戦国†恋姫X 犬子と九十郎   作:シベリア!

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前話、第153話にはR-18描写がありますので、エロ回に投稿しています。
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次話、第155話にはR-18描写がありますので、エロ回に投稿しています。
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犬子と柘榴と一二三と九十郎第154話『獣化の術』

……剣丞隊は全滅した。

 

鬼子・森蘭丸の恐るべき洗脳能力によって戦争の常識を書き換えられ、戦闘=セックス、絶頂=敗北という条件で織田軍と真っ向から戦い、見事に負けた。

弱卒で有名な織田軍を相手に、見事なまでのボロ負けである。

 

蘭丸の洗脳から逃れられたのはたった2人だけ。

未来の科学技術によって洗脳防御装置が組み込まれた剣魂を所持していた新田剣丞と、精神感応系の超能力者であったが故に洗脳への耐性があり、越軍の追撃を警戒して本隊から大きく距離を取っていた服部半蔵正成・通称小波の2人だけだ。

 

そして剣丞も小波も、剣丞隊のメンバーが1人また1人と蹂躙されていくのを黙って見ていたという訳では無い。

 

「ま、拙いぞ……どう見ても皆正気じゃない、俺がどうにかしないと、どうにか……」

 

戦闘が……いや、常識を改変された被害者同士のセックスが開始された頃、剣丞はどうするべきかと戦場を見回していた。

右からも左からも淫らな喘ぎ声や肉と肉がぶつかり合う音が聞こえてくる。

その数は明らかに10や20じゃない、もっともっと多くの出来事が同時並行で巻き起こっている。

 

「殴ってでも止めて……いや駄目だ、いくらなんでも数が多すぎる。

 俺1人じゃこんな大勢を止める事なんてできないし、殴って止まるかもわからない。

 何か皆を正気に戻す手段があれば……」

 

……と、そこで急に思い出した。

 

剣丞が越後の長尾景虎の庇護下に入っていた頃に、多種多様な超能力を使いこなす鬼子・新戸から蘭丸の洗脳の解き方を教わっていたのだ。

 

……

 

…………

 

………………

 

 

その日、新戸と綾那の組手が行われていた。

超能力者との戦い方を覚えさせるために、新戸は時間がある時は綾那や小夜叉といった剣丞隊の荒事担当と組手をするようにしている(第87話)。

 

最初は新戸の念動力や自然発火能力、催眠術によって翻弄されていた綾那や小夜叉であったが、戦闘センスは剣丞隊随一の連中だ、何日かすればコツを掴み、半月もすれば逆に新戸を一方的にボッコボコにするようになっていた。

 

「……蘭丸と戦う時に最も気を付けなければならない事は何か分かるか?」

 

その日も綾那と小夜叉に超能力を使う暇さえ無くボコボコに殴られまくった新戸が、まるで負け惜しみを言うかのようにそんな事を言い出した。

 

「超能力を使う時間を与えるな、だろ?」

 

「ひたすら距離を詰めて、すっぽんのように張り付いて、

 少しでも精神を集中する仕草をしたら一直線に切り込むのです」

 

小夜叉と綾那がそう答える。

それは確かに対超能力者との戦いの基本であるが、今この場で新戸が伝えたい事とは少し違う。

 

「それもある。 あるが最も警戒して回避すべきは、味方に袋叩きにされる事だ。

 蘭丸と戦う場合、これが怖い」

 

新戸は並行世界の自分と会話をする能力がある(第37話)。

その能力で別の世界の剣丞が蘭丸とどう戦って、どう負けたかを知っている。

ほぼ全ての並行世界で新田剣丞は洗脳を防ぐ剣魂を所持しているのだが、にも関わらず剣丞は全ての世界で蘭丸に負けている。

 

その負け方が、味方に袋叩きなのだ。

 

「え~っと……それは……どういう事なのですか?」

 

「言った通りだ、敵に倒される前に味方から袋叩きにあって負ける……それに警戒しろ」

 

「んな状況まずありえねぇだろ」

 

小夜叉が至極真っ当なツッコミを入れる。

 

