次回タイトルは未定です。
第139話にはR-18描写があるため、犬子と九十郎(エロ回)に投稿しました。
第139話URL「https://syosetu.org/novel/107215/46.html」
武田晴信の死から一ヶ月。
美空は未だ収まらぬ混乱に乗じ、武田傘下の中小勢力を次から次へと討ち滅ぼし、あるいは降伏させ、その勢力を急激に伸ばしつつあった。
「こいつは今まで散々舐めた態度取ってたからぶっ潰して恩賞に当てて。
こいつは色々借りがあるから踏み倒して……」
「こっちは蝙蝠外交ばっかりで信用しきれねーっすから叩き潰してーっすね」
その日の春日山城では、美空と柘榴が色々と良からぬことを企んでいた。
「ちょっと待つでやがる、そこは夕霧から話せば無血開城すると思うでやがる」
「えー? でもここって武田の勢力圏の割に結構田畑が豊かなのよね、
武田勢力圏にしてはだけど」
「交通の便も悪くねーっすし、欲しがるのも多いっすよ」
「領地召し上げじゃあ流石にうんとは言わねーでやがるよ」
「じゃあ可哀そうだけどミンチにして恩賞に当てましょう。
晴信が死んだ混乱に乗じて取れるだけ取らないとね」
「御大将も中々のワルっすね」
「くくく……柘榴や、そちには敵わぬわ……」
「お~ほっほっほっほっほっほっ!」
「わ~はっはっはっはっはっはっ!」
美空と柘榴がこれでもかって位に邪悪な笑いを高らかにあげている。
最早笑いが止まらない状況であった。
「あんまりやり過ぎると夕霧が降伏した意味と言うか、必要性が無くなるでやがるから、
程ほどにしてほしいでやがるよ……」
「大丈夫大丈夫、これ以上ない位に役立ってるから」
「武田という名のでっかい後ろ盾が急に木端微塵に砕け散ったから、
この辺一帯の豪族達が面白い位に右往左往してるっすよ」
「柘榴、今日までに届いた露骨過ぎる擦り寄りの手紙の枚数は?」
「百から先は数えてねーっす!」
それだけドライゼ銃の一斉射撃の衝撃はすさまじかったという事である。
最強と謳われた武田の騎馬隊が成す術も無くハチの巣にされ、散々に打ちのめされたという事実は、最早隠しようがない事だ。
それ故に、『最強』の武田を頼みとしていた弱小勢力は当然として、日ノ本の全ての大名家の目と耳が越後に向いていた。
美空も柘榴も、その他越後長尾家に与する全ての者が、過去に無い多忙で、過密な時間を過ごしていた。
やる事は山積みで、文字通り寝食を惜しんですら一向に減る気配が無いどころか増え続け、もう面倒だからよっぽど残す価値が高い勢力以外はドライゼの威力をもって綺麗サッパリあの世に送っちゃおうという考えが蔓延するような日々であった。
「武田は滅んだ。 私は己の不甲斐なさを責めるのみだよ」
「滅んだ原因の何割かは間違い無くてめぇでやがるよ! 一二三ぃっ!!」
「いや、私もそう思うんだ」
そしてそんな美空や柘榴の悪だくみに、表裏比興と書いてクソヤロウと読む真田昌幸がしれっと混ざっているのもいつもの光景である。
「でも真面目な話、
貴女が敗戦後ノータイムで恭順の意を示してくれたおかげではかどっているわ。
アレが無ければドライゼで射殺していた人数が2倍から3倍位は増えていたと思う」
「それにしたって、もうそろそろ1万人くらいは撃ち殺してる気がするっすけど。
九十郎が頭抱えてたっすよ、弾薬の生産が追い付かねーって」
「薄々そうじゃねーかって思ってたでやがるが、やっぱり硝石を作ってたでやがるか。
どのくらい作れるでやがるか? 原料は?」
「悪いけどまだ秘密、そのうち教えてあげるわよ」
「どーせそのうち漏れるっすけど、今漏れるのは勘弁っすよ」
「まあ、流石に仕方ねーでやがるな」
「悪いわね、まだ貴女達に全幅の信頼を寄せられる訳じゃないのよ」
「ちなみに、一二三はその辺知らされてるでやがるか?」
「九十郎から全部丸々教わっているとも」
「私は教えて良いって言った覚えないのだけどね」
「ちょっと落ち込んでたのでエッチぃ事をさせたら洗いざらい吐いてくれたとも(第82話)」
