戦国†恋姫X 犬子と九十郎   作:シベリア!

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前話、第165話にはR-18描写がありますので、エロ回に投稿しています。
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次話、第167話にはR-18描写がありますので、エロ回に投稿しています。
第167話URL「https://syosetu.org/novel/107215/59.html



犬子と柘榴と一二三と九十郎第166話『駆け付けた者達』

 

注・原作キャラが洗脳、凌辱される描写があります。

 

 

犬子、柘榴を強姦され、一二三を洗脳され、怒りに燃える九十郎が蘭丸の護衛達を次々と蹴散らしていく。

 

「死ね、蘭丸ううぅぅーーっ!!」

 

この酷い絵面の最終決戦も、終結の時が近づきつつあった。

 

蘭丸が気絶していた間に簡単な手当を受けていたとはいえ、蘭丸の護衛達の中には負傷していた者も多い。

それについさっき吉音と九十郎にボコボコにされたばかりで、戦意が萎えてしまっていた。

負傷もあるが、それ以上に鬼気迫る表情で叫び、暴れる九十郎に気圧されて、まともに戦える状態の者はそう多くない。

 

そして頼みの綱の剣丞も、九十郎の大車輪投げを喰らってまともに戦える状態では無い事も、蘭丸の護衛達の戦意を大きく削いでいた。

 

「邪魔すんな、寝てろぉ! てめぇらもブチ殺すぞぉっ!!」

 

1人、また1人と九十郎が護衛達を斬り伏せる……いや、斬り殺していく。

吉音のように歯止めをされた武器を使う気は無い、峰打ちや手加減をする気も一切無い。

怒りと殺意の赴くままに、本気かつ全力で殺しに来ていた。

 

「どうすんだよ! どうするんだよぉっ!? な、なんとか説得とかできないのぉっ!?

 一応、君はあれの嫁さんなんだよねあいつのぉっ!?」

 

「……私は死体、私は死体」

 

「死んだフリして誤魔化そうとすんなぁっ!!」

 

蘭丸も一二三も一切打開策を見いだせず、怒り狂う九十郎が護衛を斬殺していくのを眺めるばかりだ。

今の蘭丸は超能力の使い過ぎで疲弊して、立って歩く事すら難しい。

一二三も本調子であれば何かしら反撃のアイディアも浮かんだのかもしれないが、今は洗脳の副作用で知力が落ちていた。

 

護衛達の中には一二三に倣って死体のフリでやり過ごそうとしている者がいたが、蘭丸にも九十郎にもそいつらに構っている余裕は無い。

 

そして比較的やる気のあった護衛達が粗方斬られ、やる気の乏しい護衛達は腰を抜かし、逃げ出し、あるいは死体のフリでやり過ごそうとし、ついに蘭丸本人へと斬り込む決定的な隙が生じる。

 

「蘭丸、てめええぇぇっ!!」

 

「く、来るなああぁぁっ!?」

 

蘭丸が叫ぶ。

恐怖のあまり若干涙目になっていた。

 

さっきのように催眠は使えない。

今の九十郎は蘭丸への殺意が強すぎ、他の感情や欲求を引き出そうとしても無意味だ。

他の洗脳を使ったとしても、九十郎の剣魂がそれを防いでしまう。

 

「や、やめ……やめろぉ!」

 

剣丞が蘭丸を守ろうとするが、傷ついた身体は思うように動かない。

 

ついに九十郎の剣が蘭丸に届く。

『勝った! 第三部完!』とばかりに九十郎は勝利を確信する。

 

 

 

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

 

 

だがしかし……寸前の所で九十郎の前に立ちはだかり、蘭丸を守る者が現れる。

新田剣丞ではない、その姿は、その細くしなやかな体格は女性のものだ。

 

その者の名は……

 

「全く、主様は少し目を離すとすぐに無茶をするのう」

 