「オレは1度に1人しか洗脳できない。

 しっかりと精神を集中させて、お互いの顔が分かる距離まで近づく必要がある。

 だが蘭丸は違う。 一度に大勢……おそらく最大で2万か……3万人、

 それ以上かも知れないが10万、20万という事は無い筈だ。

 長距離、広範囲の人間を一度に洗脳ができる」

 

「……うげっ」

 

「さ、3万以上って……」

 

綾那と小夜叉が絶句する。

基本脳筋の彼女達だが、万人単位の味方が一気に敵に回ったら勝負どころではないという程度は理解できた。

 

「蘭丸の洗脳で変な行動を取り始めた味方を無理矢理止めようとするのは悪手だ。

 洗脳を免れた者にとってどれだけ非常識な行動であっても、

 洗脳された者にとっては真っ当で、常識的で、疑う余地の無い行動だ。

 そうなると……どうなる?」

 

「それが味方から袋叩きって訳か」

 

「綾那達じゃどうしようもなのですよ……」

 

「そうでもない、蘭丸は小夜叉に妙なこだわりがある。

 アイツが勝ち確定と判断した時点で、小夜叉の洗脳だけ解く事が稀に良くある」

 

「稀に良く……ん? 矛盾してねーかそれ?」

 

「綾那は野性的な直感で洗脳が来る直前に範囲外に逃げる事が超超低確率だがある。

 エルムドアから源氏装備を盗むのと同じくらいの確立だが」

 

意訳・小数点以下の確率。

とはいえ、数多の並行世界の虎松達が数千、数万回の試行をしつつも1度も勝てていない蘭丸に勝てる可能性は、例え小数点以下であっても上げておきたいのが本音である。

 

実際の所、蘭丸の白兵戦技能は転子と同程度、本多忠勝が接近戦に持ち込めさえすれば瞬きするよりも早くあの世に送れる程度の強さだ。

 

「なんだか心もとない話なのです」

 

「いずれにせよだ、周囲が明らかに変な言動を始めたら、

 蘭丸に洗脳されている可能性がある。 その時は味方に袋叩きだけは避けろ」

 

「……具体的には?」

 

「迂闊に味方に近づくな、むしろ真っ先に味方から逃げろ」

 

実に後ろ向きな戦い方を伝えられ、綾那と小夜叉はげんなりとした表情になった。

 

「んじゃあよ、洗脳されちまった仲間を助ける方法はねぇのかよ」

 

「……ある、蘭丸の洗脳を解く方法は2つある。

 蘭丸が自発的に洗脳を解くか……蘭丸を殺すかの2つだ」

 

……

 

…………

 

………………

 

「そうだ、そうだった、蘭丸を斬れば……蘭丸1人倒せれば、皆は洗脳から解放される。

 そうすれば……いや、そうするしかない」

 

剣丞は自らの手に握る剣を見る。

未来の科学技術により蘭丸の洗脳能力を防ぐと同時に、鬼の強靭な骨肉をバターのように切り裂く超兵器でもある。

 

「これだけ大規模な御家流……じゃない、超能力を使った直後なら、消耗している筈だ。

 今なら俺でもどうにかできるかもしれない……

 いや、俺がどうにかしないといけないんだ」

 

剣丞は対超能力者の特訓に参加していなかったので直接その話を聞いていないのだが、綾那から話の内容は教えてもらっていた。

蘭丸を殺せば洗脳が解ける……それが今の剣丞にとって唯一の希望となる。

 

「俺がどうにか……しなければ……」

 

剣丞がもう一度剣を握り締める。

既にできる、できないの問題は頭の中から削除している。

過去何度も自ら敵城の内部に侵入し、その度に詩乃に心配され、呆れられる剣丞の思考が今もまた前面に出てきていた。

 

