戦国†恋姫X 犬子と九十郎   作:シベリア!

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前話、おまけ9にはR-18描写がありますので、エロ回に投稿しています。
おまけ9URL「https://syosetu.org/novel/107215/67.html

pixivにも同じ内容の作品を投稿しています。

次の更新で最後です。



犬子と柘榴と一二三と九十郎おまけ10『省略された幕間シリーズ・一二三の場合(後編)』

 

一二三のボーナス改竄(未遂)事件とコンドームに穴あけ事件(既遂)から暫しの時が流れる。

 

美空や柘榴達がいる世界で共産主義革命軍が蜂起し、孔明と九十郎が異世界を繋ぐポータルに半ば無理矢理飛び込んだ(最終回)。

そして柳宮十兵衛が大江戸学園の美女剣士達を集め、対天草四郎のための協力を募り……九十郎以外の男、もといふたなり魔人に抱かれるのを嫌がった犬子が逃げた日(おまけ6)、犬子と雫と一二三が密かに結託し、柳宮十兵衛達が負けた時に備えての籠城戦の準備を始めた日(おまけ8)から約3ヶ月後のことである。

 

「勉強が身に入らなぁいっ!!」

 

「何でこんな時まで試験勉強しなきゃいけないんだぜっ!!」

 

犬子と粉雪の割と切実な叫び声が女子寮に響き渡る。

 

「泣いても笑っても来週の試験は無くなりませんよ。

 また赤点を取らないように対策あるのみです」

 

雫がため息をつきながら授業中に取ったノートと問題集を机に並べる。

 

おばけには試験も何にも無いが、大江戸学園には試験がある。

大小さまざまな理不尽がまかり通る奇妙な学園ではあるものの、なんやかんやで『超』のつくエリート校であり、毎年毎年入学志願者が絶えず、無事に卒業すれば社会的な成功が約束される学園である。

 

クソみたいな要素がこれでもかってくらいにあるくせに入学志願者は多い所も大江戸学園の恐ろしい所である。

 

さておき、そんな超エリート校なだけあって授業の進行は速く、内容は難解で、試験も厳しく採点される。

 

犬子は前田利家で、粉雪は山県昌景だ。地頭は決して悪くない。

しかしそれでも、戦国時代に生まれ育ち、基礎的な科学や数学、教養に大きなハンデがある点は否めず、赤点、補習、そして追試の連続になってしまっていた。

 

一緒に入学した黒田官兵衛こと雫ですら赤点ギリギリの科目がいくつもある。

だから犬子と粉雪、雫の3人は放課後に女子寮や図書館等に集まり、互いに勉強を教え合って留年回避に努めているのだ。

 

「やっほ~、差し入れ持ってきたよ~。 いやぁ、今日も精が出るねぇ」

 

そんな3人の元に、呑気な顔した一二三がチョコ最中の袋を持ってくる。

毎回毎回必死こいて赤点回避をしている3人と違い、一二三は特に努力する様子も無く常に平均点に近い成績を収めている。

 

「糖分! 糖分をくれなんだぜ! もう頭を使いすぎて脳が糖分を欲しているんだぜ!」

 

「はいはい、全員分買って来たから慌てない慌てない」

 

「いつもすみません、ご馳走になります」

 

「気にしない、気にしない」

 

「……結構頻繁に差し入れてくれるけど、お金足りてるの?

 一二三ってアルバイトとかそんなにしてないよね?」

 

犬子が差し入れのチョコ最中を口にしながらちょっとした疑問を投げかける。

大江戸学園では、学園内でのみ通用する通貨『エン』によって大体の物は購入できる……というか、食料や生活必需品を含めてありとあらゆるものを『エン』で購入しなければならないため、生徒達は普段の授業とは別に何かしらの労働をして『エン』を稼がなければならない。

 

勉強時間を多く確保するため、アルバイトは最小限にする必要がある犬子達は、物凄い節制生活を続ける事でギリギリ生活を成り立たせている。

そしてドケチで有名な前田利家こと犬子や、倹約家で知られる黒田官兵衛こと雫はこの節制生活に難なく対応しているものの、割と良い家の生まれで倹約慣れもしていない山県昌景こと粉雪は結構苦戦していた。

 

……が、一二三に関しては倹約生活もアルバイト三昧もしていない様子だったので、犬子は疑問に思ったのだ。

 

「……それはまあ、M資金だね」

 

一二三は犬子の疑念を誤魔化した。

 

実際の所、試験の殆ど全部を教師との裏取引やカンニングで乗り越えている一二三だ、金稼ぎでも当然のように不正かつ不法な手段を連発している。

 

