戦国†恋姫X 犬子と九十郎   作:シベリア!

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前話、おまけ5にはR-18描写がありますので、エロ回に投稿しています。
おまけ5URL「https://syosetu.org/novel/107215/65.html



犬子と柘榴と一二三と九十郎おまけ6『省略された幕間シリーズ・天草四郎の場合』

 

時は少し遡る。

 

これは蘭丸との戦いが終わり、九十郎達がオーディンとの戦いの準備に奔走していた頃の事……テンポが悪くなるため省略された出来事である。

 

蘭丸との戦いが終わり、北条家勢力範囲の強行突破、江戸城にポータル設置からの大江戸学園への転移も終わり、対オーディン戦の準備が始まった。

 

さて、約一ヶ月にも及ぶ対オーディン戦の……ヴァルハラ宮殿殴り込み作戦の準備は、3つの異世界で同時並行にて行われていた。

 

第一に戦国時代……犬子や美空達が生まれ育った世界では、北条早雲と呼ばれた者にして、大江戸学園創始者たる徳河早雲でもある人物の力を借りての北条家の説得と合流があった。

 

第二に現代日本……新田剣丞や本郷一刀が生まれ育った世界では、後漢末期(通称三国時代)の英雄・英傑達との合流、そしてそれを阻まんとするオーディンの手勢との戦闘があった。

 

第三に現代ニホン……大江戸学園が存在し、九十郎や秋月八雲が生まれ育った世界では、対魔法防御バリア、アンチ神話生物ビーム、超巨大異世界転移ポータル等の設置による大江戸学園の要塞化があった。

 

第一の作戦、戦国時代での北条家の説得と合流作戦は、新田剣丞とその嫁達が中心となって実行された。

第二の作戦、現代日本での後漢末期の英雄・英傑達との合流作戦は、斎藤九十郎とその嫁達が中心となって実行された。

第三の作戦、現代ニホンでの大江戸学園要塞化作戦は、秋月八雲とその恋人達が中心となって実行された。

 

「いや配置逆だろっ!? 何で俺が剣丞の叔母さん叔父さん迎えに行く役割なんだよ!?

 剣丞にやらせろよぉっ!」

 

……との意見もあったが、ほぼ間違いなく協力的であろう後漢末期の英雄・英傑達との合流よりも、北条家の面々を説得して兵力を引き出す方が明らかに高難易度のため、このような役割分担になった。

 

もっとも、後漢末期の英雄・英傑達との合流を妨害しようとオーディンの手勢が差し向けられ、戦闘になり、呂布が裏切ったり真田昌幸が裏切ったり呂布が裏切ったり孔明が事故に見せかけて魏延を殺そうとしたり呂布が裏切ったり真田昌幸が裏切ったりロキが裏切ったり呂布が裏切ったりして色々大変だったため、結果として九十郎の仕事が最も苦労が多く難易度も高かった事は付言しておこう。

 

「……結局あの人、なんで4回も裏切った挙句最後だけしれっと味方ヅラしてたんだろ」

 

「痴話喧嘩だってよ」

 

「じゃあ、朱里さんが焔耶さんを消そうとした理由は?」

 

「え、事故じゃねぇの? 諸葛亮だってたまにはミスるだろ」

 

「アレを事故と言い張るのは無理があると思うけどなぁ……」

 

犬子と九十郎は何度も死ぬような目に遭って、オセロのように裏切りまくる味方やしれっと味方を亡き者にしようとする軍師に振り回されっぱなしだった事も付言しておこう。

呂布に同調して裏切ったは良いが数分も経たずに梯子を外された一二三もだいぶ苦労した方である。

 

さて、そんなどったんばったん大騒ぎをしている中で、天草四郎と本多忠勝・通称どこで何をしていたかと言うと……

 

……

 

…………

 

………………

 

「大江戸学園甲級二年天草白江! 芸名はジェロニモ!

 年齢だけは三年だけど出席日数不足留年したから甲級二年、クラスは現在調整中!

 よろしくねーーっ!!」

 

「助っ人外国人の本多忠勝! 通称は綾那なのです!

 大江戸学園の危機を聞いてやって来たのです!」

 

……ヴァルハラ宮殿殴り込み作戦開始直前の大江戸学園に、2人の少女達が元気良く自己紹介をしている。

 

そう、尺の関係で省略されていたが、天草四郎と本田忠勝の2人はヴァルハラ宮殿殴り込み作戦に思い切り参加していたのだ。

 

「えっと……何か角が生えてるけど、貴女は綾那……なのよね?」

 

「魔人忠勝なのです、葵さま!」

 

綾那がビシッと敬礼する。

額には鹿に似た角が2本生えていた。

 

戦国時代の礼儀作法とは180度ズレたその振る舞いを見て、葵は思わずしかめっ面になった。

 

「それで貴女は……えっと、天草……」

 

「あ、本名嫌いなんで、ジェロニモって呼んでね。 それか天草四郎で」

 

「天草四郎……たしかこちらの歴史書では、

 島原の乱とかいう事件の首謀者だったかしら?」

 

「そうそう、何を隠そう天草四郎の生まれ変わりです。

 北条早雲って人が……いや、徳河早雲だったっけ?