その者の名は……第13代征夷大将軍・足利義輝。

名目上は全国の武家の棟梁であるが、塚原卜伝から直々に剣の手ほどきを受けた剣豪であり、なんやかんやでず~っと剣丞隊と行動を共にしている女傑である。

 

その足利義輝がこの土壇場で駆けつけたのだ。

 

「しょ……将軍かよォォォ!!」

 

九十郎の剛剣をまともに受け止められる者はそう多くない。

その数少ない例外的存在が都合良く……いや、九十郎にとって都合悪くこのタイミングで現れた現実に対し、頭を抱えたい気分になった。

 

「え、何? 呼んだ?」

 

「お前じゃねぇ! 座ってろ!」

 

なお、徳河吉音は生徒大将軍、征夷大将軍に名前だけ寄せたなんちゃって将軍である。

なんでこんな無意味な事をと思われる方もいるかもしれないが、『無理無茶無謀』と『くだらない意味が無い面白い』は大江戸学園における平常運転である。

 

「か、一葉……どうしてここにいるんだ!? 来ちゃ駄目だって言っただろう!?」

 

「何故かと、そりゃあ主様が絶対来るなと申すからじゃな。

 えっとアレじゃろ、ダ〇ョウ倶楽部とかいう……」

 

「いやギャグじゃないよ!」

 

「それに主様が黙って単独で動く時は、大抵無茶で無謀な事をやってる時じゃからな。

 だから頃合いを見計らって陣を抜け出した。 ああ、当然余だけではないぞ」

 

「蒲生氏郷ここに見参ですわ!」

 

「……ぐっ! びしっ!」

 

「八咫烏隊っ! 総勢2名着陣っ!」

 

そう、剣丞の窮地に駆けつけて来たのは一葉だけではない。

蒲生梅氏郷、鈴木烏重秀と鈴木雀重朝……剣丞隊の荒事担当がぞろぞろと姿を現した。

 

そして……

 

「剣を振るうは部門の恥なれど、

 戦場の心得を解さぬ狼藉者が相手なれば、是非も無し……」

 

かつて三河の地で九十郎から剣を学んだ(第11話)榊原歌夜康政が、険しい表情と共に現れ、刀を抜いた。

 

「また敵同士かよ、愛弟子……」

 

なお、歌夜が九十郎の敵に回るのはこれで5回目である(第12話、15話、55話、99話)。

 

「九十郎さん、どうしてこのような事を……

 人を斬り殺生を行うなど、武士たる者のやる事ではありません!!」

 

「いやアホかぁ!? むしろ率先して斬り殺すのが武士だろっ!?」

 

「く……どうやら乱心したようですね……」

 

「いや、お前の方が乱心って言うか、たぶん蘭丸に洗脳されてるぞ」

 

九十郎が歌夜に向き直り剣を構える。

 

剣豪将軍と名高い一葉も強敵だが、九十郎が手塩をかけて鍛え上げ、磨き上げた歌夜もまた強敵だ。

歌夜を相手に一対一でも危ういというのに、一葉も梅もそれぞれ武器を構えて九十郎を取り囲み、その後ろで烏が火縄銃の火蓋を切っている。

 

物凄く、物凄く拙い状態だと否が応でも理解させられる。

 

「そんな……来ちゃ駄目だと言ったのに……」

 

そして一方、彼女らに助けられた剣丞は思わず天を仰いでいた。

助けられた側だというのに、どうしてこうなったと頭を抱えたい気分だった。

 

一葉、梅、歌夜、そして烏と雀……たった今駆けつけた頼れる仲間達は一人残らず蘭丸によって常識を書き換えられ、戦闘=セックスだと思い込まされている。

男と女で相対し、服を脱ぎ、愛撫し合い、挿入して腰を振るのが常識的な戦いだと信じ切っている。

九十郎のように剣を振り回し、人を殺す者は戦場の常識を無視した狼藉者、非常識なヤツだと疑わない。

 

……なお、この誤った常識の下で織田軍と戦い、全員仲良くイカされているため、本来は彼女達をイカせた男達に従っているべきなのだが、その辺は『織田軍と戦った』記憶を綺麗に消去する事で回避している。

