1993年 ××××研究所
『戦闘訓練を開始します』
機械音声が流れる。円形の真っ白なフロアの複数のドアが一斉に開き、ハンターが開放された。
『リョウ、ハンターは全部で十体よ。全部倒せたら今日はもう休んでいいわ』
十歳ほどの黒髪の少年が付けているインカムに若い女性の声が流れる。少年はフロアの壁上部にある指令室を見ると、強化ガラス越しに声の主の女性が手を振っていた。
少年がその優しい笑顔に気を取られている内にハンターはジリジリと間を詰める。ハンターの一体が少年に飛び掛かって鋭い爪を振りだす。少年はハンターの殺気に気付いて、姿勢を低くしかわしたが、少年の頬をかすっていた。
「危なっ!」
避けるのが少しでも遅かったら、少年の首は飛んでいただろう。しかし、少年はそれに怯えることなく後ろへ下がり、両足にあるホルスターから二挺の拳銃を抜いた。
二体のハンターが両脇から襲い掛かる。少年は慌てることなく、その二体の頭に鉛玉を喰らわせた。
少年を恐れた残りのハンターは一斉に襲い掛かる。
ハンターの知能は決して高いわけではないが、人間の命令を聞いたり、連携攻撃も可能だ。しかし、兵器として優れているハンターは、少年に手も足も出なかった。
『お疲れ様』
全身がハンターの血塗れになった少年は、銃をホルスターに戻して、出口へと歩く。
彼の後方には一寸の狂いなく、頭を撃ち抜かれたハンターの死体が転がってた。
出口のスイッチを押してドアが開くと、そこには先程まで指令室にいたはずの若い女性が立っていた。
「母さん!」
「今日も頑張ったわね」
少年は女性に抱きついた。女性も血を嫌がることなく、少年を抱き締める。
「いっぱい汚れちゃったわね。今日はお風呂に入って早く寝ましょう」
「うん!」
少年は元気に返事し、シャワールームへと走っていった。
「今日はかすり傷だけで済んだんだって?」
女性の後方から若い男が現れる。女性の夫のようだった。
「ええ。あなたも見れば良かったのに」
「もうちょっと仕事を早く終わらせれば見れたかもな」
彼らがいる場所は、アンブレラ最大の研究所。その場所はトップシークレットでアンブレラの最高幹部しか知らない。この研究所で働く研究員は世界中から集められた最高の天才たちばかりだが、その彼らも目隠しで連れてこられ、研究所は地上なのか地下なのか、はたまた北極なのか南極なのかわからないが、そんなことはすぐに気にしなくなった。
アンブレラ最大の研究所ということもあり、必要な機材は全て十年以上先をいくテクノロジーが使われたものだった。ここではなんでも出来る。ほしいものを言えば、一日もせずに届けられる。娯楽施設もあれば、世界の都市の一部を再現した街まである。しかし、何より研究者たちの目をひいたのは、クローンの存在だった。動物、人間、植物のDNAさえあれば、完璧なクローンが造れる。ここで働く研究員以外の従業員は全て人間のクローンだ。しかし、研究員は他の方法でもクローンを使っていた。
クローンを使った実験。人間の完璧なクローンであるため臨床試験さえも簡単に出来た。もし、異常が現れれば廃棄すればよい。彼らにとってクローンなどただの道具だった。完璧なクローンといってもただのクローン。造られたモノはモノとして扱われる。そしてそれに反対する研究員はいなかった。彼らは表の世界じゃ出来ないことをやった。そして様々な薬を作った。アンブレラが世界で一番の製薬会社と言われたのはこの研究所があるからだ。
そして、この研究所では最大のプロジェクトが始動していた。
十年以上前、新しいウィルスが発見された。そして発見した研究者はそれをラグナロクウィルスと名付けた。
使い方によれば、世界を滅ぼすこともできるからだ。
ラグナロクウィルス――R-ウィルスは研究者を驚かせた。四肢を欠損させたクローンに投与すれば、四肢が再生し、癌を煩わせたクローンに投与すれば、癌細胞が死滅する。このウィルスがあれば、世界から全ての病気や障害がなくなる。そう思われたが、そんなに上手くいくはずがなかった。
R-ウィルスを投与された人間は数時間の内に死んでしまったのだ。病気を治したかと思えば、人間の身体を蝕んでいく。すぐに改良が進められたが、失敗に次ぐ失敗。研究は頓挫しようとしていたが、一人の研究者がそうさせなかった。そして彼が造ったのは遺伝子操作した自分の赤ん坊の頃のクローンだった。
その赤ん坊はウィルスに適合した。
それが黒瀬リョウだった。
