戦国†恋姫X 犬子と九十郎   作:シベリア!

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第37話にはR-18描写(凌辱)があったため、犬子と九十郎(エロ回)の方に投稿しました。
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犬子と柘榴と九十郎第38話『葛尾城攻略戦(TAKE2)』

『クズロー、ゴメン……マタ、守レナカッタ……』

 

向こうの世界の虎松が、最後にそう呟き、絶命する。

並行世界を繋ぐテレパシーの交信が断絶する。

 

「……コッチハ、上手クヤル」

 

頬を伝う涙を拭い、我が身を引き裂かれるかのような深い悲しみを噛み締め、虎松は再び別の世界へとテレパシーを繋ぐ。

 

「コッチハ、必ズ、上手ク、ヤル……デナケレバ……」

 

自分の死は無駄にはしない、決して犬死にはしない、させない。

そして自分が死ぬ時も、必ず犬死だけはするまいと決意して。

 

『ソッチ、ドウダ……?』

 

『ソッチ、ドウダ……?』

 

『ソッチ、ドウダ……?』

 

『ソッチ、ドウダ……?』

 

『ソッチ、ドウダ……?』

 

……

 

…………

 

………………

 

「犬子ぉっ!」

 

「わんっ!」

 

「柘榴ぉっ!」

 

「気合十分っす!」

 

「よっしゃあ! 俺達ゃパートタイム越軍先手組! 気張って行くぜぇっ!!」

 

「おぉーーーっ!!」

「おぉーーーっす!!」

 

犬子と柘榴と九十郎が剣を天高く掲げる。

柘榴率いる先手組がそれに倣って各々武器を掲げ、鬨の声を上げる。

 

ここまでは先日虎松が見た、別の世界の光景と……犬子達が鬼に襲われ、敗北し、凌辱された世界の光景と全く同じである、しかし……

 

「……で、何でてめえまで来てるんだ虎松?」

 

九十郎がじと~という不審人物を見る目を虎松に向ける。

虎松を引き留めようとした空と愛菜を催眠術で眠らせ、こっそりと兵糧運搬用の荷車に忍び込んでいたのだ。

 

「クズロー達、心配ダッタ」

 

虎松が端的に自分の心中を述べる。

その言葉に一切の嘘偽りは無かったが、見た目ガリガリに痩せた幼女が言うのでは説得力に欠ける。

 

「いや心配ってお前、お前を守りながら戦うの大変なんだよ!

 何で大人しく待ってねえんだよ!」

 

「心配ダッタ」

 

別の世界では、虎松が遠く離れた場所に居たために、救援が間に合わなかった。

九十郎の危機を察知した頃には、既に虎松一人ではどうしようもない状態になってしまっていた。

最初から九十郎達と一緒に戦っていれば、あるいは……と、別の世界の虎松が死の間際に伝えてきた。

どうか迂闊で不甲斐ない自分の分まで、九十郎を守ってくれと叫びながら。

 

「……それを言うのなら、できれば九十郎にはついて来てほしくなかったのだけど」

 

そんな先手組の姿を、長尾の総大将であり越後の国主でもある長尾美空景虎が不安そうに見つめていた。

 

「ははは、俺が合法的に神道無念流を振るえるチャンスを逃す訳がねえだろ」

 

「貴方自分の価値を理解しているの? 貴方は私の描く戦略に必要不可欠なのよ」

 

「今回、相手は鬼とかいう魔化魍だか外道集だかみたいな存在なんだろ?

 人間相手じゃ切った時の気分が最悪だから丁度良い」

 

「まあ素敵、こいつ状況を全く把握していないわ」

 

いつもの九十郎である。

 

「それに……粉雪を酷い目に遭わせた連中なんだ、

 神道無念流がたっぷり御礼をしてやるのがスジってもんだろ、」

 

「いやどんなスジよ!? そんなの聞いた事が……

 ちょっと待ちなさい、粉雪ってもしかして山県昌景の事かしら?

 武田四天王、精鋭赤備えを率いる山県昌景かしら?」

 

「ああ、そうだが」

 

「……柘榴」

 

「柘榴も初耳っす」

 

「その辺の事情、これが終わったらじっくり聞かせてもらうわよ……」

 

美空が今後の九十郎の扱いに関して頭を悩ませながら、ゆっくりと剣を抜き、自身の超能力……長尾家御家流・三味耶曼荼羅を発動させるべく、精神を集中させる。

 

「九十郎とその子の護衛、頼んだわよ。 それじゃあ行くわよ新技……

 ロッズゥ! フロムゥッ!! ゴオオオォォォーーーッドォ!!!」

 

戦国時代に人間には理解不能な技名を叫び、美空の御家流……今まで使っていた御家流を変化させて編み出した新技が発現した。

 

護法五神を真上に呼び出し、真下に向かって突撃させる新技は、今までの三味耶曼荼羅の2倍……いや、10倍の威力がある。

美空の超能力が、まるで障子紙のように葛尾城の城門を破砕した。

 

「スカッとするわね、この新技」

 

「……護法五神が目を回している」

 