剣丞の視界の先で、一葉と幽が男の前で服を脱ぎ、跪いて男根を咥え込んでいた。

蘭丸が彼女達の精神を操作し、あんな破廉恥な真似をさせている事は明らかで、あのまま放っておけばどうなるかも容易に想像ができる。

最早剣丞に迷っている時間、迷っていられる時間は無い。

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

剣丞は叫んだ。

脳裏にチラリと浮かんだ『負けるかもしれない』という考えを振り払うために叫んだ。

おそらく蘭丸に洗脳されているとはいえ、織田軍を……織田久遠信長を敵にするという事実から目を逸らすために叫んだ。

 

そして……

 

「麦穂! 投網っ!!」

 

「御意っ!」

 

……しかしまあ、この状況が剣丞1人でどうにかできる訳も無かった。

 

蘭丸は自分1人が死ねば洗脳が解けるという弱点をしっかり認識しており、剣丞が自分を斬るために突撃してくる可能性も認識していて、あらかじめ投網や長棒を準備させて待ち構える程度には用心深かった。

 

そして次の瞬間、剣丞が目にしたのはかつては共に戦った仲間達が十数人がかりでこちらに殺到し、次から次へと鍵爪付きの投げ縄や投網を放つ姿であった。

 

「しまっ……!?」

 

あるいは、普段の剣丞なら待ち伏せを予想できていたかもしれない。

あるいは、普段の剣丞なら物陰に身を伏せる敵の姿に気づいていたかもしれない。

あるいは、普段の剣丞なら掻い潜る事もできたかもしれない。

 

だがしかし、その日の剣丞は自身の嫁達が今にも犯されそうな状況に焦り、周囲への警戒をする余裕が無くなっていた。

その結果、新田剣丞は普段の活躍が嘘のようにあっさりと縄や網に手足を取られ、あっという間に複数の織田の兵達によって取り押さえられてしまったのだ。

 

「くそっ! くそぉっ! この、斬れない……」

 

剣丞が投網の中で剣を当て、手足に絡みついた投げ縄を斬ろうとする。

しかし、元々剣魂は大江戸学園の学生同士で使われる刃引きがされた物品である。

蘭丸のような神話生物は豆腐かバターかの如く容易く切り裂ける半面、縄や人間のような物理的に断ち切る必要のある物には滅法弱い。

しかも蘭丸が準備させた投網や投げ縄は、鋼糸を編み込ませた特注品なのだから猶更だ。

 

それなら……と、剣丞は以前姫野から渡された小太刀(第92話)を引き抜こうとした次の瞬間。

 

「……止まれ」

 

瞬間、剣丞の全身が硬直する。

まるで全身がコンクリートで固められたかのような感覚、それはかつて金ヶ崎の敗走中に遭遇した森蘭丸の能力だ(第68話)。

 

「(また……まただ!? 声も出せない!?)」

 

「1人なら止められる。 たとえ剣魂で洗脳対策をされていようと、直接目を合わせ、

 直接声を聴かせられ、精神を集中する時間もあればこうやって止められる。

 だけど間違いなく2人同時は無理だ。

 剣魂を持った人間が2人以上いたら、1人を止めている間にもう1人にやられる」

 

完全に身動きが取れなくなった剣丞の前で、蘭丸がぶつぶつと独り言を言う。

その間にも、剣丞隊のメンバーは次々と織田の将兵達に組み伏せられ、犯され、成す術も無く絶頂させられていた。

 

既に蘭丸は剣丞隊の事は眼中に無い。

剣丞隊には完全に勝利したものとして、剣丞隊よりも厄介な越軍とどう戦うかを考えている様子であった。

 

「や……やめ……ろぉ……」

 

剣丞は辛うじて声を絞り出す。

今の剣丞には羽虫の飛行音のようにか細い声を出すのが精一杯で、当然のように蘭丸は止まらない、剣丞隊を……一葉や幽といった剣丞の嫁達を強姦する男達の動きも止まらない。

 

「(ご主人様! ご主人様ぁっ! しっかりしてください!