そしてリョウはすくすくと育った。リョウを育てたのは彼のオリジナルである黒瀬和樹の娘、黒瀬祥子とその婚約者である俊哉だった。二歳になる頃から英才教育を始め、五歳になる頃には戦闘訓練を始めた。十歳になる頃には、この研究所にいる研究員にひけをとらないほどの頭脳と、世界で活躍出来るほどの身体能力を有していた。
リョウは何も疑問に思わなかった。B.O.W.と戦わせられても、一日中分厚い本を読まされても。彼は育ての親である祥子と俊哉さえいれば充分だった。
「母さん、今日は何するの?」
いつも通り、朝の六時に起きたリョウは祥子に聞いた。
「今日はね、お祖父ちゃんに会うの」
「え、お祖父ちゃんと……」
お祖父ちゃん──リョウのオリジナルである和樹のことだ。しかし、リョウはそれのことは知らない。
「どうしたの、お祖父ちゃん嫌い?」
「……うん、いつも怖い顔してるから。ボクもお爺ちゃんになったら、あんな感じになるのかな?」
「それはリョウ次第よ。他人に優しくすれば、怖い顔にはならないわ」
「……そうだよね!」
二人は和樹の部屋へ歩く。
和樹はアンブレラの最高幹部の一人であり、この研究所の所長だった。部屋もそれなりに大きい。
「お父さん、着いたわ」
祥子はドアのインターホンを鳴らした。
『来たか、R-1だけでいい』
R-1──リョウの実験体番号だ。
「わかったわ。リョウ、お祖父ちゃんはリョウと二人だけで話がしたいらしいの」
「えー、怖いよ」
「タイラントやハンターみたいに?」
「もっとだよ」
祥子はその言葉にくすりと笑った。
「一人で行けたら、今日はゲームを買ってあげるわ」
「え、本当!?」
「本当よ」
リョウは晴れ晴れとした顔で部屋の中へと入った。
大きな部屋の奥に和樹は立っていた。
「お祖父ちゃん……」
「来たか、R-1」
リョウは恐る恐る和樹へ近づく。和樹もリョウを見つめるが全くの無表情だった。
「R-1、お前は外の世界へ出たくないか?」
「外の世界へ!?」
リョウはもちろん外の世界を知っていた。
「今度の訓練で勝てたら両親と外で暮らすがいい」
「本気なの、お父さん」
祥子は和樹を問いただす。
「本気だ。R-1の教育もそろそろ終わりにする」
「今までこの研究所で暮らしてきたのよ? そんな彼を外に出したら……」
「どうなるんだろうな」
「どうなるんだろうなって……」
祥子に怒りが込み上げてくる。
「祥子、勘違いするな。お前は親役だ。本物の親ではない。それにこれはただの実験のはずだ。お前は実験体に本当の愛情でも持つのか?」
確かに、リョウは和樹にとっても祥子にとっても実験体だった。しかし、祥子はリョウに親として接する内に本物の息子として愛情を注いでいた。
「理由を聞かせてください」
「単純だ、ただの実験だよ。その代わり、R-2はここに残す。R-ウィルスを宿した人間にはこれから全く別の環境で暮らさせる」
R-2─リュウのことだった。彼にもリョウと同じように英才教育や戦闘訓練をしているが、リョウと違うのは親役がいないことだった。
「それで……R-ウィルスの変化をみたいわけね?」
「そうだ。外の世界でもお前と俊哉には親役を続けさせる。お腹の子も外で暮らす方がいいだろう」
和樹は証拠の腹に宿る子の心配をしていた。彼にとって本物の孫に当たる存在だ。実験体とは違う。
「そうかもね。このお腹の子にとっても」
「仕事については心配するな。アンブレラ・ジャパンで働けるように手配しておこう。ここほどではないが、機材は一通り揃っている」
「わかったわ。俊哉には私から話しておく」
「母さん、今度の敵を倒せば外で暮らせるんだよね?」
「ええ、そうよ」
「どこで暮らすの?」
「日本の床主市よ。知ってるかしら」
「確かに海上に国際空港があるところだよね」
リョウたちが引っ越す場所は既に決まっている。リョウが新型B.O.W.を倒せれば床主市のマンションに住むことになる。――倒せなければ、という考えはなかった。リョウは十年以上も訓練を積んできた。新型だろうと、彼ならば倒してくれるはずだ。
そして、戦いの日はすぐにやってきた。
「今日でこの場所ともお別れかぁ……」
真っ白な部屋。この場所で何十回、何百回もB.O.W.やクローン兵士と戦って、殺してきた。今日、勝てばこれで最後になる。リョウは負けるつもりなど一切なかった。今までと同じで本気で戦う。
司令室には、和樹やリョウの両親、アンブレラの幹部が集まっていた。新型B.O.W.と、R-ウィルスを宿した少年、どちらが勝つのか。
(リョウ……勝って!)