美空の後ろに控えていた松葉がツッコミを入れた。

猛スピードで地面に叩きつけられた護法五神が全員揃って気絶するという、いつもの2倍の仏罰が下りそうな光景がそこにはあった。

 

「しかも半数以上が大外れっすよ」

 

珍しく柘榴もツッコミを入れた。

何の意味も無く護法五神が叩きつけられ、何の意味も無くクレーターを作るという、2×2で、いつもの4倍の仏罰が下りそうな光景がそこにはあった。

 

「回転は加えたのか?」

 

「加えたわ、いつもの3倍の回転を加えて1200万パワーになるようにって」

 

「美空様、毘沙門天様が、その……上半身が地面にめり込んで、

バタ足みたいにもがいているんですけど、助けなくて大丈夫ですか」

 

犬子が恐る恐る美空に尋ねる。

きりもみ回転をしながら地面にめり込み、犬神家のような状態にさせられた毘沙門天の心境はいかなるものか……2×2×3で、いつもの12倍の仏罰が下りそうな光景がそこにはあった。

 

「あんまり連発はできそうもないわね、この新技」

 

「神様ニ敬意、アッタ方、良イゾ。

 神様ニ喧嘩売ル気ノオレガ言ッテ良イ事カ、分カランガ」

 

「分かった分かったわよ! 封印するわよこの新技!」

 

毘沙門天達が怒って殴りかかってこないだけ有情である。

 

「まあ、それはそれとして……突入っすぅーーーっ!!」

 

「何だっていい! 神道無念流を振るうチャンスだ!」

 

「柘榴様! 九十郎! いきなり飛ばし過ぎだよぉっ!!」

 

馬鹿2名と前田利家が葛尾城に突撃する。

 

「あ、ちょっと、一番死なれちゃ困る奴が一番先頭を走るんじゃないわよ!

 松葉追うわよ、最悪張り倒してでも止めなさい!」

 

美空と松葉がそれを追う。

そして……

 

……

 

…………

 

………………

 

「……御大将、鬼どころか、人っ子一人見つからないっす」

 

その日の夜、1日かけて葛尾城周辺を走り回った柘榴が疲れ切った表情でそう報告をした。

 

「義清、私に何か言うべき事は無い?」

 

「お、おかしいですね……私が最後に見た時は、凄い数の鬼が居たのですけれど……」

 

村上義清は正座したまま、冷や汗を滝のように流して視線を逸らす。

 

「貴女が嘘を言ったとは思っていないわよ。

 城内にも周辺の村にも人が居ないなんて異常な事、そうそう起きはしないわ」

 

「刀傷、銃痕、折れた柱、壁の穴、血痕、精液の匂い……何かがあった事は確実。

 傷の新しさと臭いの強さ……そう昔の事ではない」

 

美空と共に城内を確認して回った松葉がそう告げる。

 

「問題は、この惨劇を引き起こしたのが鬼なのか、それとも人間か……

 武田辺りがやった事なのかが分からないって事よね」

 

「武田と言えば、駿河に軟禁されていた武田信虎が行方を眩ましたって報告、来てたっすね」

 

「ああ、光璃に背かれて領地からたたき出されたアレの事?

 流石に関わってはいないと思うけれど……

 ねえ義清、貴女本当に鬼を見たの?

 野生動物を見て勘違いをしたとか、その辺の山賊が妙な仮装でもしていたとか……」

 

「確かに見ました! 私の目の前で家臣達が鬼に変わったのです!

 あの黒装束の異人が持って来た奇妙な丸薬を飲んで……」

 

「……信憑性が無い」

 

必死の弁明を松葉がバッサリと切り捨てる。

 

「喧嘩売ってんのかこらぁーっ!」

 

義清が松葉に食って掛かる。

 

「それにしてもこの時代、随分とサイキッカーが多いんだな」

 

「さいきっか……何それ? 外人? 歌?」

 

九十郎の呟きに美空が反応する。

 

「九十郎、横文字は通じないって」

 

「分かってるよ、サイキッカーってのは……説明しようとすると難しいな。

 つまり念的な何かで超常現象を引き起こす才能がある人間の事だよ。

 さっきロッズ・フロム・ゴッドとか何とか叫んで城門をぶっ壊しただろ」

 

「ああ、御家流の事?」

 

「そうそう、俺は前の……

 ごほん、俺やセカンド幼馴染は昔から便宜上サイキッカーって呼んでる。

 確か柴田勝家とか、丹羽なんとかとか、滝川クリステルとかも使えたんだっけな」

 

「九十郎、たぶんそれは丹羽長秀様と、滝川一益の事だと思うよ」

 

九十郎は麦穂と雛に土下座して謝るべきである。

 

「実は柘榴も御家流、使えるっすよ」

 

柘榴がそう言ってふふ~んとたわわに実った胸を張る。

 

「マジかよ!? やっぱサイキッカーが多いな戦国時代は。

 人間追い詰められると新たな能力が開かれるとかそういう感じなのかな。

 宇宙に進出した人間がニュータイプになったみたいに」

 