 今そちらに向かっております! もう少しだけ待っていてください!!)」

 

その声は剣丞の脳裏に直接響く声だった。

物理的な『音』ではない……剣丞隊所属の忍者にして、剣丞の嫁の1人、服部半蔵正成・通称小波の御家流『句伝無量』によってもたらされる超常の『声』だ。

 

小波は越軍の追撃を警戒していたために本体からかなり離れた位置にいたのだが、剣丞隊の主要な何人かにあらかじめ渡しておいたお守りを通じて異変を察知し、一直線に剣丞の元へ向かってきていた。

剣丞に何度も何度も声を届けながら、必死に走ってきているのが分かった。

 

それに気づいた時、剣丞は一瞬『助けてくれ』と叫びそうになる。

何とかしてくれ、どうにかしてくれと哀れに懇願してしまいそうになる。

だが……

 

「来るな……来るな! 来ては駄目だ! 今すぐ離れるんだっ!!」

 

剣丞は己の心の中の弱気をねじ伏せて叫ぶ。

 

視界の端で、一葉が男に抱かれているのが見えた。

他の剣丞隊の女達も、別々の場所で別の男達に組み伏せられているのも分かった。

あるいは小波だけはこの吐き気のする光景から守りたいと思ったのかもしれない。

 

「(ご、ご主人様……しかし……)」

 

「命令だ! 今すぐ離れるんだ!

 そして今日ここで何が起きたのかを九十郎に伝えるんだ!」

 

それは絶望的な状況下での悪足掻きかも知れない。

自力での勝利を諦めた敗北主義的な言葉なのかも知れない。

 

だがしかし……その叫びは、絶対的優位の立場にいた蘭丸を青褪めさせた。

 

「え、嘘……服部半蔵がいない……? げっ、本当にいないだって!?

 ああしまった! なんてこった、なんて迂闊な!?」

 

蘭丸は頭を抱えて狼狽えるもすぐに気を取り直し。硬直する剣丞から小波のお守りを奪い取る。

 

「服部半蔵! 服部半蔵正成っ! お前今どこにいる!?」

 

お守りを触媒に、蘭丸のテレパシーが小波の元へ伝達される。

当然、小波はお守りが蘭丸の手に渡った事をすぐに理解しており、その質問に回答はしない。

 

「……ちっ、切断されたか。 いや、当然か。

 だけど大まかな距離と方向は今の一瞬で分かった……久遠!

 伊賀の忍者達をありったけ呼んできて追跡をお願い! 念のため武装もさせて!

 長尾に情報を持ってかれるのは非常に拙い!!」

 

「むっ……良く分からんが、分かった!!」

 

蘭丸の指示で織田の本陣が慌ただしくなる。

こんな事もあろうかと蘭丸は織田家を掌握後、伊賀の忍者達も洗脳して手駒に加えておいたのだ。

 

その伊賀忍者達が10人も20人も現れて、先ほど蘭丸が割り出した小波の居場所へ駆け出した。

 

「(頼むぞ、小波……)」

 

投網と金縛りで身動きが取れない中で、剣丞は小波の無事を祈る。

駆け込む先がついさっきまで自分が力づくで止めようとした美空や九十郎の元だという点については、この際考えない事にした。

蘭丸を止められる可能性のある者が他に思いつかなかった。

 

……

 

…………

 

………………

 

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 

新田剣丞が囚われの身になってから半日が過ぎた。

小波は何か所かの傷を受け、その息は荒れていた。

 

服部半蔵はこの時代において上から数えた方が早い凄腕の忍者だ。

たった半日程度走った程度で息が荒れるなんて事は無い。

 

通常ならば……

 

「グアァァァーーーッ!!」

 

「……ぐぅっ!」

 

物陰で身を潜める小波に大型の獣が襲い掛かる。

蘭丸に洗脳された織田軍から逃亡を開始してから何度も何度も攻撃を受けている。

何度身を隠しても、川を渡り、谷を越えてもなおその獣は執拗に小波を攻め続けてきた。

 

「離れ……ろぉっ!!」

 

顔面を噛み砕かれそうになるのをギリギリで止め、巴投げの要領で投げ飛ばす。

 

「ギシャルルルゥッ!」

 

怖気が奔る呻き声だ。

気が弱い者ならこの恐ろしい呻き声を聞くだけで失神してしまうかもしれない。

 