「御大将、もうちょっとハニトラ対策はしておくべきだったっすかねぇ」
「本当にね」
「……それ、いつの話でやがるか?」
「え? 件の越後長尾家後継者決定戦の頃ですが」
「……さっき『滅んだ原因の何割か』って言ったの、訂正するでやがる。
10割てめぇのせいでやがる一二三ぃっ!!」
「まあそれはそれとして」
「それはそれじゃねーでやがるぅっ! 2~3発殴らせろでやがるぅっ!」
「それはそれとして、硝石の生産はともかく、
ドライゼの製法の方はそろそろヤバそうだって、雫が言ってたっすよ」
一二三に殴りかかる夕霧を放置して、柘榴が話を続ける。
「頭が痛い問題ね、けど仕方が無いわ。 この間から戦場であんだけバカスカ撃ってるもの、
どうせ何丁かはドサクサ紛れにパクられてるわよ」
「そしてドライゼの製法を解明して、ドライゼ運用の目途がつくまで時間を稼がねばとか、
ウチに交渉を持ちかける手紙が毎日どっさりっすね!」
「もう面倒臭くて読む気にもなれないわね!」
「目を通すくれーはしてやれでやがる! 書いてる方は命懸けでやがるよ!」
夕霧が一二三に殴りかかる手を止めた。
「ごめん、これ以上睡眠時間削ったら先に私が死ぬわ」
「御大将が倒れたら柘榴や秋子も過労で死ぬっす」
「高橋是清みたいに引退してやろうかしら」
「何度引退したって地の果てまで追いかけて政界に連れ戻すっすよ!」
「コレキヨ……?」
リアルチートである。
「じゃあ、夕霧が読んで内容を要約してやるでやがる。 それなら読むでやがるか?
というか、今後の統治のためにできれば残しておきてー家も混じってるでやがるから、
そこからの手紙くれーは読むでやがるよ」
「是非お願いするわ!」
「普通に機密事項っすけど、四の五の言ってはられねーっす!
柘榴達の睡眠時間のために働いてもらうっすよ!」
美空と柘榴がノータイムで飛びついた。
当然、美空も柘榴も気づかないし、想像すらしない……夕霧が蘭丸によって精神を一度壊され、再構築され、傀儡と化している事に……
「全く、このユルさ……心配になってくるでやがるな……」
夕霧がため息をつきつつ、未処理の手紙入れの攻略にかかる。
手紙の数も分量も膨大であり、しかも言質を取らせまい、揚げ足を取らせまいと迂遠な表現が多く、時節の挨拶等の無意味な表現が必ずと言って良い程に混じっていた。
確かに、比較的時間がある夕霧さえも、読む気が失せてくる。
手紙一通あたり3行くらいには要約しないと、あいつらは読んではくれないだろうと、夕霧は自らに気合を入れ直した。
「そう言えば、粉雪はまだ行方不明のままでやがるか?」
悲鳴のような助命嘆願の手紙を読みつつ、夕霧がそんな事を口にする。
「まだ見つかって無いわ……と言うよりも他にやる事が多すぎて着手すらできてないわ」
「早めに探した方が良いでやがるよ。
粉雪はなんと言うか……思い切りが良いでやがるから、
夕霧にも予測がつかない事をしでかすかもしれねーでやがる」
「武田の情報網に引っかかって無いの?」
「あんだけバカスカとドライゼを撃たれたでやがる。
武田の組織ははっきり言ってズタズタでやがる、情報網は完全にマヒして、
軍事行動すら当分不可能に近いでやがる。 湖衣も未だに行方不明でやがるし」
「死んだんじゃないの~?」
「思ってても口にすんなでやがるぅっ!!」
そしてしばらくの間、ギャーギャー煩い美空と柘榴を尻目に黙々と要約作業を続け……
「ありゃ、この手紙は豪族からの手紙じゃねーでやがるな……
乱筆で、誤字脱字が多すぎて意味が分からねーでやがる。 柘榴、分かるでやがるか?」
「どれどれ……ああ、こりゃ軒猿からの報告っすよ。
一見すると関係ねー事を描いてあるように見えて、暗号を知っていれば……」
その意味不明な手紙を目にした柘榴が、急に黙る。
しばらく手紙を前に、不気味な程に沈黙し……
「御大将、駿河は……
かつての義元公の城下は、こっちの予想以上にやべー事になってるっすよ」
美空にそう告げた。
