バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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79話 待っていた

 リカたちは近くの家に逃げ込み、戦う準備をしていた。

 

「リカさん、田島さん、どうするつもりです?」

「勿論戦うわ」 

「でも……」

「わかってる」

 

 リュウの身体能力は黒瀬とほぼ互角と言っていいだろう。つまり、黒瀬が敵になったと言っても過言ではない。リカも田島も、黒瀬が敵に回ることなど今まで一度も考えたことがなかった。考えたとしても、彼を倒せるビジョンがどうしても思い付かない。

 

「正面からじゃ無理。背後を狙うしかないわ」

 

 正直、背後を狙っても黒瀬なら気付くとリカは確信している。それならリュウにも通用しないだろう。だが、今やれる手段はそれだけだ。

 

「あなたたちはここにいて。音を出さない限り安全なはずよ」

 

 ここが他のエリアと同じなら半径五百メートルはあるはずだ。しかも、隠れられる家が山程ある。そう簡単にリュウには見つからないだろう。だが、敵はあのリュウだ。発砲音の一つでも出せば、すぐ場所を気付かれる。

 

 倒せるチャンスは一度だけ。

 

「行くぞ、リカ。もうじき三分経つ。奴も動き出すぞ」 

「ええ」

 

 リカと田島は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 リカは民家の二階で待機していた。

 

 リュウを見つけるのは、意外と簡単だった。彼は堂々と道路を歩いている。

 

 作戦は簡単だ。背後から撃つ。もし避けられたのなら、別の場所で待機している田島の出番だ。

 

 窓からリュウの頭を狙う。胴体に撃っても大したダメージにはならないと踏んでいるからだ。

 

 距離は百メートルほど。リカの射撃能力はBSAAでも一位、二位を争うほど。外すはずがない。

 

「撃つわ」

 

 田島に合図し、“もしも”のための準備をさせる。

 

「三、二、一……」

 

 ────零。

 

 リカのライフルから放たれた弾丸は、真っ直ぐとリュウの頭へと突き進む。外すはずがない。リカも田島もそう思っていた。しかし────

 

 リュウがとった行動は、首を横に傾けるという、ただそれだけだった。それだけでリカの弾丸はただ空を切っただけで終わり、コンクリートの地面へとめり込んだ。

 

 ────気付かれていた。

 

 リュウの行動からして、居場所を悟られた様子は一切なかった。それなのにどうして。

 

 だが、まだ案ずることはない。次は田島の攻撃だ。田島はリュウに向かって右、四十メートル離れたアパートの四階に身を潜めていた。

 

 田島も射撃に関してはエリートだ。外すはずがない。

 

 しかし、頭を狙った田島の狙撃は、又もや首を傾けられて避けられてしまう。

 

 気付いていた。リュウは二人の狙撃場所に気付いていた。

 

「逆になんで気付かれてないと思ってんだよ! こんな静かな街で話し声の一つや二つ、気付かねぇわけないだろうが!」

 リュウはリカたちの考えていることを読んだのか、笑いながら言った。

 

 普通は気付かない。しかし、彼が黒瀬と同様の能力を持っているならば、視力も聴力も人間離れしている。それに早く気付くべきだった。いや、気付いていたとしてもどうにも出来ないが。

 

 リュウはマシンガン二丁をリカと田島の狙撃ポジションへと向ける。彼ならば、片腕で狙うマシンガンでも正確に当ててくるはずだ。

 リカは窓から離れ、反対側の窓を突き破って民家から脱出する。直ぐにさっきまでいた場所は蜂の巣になっていた。

 

「無事!?」

 

 無線で田島の安否を問う。

 

『なんとかな! どうする、不意打ちは効かないぞ』

「ともかく逃げながら合流しましょう。一対一だと分が悪すぎる!」

 

 リカは走りながら話す。リュウにとって隠れるという行為は無駄だ。

 

『そこからオレンジのマンションが見えるか!?』

 

 リカはオレンジのマンションを探す。二百メートルほど先に十五階建て真新しいマンションが見えた。

 

「ええ!」

『そこで合流しよう! 戦うことは考えるな!』

「あなたもね!」

 

 リカは無線を切る。近道のためにブロック塀を乗り越え民家の敷地を走る。

 

「走るの速いな、お前!」

 

 後ろからリュウの声が響く。リュウは民家の屋根を飛び越えながらリカを追っていた。

 

「そんなのあり!?」

「ありに決まってんだろ!」

 

 リュウが二丁のマシンガンを構える。リカは民家の玄関のドアを蹴り破って中に転げ込み、キッチンの裏口から外へ駆け出る。すぐにその民家は蜂の巣になった。

 

「ほんと、逃げ足だけは一人前だな!」

 

 リュウは弾切れとなったマシンガンを捨てて、対物ライフルを構えた。

 

「おらおら、さっさと逃げろ!」

 

 リカのすぐ隣に十二.七ミリ弾が着弾した。その威力はコンクリートの地面を意図も容易く吹き飛ばす。かすってもアウトだ。

 