祥子は心から願う。
扉が開く。そこから現れたのは、身長が三メートル近くある大男。新型B.O.W.とはタイラントとのことだった。
司令室がざわめく。何もかもがリョウを上回っている。普通なら勝てるはずがない。
「……結構大きいな」
当事者であるリョウも驚いていた。身長は自分の倍近く、ふとましいその腕はコンクリートをも破壊できるだろう。
それでもリョウは負けるつもりはなかった。
武器はいつものハンドガン二挺とナイフ一本。これほど巨大な敵だと心許ない気もするが、やるしか選択肢はない。
タイラントはリョウに向かって走る。見た目とは違い、速い。
リョウは銃を抜いて、タイラントに撃つ。しかし、タイラントが着ているコートによって弾かれてしまう。タイラントはそのままリョウに突っ込む。
「うわっ!」
リョウは横に飛びながら、タイラントを撃つが全くといっていいほど効果がない。
タイラントは急停止し、腕を横に振った。リョウは即座にガードするが、タイラントのパワーは凄まじく腕の骨が軋み、吹き飛んでしまう。
「R-1は圧されていますね」
タイラントの計画に関わった研究員が和樹に言った。
「どうします? 強力な武器を与えてやってもいいですが……」
研究員はニタニタと笑う。彼も自分が造ったモノに自信を持っているのだろう。
「余計なことはしなくていい。R-1のハンデは拳銃とナイフだけで充分だ」
和樹はこの研究員と同じく、自分の造ったモノ――リョウに自信を持っていた。ここで死んでしまえばそれまで。代わりはいる。そう考えてはいるが、今までの訓練を乗り越えてきたリョウはやられるはずがない。
(どうすればいい!?)
リョウは逃げ回りながら、タイラントに勝てる方法を考える。
敵は防弾コートを着ていて、ハンドガンじゃ通用しない。唯一守られていないのは、頭だ。そこを狙えば勝てる可能性はあるが、生物の弱点である頭を守らないのは元々皮膚が硬いのかもしれない。
ともかくやってみなければわからない。
リョウは振り返って、追いかけてくるタイラントの頭に銃弾を浴びせる。タイラントは少し怯んだだけだった。やはり効果は薄い。だが、怯んだということはダメージはあるはずだ。
リョウはハンドガンの残弾を確認する。予備のマガジンの弾も全部頭に命中させれば倒せるかもしれない。
簡単に言うが、リョウもタイラントも動き、それを頭に命中させるにはかなりの集中力がいる。
(それでもやるんだ!)