もっとも、大江戸学園では不法を働くのも取り締まるのも生徒である。

北町、南町奉行所や火付盗賊改方の生徒が見つけられなかった不法行為は、大江戸学園では全くの合法……要するに大江戸学園ではバレなきゃ犯罪じゃないのである。

 

こんな恐ろしい不文律が普通にまかり通っているのが大江戸学園の笑える所である。

 

「はいこの話やめましょう! 勉強、勉強! 学生の本分は勉強ですよ!」

 

そしてもう一つ、雫は一二三が危うい橋を渡りまくっていると薄々感づいていた。

だからこういう方向に話が行きそうになると、巻き込まれてたまるかとばかりに話を逸らそうとするのである。

 

「雫がそう言うなら良いけどさぁ……」

 

「良いじゃないですかM資金での何でも。

 誰だって他人には秘密にしたい儲け話の一つや二つありますよ。

 私も最近、目薬を作って売ったりしてますから」

 

「あれ? 雫って目薬なんて作れたの?」

 

「私の家、元は薬屋なんですよ。

 戦国時代の目薬なんて大した効き目なんてないんですけど、

 黒田官兵衛のネームバリューもあってそれなりに売れています。

 玲珠膏を塗れば眼が冴える、眼が冴えれば頭も冴えるって」

 

「え、本当? だったら犬子にも使わせてよ」

 

「あ、誇大広告ですから信じないでくださいね」

 

なお、大江戸学園には景品表示法も消費者契約法も存在しない。

 

「そういう金に繋がる逸話がある奴が羨ましいんだぜ。

 山県昌景にはそういうの無いから、コンビニでレジ打ってるんだぜ」

 

「アレは大変だよねぇ……拘束時間長いし、覚える事多いし、シフトが不規則だし」

 

「ある所から借りちゃえば? どうせ卒業までの短い付き合いなんだし、

 やろうと思えば踏み倒せるでしょ」

 

「悪事の片棒を担がされるから嫌」

 

「色街に叩きこまれるのは簡便なんだぜ」

 

犬子と粉雪がそれぞれ一二三の提案を却下する。

 

大江戸学園の借金取達も踏み倒しのリスクはしっかりと認識しており、債務者が借金を普通に返すのを何もせずに待っているのは少数派だ。

彼らあるいは彼女らに弱みを握られ、肉体的にキツイ仕事をやらさせるのはまだマシな方、犯罪の手伝いをさせられる、エロ動画に出演させられる、果てはいわゆるセックス産業の店で強制労働までありうるのが大江戸学園の日常である。

 

学園という言葉に真っ向から喧嘩を売ってるような状況が頻発する所が、大江戸学園の恐ろしい所である。

 

何にせよ、九十郎の妻である犬子、九十郎という婚約者がいる粉雪にとって、大江戸学園の借金取り達は近づきたくない存在なのだ。

 

「さあさあ、皆さんそろそろ勉強に戻りましょう。

 今日の授業の範囲の復習も、次の試験の対策もまだ途上なのですから」

 

「は~い」

 

「雫ぅ~、愚かなあたいを助けてくれなんだぜ~。

 ここの微分法ってのが全然分かんねぇんだぜ~」

 

「ええっと、微分法、微分法……

 私も完全に理解しているとは言い難いのですが……要するにですね……」

 

そうして犬子達3人はそれぞれ分からない所を教え合いながら試験対策に勤しんでいた。

 

「さぁ~て、それじゃこっちも進められる範囲で進めますか」

 

一方、ハナッからまともな手段で試験を突破する気が一切無い一二三は教科書や問題集に触れようともしない。

この世界で手に入れたノートパソコンを開くと、なにやらカタカタとタイピングを始めた。

 

「ふんふ~ん、ふふ~んふ~ん、猫のふ~ん」

 

苦しそうに教科書と睨めっこを続ける犬子達を尻目に、一二三は鼻歌交じりで楽しそうに何かをしていた。

そしてしばらくの間は苦しむ犬子達、楽しそうな一二三という場面が続いた。

犬子達は邪魔するなら帰れと言いたい表情だったが、ついさっきお菓子の差し入れを受け取った手前、口には出せずに勉学を続ける。

 

「一二三、さっきから何やってるの?」

 

……ふと、犬子がそんな疑問を投げかける。

 

「ああ、これ? 何だと思う?」

 

「……もしかして、天草四郎対策の続きだったりする?」

 

犬子は少し考え込み、そう答える。

 

天草四郎対策というのは、犬子が提案し、雫と一二三が参加している裏工作で、柳宮十兵衛達が天草四郎に負けた場合に備え、避難や態勢の立て直しを図るための拠点を(大江戸学園生徒会には内緒で)準備するというものだ(おまけ7、おまけ8)。

一二三が僅かな時間を惜しんで人助けに注力するような性格じゃないような気もしたが、他には特に何も思い浮かばなかったので、半ば当てずっぽうの気持ちで犬子は答えた。

 

「いいや、残念ながらそれじゃない。 まあ、あっちは7~8割終わってるからね。

 天草四郎がいつ襲ってくるか知らないけれど、

 明日か明後日かという事でも無ければ十分間に合うよ」

 

「天草四郎対策って何なんだぜ?