「そう、やはり出ているのね」
「ああ、ちょっと洒落にならねー位にひしめいてるようっすね」
「鬼が?」
「鬼っす」
発狂しかねない程の激務の美空や柘榴達に、さらなる仕事が舞い込んだ瞬間である。
それは美空達が面倒だからドライゼで射殺して勢力を広げようなんて無茶をし続けた理由の一つであり、下手をすれば日ノ本そのものがひっくり返りかねない厄介事……鬼への対処である。
「弾薬、あとどのくらい残ってたかしら?」
「そろそろ底を尽きそうっすよ」
「鬼にブッ放す分は残しておくべきだったかしら」
「今更言っても後の祭り、火葬後の心臓マッサージっすよ」
「それもそうか……まあ、九十郎がどんどん増産してるから、
弾不足はそう長く続かないでしょ」
「え? そうホイホイ増産はできねーって九十郎、言ってなかったっすか?」
「あれ? そうだったかしら?」
「当たり前っすよ。 ほぼ九十郎一人で道具を作って、
材料を混ぜたり炉の温度を管理したりしてるっすから。
それに今の作業所の面積じゃあこれ以上大きな炉を作れないっす」
「それなら人を増やせば良いじゃない、 施設も拡張して……」
「御大将、秘匿技術っすよ。 人を増やすのも道具を運び込むのもそう簡単じゃねーっす」
「……あ」
美空は頭が真っ白になった。
九十郎がハーバー・ボッシュ法を用いてどんどん硝石を作ってくれたおかげで、完全に感覚がマヒしていた。
美空は心のどこかで、ドライゼ銃を無限に撃ち続けられる魔法の武器のように扱ってしまっていたのだ。
そして美空がその過ちに気づいた直後……
どかあああぁぁぁーーーっんん!!
春日山城が大きく揺れた。
……
…………
………………
一方そのころ、練兵館では。
「次の戦い、オレはクズロー達の敵に回る」
全ての力の使い果たし倒れ伏す犬子と九十郎の前で、新戸が唐突に現れ、そんな敵対宣言をした。
「ごめんね、新戸ちゃん……犬子達、すっごく疲れてるから……後にして……」
「やべえ、布団敷く気力も、飯を作る気力も沸かねえ……
ああ、意識がだんだん遠のいて……いく……」
「九十郎、犬子も……もう駄目みたい……」
犬子と九十郎、堂々完結……と、いう事には流石にならない。
犬子は武田の崩壊と共にすり寄って来た連中に鉛玉をプレゼントする仕事が、九十郎はハーバー・ボッシュ法で肥料と弾薬を作る仕事に追われ、ちょっと疲れているだけである。
特に『話せばわかる』『問答無用』『ズキュン! ズキューンッ!!』という五・一五事件めいたやりとりを、東に西に駆けずりまわりながら繰り返してきた犬子の肉体的、精神的な疲労は甚大であった。
実際、先の武田との決戦でこれでもかって位に有用性を示してしまった以上、日ノ本中の大名家がドライゼの製法を知ろうとするだろうし、美空達がどれだけ秘匿しようとしても情報を抜かれるのは時間の問題……よって、ドライゼ銃配備という有利性がある内に崩せるだけ崩しておきたいという美空の思惑は理解している。
調略で済ませられる所は調略で何て言っていたら時間がかかって仕方が無いし、ドライゼ怖さだけでこっちに着いた連中がどこまで、あるいはいつまで信用できるかも分からないのも理解している。
理解しているが、ここまで過密かつ苛烈にやる事はないんじゃないかと犬子は思った。
「首尾はどうだった?」
「来た、見た、撃った」
「いつも通りか……今回の出張は割と早かったが、何人射殺した?」
「えっと……いち、にい、さん……とりあえず百以上かなぁ……
下着まで返り血でべっとりだけど着替える気力も沸かないよもう……」
「後で洗い場に出しとけ、洗っとく」
「ごめんね九十郎、最近家事全部押し付けてるよね……」
「本当にな、後で美空に文句言ってやる」
「雫は? 先に戻ってるって聞いてるけど?」
「アイツを起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れている」
「うん、分かった、起こさないよ。 気持ちはすっごく分かるから……