 オーディンから保護するために過去の偉人の生まれ変わりを学園に集めてたって、

 驚いたよね、ホント」

 

葵の表情がますます険しくなっていく。

いまから神に喧嘩を売ろうって時に、こんな訳の分からない連中の相手は正直したくない。

 

「あ、ちなみにあっちの世界の天草四郎はもう居ない。

 最初にこっちの世界からあっちの世界に飛んだ時に、あっちの世界の天草四郎の魂と、

 天草四郎と同じ魂を持つボクとで引っ張り合わせたんだ。

 それで魂と魂がゴッチンコして、肉体も融合しちゃって、

 今のボクはピ〇コロとネ〇ルみたいに混ざり合っているんだ」

 

「引っ張り合わせって……どうしてそんなあからさまに危険な真似をしたの?」

 

「そりゃあ、当時完成していた次元間転移マシンの性能が低かったからだよ。

 肉体のほぼ全部を切り捨てて、ギリギリ魂の器になる程度まで小さくなって、

 さらに並行異世界の同一人物との共鳴現象を起こして、

 ここまでやってようやく跳べますってヤツだったんだよ。

 魔人化してないと肉体の大部分を破棄した時点で死ぬから、

 実質魔人専用のマシンだったね、アレは。

 あっちの世界の天草四郎さんを事実上消滅させたのは悪い事したな~と思うけど、

 まあ、こっちも柳宮十兵衛に斬り殺される寸前だったから、

 たぶん緊急避難(刑法37条1項)かな」

 

「……あらそう、それは大変ね」

 

葵は目の前の素敵生物との話を打ち切ってブン殴ってしまおうかと迷い始めた。

あっちの世界というのが戦国時代、葵たちが生きていた世界で、こっちの世界というのが大江戸学園のある世界という事までは辛うじて理解できたが、それ以外の所はチンプンカンプンである。

 

「しかぁしっ! 天草四郎と私ことジェロニモちゃんが合体してパワーアップ!

 かつては柳宮十兵衛に手も足も出なかったボクだけど、

 いまなら百回やって1回か2回くらいは勝てるかも!」

 

「全然駄目じゃない」

 

「まあ、クッソ強いからね、柳宮十兵衛」

 

大江戸学園最強は誰かという話題になると真っ先に名前が挙がる武芸者である。

忍法・魔界転生により魔人となり、鬼子と同レベルの超能力を駆使できるようになったからといって、そう易々と勝てる相手ではないのだ。

 

「それで貴女達、何をしにここに来たのかしら?

 こっちは今からオーディンとの戦いに……」

 

「だから、その戦いに助太刀しようって事だよ」

 

「ふっふっふっ……ヒーローインタビューは綾那が貰うのですっ!!」

 

意外過ぎる回答、理解不能な回答に、葵は思わずズッコケそうになった。

 

天草四郎とかいう女は魔界転生とかいう人間を魔人に変える秘術を悪用し、こっちの世界でいう1年前に大きな騒乱を起こしたと聞いている。

あの地獄のような蘭丸戦のどさくさ紛れ、綾那を魔人に変えて連れ去ったとも聞いている(第170話、第172話)。

その天草四郎が何を考えてこっちに助太刀を……理解に苦しみ、真意が読めず、いっそ頭も痛くなってきた。

 

「綾那、貴女は……聞いても分からないかも知れないけれど、蘭丸の洗脳がまだ……」

 

「え、洗脳なんかされてねぇですよ」

 

綾那はキョトンとした表情で聞き返す。

織田軍、越軍、そして松平軍のほぼ全員を襲った洗脳であるが、綾那だけは剣魂に組み込まれた対サイキック防御装置によってその影響を排除している(第156話)。

 

「それじゃあ、こっちの天草四郎に何かされて、脅されているとか……」

 

敬愛する主君にそう問われて、綾那はちらっと天草四郎に視線をやる。

天草四郎は特に意味も無く『ウィッシュ!』とカッコつけポーズをとった。

 

「葵さま、アレにそんな事できそうですか?」

 

「ええ、無いわね。 あんな馬鹿そうなのに」

 

「馬鹿じゃないやいっ!!」

 

『超』がつく高偏差値校である大江戸学園の編入試験をパスし、売れっ子DJとして多忙な毎日を過ごしながら全科目で平均以上の成績を取っていた天草四郎、知能指数や要領の良さという点では上澄みと言って差し支えないだろう。

だがしかし、言動が馬鹿っぽいのは彼女の知り合い全員の共通認識である。

 

それはさておき、葵の想像した通り天草四郎に他人を洗脳する能力は無い。

使えるのは物理的な強度を無視した物体切断能力『忍法・髪切丸』と人間を魔人に変貌させる『忍法・魔界転生』、そして魔界転生を応用した肉体操作、体質変化である。

 

「………………」

 

葵が耐え難い頭痛に苦しみながら、眉間に皺を寄せてこめかみを抑えた。

 