「九十郎が前にいた時代にも、御家流を使ってた人がいたのかしら?」

 

「井伊の糞女と、俺のファースト幼馴染が使ってたな。

 人格と能力が反比例でもしてたのか、結構厄介な能力だったよ」

 

人格と能力が反比例するのなら、今頃九十郎は念力で山をも砕けるようになっている。

 

「チッ、警戒シタカ……」

 

そんな中で、虎松が常人離れした視力と聴力で周囲を探っていた。

彼女の能力をもってしても、屍食鬼……武田晴信や村上義清が鬼と呼ぶ怪異の姿を確認できていない。

 

「デキレバ、ココデ削レルダケ、削リタカッタガ……」

 

虎松がため息をつくが、どうしようもない。

 

平行世界の虎松と対話する能力は確かに便利であるが、気力と体力の消耗が激しく、対話をしている間は無防備になる上、既に絶命した虎松や、呑気に会話をしている状況ではない虎松からは何も聞き出せないという弱点もある。

 

葛尾城で屍食鬼に襲われ、揃って強姦、凌辱された世界の虎松は、こちらの世界の虎松に状況を伝えきる前にトドメを刺されたため、この世界との差異を十分に把握できていないのだ。

 

「しかし……あれだけいた鬼がどこへ行ったのか……

 少なく見ても1000はいたと思うのですが」

 

義清がそんな疑問を抱く。

 

「そんな数の丸薬、作るのも運ぶのも配るのも一苦労じゃないの?」

 

「丸薬の数は100です。

 ただ……良く分からないのですが、気が付いたら増えたと言いますか……」

 

「何故増えたのかも分からない、どこに消えたのかも分からないと」

 

「はい……」

 

まるで大型台風でも過ぎたかのようにボロボロになった葛尾城を見回し、

美空と義清はため息をつく。

 

「まあ……今は考えても仕方が無いわね。

 今夜はここに泊まらせてもらって、明日周囲を調べましょう。

 鬼はどうなったのか、領民が無事なのか、色々と気にかかるもの」

 

「物見を放つっすか?」

 

「いえ……下手に分散はせず、大物見でいきましょう」

 

「時間かかるっすよ」

 

「葛尾城の確保ができたなら、急ぐ理由はもうあまりないのよ。

 首尾良く武田が出てくる前のようだし」

 

「ラジャーっす」

 

「御意」

 

柘榴と松葉が連れてきた兵達に明日の予定を伝えに行く。

こうして長尾家御一行の葛尾城奪還作戦は何の面白みも無く終わった。

虎松……こちらの世界の虎松が懸念した、鬼の襲撃は起きなかった。

犬子と柘榴、美空や松葉が鬼に敗れ、凌辱され、児を孕まされる事も無かった。

 

しかし……

 

「全く……駿河を鬼で埋め尽くせと言ったかと思えば、

 やはり越後の長尾景虎をやれと言い、葛尾城に向かう景虎を襲えと言ったかと思えば、

 やはり止めにしろと言い……随分と指示の変更が多い御方だ」

 

1000以上の鬼を従えた鬼……いや、人間が葛尾城を眺めながらそう呟いた。

葛尾城に鬼をしこたま詰め込み、ノコノコとやって来た所を襲撃する作戦は、鬼の力を……あらゆる人間を蹂躙する力と引き換えに、彼女を従えたある人物の指示により、急遽中止になった。

 

彼女の名は武田信虎。

美空達が凌辱された別の世界では、さらなる力を求め、美空達の目の前で鬼へと変貌した信虎であったが、こちらの世界ではまだ人間のままだ。

 

「ドライゼとハーバー・ボッシュがそれ程恐ろしいか……

 どんな代物かは知らんが、鬼の力と言うのも案外大したものでは無いのか……」

 

信虎は今迷っていた、考えあぐねていた。

あの御方……吉野の御方が言う、鬼の力が人間を遥かに超越するものだという事は理解している。

しかし、『ドライゼ』だの『ハーバー・ボッシュ』とかいう良く分からない物を怖がり、何度も何度も作戦変更を強いられる程度の力でしかないのではないかと……

 

「我が欲するのは最強の力だ。 何者であろうとも恐れる必要が無い、

 何者に対しても媚びる必要の無い、誰にも何も奪われぬ、逃げる事も無い最強の力だ。

 ドライゼやハーバー・ボッシュを恐れて逃げ回るような力では……な……」

 

そう言って信虎は、薬篭に入っている丸薬を見つめる。

吉野が自らしつらえた特別製の物……人としての思考を喪う事無く、鬼の能力だけを引き出せる丸薬、信虎が欲した力を得るための片道切符である。

 

それを信虎は……飲めなかった。

鬼の力に疑問を抱いたからだ。

 

それを信虎は……鬼となる選択肢を完全には捨てられなかった。

それでもなお、強大な力を欲しているからだ。

人間を遥かに超越する力を欲しているからだ。

 

「さあ、どうするか……」

 

こちらの世界の信虎は今、迷っていた。

その迷いが、信虎をどう行動させるのか……それが分かるのは、もう少し後の話である。

 


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