 犬子、アレとの戦いは参加したくないって言ってただろ(おまけ6)」

 

「何って、粉雪が負けた時の備えだけど」

 

「え? あたいら負けるって思われてたのか」

 

「そうは言わないけど、万一は考えとこうよって事。

 魔人ってお〇んちんみたいなのがくっついてて、

 しかも超能力を使ったら性欲が増すんでしょ。

 負けたら絶対に悲惨な事になるだろうから、今の内に逃げ込める場所を作ってるの」

 

「わ、犬子……あたいらのために……」

 

ちょっと薄情だなと思っていた友人の思わぬ援護に、粉雪は感動の涙を流す。

 

「まあ、犬子達が巻き込まれないようにするのが主目的だけど」

 

「そのためにオーディンとの戦いで使われなかった、

 バリアーマシンや銃火器を無断持ち出しをしてるけれどね」

 

「いくら学園の平穏のためとはいえ、ちょっと心配になる位に法を犯していますよね」

 

「良し、あたいは何も聞かなかった。 バレても共犯にはしないでくれなんだぜ」

 

粉雪の涙は一瞬で引っ込んだ。

 

そして犬子達3人は試験対策に戻り、一二三は鼻歌交じりでタイピングを再開した。

犬子達は邪魔するなら帰れと言いたい表情だったが、ついさっきお菓子の差し入れを受け取った手前、口には出せずに勉学を続ける。

 

「……そもそも、もうすぐ天草四郎がこの学園で暴れ出すって分かってるのに、

 どうして授業も試験も免除されねぇんだぜ」

 

粉雪が愚痴交じりにそんな疑問を呈する。

 

「共産主義革命軍とかが出てきて戦国時代では美空様が危ないのに、

 九十郎はあっちで苦しんでるかもしれないのにポータルは故障中。

 こんな状態で勉強しろって言われても身に入らないよね、正直さ」

 

犬子も不機嫌そうに教科書を睨みながらそう呟く。

 

「気にしていても仕方がありません。 九十郎さんは次元の壁を隔てた異世界ですから、

 ポータルが動かなければ何もできません。

 代わりのポータルをあちら側に送れるようになるまで時間がかかるとの事ですし、

 異世界と繋げやすい時期、繋げにくい時期というのもあると聞きます。

 いざという時にしっかりと動けるように、今は授業について行く事に集中しましょう」

 

「雫の言う事は正しいよ、正しいけどさぁ……」

 

「感情が納得できねぇぜ……」

 

犬子と粉雪がはぁっとため息をついた。

 

そして犬子達3人は試験対策に戻り、一二三は鼻歌交じりでタイピングを再開した。

犬子達は邪魔するなら帰れと言いたい表情だったが、ついさっきお菓子の差し入れを受け取った手前、口には出せずに勉学を続ける。

 

「……で、一二三は結局何をやってるの?」

 

「あ、やっぱ気になる?」

 

「悪巧みの準備だったりする? それなら聞かないけど」

 

「悪巧みじゃないさ、むしろ九十郎のためになる事だとも」

 

「おおっ、珍しく一二三が人様の役に立つ事をするのぜ?」

 

「珍しいとは心外だなぁ。

 私はいつだって世のため人のため、寝る間も惜しんで、身を粉にして……」

 

「嘘だ」

「嘘だぜ」

「騙されませんよ」

 

犬子達3人が口を揃えて一二三の白々しい台詞を否定した。

 

「まぁ、ちょ~~っとばかし利己的な部分もあるかもしれないけれど、

 九十郎が好きだって気持ちはあるとも、それなりにね」

 

「はいはい、それで結局何をやってたの?」

 

「では見たまえ、世の中をアッと言わせる真田昌幸必勝の策を」

 

そう言うと一二三はノートパソコンをクルッと反転させ、画面を犬子達の方へ向けた。

 

「え……? 何これ? 小説? 台本?」

 

「犬子と九十郎の会話……みたいだぜ?」

 