剣丞を哀れんだ蘭丸の恩情である。

 

さておき、常識を書き換えられた彼女達が九十郎を取り囲んでいる。

一葉達が負ければ九十郎に斬り殺される。

だが逆に一葉達が勝てば……彼女達は自身の常識に従い、九十郎とセックスを始めるだろう。

 

剣丞はそれを避けるために剣丞隊全員を後方に下げ、『絶対に前線に来てはいけない』と何度も何度も念押ししたのだ。

 

「たああぁっ!!」

 

そんな剣丞の願いも空しく、目の前で歌代が九十郎に斬り込んでいた。

 

「ええぃ、また腕上げたな愛弟子ぃっ!」

 

「日々鍛えていますから……ねぇっ!!」

 

刃と刃が打ち合って火花が散った。

 

かつて三河の地で学んだ神道無念流の技の冴えは今なお健在、その剣閃が向けられる者は教えた側である斎藤九十郎だ。

 

ある意味で酷いブーメランである。

 

「袋叩きは少々気が引けるが……」

 

「何を仰るのですかっ!?

 相手は戦場で剣を振るう不心得者、卑怯ではありませんわ!」

 

「……ふむ、それもそうか。 何かこう、妙なものが胸の奥で引っかかるのだがのう」

 

「四の五の言ってないで助太刀ですわ!」

 

そして一葉と梅が左右に分かれ、歌夜とは別方向から九十郎に斬りかかる。

 

「邪魔すんなよ将軍がよぉっ!」

 

「尋常な一騎打ちを望むなら、まず剣を捨てよ!」

 

「そうですわっ! 剣を捨ててお〇んぽをお出しなさい!」

 

「出すかアホォッ!!」

 

なお、ついさっきまで吉音とナニをしていて袴を履き直す時間も無かったため、現在九十郎はアレをぷらぷらさせながら戦っている。

 

本当に本当に、なんて酷い絵面の戦いである。

 

「(や、やべぇ、こいつは……ま、負ける……

 くそ、歌夜だけでも手こずってるってのに、将軍も金髪もかなり強いぞ……)」

 

威勢だけは良かったが、内心で九十郎は焦りまくっている。

新当流の使い手である剣豪・今川氏真こと鞠が来ていないのは不幸中の幸いかもしれないが、それ込みでも劣勢だ。

 

「く、この……」

 

剣閃が光る。

何度も何度も致命の一撃が九十郎に迫る。

 

その全てをギリギリで受け、ギリギリで避け続けているが、その度に気力と体力が削られていた。

 

「ああ、クソがよっ! あと少し……あとほんの少しだったのによぉっ!!」

 

九十郎は悪態をつきながら諦めきれずに戦いを続ける。

実際の所、寸前で一葉が邪魔をしなければ九十郎は蘭丸を殺せていた。

蘭丸一人殺す事ができれば、織田軍、越軍双方の洗脳は一気に解除され、この無意味な大乱交は止まる筈だった。

 

それなのに……

 

「クソがぁっ!! 邪魔すんなぁっ!!」

 

「だが断るっ!」

 

一葉達3人は休まず攻め続ける。

九十郎は一瞬も休まずに3人からの攻撃を躱し続け、彼女達の3倍以上の消耗を続ける。

 

強行突破して蘭丸を狙おうかとも考えたが、弾を込め、火蓋を切り、無言で銃口を九十郎に向ける烏の存在が物凄く邪魔だ。

今は戦闘に参加していないが、一葉達3人から距離を取れば狙撃するつもりなのだろう。

 

一葉達3人を無理矢理突破する事も難しいが、狙撃態勢に入った雑賀孫一の目の前を横切って蘭丸を斬るにはさらなる奇跡が必要になる。

 

このままでは負けると分かっていながら、ジリ貧のチャンバラに付き合わざるを得ない……九十郎がここまでかと軽く絶望したその時。

 