葵がこの大一番のために集めた兵力は約8000名、今の三河松平家が揃えられる限界一歩手前の数と言っても過言ではない。

しかも葵にはオーディンを大江戸キャノンの射程圏内まで引っ張り出すという重大な役割が……神格の付与という上手くいく保証が一切無い大きな大きな賭けに出るという役割もあった。

 

有力な指揮官は増えた軍団の統率に、あるいは神格付与の儀式の準備に駆り出されており、ここにいるバカ2名の相手を代わってくれそうな人材は皆無であった。

 

「本当……本当に何なの……こっちは神格とやらを受け止める反動で、

 人として生きてきた記憶も、人格も喪われるかもって覚悟でここにいるのに……」

 

真剣に悩みまくっていたのが馬鹿らしくなり、何故か涙が零れ始めた。

 

「ああ、葵さまが泣いているのです!? 白江、なんとかするのです!」

 

「本名言うなし! こうなりゃ大江戸学園のディスコやクラブを

 ドッカンドッカン沸かせ続けたDJジェロニモちゃんの本領発揮の時っ!

 誰かターンテーブル! ボクのDJパワーを見せてやる!」

 

学生がディスコやクラブを経営している学校はニホン中を探しても大江戸学園だけである。

 

「た、たーん……てーぶ……?

 あの、∀〇ンダムならあるのですけど、これでいけるですか?」

 

「ボクは∀より鉄血のがテンション上がるねぇ」

 

いずれにせよ1/144スケールのガ〇プラではDJパワーは発揮できない事だけは確かである。

ただしDJパワーで葵の頭痛が収まるかは微妙というか、むしろ悪化しそうな所には綾那も天草四郎も気づいていない。

 

「あ、綾那!? いないと思ったらやっぱりこっちに!

 勝手に出歩いちゃ駄目でしょ、変な角が生えてるのだから!」

 

あまりのストレスで憤死寸前の葵の元に、ここで天の助けが現れる。

三河徳川家の家臣、勇猛な武人であり指揮官としても有能、現代ニホンの歴史書においては徳川四天王と称えられる少女、榊原康政・通称歌夜である。

 

「ああ、歌夜! 助けに来てくれ……って、『いないと思ったら?』

 貴女、まさかコイツらの事を知ってて黙ってたの?」

 

葵の目つきが急激に険しくなる。

 

腕っぷしは強く義理堅いが面倒臭く、主君殺し常習犯でもある三河武士の頭領のためか、幼少期の人質生活が人格形成に悪影響を与えたのか、葵は割と疑り深い性質だ

信用する部下であっても、それはそれとして裏切ってはないかとの疑念は捨てない。

 

「ち、違っ……知っていて黙っていたのではありません!

 私も昨日の夜遅くに急に来られて、混乱して……それと神格付与が……

 そう! 人の身でありながら神の力の一端を手に入れる重大な役目を担ってます、

 葵さまの御心を煩わせないように……えっと、ですね……」

 

急ごしらえ感満載の言い訳に、葵の疑念はどんどん強くなっていく。

 

「……貴女、今日は随分と髪が短いじゃないの。 失恋でもしたのかしら?」

 

「いえこれは切ったのではなく! 朝起きたら何故か短くなってまして!」

 

訳の分からない説明に、葵は何のこっちゃと首を傾げた。

 

「ああ、それね。 ボクの忍法・髪切丸は発動に触媒が必要だから提供してもらったの」

 

……と、ここで予想外の方向から助け舟が出る。

葵と歌夜を混乱と混沌の渦に叩き込んだ天草四郎が口を挟んだ。

 

「流石に対魔法防御バリアまでは抜けないけど、

 それ以外なら大体は豆腐みたいにスパスペきれる優れもの。

 刀よりも軽いし長い、しかも脳波コントロールできる。

 しかも手足を使わずにコントロールできるんだ、凄いでしょ?」

 

「能力は凄いと思います、ええ素晴らしいですとも。

 でも深夜に押しかけて有無を言わさず2人がかりで強姦した事へ何か一言は?」

 

「凄い気持ち良かった、アソコはキツキツだったね」

 

「肌もスベスベだったのです」

 

「こらっ! 大声でそんな事を言わないで! はしたないでしょっ!」

 

天草四郎と綾那が凄い良い笑顔で歌夜にサムズアップし、歌夜は顔を真っ赤にしている。

 

「え、何? 強姦? 貴女達2人共女でしょ? ナニを挿したってのよ?」

 

「そりゃナニさ」

 

「ナニです!」

 

天草四郎と綾那が下履きをばさっと引き下げる。

2人の生尻が露になり、歌夜が慌てて陣羽織を広げて周囲の視線から隠そうとする。

 

そして葵と歌夜の視線の先には、ぶらんと2本の男根が垂れ下がっていた。

 

「……ち、ち〇こ?」

 

「なのです!」

 

「何で自慢げなのよ綾那……」

 

「気に入ってるのです、取っちゃヤなのです」

 

「誰も盗らないわよそんなモノっ!!」

 