司令室では皆が期待の目で見ている。その中には祥子と俊哉もいる。リョウは二人の期待を裏切るわけにはいかなかった。
二発頭に撃ち、タイラントの股間を潜り抜けて後頭部を撃つ。反応を見る限りやはり効果は薄いが、脳へのダメージはいっているはずだ。
立て続けに撃つ。しかし、ここで最大の難所が来てしまう。
引き金を引いても弾が出てこない。二挺合わせて二十発の弾が入っていたはずだが、最初で十発以上使っていたようだった。今までのB.O.W.ならば弾切れになっても体術で時間を稼いでリロード出来たが、タイラント相手には簡単ではない。そもそも体術が果たして効くのかどうか。投げ技や合気道もこの巨体には通用しないだろう。
ともかくやって見なければわからない。リョウは片方のハンドガンをホルスターに戻してもう片方のハンドガンのリリースボタンを押す。予備のマガジンを叩き込んで銃をスライドさせた。一挺はこれで成功した。二挺目にも取り掛かりたいが、慢心はいけない。この一挺で戦えばいい。
リョウの回避能力や集中力相まって、十分後タイラントはやっと膝をついた。
「やったのか?」
リョウの体力は限界を迎えていた。いくらR-ウィルスで身体能力が強化されていようが、十代で飛び抜けているというだけでオリンピックの選手には敵わない。まだ立ち上がるというのならば、相応の怪我が必要になってくるだろう。
「ほう、R-1も中々やりますね」
研究員はリョウとそれを造った和樹を誉めた。
「そちらの新型のタイラントもな」
もちろんこんな簡単に決着がつく相手ではない。勝負はここからだった。
タイラントは膝をついたまま、動かない。しかし倒したかどうか、不用意に近づくには危険だ。リョウはハンドガンをリロードした。
タイラントは立ち上がる。コートが崩れ落ち、屈強な筋肉が更に膨れ上がって、爪が鋭く伸びていく。
「これは……!?」
リョウは後ろに下がってタイラントを撃つ。しかし、屈強な筋肉で弾は防がれる。
「そうか、あのコートはリミッターみたいなものだったのか!」
命の危機に瀕すれば、コートが外れてスーパー化する。
タイラントは瞬時に間合いを詰めて、その凶悪な爪でリョウの腕を切り裂いた。手から落ちた銃が床を転がっていく。
(やばい!)
腕の痛みなどどうにでもなるが、スーパータイラントになったことによってパワーもスピードも格段に上がっていた。
「これは勝負ありですかな。R-1を失う前に中止した方がよろしいのでは?」
研究員は勝ちを確信していた。確かに誰の目から見てもここからリョウが勝つのは難しいだろう。
「実験は続行だ。ここで死ぬ程度のものならここで処分しておく」
和樹は冷酷な判断を下す。彼にとってやはりリョウは実験体に過ぎない。
「お父さん、止めさせてください!」
祥子が和樹に掴みかかる。
「このままじゃリョウが死んでしまうわ!」
そう言っている間にもリョウは切り裂かれ、蹴られ、吹き飛ばされていた。
「祥子、公私混同するな。前にも言ったが、奴はただの実験体だ。代わりはいくらでもいる」
彼に何を言っても無駄だ。聞く耳を持ちやしない。だが、逆らって実験を止めさせる権限は祥子にはない。祥子はリョウの無事を祈るしかない。
「…………痛い」
リョウは倒れたまま呟いた。
全身はズタボロで動かせそうにない。傷の再生も滞っている。ここままでは出欠多量で死んでしまうだろう。
────なんで僕、こんなことやっているのだろう?
リョウはふとそう思った。
毎日毎日、勉強して、武術の訓練して、B.O.W.と戦わされる。その度に傷付いて。
それが自分にとって当たり前の世界。化物と戦うなんて本当は嫌で、本の世界のようにちゃんと学校に行って、友達も作りたかった。でも両親のために頑張ってきた。だから、外の世界で暮らせるて聞いたときは嬉しかった。
リョウは誰にも言えないことを心の中で噛み締める。
タイラントがゆっくりとリョウに近づいていく。
死ぬ。このままだと。リョウは必死に床を這いつくばるが、タイラントの歩くスピードの方が速い。このままでは時期に追い付かれる
「死にたくない……死にたくない……」
なんで僕がこんな目にあわされなきゃいけないんだ。今までたくさん殺してきたのに。頑張ってきたのに。リョウの感情は段々と負へ変わっていく。死への恐怖がリョウを呑み込んでいく。身体も心も傷付いて絶望しかない。
タイラントが腕を振り上げる。死へのカウントダウンが始まる。このまま振り下ろされれば、死ぬ。
「……嫌だ」
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
じゃあどうすればいい?