「や・め・ろぉーーっ!!」

 

そんな九十郎の絶望を吹き飛ばすかのように飛び込んで来た1人の少女がいた。

徳河吉音が九十郎を守るために飛び込んできたのだ。

 

「な、吉音!? 動けるのか!?」

 

「うん、蘭丸って娘を斬ろうとしたらまた全身固まって動けなくなるみたいだけど……」

 

吉音は自らの身体の調子を確かめるように、剣魂を握り直し、構え直す。

身体の硬直は無い。

 

吉音は先ほど蘭丸の催眠、あるいは思考誘導を受け(第162話)、心の中で嫌がっている殺人を禁止されている。

だがしかし……

 

「うん……大丈夫みたい。

 人を殺すために戦う事はできなくても、友達を守るためだったら戦える!」

 

自然と身体に力が張るのが分かった。

ついさっき身動きの取れない自分を押し倒し、下着を引っぺがし、犯してきた相手であるが、それでも九十郎は吉音の友達だ。

 

友達が目の前で殺されそうになっているのなら、例え危険であっても戦える……それが徳河吉音の魂の叫び、魂の震えであった。

 

「お前……お前って本当に良い女だよな」

 

「良い女でしょ、でもあたしは八雲の彼女だからお触りは駄目だからね」

 

「……さっきは本当に済まなかった」

 

「うん、後でビンタ10回だから覚えといてね。 あたし結構忘れっぽいから」

 

「補修とか追試の時間とか頻繁に忘れるよな」

 

「宿題とかも良く忘れるね」

 

「提出10分前に写させてってのは本気でやめろよお前、

 俺以外にやったら友達なくすからな」

 

「あはは、いつもお世話になってまーす」

 

吉音と九十郎がゲラゲラと笑いながら背中を預け合う。

一葉、歌夜、そして梅が2人を囲む。

 

3対1の戦力差が1.5対1に縮まり、背後を気にする必要が無くなった。

劣勢の九十郎にとって、これ程頼りになる味方はいない。

 

なお、さっき九十郎にブラとパンツをはぎ取られたため、吉音の格好は光るパジャマの上着だけである。

酷い絵面がもっと酷くなっている。

 

そして……

 

「はあぁぁっ!!」

 

「なんとおぉっ!!」

 

一葉と吉音が、戦国時代のガチ将軍と大江戸学園のなんちゃって将軍が剣を交える。

 

「良い加減に観念なさい!」

 

「九十郎さん、ここまでです!」

 

「まだだ、まだ諦めねぇぞ!」

 

梅と歌夜が再び九十郎に斬りかかる。

攻め手が1人分減り、捌く九十郎に僅かだが余裕ができる。

 

「死にたくなゃどけぇっ!」

 

攻められっぱなしだった先程と違い、今度は九十郎の方から反撃する事も可能になった。

劣勢なのは変わらないが、絶望的な大差は消え、奮戦によってひっくり返せる可能性がある差になった。

 

「吉音ぇっ! 絶対に倒れんじゃねぇぞ!」

 

「こっちは任せてっ! なんとかするから!」

 

そして何より、背中に友がいた。

友が背中を守り、共に戦っていた。

それが九十郎の力を何倍にもしていた。

 

だがそんな均衡も長くは続かない……吉音と九十郎の剣魂が同時に光を放ち、ナノマシンを放出して2匹の獣を現出させる。

 

「……えっ? マゴベエ!?」

 

「がらがらどん!?」

 

剣魂が勝手に起動した事に驚く暇も無く……ズドォンッ!! という破裂音と共にナノマシンの集合体、マゴベエとがらがらどん3号の胴体の大きな穴が開いた。

 

「………………」

 

撃ったのは烏だ。

吉音の参戦により九十郎に相対する人数が減り、射線が通るようになったのを彼女は見逃さなかった。

そして烏が引き金に指をかけたのを感知し、マゴベエとがらがらどん3号が自ら盾になって九十郎を守ったのだ。

 