「魔人化の時に使った指が変化したものだよ、本物のち〇ちんじゃない。

 こうやって男根みたいな形になって、魔人の股座にくっつくんだ。

 完全に肉体と融合していて、

 血も神経も通ってるからお〇んこに挿れると凄く気持ち良い」

 

「しかも脳波コントロールできるのです!」

 

「うん、しれっと嘘教えないでね~、流石に脳波コントロールは無理だからね~」

 

「うわぁ……」

 

倫理観がブッ飛んでるのかと葵はげんなりとした表情だ。

 

この時点にでは誰も気づいていない事であるが、実は忍法・魔界転生には重大な弱点がある。

鬼子の如く強大な超能力が後天的に手に入るが、それと引き換えに良心の呵責と言うか、常識フィルターと言うか、そういった心のブレーキ的な何かが極度に効きにくくなってしまうのだ。

 

かつて森宗意軒は天草四郎を含めた7人の武芸者を魔人にし、柳宮十兵衛をあと一歩のところまで追いつめたものの、統制がロクで取れずにグダグダになり、柳宮十兵衛の卑怯殺法がクリーンヒットし、最終的に全員返り討ちにされたのにはこの弱点がモロに影響を及ぼしている。

 

「……で、結局貴女達何をしに来たの? 私達に喧嘩を売りに?」

 

「さっき言ったでしょ、助太刀だって」

 

「助っ人外国人、魔人本多忠勝なのです! ヒーローインタビューは貰うのです!」

 

葵は思った……コイツら帰ってくれないかなぁと。

 

「綾那、洗脳が無いのならどうしてコイツに従っているのかしら?

 フラフラとほっつき歩いていないで戻って来なさいっ!」

 

「え~、後で返すからもう少し貸してよ~。

 柳宮十兵衛にリベンジマッチ挑むんだからさ~」

 

「そんな事情は知ったこっちゃ無いわ! やりたいなら1人でやりなさい!

 綾那どうなの!? 帰るの、帰らないの!?」

 

「葵様、綾那はまだ戻る訳にはいかねーのですよ」

 

「じゃあ百歩譲って剣丞隊にでも行きなさい、貴女好きだったでしょ、新田剣丞の事」

 

「そりゃあ剣丞様は敬愛しているのです。

 ですけれど、敬愛しているからこそ、そう易々と戻る訳にもいかないのです」

 

「な、なんで……?」

 

「何故なら……」

 

 

 

 

 

「エッチの勝負で負けたからなのですっ!!」

 

 

 

 

 

綾那は力強くそう宣言し、歌夜と葵は揃ってズコ~っと倒れ込んだ。

 

「イエース、イエース、アイムウィナーってね」

 

天草四郎はドヤ顔でダブルピースをしている。

このバカらしさ、このアホ臭いノリこそが大江戸学園である。

 

「エッチの勝負って……え~っと、それはつまりこの間の……」

 

「アレ、なのね……蘭丸の……」

 

歌夜と葵の脳裏に嫌でも浮かぶのは、ほんの1ヶ月前の悪夢、地獄のような蘭丸戦である。

 

三河松平家の面々は剣丞隊のついでで洗脳され、犯され、蘭丸に支配された挙句、対越軍との戦いでは『足手まといだから先に帰ってて』と戦力外通告を出されてすごすごと引き下がっていた。

 

歌夜にとっても葵にとっても思い出したくない、屈辱的な記憶であった。

 

「あの、綾那……あの時の、その……先に達したら負けというのは、ね……」

 

「アレは森蘭丸が適当かつ一方的に決めたもので、

 今更従う必要は全く無いわ、分かっているの?」

 

「それでも、剣丞様が決めたしきたりなのですよ」

 

「……うん?」

 

葵は一瞬何を言っているのか理解できず、目頭を指で押さえた。

 

「ああ、そっか……そういう……何となく分かるかも……」

 

「分かるのっ!?」

 

そして綾那の謎理論に理解を示しかける歌夜にドン引きした。

 

「そりゃあ、あの仕組みはちょっと常識外れなところはあるかもなのです。

 ですけど、剣丞様が世の中を良くしようと一生懸命考えて出した結論なのですよ。

 それを蔑ろにするような真似はしたくねーのです」

 

「ええ、まぁ……問題点はげっぷが出る程多いけど……

 とりあえず、人が死なないという点だけは合理的……かも……」

 

「だからって律儀に守るんじゃないわよっ!!」

 

葵は思った……三河武士って本当に面倒臭いと。

実直で、律儀で、融通が利かず、面倒臭く主君殺しの常習犯……それが歌夜や綾那を含めた三河武士の実態である。

 

そんな三河武士特有の面倒臭さを発揮し、非常に面倒臭い立ち位置に自ら飛び込みつつある綾那をどうしたものかと葵が頭を抱えたその時……

 

「ワープアウトまであと30秒! 皆さん、攻撃に備えてください!」

 

大江戸学園の校内放送からそんな声が聞こえてくる。

ほぼ同時に学園の各所に備え付けられたバリアーマシンに電源が入り、魔法や超能力を防ぐ光の壁が展開される。

 

「ああもう時間が無いっ! 歌夜、貴女は急いで持ち場に戻りなさい!」

 

「は、はい!」

 

「綾那、それと天草四郎。 この話は後でゆっくり。

 とりあえずどこかで適当に戦っていなさい、こっちの邪魔だけはしない事っ!」

 

「かしこまり~」

 

「御意なのです!」

 

「皆の者! 事前の訓練通り、近くの対魔法防御バリアに身を隠しなさい!