────殺せばいい。
いよいよ、決着がつく。指令室のほとんどの者はタイラント側の勝ちだと確信していた。
タイラントが腕を振り下ろす。リョウの身体がバラバラに────ならなかった。代わりに落ちたのはタイラントの腕だった。
リョウはいつの間にか立ち上がっており、ナイフを構えていた。
「な、何故立てる!?」
研究員は驚く。
「先ほどまでは立ち上がる力も残っていなかったはずだ。まさか、弱ったフリをしていたというのか!?」
「そうではない」
和樹は断言した。
「あれがR-ウィルスの真骨頂だ。ウィルスを宿した人間の感情で能力が上下する」
「なに!?」
「R-1は死ぬよりも生きたいという感情が高かった。生きることにR-ウィルスが手を貸しただけだ」
「バカな、そんなウィルス聞いたことがない!」
「……そうだろうな。R-ウィルスは一際特別なウィルスなのだよ。今までのウィルス、これから造られるウィルス、全ての上位互換だ。……まだ完成はしていないがね」
そうこう話している内に、決着が着いていた。
バラバラに引き裂かれたタイラントの上に立っているのはリョウだった。しかし、倒したことに気付かずに、タイラントの肉片をナイフで刺し続けている。
「実験は終了だ」
和樹が宣言した。指令室の者は誰も文句など言えない。誰がどう見てもリョウの勝ちだった。
「お父さん、リョウに会いに行くわ」
祥子と俊哉が和樹に駆け寄る。
「好きにしろ」
その言葉を聞いた二人は笑顔で駆けていった。
「これで計画の第一段階は終了だな」
今はまだタイラントに手こずるほどが、将来は軽々と倒せるほどの力を得る。その為にも……
パン、パン! と既に戦いを終えた実験ルームから二発の銃声が轟いた。
リョウは無我夢中でタイラントの肉片を刺し続けている。最早タイラントの影も形も無くなっている。それでもリョウは刺し続けていた。
実験エリアのドアが開き、若い男女二人が入ってきた。
祥子に俊哉だ。二人とも涙ぐんでおり、リョウの生還を喜んでいる。しかし、リョウにはそれが醜い化物にしか見えなかった。
「リョウ、無事で良かったわ!」
(母さんの声?)
リョウにはハッキリと祥子の声が聞こえた。目を凝らして二人を見るが、リョウにはどうしてこ二人が化物に見える。
「本当に無事でよかった!」
(無事?)
リョウは二人の言葉に疑問を持った。
リョウの身体は全身血まみれで骨も何ヵ所も骨折している。何故この状態で無事と言えるのだろうか。
「このくらいの傷なら大丈夫よ。リョウの再生力なら治せるわ」
「……このくらいの傷?」
この姿を見て、このくらいの傷? リョウに激しい怒りが沸いてくる。
「泣き叫びたいほど痛いのに、このくらいの傷だって?」
リョウの言葉に祥子と俊哉は困惑する。
「どうしたんだ、リョウ。前に全身を切り刻む実験をしたじゃないか。トラックに轢かれる耐久実験もした。あの傷でもリョウは綺麗さっぱり治ったんだぞ」
俊哉は笑顔でそう言った。
「何で僕ってこんな目にあってるんだ?」
今まで両親のために頑張ってきた。何故、何のためにこんなことをされているんだ? リョウは肝心なことを知らなかった。いや、聞いても教えてくれないだろう。
「何で父さんも母さんも僕がこんなに傷付いているのに止めてくれないの?」
「それは……実験だからだよ。リョウだって今まで楽しんでいただろう?」
実験、それって何の? リョウはそう聞きたかったが、もう全部が嫌になってきた。
目の前の二人はさらに醜くなっていく。
誰のせいでこんな目にあう?
こいつらのせいだ。
リョウは銃を構えた。そして二人の頭を撃ち抜いた。
「何が起こった!?」
「わかりません、R-1がいきなり発砲を!」
和樹は窓から実験ルームを見る。祥子と俊哉の頭は撃ち抜かれており、どうみても即死だった。
「R-ウィルスの暴走なのか!?」
リョウの何かの感情が抑えきれないほど膨れ上がり爆発した。そうでなければ親役である二人に手を出すはずがない。
「実験ルームのドアを全てロック、催眠ガスを撒け!」
「“アレ”に効くんですか?」
「致死量を撒け。大丈夫だ、死にはせん」
まさか、このような形で終わるとは。
祥子……………。
和樹は膝から崩れ落ちた。