物語の舞台は田舎町因幡の国の東部、鳥国(ちょうこく)のさらに東に位置する岩井群にあり、物語はここから始まる。
『すっかり遅くなっちまった。』
急ぎ足で帰路についている少年の名は龍凪俊幸(たつなぎとしゆき)この物語の主人公である。彼は現在高等学校2年生で能力者(イノセンス)でもあった。それもただのイノセンスではなく、暗き者(クロノイド)と人間との間で起きた戦争・白夜戦役を終結に導くほどの実力者であった。
そんな彼が暗くなり始めた道は走っているとどこからか誰かが泣いている声が聞こえてきた。
「えっ、誰か泣いてる…のか?」
俊幸はあたりを見回してみると一人の少女がうずくまって泣いているではないか。
「おい、どうしたんだよ!こんなところで、大丈夫か?」
声に反応した少女が顔を上げると俊幸のよく見知った顔が見えてきた。
「あかり!?」
「としゆきくん…」
彼女の名前は天宮あかり(あまみや)、俊幸とはクラスが同じで普段は明るく誰にでも優しい女の子だ。
「どうしてこんなところで泣いてるんだよ?」
「グスッ、うんうん何でもないの…大丈夫、大丈夫だから」
彼女は涙を拭って大丈夫というが時刻は夜の8時を回ったところ田舎で街灯やひと気も少なく、女の子一人が出歩くような場所ではないことから心配しないほうが無理がある。しかも泣いているのだからなにかあったには違いないのだが…
『おいおい、大丈夫って大丈夫じゃないからこんなとこで泣いてたんじゃないのかよ。たくっ』
「わーた、俺は何も聞かない。でもそろそろ帰んねーと家族が心配すんぞ。送ってってやるから帰るぞ!」
彼はそう言って彼女の手を取り引っ張った。すると彼女は
「だ、大丈夫だよ。送ってもらわなくても一人で帰れるから!」
「あのな、ただでさえ泣いてて心配してんのに一人で帰らせたら心配過ぎて夜も眠れなくなるわ!黙って送られてろ、たくっ」
「うっ、うぅ〜わかった。」
「分かったならよろしい、ほらさっさといくぞ電車乗り遅れちまう」
『送ってもらえるのは嬉しいけどせめて手は離してほしいよ〜はずかし〜』
そんなことを思っている少女を他所(よそ)に俊幸はあかりの手をグイグイ引っ張って行く。
二人は無事に電車に間に合い、運良く座席に座ることが出来たので並んで座ることにした。
『ふぅーなんとか乗れたな、運良く座れたし後は目的地に着くのを待つだけだ』
「ねぇーとしゆきくん…」
「んっ、なんだ?」
「いつまで手握ってるの?」
「あっ、わりぃ」
少々困惑した様子で尋ねてくる少女に今頃気づいたかのように少年パッと手を離した。
『ヤベェ、すっかり忘れてた。つーことは手繋いだまんまここまで来たってことだから…今更になってチョー恥ずかしいことしてたんだな俺…』
「ありがとう、としゆきくん」
「えっ、なんで?」
『俺なんかお礼言われるようなことしたかな?』
「としゆきくん、私をほっといて帰ることもできたのに私と一緒に居てくれてるでしょ、だからそのお礼」
そう言って笑顔になる少女は不意にあくびをした。
「眠いのか?眠かったら寝ててもいいぞ?着いたら起こしてやるから」
「ふぇ、でも…としゆきくんもさっきあくびしてたよ。私は良いからとしゆきくんの方が寝て」
確かに俊幸はあかりの手を離す前大きなあくびをしていたが…
『いやいやいやいや、手を繋ぎっぱなしだったことに気づいて眠気なんかぶっ飛んじまったよ!』
「さっきはさっき、今は今ほんとに俺は大丈夫だからあかりは寝てな」
「うーんじゃあ、わかった。少しだけ肩借りるね」
「おう、ってえっ…」
『肩借りるね?…ってえええっー』
肩借りるねっといったあかりはなんのためらいもなく俊幸の肩に頭を落とし眠りについている。
『まっ、良いか別に減るもんじゃねぇーし』
ちょっと驚きつつも俊幸は自分の肩で寝る少女を起こすのは忍びないのでそのまま寝かせてやることにした。
「おーい、あかり起きろーそろそろ駅に着くぞ」
俊幸はあかりにそう言って優しく起こしてやると
「うっ、うーーんって、もう着いちゃったの?としゆきくんはちゃんと寝た?」
「いや、寝てないけど…つーか俺まで寝ちまったら駅通り過ぎちまうかもしれないだろ?」
「そっ、それはそうだけど、もう少し早く起こしてくれれば交代で眠れたじゃない?」
「別に気を使うことはないし、てか早く降りないと電車が出ちまうよ」
俊幸はそう言って会話をきると立ち上がり電車の外へと出ていった。
「あっ、待ってよ。いたっ」
あかりも後をついて電車を出ると立ち止まっている俊幸の背中にぶつかった。
「も〜どうしたの?としゆきくん」
『なんだ!?この禍々しい気配は…この気配はまるで3年前の…』
ーードッカーンーー
ものすごい爆発音とともにあたりが土ぼこりで視界が悪くなる。そして、駅構内に現れたのは俊幸にとって忘れることの出来ない存在…
「クロノイド!!」
「えっ、あれがクロノイドなの?」
俊幸の言葉にあかりは驚いたように大声を上げるとすぐ脇を瓦礫(がれき)が通り過ぎていく。クロノイド達に理性はなく、ところ構わず暴れまわっているようだ。
『くそっ、なんだってこんなド田舎にクロノイドが現れるんだよ!近くにあかりもいるし、力を使って戦うわけには…』
俊幸はイノセンスであることを学校関係者には隠していた。先の大戦である白夜戦役を終結させ、〝白夜の英雄″という二つ名まであるほどの一種の有名人であった。当の本人はその名では呼んでほしくはないのだが…
「としゆきくん早く逃げなきゃ危ないよ!」
そのような思考をしていた俊幸の袖口を掴みながら小刻みに震え訴えかけるあかり、そんな彼らにもクロノイドの魔の手が…当たると思われたが…クロノイドの手は彼らに触れることなく、塵となって消えていったではないか!?
「えっ、どういうこと?」
あかりは訳が分からず間の抜けた声をあげる。そしてクロノイドが消え去った先には黒い大剣を持った長身の男性がこちらを向いて立っていた。すると俊幸は…
「た、橘さん!?」
GO TO NEXT STAGE〜崩壊〜