 ヴァルハラに到着と同時に、オーディンの軍勢から攻撃が来るわっ!!」

 

葵がそう叫ぶと、バリアーマシンの効果範囲内に身を伏せる。

綾那と天草四郎も葵と共にバリアに隠れ、まるでおしくらまんじゅうのように身を寄せ合った。

 

「あ、貴女達……邪魔しないでって……」

 

「いや、神様の魔法喰らったらいくら魔人でも死んじゃうかな~って」

 

「昔はこうやって薪の節約をしてたのです。 懐かしいのです」

 

葵は思った……オーディンより先にこいつらを血祭りにあげてやろうかと。

 

そしてついに大江戸学園は超空間を超え、ヴァルハラ宮殿へとワープアウトし……

 

「こ、ここがヴァルハラ宮殿……?」

 

「静か……だね、静か過ぎるくらい……」

 

「攻撃魔法、全然飛んでこねーのです」

 

ワープアウトから10秒経ち、1分経ち、5分経っても一向に攻撃が来る気配が無かった。

対魔法防御バリアの駆動音だけが虚しく響き、三河武士達の間にちょっとした動揺が生じ始める。

 

「はぁっ!? もう戦わなくて良いっ!? 和平交渉に入ってるから何もするなぁ!?」

 

そして大江戸学園の必殺仕事人3名が先走った結果、開戦前に勝負が決まっていた事が判明するのである(第173話)。

 

「え、何? どうゆう事?」

 

「ヒーローインタビューは逃したっぽいのです」

 

「もしかして……もう戦いが終わったって事?」

 

葵と綾那がこくこくと頷いた。

すると天草四郎は額から滝のような冷や汗が出て、歯をガチガチと鳴らし始めた。

 

「今度はどうしたの? 雪隠(トイレ)はあっちよ」

 

「アイドルと魔人はトイレなんて行かないの。

 そうじゃなくて、柳宮十兵衛とはオーディンとの戦いが終わるまでって、

 期間限定で休戦してるんだよ。 だから戦いが終わったって事は……」

 

「いくら何でも今すぐ襲っては来ないでしょう」

 

「いや、十兵衛ならやりかねない。 あいつその辺シビアだから……」

 

直後、天草四郎のガラケーがピピピピピッ! と鳴った。

二つ折りの携帯を開いて画面を見ると『斎藤九十郎』の文字が出ていた。

 

「あ、九十郎? どうしたの?

 新曲はもうちょっと待っててよ、今ちょっと忙しくて……」

 

『おい、ジェロニモ。 柳宮十兵衛がダッシュでそっちに向かってたぞ。

 お前休戦はオーディンを倒すまでって言ってたよな?

 あいつ多分、速攻でお前らを殺りに行くつもりだぞ』

 

天草四郎がボトッとガラケーを取り落とす。

そしてガタガタと震えながら綾那の方へ向き直った。

 

「あ……あはは……柳宮十兵衛、こっち来てるって……

 速攻でボク達を殺りに来てるかも……」

 

「じゃあここで決着をつけるのです! 綾那の強い所を存分に見せてやるのですよ!」

 

「駄目ぇっ!! 絶対駄目ぇっ!! あいつ冗談みたいに強いから絶対負けるよっ!

 前に戦った時はボク含めて魔人7人もいたけど、

 うっかり1人ずつ戦ったから全員ボコボコにされたんだよ!!」

 

「ええ~、じゃあいつ戦うのですかぁ~?」

 

やる気満々だったのに水を差され、綾那は不満気だ。

 

「森蘭丸の指が5本残ってるから、魔人はあと5人作れる!

 ボクと綾那含めて、7人の武芸者を魔人にしたら戦う!

 そして今度は7人がかりで袋叩きにするんだ! そうすれば絶対に勝てるから!」

 

「むぅ……まあ、ジェロニモがそう言うなら、綾那は我慢するのです」

 

綾那はかなり不満顔だが、渋々ながら天草四郎の言葉に従う。

 

そして……

 

「天草あああぁぁーーーーっ!!!」

 

まるで地獄の悪鬼の如き殺意に満ちた怒声が響く。

精強かつ屈強で畏れられる三河武士達ですら思わず竦む程に迫力のある声であった。

 

柳宮十兵衛の……大江戸学園の剣術指南役にして、学園最強と噂される凄腕の剣客の怒声は戦国時代の本物の武士すらも竦ませる威勢があった。

 

「逃げろおおぉぉーーっ!!」

 

「ふははははっ! サラバだ明智君なのですっ!」

 

天草四郎と綾那は逃げた。

恥も外聞も無い猛ダッシュで逃げた。

戦おうとは一切考えなかった。

大江戸学園とヴァルハラ宮殿全土を巻き込んだ鬼ごっこは、それから半日くらい続いた。

 

「ボクはぁ! 柳宮十兵衛に勝ぁつ!! 絶対に勝つ! 今度こそ勝つ!