「あ、本当だ。 言われてみればこういう場面あったなぁ。

 前に話したんだよね、一二三と会う前にこんな事があったんだよって」

 

「え、それはちょっと興味ありますね」

 

「後で雫にも教えてあげるよ。

 それより、犬子の思い出話を文章にしてるみたいだけど、

 これが九十郎に何の関係があるの?」

 

「これが九十郎のためになるのか?」

 

「九十郎は以前から何度も言ってるだろう。 自分みたいな名も無い一般人が、

 前田利家とか上杉謙信みたいなビッグネームと愛し合っても良いのだろうかって」

 

「うん、今でも時々言うね」

 

「私達は気にしなくても良いと思うのですけどね」

 

「雫はお嫁さんでも恋人でも無いでしょ」

 

「今はそうですけど! 好きって伝えても全然相手にしてくれてませんけど!

 いつかきっと……きっと……」

 

「あ……し、雫、個人的には応援してるぜ」

 

「ありがとうございます粉雪さん。 ええ、諦めませんとも。 私は黒田官兵衛です。

 黒田官兵衛はどんな窮地もしぶとく生き延びて、最後の最後まで決して諦めませんから」

 

「犬子は、これ以上お嫁さんが増えるの嬉しくないんだけどね……

 犬子を愛してもらえる時間が減ってしまうから。 あっ、何か急に心配になってきた。

 九十郎あっちの世界でお嫁さん増やしてないかなぁ……」

 

ネタバレ・増やします。

 

「でも……こうやって昔の話を思い返せるようにするのは、ちょっと良いかもね」

 

「そうだろう、そうだろう、これ完成したら世間に公開するからそのつもりでね」

 

「……え?」

 

「……なんだぜ?」

 

「……これ、を?」

 

瞬間、犬子達3人が硬直する。

そして争うようにマウスを握り、急いで一二三が書いた文章に目を通す。

 

「ちょ、ちょっと待って! 公開するの!? これを!?」

 

「あたいが鬼に犯された話とか(第104話)、

 犬子が剣丞に抱かれた話とか(第74話)思いっ切り書いてあるんだぜっ!!

 しかもやたらと煽情的にっ!!」

 

「あわわっ!?

 私が九十郎さんに裸で迫った時の事も書いてあるぅっ!?(第114話、115話)」

 

「私は思うんだよ。 九十郎があっちの世界に転生した事で、あの時代に、

 あの世界の日ノ本に与えた影響は決して小さくないと。

 だからルイス・フロイスの『日本記』のように、太田牛一の『信長公記』のように、

 九十郎が何を想い、どんな行動をしたかを記録して後世に残せば、

 何十年、いや何百年もすれば前田利家や上杉謙信にも匹敵する有名人になる!」

 

「そうかもしれないですけどっ! そうかもしれないですけどっ!

 せめて私の失言癖はもっと割り引いて書いてくださいよぉっ!!

 ああ! 蘭丸戦の時の失言(172話)も書いてあるっ!?」

 

「雫はまだ良いよ! 犬子達は洗脳されて、誰とも分からない男に抱かれるわ、

 イカされるわ、全裸で土下座までさせられたんだよ!(第168話)」

 

「いや待て……この文書、よく見たらやたらと九十郎に辛辣なんだぜ。

 『だから貴様は九十郎なのだ』って言葉、もう何回出てきたか分からねぇぜ」

 

「ああ、それね、そこは『でもそこが好き、私の愛しい旦那様』って書きたかった所。

 そんな事を書いたら流石に公平さとか信憑性とか疑われると思って、

 一括変換で『だから貴様は九十郎なのだ』に変えといたんだよ」

 

「気にするとこそこなの!?」

 

「もっと別に気にすべきところあるんだぜっ!!」

 

「ああ! 蘭丸との戦いからオーディンとの戦いまでが省略されてますっ!?」

 

「ええっ!? アレ削っちゃうの!?」

 

「だってだって~呂布とかロキとかに振り回されて、良いトコ全然無かったんだモン」

 

「『モン』じゃないよ! 可愛く言っても可愛く無いよ!」

 

「おいおい、真田兄弟の事件(第120話)も数行で終わってるんだぜ……」

 

「え、あの甲斐の国を震撼させた事件がたった数行で……?」

 

「あの事件、もっとドロドロして、グチャグチャして、

 おまけにグダグダだったんだぜ……」

 

要するに名探偵のいない金〇一少年の事件簿風の連続密室猟奇殺人事件(謎の怪人に襲われた風の演出つき)である。

 

「どうやってあの大事件を数行で……ええっと……

 意訳『ブチ殺しました』と……え、何ですかこれ?」

 