忍者の中には犬や鳥を手懐けて敵を襲わせる術を使う者がいる。

最初はこの獣もそういうものだと思っていた。

だがしかし……『それ』は見た事も聞いた事も無い姿形をしていた。

頭は猿、胴体は狸、手足は虎、尾は蛇に似た造形で、あらゆる箇所が他のどの獣とも異なっている。

複数のまるで違う造形物を無理矢理混ぜ合わせたかのような奇怪な姿に、小波は吐き気すら感じてしまう。

 

恐ろしいのは外見だけでは無い。

その強靭な毛皮は刀や手裏剣では傷一つ付かず、恐るべき動体視力と反射神経は小波からの反撃を易々と躱す。

聴覚も嗅覚も優れていたため、何度逃げ隠れしてもすぐに追いつき、執拗に攻撃を繰り返す。

しかも知能まで高く、火も恐れず、どんなに死力を尽くそうが逃げる事も撃退する事も叶わない。

 

捕獲レベルに換算すれば8程度だろうか。

小波が過去に戦ったどの敵よりも強い相手であった。

(捕獲レベル1で、猟銃で武装したプロのハンターが10人必要な強さである)

 

「く、このままでは……」

 

小波の左腕から血が流れ落ちていた。

先程この獣と揉み合った際に、爪か牙で血管が破られたようで、布で縛った程度では十分な止血になっていない。

急ぎ傷口を縫わなければ、失血死すらありうる状況だ。

 

「グオアァァッ!!」

 

またもや獣が飛び掛かって来る。

全身が傷だらけ、疲労困憊の状態……小波の反応が一瞬遅れる。

 

その一瞬の遅れが致命的になった。

 

「(あ……やられ……)」

 

……直後、小波は周囲がスローモーションのようになるのを感じた。

 

獣が自身の喉笛を正確に狙っているのが分かった。

防御も回避も絶対に間に合わないのも分かった。

自分の死を確信してしまった。

 

小波は……

 

「ひめ……の……」

 

小波は思わず、そんな言葉を呟いていた。

小波は自分自身、何故そんな言葉が口から出たのか分からなかった。

『姫野』という名前に心当たりが無かった。

自らに襲い掛かる未知の獣を凝視していたら、全く記憶に無い名前が思い浮かんだのだ。

 

そもそも、何故『姫野』という言葉を何かの名前だと思ったのかすら分からなかった。

 

「ぐ……るるぅ……」

 

小波の喉仏を食い破る寸前、獣は止まった。

 

そしてワナワナと震え始めた。

その表情は、震えの源泉は……凄まじいばかりの『怒り』である。

 

「なんで……なんで……普段は顔も名前も忘れまくる癖に……

 なんでこの姿の時だけ姫野って分かるしいいいいぃぃぃぃーーーーっ!!」

 

……そして叫んだ。

 

「……って、あれ? 姫野何でこんなトコにいるし?

 しかも切り札の獣化の術まで使ってるし。 小波? 小波が何でいるし?

 ちょっと、どうしてそんな傷だらけだし!?」

 

獣が急に人語を話し始めた。

その声を聞いた時、何故か小波は聞いた事があるような気がした。

そして同時に、目の前の獣こそが『姫野』なのではないかと、特に何の根拠も無く感じた。

 

「姫野……?」

 

「うん、姫野だし。 じゃなくて、どうしてこの姿の時だけ姫野って分かるし!?」

 

「いや、それは分からないが……」

 

そもそも『私達は知り合いでしたっけ?』と聞きたかったが、どうにもそういう雰囲気ではなかった。

 

「とにかくちゃんと手当するし! かなり深手の傷もあるし!」

 

未知の獣がゴキゴキと骨を鳴らし、メキメキと肉と皮を歪ませ、人間の姿に……それも、美形かつ若い女性の姿になった。

その顔は、小波にとって全く見覚えの無い顔であった。

 

「……誰だ貴様は?」

 

「はい、いつもの入りましただしぃっ!!

 もう何回このやり取りしたか数える気も起きねーしぃっ!!」

 


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