 そしてグチャグチャになるまで犯しまくってやるううぅぅーーっ!!」

 

学園最強の剣客、柳宮十兵衛を倒し、犯し、穢し、蹂躙したいという邪悪な欲望を大声で叫びながら、天草四郎は学園中を逃げ回るのであった。

 

……

 

…………

 

………………

 

それから少し時は過ぎる。

 

オーディンとの和平交渉は意外な程につつがなく終わった。

犬子や粉雪、一二三や雫、九十郎といった面々の大江戸学園への編入手続きも終わり、しばしの間の平和かつ平穏な時間(ただし大江戸学園基準)が過ぎた。

 

そして戦国時代で共産主義革命が勃発し、美空や柘榴達に危機が迫っていると知らされ、斎藤九十郎が諸葛孔明を連れ去ってポータルに飛び込んだ日(最終回)から約半月が経った。

 

「……と、いう訳で天草白江は再びここ大江戸学園に戻って来る事が予想される」

 

大江戸学園生徒会執行部の会議室で、柳宮十兵衛が天草四郎に関する全ての情報を話していた。

 

かつて森宗意軒という人物が人間を鬼子と同じ超能力に覚醒させ、魔人に変貌させる忍法・魔界転生を編み出した事を。

忍法・魔界転生によって天草四郎を含めた7人の武芸者を魔人に変え、徳河早雲を抹殺して大江戸学園を支配しようと企てた事を。

その企ては柳宮十兵衛の手によってギリギリのところで阻止された事を。

魔人となった7人の武芸者達は、天草四郎を除き全員が病院送りとなり、森宗意軒は命を落とした事を。

天草四郎は未完成の次元間転移マシンを使い、並行異世界に……光璃や犬子達が生まれ育った戦国時代に酷似した異世界に逃げ延びた事を。

 

そして……天草四郎は森蘭丸の指を使い、戦国時代の武芸者5名を魔人に変え、再び柳宮十兵衛に戦いを挑もうとしている事を包み隠さず話していた。

 

「ええ~……」

 

「本当に騒動の種だけは事欠かないな、この学園。

 今度お祓いした方が良いんじゃねぇか」

 

徳河吉音が苦笑しながら頬を掻く。

遠山朱金がげんなりした表情で肩を落とす。

 

他には徳河詠美、逢岡想、鬼島桃子、長谷河平良、そして犬子と粉雪が集められている。

いずれも一流の剣客であり、魔人化した武芸者とも十分に渡り合えると柳宮十兵衛が判断した者達である。

 

「魔人をこれ以上増やされる前にこっちから攻めるのはどうだ?」

 

「駄目だよ、ポータルは九十郎が無茶したせいで壊れちゃったから。

 直るまで戦国時代には行けないんだよ」

 

「そりゃ厄介だな、向こうから襲撃してくるのを待つしか無いのか」

 

集められた者達が顔を見合わせる。

 

大江戸学園に騒乱が起きる度に集められる面々だ、今更魔人が襲ってくると聞かされた程度では動揺はしない。

しかし、叩いても叩いても雨後の筍のように湧き出て来る騒乱の種にうんざりとした気分は隠せなかった。

 

「……最新の研究の結果、魔人になった者を殺さずに人間に戻す手段が見つかった」

 

そして柳宮十兵衛が重苦しい表情でそう告げる。

 

「そっか、じゃあ綾那も元に戻るんだ。 良かった~」

 

吉音が能天気に笑う。

 

戦国時代に仲良くなり、オーディンとの戦いの数日前には趣味で作った∀〇ンダムの144/1スケールプラモデルを友情の証として贈った相手について、彼女なりに気にかけていたようだ。

 

「おい、ちょっと待った、何か凄い嫌な予感がするぞ……

 その、魔人を戻す方法って、具体的にどういうのなんだ?」

 

遠山朱金が露骨に顔を歪めて確認する。

 

大江戸学園の騒乱に何度も何度も巻き込まれた……というより、南町奉行として先頭に立って騒乱を収める立場にある朱金だからこそ、率先して嫌な予感の元を確認しようとする。

 

「まず前提として、忍法・魔界転生によって魔人になった者は全員女性だ。

 森宗意軒は自身の指をだな、こう……男根のような何かに変えて、

 対象の子宮に魔人化エキスを注入する。

 それ故に魔人は全員女性だが……魔人化した女は全員、魔人の力の源の……

 あ~、つまり、指が変化した疑似男根とでもいうべきモノが生える」

 

「エロ漫画みてぇな設定だな」

 

遠山朱金がそんなツッコミを入れる。

他の皆も似たような事を考えていたのか、うんうんと頷きあった。

 

「まず魔人化した人間の疑似男根に経文を書いたコンドームを被せる」

 

柳宮十兵衛が朱金のツッコミを無視して話を続ける。

大江戸学園に何年も通学していると、こういう話の本筋に関わらない無駄話に関わっているといつまでも話が前に進まないと感覚的に理解させられるのだ。

 

「うん……? 凄ぇ強い武芸者に漫画みたいな超能力がプラスされるんだよな?