「あの事件の犯人はお前だったのかだぜ!?」

 

「もう時効でしょ」

 

2010年の刑事訴訟法の改正により、殺人の公訴時効は廃止されている。

 

「母親と姉2人をあんな猟奇的に殺したのかよお前……

 ちょ、ちょっと怖くなってきたんだぜ」

 

「おかげで今は武藤ではなく真田です。

 お屋形様に死んでいただくには、真田家で抱えてる忍者がどうしても必要だっからさ。

 つい殺っちゃったんだぜ、ごめんねだぜ、今は反省してるのだぜ」

 

「他人の口癖をパクんなぁっ!!」

 

「一二三が犯人だったならさ、犯行の種明かしとかは書かないの?」

 

「もう一回使うかもしれないから書かない」

 

「おいやめろ! 本気でやめるんだぜっ!

 もうあんな悲惨で凄惨な事件は二度と勘弁なんだぜっ!!」

 

かつて一二三が施したホラー演出は、死体慣れしている粉雪ですら震え上がる程の出来だったようだ。

 

「まあこの際、一二三が自分の醜聞に繋がる所を書いてないのには目を瞑るよ」

 

「歴史書というより創作小説のようになっているのにも目を瞑りましょう」

 

「こんなのが世に出たら九十郎の評価がどうなるか、全然想像つかないのも良しとするぜ」

 

犬子達はもうどうにでもな~れという気持ちでパソコン上に展開されたファイルを閉じていく。

そして九十郎の伝記がまとめられたフォルダに……伝記のタイトルに気がついた。

 

「犬子と九十郎……?」

 

「ああ、それ? 何年か前に放送されてた大河ドラマに引っ掛けてみた。 どうかな?」

 

「どうかなって……まぁ、悪くは無いけど……」

 

ちょっと不機嫌そうだった犬子の表情がいくらか和らぐ。

一二三は内心『チョロいな』と思っているが、表情には出さない。

 

「いや、でも九十郎の正妻は柘榴でしょ。 柘榴の名前で出した方が良いんじゃない?」

 

「じゃあ『犬子と柘榴と九十郎』にしよう」

 

一二三がカタカタとキーボードを叩き、フォルダ名を変更した。

 

「一二三の名前は入れなくても良いの? 一二三も九十郎のお嫁さんじゃない」

 

「おや、そうかい? では『犬子と柘榴と一二三と九十郎』にしようか」

 

一二三がカタカタとキーボードを叩き、フォルダ名を変更した。

 

「ちょっと待ったぁ! だったらあたいの名前を入れるべきだぜっ!

 今はまだ九十郎の嫁じゃないけど、卒業と同時に結婚する約束をした婚約者なんだぜ!」

 

「それでは『犬子と柘榴と一二三と粉雪と九十郎』と……」

 

一二三がカタカタとキーボードを叩き、フォルダ名を変更した。

 

「だったら美空様も入れない? 九十郎の事が好きだって何度か言ってたし、

 たぶん九十郎も……うん、九十郎も美空様の事が好きだと思ってるよ、きっと」

 

「ならば『犬子と柘榴と一二三と粉雪と美空と九十郎』だね」

 

一二三がカタカタとキーボードを叩き、フォルダ名を変更した。

 

「あ、あのぅ……できれば私の名前も……」

 

「雫は恋人でも何でもないでしょ」

「雫は恋人でも何でもないだろう」

 

犬子と一二三に即座に否定され、雫はがっくりと崩れ落ちた。

 

「ええ、そうですね……ええ、そうですとも……

 いつか絶対に想いを遂げて見せますから、ううぅ……」

 

「し、雫、その……何だ……あたいは応援してるからな、雫の事」

 

そして新しくつけられた題名『犬子と柘榴と一二三と粉雪と美空と九十郎』の文字をまじまじと見つめて、犬子と一二三は顔を見合わせる。

 

「……ねぇ、一二三」

 

「……そうだね、犬子」

 

犬子と一二三……九十郎を想い、九十郎に想われる2人の嫁が、この時確かに通じ合った。

 

 

 

 

 

「長すぎるから減らそう」

「長すぎるから削ろうか」

 

 

 

 

 

こうして九十郎の伝記の題名は『犬子と柘榴と一二三と九十郎』になった。

 

孔明と九十郎が戦国時代での大冒険を終え、修繕されたポータルにより帰還するのは、それからもう少し後のことである。

また、天草四郎が6人の魔人と共に大江戸学園に舞い戻り、学園全体を巻き込んだ大騒動を引き起こすのであるが……それもまた別のお話である。

 

 


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