と言うか、犬子もこのままじゃ寝ちゃう……そして風邪をひく……」
「寝るな犬子~、死ぬぞ~」
「お布団まで運んでよ~、九十郎ぉ~」
「甘えんな、寝床は用意してやってるから自分で行け」
「……じゃあ、ちゅーしてよ、そしたら元気出すから」
「しょうがねぇな……」
九十郎が這うように廊下を進み、力尽きて倒れ伏す犬子の元へとのそのそと近づき……そっと唇と重ねた。
「ぐぅ……すぅ……」
「って寝てんじゃねぇよっ!!」
「犬子死ぬほど疲れてるから……寝かせて……」
「ちOこ突っ込むぞコンチクショウ!」
「あ、ごめん今はちょっと勘弁して。 起きるよ、起きるからさ」
今にも崩れ落ちそうな程に疲弊しきった身体に鞭打って、犬子が返り血塗れの装備品を抱えて立ち上がる。
「おいクズロー、次の戦い、オレはクズロー達の敵に回ると……」
心の中を読まずとも、明らかに話を聞いていないと察した新戸が2人の後を追おうとするも……
「きゃあああぁぁぁーーーっ!!」
絹を裂くかのような悲鳴によって新戸の声は遮られた。
「え、何!? 今の雫の声だったよね!?」
「ゴキブリでもでたんじゃねーのか?」
「そんな訳ないでしょ! 行くよ九十郎!」
友人の悲鳴に犬子が疲労困憊の身体に鞭打ち、奥へと走る。
「雫っ! どうしたの!?」
鬼が出たか蛇が出たかと、襖をパーンと勢い良く開き、犬子が寝室に突入した。
見れば雫が窓から見える外の様子を眺めながら、ぷるぷると震えていた。
「な……なんで星空が……なんで……九十郎さんのためにお料理していた筈なのに……」
「え? どういう事?」
「いや、包丁持ってた手が震えてたんでな、こりゃアカンと思ってこう……
スリーパーホールドをだな……」
「もうちょっと穏当な手段で寝かしてあげなよっ!!」
「い、言われてみれば九十郎さんに後ろから抱き着かれた時から記憶が無い……」
とりあえず意識を失う瞬間、雫は割と幸せそうな顔をしていた。
「悪いな雫、無理してそうだったんでこっちの判断で休養を取ってもらってた」
「く、九十郎さんと二人きりになれる唯一の好機が……
せっかく練習してきたお料理が……」
色々計算が狂ったと、雫はショックを隠し切れないようであった。
「九十郎、謝りなよ」
「なんで俺が?」
「女の子ってのは、好きになった人のためにちょっと位の無理はしちゃくものなんだよ」
「気持ちは分からんでも無いが、指でも切られちゃ迷惑だ」
「それは……そうかもだけどさ……」
「いえ、分かっています。
今は越後長尾家にとって……いえ、日ノ本にとっても大事な時期です、
大事な時期に無理をしてはいけないというのは分かっていました。
ですが……その、差し出がましいようですけど、
九十郎さんに相当な無理がでているように見えましたので、
美味しい物でも食べて、少しでも元気になってもらえればと……」
「それでお前が倒れちゃ拙いだろ。 知ってるんだぞ、
毎日毎日美空から無茶ぶりされて、あっちこっち走り回ってるって事くらいな」
「それは……」
雫は何も言い返せず、俯いてしまう。
冷静になってみれば、確かにいざ料理に挑もうとしていた自分の手は震えていたし、軽い眩暈や立ち眩みのようなものも感じていた。
「よーしそれじゃあ今から作り直そう!」
ちょっと良くない沈黙になりそうだと、犬子が2人の間に割って入る。
「い、今からですか!? もう夜中ですよ」
「そうだそうだ、寝る前に食うと太るぞ」
「3人で手分けすればパパッと作れるよ。
それに毎日東に西に走り回ってるから、ちょっと太る位じゃないと身体が保たないよ」
「俺疲れてるんだけどなぁ……」
そう言いつつも、九十郎は台所に向かう。
「犬子も疲れてるから御相子だね」
「仕方ねえ、たっぷり半日休んだ雫に頑張ってもらうか」
「そうだね、雫」
「え、あ、はい」
「ちょっと遅い夕食になりそうたけどさ、一緒に作ろうよ」
犬子がにかっと朗らかに笑い、手を差し伸べる。
雫は少し……ちょっとだけ、妬けるなと思いつつも、犬子の手を取った。
「んで、何作るんだ?