 その時点で難易度高くないか?」

 

米粒アートのような精密さでびっしりと経文が書き込まれたコンドームが何十個もずらっと並べられる。

朱金が1つを手に取って見る……遠目で見る分には何かの文様のように見えたが、近くで見ると確かにお経のような文字列だと分かった。

 

「見た目はアレだが、効果はある。

 コレを被せる事で、魔人の超能力をほぼ無力化可能だ」

 

「そもそも勃つのか? 疑似ち〇こ」

 

「勃つ、魔人は超能力を行使した後は例外なく勃起する。

 さらに魔人は超能力を使えば使う程女を犯したい欲求が増大し場合によっては暴走する」

 

「何でそんな事知ってるんだ?」

 

「以前戦ったからだ。 戦いの最中に乳を晒すだけで面白いくらいに集中を乱せた。

 超能力の行使には精神集中が必須なので……後は言わずとも良かろう」

 

柳宮十兵衛が苦笑しながらそう話す。

 

かつて森宗意軒が起こした戦いは十兵衛にとって楽な戦いでは無かった。

理性のブレーキが効きにくくなる弱点に、超能力行使後は性欲が増大する弱点が無ければ、おそらく7人の魔人に成す術も無く蹂躙されていただろう。

 

魔人の攻略法を見出すまで防戦一方、超能力に翻弄され、ヒィヒィ言いながら逃げ回るのが精一杯だった。

 

「戦いながら色仕掛けって事、はしたない真似をするのね」

 

「言ってくれるな、他の手段は思いつかなかった」

 

「いや待て、もしや我々にもそれをやれと言うつもりじゃ……」

 

徳河詠美と長谷川平良が嫌な予感と共に一歩後ずさる。

 

「まあ最後まで聞け。

 このコンドームを被せた後、疑似男根に蓄えられた魔人パワー、

 あるいは魔人エキスとでも呼ぶべきか、魔人の力の源とでも呼ぶべきモノを吸い出す。

 そうすれば魔人を生きたまま人間を元に戻せる訳だが……」

 

「……訳だが?」

 

「その方法はこの経文コンドームを被せた状態で射精させる事だ」

 

「おい待ちな!

 ちょっと際どい服着て色仕掛けくらいならともかく、そこまでヤレってか!?」

 

「ちなみに口淫、手コキ、乳ズリ、尻穴、それとオナホールに射精させても無駄だった。

 正しい手順で射精させた場合に比べて、

 何倍も、何十倍も薄い魔人エキスしか抜けないため……らしい」

 

「それ、全部試したのか?」

 

「……試した」

 

「マジかよ!? ちょっとオレ、ジェロニモに頼んで魔人に……」

 

長谷川平良が朱金の後頭部をブン殴った。

 

「待って! ちょっと待って! だったら正しい手順ってもしかして……」

 

集められた面々が猛烈に嫌な予感を覚える。

徳河吉音、遠山朱金、徳河詠美、逢岡想、鬼島桃子、長谷河平良、そして犬子と粉雪……全員が武術に優れた『女性』である事に気がつく。

 

「……そうだ、お前達が想像した通りの方法だ」

 

意訳『魔人ち〇こにコンドームを被せてセックスしろ』である。

 

「ちょっと何それ!? 聞いてないよ!」

 

「今、言った」

 

「本当にエロ漫画みてぇな連中だな! 魔人って!」

 

「知らん、森宗意軒の趣味じゃないのか」

 

集められた面々はドン引きである。

 

「生きたまま人間に戻すのにはそういう行為が必要ね……

 じゃあ、後腐れなく殺しちゃえば良いんじゃない」

 

ここまで黙って話を聞いていた犬子が口を挟む。

 

「殺すのは簡単だ、疑似男根を切断すれば良い。

 魔人は人間離れした耐久力と回復力があるが、男根が急所だ。

 アソコを斬れば例外無く絶命する」

 

「だってさ、どうするの?」

 

犬子が集められた面々にそう尋ねる。

魔人とのセックスが嫌なら、いっそ殺してしまえば良いと言外に提案している。

 

「戦うのは私達、魔人と……その、セック……

 ごほん! 魔人を元の人間に戻すのは他の人に……」

 

詠美が顔を真っ赤にしながらそう提案する。

 

「それは難しいでしょうね……

 天草さんがどのような人を魔人にしてくるか分かりませんが、

 十兵衛さんに挑む以上は、相当に腕が立つ人でしょう。

 どんな超能力を使ってくるかも分かりません。

 足手纏いになる人を守りながらでは……」

 

……と、今度は大岡想が反対意見を出す。

 

大江戸学園には驚くべき事に、あるいは笑える事に娼婦がいる。

金さえ出せば魔人とゴム付きセックスをしてくれる女は探せるかもしれないが、一流の武人同士の戦いの中に飛び込めというのは無理無茶無謀である。

 

