン」
「時々……時々思うよ……もしかして本当に夢なんじゃないかって……
本当は全部夢で、何かの間違いで、本当は今でも乱世が続いてるんじゃないかって。
乱世が続いてくれているんじゃないかって」
少女が少し俯きながらそう呟く。
その瞬間、九十郎は何故か背筋がゾクリとした。
「お、おいやめてくれよ。 今までの俺達の苦労を台無しにするような話はよ」
「ああ、ごめんごめん、流石に冗談だよ、冗談。
でも……でも何か……ありえなくってさ……
こんなに幸せで、こんなに戦争とは無縁の世界で生きるなんて。
ありえないから、不安で恐ろしいんだよ」
「ああ……ああ、そうだな……夢みたいだよな……」
九十郎は何故かそんな少女の言葉を否定できなかった。
馬鹿みたいな話だと笑い飛ばせれば良かった。
だけど少女が言う通り、戦国時代の英雄、後漢末期の英雄達と共に戦い、オーディンをブチのめした挙句、幸村ママンとあの大江戸学園に通う……確かに荒唐無稽な話であった。
オーディンの魔法で夢を見せられているのではと。
オーディンの魔法で幸せな夢を見せられ、本物の戦国時代の英雄達は魂を収奪され、今まさに神造兵器エインヘルヤルへと改造されようとしているのでは……そんな事を本気で考えたくなるくらい、荒唐無稽な夢のような話であった。
何しろオーディンは世界最高のルーン魔術の使い手なのだ。
その気になれば現実と区別がつかないような夢を見せる事ぐらい、簡単にできそうだ。
「ねえ……シよっか? お腹も膨れた所でさ」
まるで胸をよぎった不吉な想像から目を背けるかのように、少女は艶めかしく身をよじりながら擦り寄ってきた。
気がつけば九十郎が買ってきた弁当が綺麗に無くなっている。
「他人の夕飯半分以上強奪すりゃ腹も膨れるだろうよ」
「半分とは失礼な、3分の1くらいさ」
「ちくわ天はお前が食っただろ」
「そうだねえ」
「白身魚のフライもお前だ」
「うんうん」
「ミニコロッケ」
「実に美味だったね」
「焼きそば」
「あれを最初に作った人は天才だと思う」
「きんぴらごぼう」
「ごちそうさまでした」
「どう考えても半分以上食ってるじゃねえかてめぇっ!!」
「君はもう少し物事の本質を見るべきだと思うよ」
「ほう? そのこころは?」
「海苔弁当と呼ぶからには、一番の要は海苔だろう?」
「海苔と白米しか食ってねえんだよこっちはっ!!」
九十郎は激おこぷんぷん丸状態である。
たかが海苔弁如きで、小さい男である。
「ヘイ提督! 紅茶が飲みたいネー!」
「金剛の声真似をしたって淹れんぞ今日は」
「御屋形様はこう言えば淹れてくれるって言っていたけれど」
「時と場合によるんだよ、今日は疲れてるんだ。
エンド・オブ・リバースの後片づけはまだ全然終わってねえし、
当分は終わる気配もねえんだよ」
「まあまあ、良いじゃないか人助けだと思って」
「正直俺はブチ切れても良いと思うんだがな」
「だってねえ、私は今朝からずぅっとこの部屋に籠ってDVDを見ていたのだから。
そりゃあ冷蔵庫のプリンに手が伸びるし、
目の前に美味しそうなお弁当があったら箸を伸ばす。
それに紅茶の一杯も貰いたくなるよ」
「しれっと授業フケてんじゃねえよ!?」
九十郎が唾を飛ばしながら怒鳴りつける。
しかし、この男もこの男で無断欠席常習犯である。
常に真ん中より上の成績を維持しているので文句を言われた事は無いが。
しかし、怒り露にするマッチョを無視して、少女は男のズボンに手を這わせ、舌を這わせる。
唾液のシミがアソコにできる。
ただそれだけの事なのに、九十郎のアレは臨戦態勢へと移行しつつあった。
「じゃあさ……下のお口にご馳走してもらおうかな」
夕飯をかっさらわれたというのに、相手はあの真田昌幸……あの有名な真田幸村の母親で、本人もチート婆の一人として歴史に名を残した人物と知っているのに、なんやかんやで勃起してしまう自分の性欲にやや呆れてしまう。
思えばこの性欲さえなければ、自分は前田利家を抱かずに、その後の面倒臭い出来事にも遭わずに済んだだろうにと思う。
だが……
「……避妊はするぞ、いつものように」
「子供がデキたら、鶴姫と名付けようかな」
「他人の話聞いてたか」
「まあまあ、ゴムを着けてもピルを飲んでも、絶対確実という訳でもないのだろう。
軍師という人種はね、絶対確実であったとしても『もしも』を考えてしまう人種なのさ。
そう例えば、もしも真田昌幸さんが避妊戦士コンドムに穴を空けていたらとか」
「マジでやめろよてめぇ! シャレにならんからなっ!! 退学モノだからなっ!!」
「大丈夫だよ、証拠は残さないから」
「さっき自白しただろ」
「ここは戦国時代じゃないんだよ。 自白だけじゃ有罪にできないって、
日本国憲法38条3項にも、刑事訴訟法319条1項にも書いてあるじゃないか。
本当に吐き気がするくらいお花畑な法律だよねコレ」
「くそ、無駄に理論武装しやがって……
鶴姫以外にしようぜ、DQNネームは就活に不利だって聞くぜ」
「じゃあ、良い名前を考えてほしいな」
「幸村じゃあ駄目なのか?」
「幸村だけは嫌かな。
他の名前ならどんなDQNネームでも構わないけど、幸村だけは絶対に」
「なんでまた?」
「だって、うっかり歴史に名前を残したりしたら、可哀そうじゃないか。
それに私自身も自信が無いよ、この娘を使って世界を再び乱世に……
とか考えてしまいそうだ」
「心配し過ぎのような気もするがな」
「君は幸村なんて名前の子供、素直に愛せるのかい?」
「それは……」
『愛せる』と、九十郎は言おうとした。
言おうとしたが、喉まで出かかったが、言えなかった。
前田利家だけでもヒーヒー言っている自分が、前田利家よりも知名度が高く、前田利家よりも色々な意味でやらかしている真田幸村を、素直に我が子として愛せるような気がしなかった。
「やっぱり避妊はしようぜ、とりあえず今は」
今の九十郎には、それだけ告げるのが精一杯だった。
「はいはい、着けてあげるよ、いつものように。
さっきはああ言ったけど、穴は空けてないからさ」
少女がスカートのポケットから戦国時代には存在しない薄いゴム製の避妊具を取り出した。
コレを九十郎のモノに被せるのは今日で10回目だ。
最初は戸惑って、手こずっていた少女であったが、今では全く迷い無く、淀み無くアレを舐めてじゃぶって勃起させ、ゴムを被せる。
しっかりと被せられているのを確認すると、九十郎は少女を畳の上に押し倒した。
……押し倒してから、忍者戦隊カクレンジャーのDVDを再生しているビデオデッキの電源を切った。
「(そういえば俺……何でこいつとこんな仲になったんだっけ……?)」
そんな事を考えながら、九十郎は少女に突き挿れた。