雫が持ってきた食材は手付かずだが、流石に何を作ろうとしてたかまでは分からんぞ」
「は、はい。 今日はビーフシチューを作ってみようかと。
以前お好きだと伺ったので」
「ああ、前に犬子が間違えて肉じゃがにしちゃったアレね……」
「今度はうっかりするなよ、犬子」
「大丈夫だよ! た……たぶん……」
「雫、こいつしっかり見張っててくれ」
「あ、あはは……」
そうして、なんやかんやで3人で料理をすることとなり、台所に食材を並べ、鍋や包丁も準備し、和気あいあいとした雰囲気で調理が始まる。
トン、トン、トン、とリズミカルに食材を切る音や、竈にくべられた薪がパチパチとなる音が台所から聞こえ始めた頃。
「おいクズロー、いい加減聞いてほしいんだが……」
いつまで待ってりゃ良いんだと新戸が口を挟んだ。
「心配すんな糞ニート、全然働かないお前の分も一応用意してやるよ」
なお、九十郎は桐琴救出時や、蘭丸に襲われた時に思いっきり新戸に助けられているが、当然のように綺麗サッパリ忘れている。
「駿河の鬼の事なんだがな」
止む無く、新戸は全然緊張感の無い九十郎に対し話を続ける。
当然、九十郎は右耳から左耳に聞き流しているが……
「アレを退治する戦では、オレは敵に回るのでよしなに」
……ただ1人新戸の言葉に耳を傾けていた雫の動きがピタッと止まった。
「ご……御理由を伺っても……?」
ちょっと声が震えていた。
「借りを作り過ぎた。 これ以上返済を先延ばしにすれば踏み倒しになりかねない」
「そーかそーか、頑張って来いよ」
全く危機感の無い九十郎が適当にも程がある激励を述べ、犬子はそもそも聞いていない。
「ちょ……ちょっと待ってください! 駿河で何が起きているのですか!」
「んん~、まあ、その位は教えても良いか。
剣丞達に斬られてきた鬼の怨念を集めて、タイラント……
いや、ウルトラキラーザウルス……どちらかと言えばジャンボキングの方が近いか。
ジャンボキングのような強力な鬼を、駿河で創っている」
「い、一大事ではないですか!?」
「ジャンボキング(仮)が完成するまで、オレは儀式の防御を行う。
そういう理由で、オレは駿河の鬼退治の時、敵に回る」
話を打ち切り、新戸は台所から離れていった。
後に残るのは、全く危機感の無い九十郎、そもそも話を聞いていない犬子と、とんでもない事になったと頭を抱える雫の3人だ。
読心能力、催眠能力、念動力、自然発火能力、どれをとっても一線級の御家流と互角か、それ以上の効果を持つ超能力をいくつもいくつも使いこなす新戸に本気で敵に回われては、どれほど厄介かと頭を抱えた。
「……ああ、それとだ」
どこかへ去ったと思っていた新戸が、ひょっこりと引き戸から顔を出す。
「あ、あの! 先程のお話! 翻意していただく訳には……」
「さっき粉雪が……いや、やっぱりやめた、人間同士の切った張ったへの介入はよそう」
慌てて新戸に交渉を持ちかけようとした雫を無視して、新戸はそれだけ告げてまたどこかへ行った。
その数秒後……
どかあああぁぁぁーーーっんん!!
春日山城が大きく揺れた。
直後、九十郎達の視界に、派手に爆破炎上する城が映った。