大江戸学園があらゆる意味でブッ飛んだ学園だと言っても、そこまでブッ飛んだ人材はいない。

 

「くそ、厄介だな魔界転生ってのはっ!」

 

「でも……それでも、殺しちゃうのは駄目だよ。

 私達は学生で、ジェロニモだって学生なんだから」

 

そして吉音が重苦しい表情でそう呟く。

この場にいる面々の中で、犬子と粉雪、詠美、そして柳宮十兵衛以外の全員は秋月八雲の彼女である。

 

魔人を元に戻すためとはいえ、コンドーム越しとはいえ、ち〇こが付いているけど相手は女性とはいえ……秋月八雲以外の人間とセックスする事は倫理的な抵抗感がある。

 

特に吉音には、蘭丸戦で見知らぬ男に犯され、膣内射精までされた負い目がある(第167話)。

 

だがしかし……だがそれでも……

 

「八雲には土下座しなきゃいけない、もしかしたら八雲に嫌われるかもしれない、

 今度は本当に許しちゃくれないかもしれない。

 それでも……それでも私は、ジェロニモを元に戻したい。

 一緒に授業を受けて、一緒に遊んで、一緒に勉強して、一緒に卒業したい」

 

それでもと、吉音は思った……それでも、誰も殺さずに終わらせる方法があるのなら、逃げたく無いと。

力で叩きのめして、殺して、それでおしまいだなんて救いが無さすぎると思った。

 

そして吉音は心の中では全力で八雲に謝りつつ、机の上の経文コンドームを手に取った。

 

「はぁ……まあ、お前はそう言うだろうよ……ええいくそっ!

 オレも乗った、アイツを人間に戻して復学させてやる! 八雲にゃ後で土下座だな」

 

遠山朱金が経文コンドームを握り締め、天高く拳を掲げた。

 

「はぁ……そう言うと思いましたよ。 なら、私の答えはこうです」

 

大岡想が経文コンドームを手に取った。

 

「まあ仕方ねぇ、あたいもヤるか……ここでダチ公を見捨てちゃ目覚めが悪い」

 

鬼島桃子も経文コンドームを手に取った。

 

「はぁ……まさかこんな形で処女を喪う羽目になるとは……」

 

徳河詠美も吉音達に難題を押し付けられず、盛大なため息と共に経文コンドームを手に取った。

 

「何だ、まだ九十郎に想いを伝えていなかったか?」

 

「ええそうよ、悪い。 急に死んだと思ったら戦国時代で生きていて、

 前田利家とか真田昌幸とかをお嫁さんにしてましたなんて想像つく?

 とても好きです、付き合ってくださいなんて言える雰囲気じゃないわよ」

 

「そうか……それなら、詠美に順番が回ってこないよう、精々身体を張るとしよう」

 

長谷河平良が苦笑しながら経文コンドームを手に取った。

 

魔人は現在2人、森蘭丸の指の数は5本……来襲するであろう魔人の数は最大で7人。

それに対して、この場に集められた剣客は全部で9人。

 

途中で脱落する者がいなければ……ではあるが、詠美がその身を穢し、処女を喪う前に全滅させる事は出来なくない。

 

「念のため言っておくが、ナマは絶対に避けるように。

 子宮に直接魔人エキスを流し込まれれば何が起きるか分からん。

 最悪、魔人にされる危険すらある」

 

柳宮十兵衛が経文コンドームを手に取った。

数年前の戦いではとても表沙汰にできない卑怯殺法を連発した孤独で過酷な戦いだった。

 

だが今は違う、仲間がいる、魔人の性質も研究した、倒し方も分かった。

 

「(今度は必ず助ける……今度こそ必ず救ってみせる……今度こそ……)」

 

柳宮十兵衛はそう心に近い、新兵器にして、かつて救えなかったダチ公を人間に戻す鍵……経文コンドームを強く強く握り締める。

 

「おい犬子、あっちはヤる気みたいだぞ、どうするんだぜ?」

 

粉雪がひそひそ声で犬子に尋ねる。

 

「粉雪はどうしたいの?」

 

「どうしたいって、そりゃあ……その……」

 

粉雪は九十郎の婚約者という事になっている。

今はまだ正式な嫁ではないが、大江戸学園を卒業したらすぐに婚姻と約束している。

 

だから九十郎以外の人間とセックスするような真似は極力したくないのだが……

 

「はぁ……ゴメンな九十郎、あたいは……あたいはあいつらの事、結構好きになってた。

 この大江戸学園も気に入ってる。 だから一回だけ、一回だけ許してくれなんだぜ」

 

粉雪はそう呟くと、机に並べられた経文コンドームを手に取った。

 

 

 

 

 

「じゃあ犬子は先に帰るから、後は頑張ってね」

 

 

 

 

 

そして犬子は逃げた。

 

お忘れの方もいるかもしれないが、犬子は前田利家である。

賤ヶ岳の戦いで柴田勝家を見捨てて逃げた前田利家である。

 


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