「……やっべぇ」

 

九十郎が冷や汗を流す。

 

マゴベエとがらがらどん3号が光の粒子となって消えていく。

吉音と九十郎の剣魂のバッテリーとナノマシン残量は今の攻防で空になった。

大江戸学園に戻って補給しなければ、マゴベエやがらがらどん3号の助けは得られない。

 

次を撃たれたら死ぬ……九十郎はそう確信してしまう。

 

「……弾込め前に潰す! 吉音、抑えててくれ!」

 

「わ、分かった!」

 

九十郎がダッシュで歌夜と梅の間を抜け、烏へと迫る。

烏が使ったのはごく一般的な火縄銃だ。

弾込めには約1分、早合を使っても約30秒はかかる……その前に烏を戦闘不能にしなければ終わりだと、九十郎は全力で走った。

 

走ったが……

 

「お姉ちゃん!」

 

「……こくっ」

 

九十郎は雀に気づいていなかった、雀が見えていなかった。

烏のすぐ隣にいた鈴木雀重朝がいた。

 

九十郎が駆け出した直後、烏は手にした火縄銃をぽいっと投げ捨てる。

そして雀が弾込めを完了し、火蓋を切り、今すぐ発射可能な火縄銃をほいっと烏に投げ渡した。

 

「そんなのアリかよぉっ!?」

 

がちゃりと、烏が九十郎に対し火縄銃を構え直した。

 

九十郎が瞬時に烏への突進を中止、90度曲がって真横に飛んで地面に転がり……直後にズドォンッ!! と再び破裂音が響き渡る。

 

「あ、あっぶねぇ……」

 

銃弾が九十郎の顔を掠めて飛んだ。

 

火縄銃には引き金を引いてから銃弾が発射されるまで、僅かな時間のズレがあるという弱点がある。

その僅かな時間があったが故に、九十郎はギリギリで回避できたのだ。

 

だがしかし……

 

「……んっ」

 

「ほいさっ!」

 

烏が再び発射済みの火縄銃を投げ捨てる。

雀が再び装填済みの火縄銃を投げ渡す。

僅か1秒で烏は九十郎を狙い撃てる態勢を整えた。

 

そして九十郎は後先考えずに真横に飛んで姿勢が崩れ、膝立ちの状態だ。

その状態で雑賀孫一の狙撃をもう一度躱すのは不可能である。

 

「………………」

 

烏は銃口を九十郎に向け、引き金に指をかけつつも、撃ってはいない。

だが九十郎の急所を真っすぐに見据えるその眼が『少しでも動けば射殺する』と雄弁に物語っていた。

 

「や、やべぇ……動けねぇ……」

 

九十郎が盛大に冷や汗を流しながら硬直する。

烏の向ける銃口は、蘭丸の洗脳以上に強力に九十郎の動きを止めていた。

 

「……びしっ!」

 

烏が『ミッションコンプリート』とでも言いたげに剣丞に向かってドヤ顔でサムズアップした。

 

「九十郎!? 噓でしょ!?」

 

そうなるとたった1人で一葉、歌夜、梅の3人を抑えようとした吉音も無事ではすまない。

 

「掛かれぇっ!!」

 

吉音の注意が烏と九十郎へ向いた瞬間、一葉がそう叫ぶと同時に吉音に突進して組み付いた。

 

「あわわっ!? く、うぅ……」

 

吉音が慌てて避けようとしたが間に合わず、勢いをつけて飛び掛かった一葉に押し倒され、組み合った状態で2人揃って転倒した。

 

「その剣……やはり刃引きをしていたな」

 

1分にも満たない攻防の中で、一葉は吉音が人を斬れないように加工された剣を使っていると素早く見抜いていた。

吉音の戦い方が、人斬りのものではなく、殴り倒して昏倒させる事に主眼を置いたものだと見抜いていた。

 

「うぅ、この……離して……」

 

