バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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80話 力の差

 黒瀬は起きると、先ほどと同じ部屋にいた。

 部屋の明かりは付いておらず、人の気配はない。

 奴はどこにいった?

 老人の姿は消えていた。

 拘束がいつの間にか解かれている。黒瀬は立ち上がって、部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 黒瀬とリュウは睨み合う。

 

 黒瀬はこのエリアに着いたばかりだが、この状況は理解していた。

 

「お前、俺のクローンか?」

  

 黒瀬はそうリュウに尋ねた瞬間、リュウからの殺気が突き刺さる。彼から尋常でないほどの怒りを感じた。

 

「オレはお前のクローンじゃねぇよ、出来損ないが!」

 

 リュウは黒瀬に殴り掛かる。黒瀬は後ろに回避するが、リュウは一歩詰め込んで腹に蹴りを喰らわせた。

 

 黒瀬はまるで自動車に撥ね飛ばされたかのような威力で吹き飛ばされ、ブロック塀を突き破って民家の庭に倒れた。

 

 ただの人間じゃない。黒瀬は痛みと引き換えにやっと気付いた。立ち上がって口に溜まった血を吐き捨てる。

 

「お前も俺と同じ能力を?」

「ああ、そうだ。それにしてもオレの本気の一撃を喰らっても立ち上がれるなんてな。出来損ないの癖にやるじゃねぇか」   

「何でこんなことをする? お前はアンブレラに造られたんだろ、何故奴らに従うんだ!?」   

「別に従ってるわけじゃねぇ。ここにいるとたくさん殺せるからな。人間でも、B.O.W.でも」

 

 同じ顔、同じ声、同じ体格、そして同じ能力でも、黒瀬とリュウの違いは明らかだった。リュウは戦いを楽しみ、殺しを楽しんでいる。

 

『何を言っても無駄だ、リュウはそうやって生きてきたのだからな』

 

 造られた空に巨大なモニターが現れ、それにはあの老人が映っていた。

 

「お前!」

 

 黒瀬を造り出した人物だ。最もそれが本当なのか黒瀬も思い出せないでいた。

 

『まさかまだ思い出せていないというのかね? 貴様は本当に臆病者だな。自分のやったことに目を背けている』  

「思い出すことなんてない!」

『現実を見ろ。君はただ思い出したくないだけだ。君の記憶は偽りで塗り固められている。そもそもその力がなによりの証拠だ』  

「なに!?」

 

 黒瀬は自分の拳を見た。

 

『君はR-ウィルスについて何の疑問も持たなかった。本当は分かっていたからさ』

 

 そうだ。黒瀬はこの男の言葉を肯定した。この力はウィルスで造られた偽物だ。そして昔の記憶を思い出せば思い出すほど、記憶がパラパラと崩れ落ちる。

 

「おい、ジジイ。別に話はそこまででいいだろ。どうせこいつはここで死ぬんだ。記憶を思い出そうが思い出さまいが関係ねぇ。楽しむことた大事だろ!?」

 

 リュウはサブマシンガンを黒瀬に撃つ。黒瀬は避けようとするも、身体の反応が鈍ってしまい、何発が被弾してしまう。

 

『R-ウィルスには特性がある。それは君も良く知っているはずだ』 

 

 黒瀬とリュウが交戦しながら男は話し出す。

 

『R-ウィルスは感情で能力が左右する。思い出してみろ』

 

 黒瀬はリュウの攻撃を避けながら、記憶を振り返る。コーカサス研究所でタイラントと戦った時、孤島でクラウザーと戦った時、シカゴでグレッグと戦った時、そしてアフリカでソフィアが死んだ時がそうだ。他にも色々と思い付く。

 

『怒りで能力が上がるのではない。自分の戦う意思だ。それが出来ないとアフリカで君の仲間が死んだ時のようにただ暴れまわる怪物になる』

 

 つまり、現在能力が発揮できないのは、黒瀬の戦う意思が揺らいでいるからだ。そもそもアフリカから連続の戦いで身体は疲れきっており、そこにクローンだの、R-ウィルスだの、記憶だのと黒瀬の脳はぐちゃぐちゃになっていた。

 

「一体、どうしろってんだよ……!」

 

 黒瀬はリュウに回し蹴りを仕掛けるが、見事に避けられてしまう。

 

「遅ぇ!」

 

 リュウのカウンターが顎に決まり、黒瀬は吹き飛ばされて駐車場の車にぶつかる。

 

「出来損ないが。お前はオレには勝てないんだよ」

「俺は……出来損ないじゃない……」

「出来損ないだよ、お前は! 今がそうだ! ナヨナヨ悩んでてさぁ。でもオレは違う。悩むなんてことはしない! それよりも殺すのが楽しいからな!」

「俺は……悩んだからこそ、今の俺があるんだ……!」 

「だからなんだよ!」

 

 リュウはグレネードランチャーを撃つ。黒瀬は咄嗟で避けるが、弾が車に当たって爆発し、爆風で吹き飛ばされる。

 