刃引きをされた剣では、組み付かれた相手を殺傷できない。

敵を倒すためにある程度の速度が必要で、速度を出すために距離が必要なためだ。

 

そして梅も歌夜も、吉音が無力化された瞬間を見逃し、放置するような間抜けではない。

 

「貴女も観念なさい! こんな物を振り回すんじゃありませんわ!」

 

「貴女も武士なら……

 いえ、武士じゃないかもしれませんが、とにかく真っ当に戦いなさい!」

 

梅と歌夜もまた倒れた吉音に掴み、3人がかりで抑え込みに入った。

そして……

 

「ああ! マゴベエッ!」

 

吉音の唯一の武器、剣魂が力づくで奪われるまで、そう長くはかからなかった。

 

「やべぇ、本気でやべぇ……」

 

九十郎は少しでも動けば撃たれる状態で、吉音は物理的に組み伏せられ、蘭丸の洗脳を防ぐ剣魂を取られてしまった。

 

もはや絶体絶命と思われたその時……

 

「九十郎ぉっ!」

 

その時、九十郎の名前を呼ぶ女性が現れる。

その声を九十郎は知っている。

絶望に沈みかけた九十郎の目に再び希望が宿る。

 

「……九十郎」

 

九十郎を呼ぶ別の声も聞こえる。

その声も九十郎は知っている。

 

その声の主は、九十郎の主君である美空と、ファースト幼馴染である光璃だ。

九十郎が顔を上げ、目を見開くと、そこには確かに美空と光璃の姿があった。

 

 

 

 

 

美空と光璃は荒縄で両手首を縛られ、明らかに織田軍の兵士約10名に周囲を固められて護送されていた。

 

 

 

 

 

「……美空、光璃、何やってんだ?」

 

「そっちこそ何やってんのよ?」

 

「見て分からねぇのか、銃突きつけられて動けねぇんだよ」

 

「ああそう、こっちは途中で力尽きて取り押さえられたわ」

 

「……銃弾が尽きた」

 

「綾那は……あのクソ弟子はどうした? いないのか?」

 

「途中で別れて……え? 来てないの?」

 

「……クソがよ、役に立たねぇなあの糞弟子は」

 

九十郎は絶望と共に天を仰いだ。

 

剣丞には絶体絶命のピンチに頼れる仲間が駆け付け、自分の絶体絶命のピンチにはクソの役にも立たない奴らが駆け付けた。

これが持って生まれた天運の差なのかと、これが主人公と自分の運命力の差なのかと、九十郎は絶望した。

 

「さて、それじゃあ後は君達4人を全員洗脳すれば完全勝利って訳だ」

 

蘭丸がニマァと笑った。

ついさっきまで情けなく狼狽えていたのが嘘のように、余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。

 

そして蘭丸が九十郎以外の3人を一気に洗脳しようと精神を集中させ……集中し……主中止……能力が発現する前にふらついて倒れそうになった。

 

「蘭丸!? 大丈夫なのか!?」

 

「あぐぅ、うぅ……思ったより消耗してる……これ以上能力を使ったらまた気絶しそうだ。

 どうする、回復するまで待つか? いやでも忍者が何かする前に決着はつけたい……」

 

剣丞に支えられながら、蘭丸は両足をぷるぷると震えさせ、ぜぇはぁと呼吸を荒げる。

ここまでの戦いで蘭丸は超能力を使い過ぎ、普通に立って歩くのも大変な程に消耗していた。

 

それ故に蘭丸は……

 

「じゃあ仕方ない、手分けして4人共イカせて。 できるだけ時間をかけず、手早くね。

 絶頂した瞬間を狙えば、普段の何倍も何十倍も楽に洗脳できる。

 それなら今の私でも気絶せずに洗脳できるから」

 

……蘭丸は周囲の織田兵達にそう命令した。

 

それは戦いの方法を指示するものではない。

戦いが終わり、捕虜となった者達への処刑方法を指示するものに他ならない。

それは九十郎達4人にとって、処刑宣告に他ならなかった。

 


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