「オレの方が強い! 殺しを楽しんできたオレの方が強いんだよ! 悩んで得することなんかねぇよ!」

 

 リュウはグレネードランチャーを撃ち続ける。黒瀬は避けても避けても爆風でよろめき、吹き飛ばされてしまう。

 ランチャーの弾がなくなり、リュウは武器を対物ライフルに切り替えた。

 

「お前と比べられてるってだけで虫酸が走るぜ」

 

 リュウは対物ライフルの引き金を引く。黒瀬に避ける力は残ってなく、身構えるが弾は飛んでこない。

 

 リュウは引き金をもう一度引くが弾は出ない。黒瀬に対する怒りで弾切れなのを忘れてしまっていた。

 

 チャンスだ。身体が動かないとかは関係ない。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 黒瀬は走り出した。一歩足を着くたびに激痛が走り、全身が悲鳴をあげる。それでも黒瀬は走りを止めない。身体の心配なら後で良い。痛みで動けないからといって、チャンスを逃して死ぬのは御免だ。

 

「クソっ!」

  

 リュウはライフルを投げ捨てて予備のハンドガンを抜こうとするが、黒瀬の方が一歩速かった。リュウの顔面を殴り付けて、股間を蹴り上げる。そして痛みに悶絶するリュウの腰のナイフを抜き取って、左腕を切断させた。

 

「う、ぎゃあぁぁ!?」

 

 切断面からは血が吹き出し、リュウは傷口を抑える。

 

 黒瀬は今まで数々のB.O.W.やテロリストと幾度もなく戦って死線をくぐり抜けてきた。その度に何度も重傷を負い、死にかけてきた。それに比べてリュウの場合は自分よりも弱い者を殺すだけの遊びだった。怪我をすることなど少なかったのだろう。痛みに対しての耐性がついていない。

 

「俺はお前みたいに遊んだりはしない。今ここで殺す!」

 

 黒瀬はナイフをリュウの頭に突き刺そうとしたが、ナイフの刃を歯で挟んで止められてしまう。リュウはそのまま刃を砕く。

 

「なっ!?」

 

 黒瀬は一瞬驚いたが、すぐに思考を切り替える。まだ殺す手段はある。リュウの腰にぶら下げられている日本刀。それを使えば……。

 

 しかし、それを行動に移す前にリュウは黒瀬に組み付き、右肩に噛み付く。咄嗟に剥がそうとリュウの腹に膝蹴りを喰らわせるが、それが仇となって肩を食いちぎられてしまう。

 

 痛い。黒瀬にとってこの傷はその一言で済ませられる。

 

「痛いじゃねぇか、クソ野郎!」

 

 リュウは刀を抜いて、黒瀬に胸をななめに斬った。そして左腕の前腕と右足の太ももが切断される。

 

 痛い。それでもまだだ!

 

 黒瀬は右腕でリュウの鼻っ柱を殴る。前に倒れそうになるが、リュウの胸ぐらを掴んで引き留め、頭突きを喰らわせた。

 

「クソ、テメェ!」

 

 リュウはやり返すかのように、黒瀬に頭突きを喰らわせた。黒瀬は片足がないせいでバランスを失ってふらつく。

 そこの隙をつくようにリュウは黒瀬の身体を次々と

斬っていく。奴の力ならば、胴体を真っ二つにすることなど簡単だが、痛め付けるかのようにわざと手加減をしていた。

 

 血だらけとなった黒瀬の胸を蹴る。力をなくした黒瀬は受け身を取ることなく、地面に転がった。

 

「痛いなぁ、マジで痛いぜ!」

 

 リュウは傷から血を吹き出しながらも笑っている。狂気に満ちは溢れた顔だ。

 

「こんな傷を負わせたのはお前が初めてだ」

 

 リュウは切断された左腕を拾い、傷口同士を合わせる。みるみると傷が癒着する。そして肩をぐるんと回して手のひらを握り締めた。

 

「これがR-ウィルスの力だ。流石に切断面が綺麗じゃないとくっついてくれないけどな」

 

 リュウは治った左腕でハンドガンを抜いて、数発黒瀬の胸に撃ち込んだ。

 

「オレは十年以上、殺しを楽しんできてる。腕を切断されたのは初めてだが、切断したのは初めてじゃない。自分の身体については研究してるつもりだぜ?」

 

 黒瀬はリュウの行動を見て、ただのサイコパスだと思い込んでいた。しかし、それは違った。彼は本当にイカれた化物だ。

 

 どうにかして身体を動かそうとするが、指一本も動かない。

 

 クソ、何でだ。

 

 身体が動かなくなることなど今までで何回もあった。黒瀬はその度に立ち上がってきた。しかし、今回はそう出来なかった。あの男の言葉に黒瀬は惑わされているからだ。

 

『残念だな貴様は。もっと戦えると思っていたが……どうやらここで終わりのようだ』 

 

 ────俺は……ここで……死ぬのか?

 

 死にたくない。まだ彩を助けていないのに……。黒瀬は彩の心配をするが、薄れていく意識に逆らうことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 


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