 しかし、いつまでもリカに直撃することはない。近くのブロック塀や地面、電柱を撃ち抜くだけだ。

 完全にリカは手玉に取られていた。遊ばれている。結局、これはリュウにとって遊びでしかない。リカはそれが分かっていても諦めるような人間ではなかった。

 

『捉えた』

 

 無線機から田島の声が聞こえる。その直後、リュウの対物ライフルを一発の弾丸が貫いた。田島の狙撃だ。

 

「なにっ!? ふざけやがって!」

 

 リュウは使い物にならなくなったライフルを投げ捨てた。彼はマシンガンやライフルで派手に銃声を轟かせていたせいで、音による田島の位置を掴めていなかった。

 すかさず第二射撃目がリュウに襲い掛かり、その脇腹を貫いた。リュウは短いうめき声を上げ、屋根から滑り落ちた。

 

 リカは目的地のマンションを見ると、三階の階段からライフルのスコープの反射が見えた。田島は先に辿り着いていた。

 

 ようやく、命からがら追っ手を遮ったリカはマンションに辿り着いた。そして地面にへたりこむ。ずっと全力疾走で逃げていた。息を整えるために深呼吸を繰り返す。

 

「よお、久しぶりだな、相棒」

 

 田島が四階の階段からリュウを警戒しながら話し掛ける。

 

「やったの?」

「やったんなら警戒はしないさ。お前はリョウが弾丸の一発や二発で死ぬと思うのか?」

「不謹慎だけど……そうね、ありえないわ」

 

 そう、リョウなら弾丸の何発かは喰らっても行動可能だ。それならほぼ同等の能力を持つリュウも同じはず。

 

「今のところ、奴の姿は見えない。お前も上に上がってこい」 

「ええ」

 

 リカが立ち上がった瞬間、田島がいた場所が突如爆発した。

 

「さっきのは効いたぜ!」

 

 振り向くと回転弾倉式のグレネードランチャーを構えたリュウの姿があった。彼の脇腹から出血しているが、そんなことは気にも留めていない。

 

「クソ!」

 

 リカはハンドガンをホルスターから抜く。しかし、構えるよりも早く、リュウはリカの間合いへと入った。

 

「なっ!?」

 

 リカはリュウの右ストレートを腕でガードする。ミシミシと腕の骨が軋み、苦痛で顔を歪める。リュウはそんなことお構い無しでリカの腹に蹴りを喰らわせた。その威力は凄まじく、リカは宙を舞ってマンションのフロントガラスを突き破った。

 

「うぅ……」

 

 リカは立ち上がることが出来なかった。肋骨の何本かにヒビが入っている。防弾ベストをしていなければ、肋骨は折れ、肺に突き刺さっていただろう。

 

「おーい、生きてるー?」

 

 リュウは笑いを堪えながら問い掛ける。しかし、リカは返事が出来ない。

 

「返事がないなー。生存確認を行いますね」

 

 リュウはグレネードランチャーを構えた。

 ────絶体絶命か。その時。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 ユウトは雄叫びを上げながらリュウへと銃を撃った。しかし、リュウは佑都の接近に気付いていたようで佑都の射撃を全てかわす。

 

「ユウト、どうして!?」

「お、そういえばお前もいたな。リョウのクローン!」

 

 リュウは笑みを広げ、グレネードランチャーをリカからユウトへと向けた。

 

「リョウならまだしもそのクローンに何ができるってんだよ!」 

 

 リュウはグレネードランチャーをユウトの近くの障害物に撃ち始めた。爆風と熱気がユウトを襲う。しかし、それでも走るのを止めない。

 

「まだだ!」

 

 ユウトはアサルトライフルの弾が切れるとそれを投げ捨て、黒瀬のハンドガンを撃ち始める。だが、それもリュウに効果はない。全て見切られているかのように簡単には避けられる。

 

「根性あるな、クローンのくせに! いや、クローンのクローンか!」

「うるせぇ!」

 

 ハンドガンの弾も尽きてしまう。ユウトは黒瀬の刀を抜刀した。

 

 リュウには敵わない。そんなことは知っている。それでもユウトはリカや田島が殺されるところを見たくない。

 

「接近戦で勝てると思ってんのかよ!」

「思ってないさ!」

 

 ユウトは全力でリュウの頭に振りかぶる。しかし、それさえも避けられてしまう。

 隙が出来たユウトの顎にアッパーが叩き込まれ、後頭部を掴まれて顔面に膝蹴りを喰らう。鼻骨が折れ、鼻から大量の血が吹き出した。ユウトの意識は混濁する。それでもリュウの追撃が繰り返される。死なない程度に全身を殴られ、蹴られ、骨や肉がミンチのようにズタボロにされる。最早痛みなど感じないほどに。

 

「雑魚のくせにイキったからだぞ」

 

 リュウは笑みを堪えきれず、大声で笑う。

 

「じゃあな、クローンのクローン君。来世に期待してくれたまえ。クローンに来世があるとか知らないけど」

 

 リュウは倒れているユウトの頭に拳銃を向ける。ユウトは何とか身体を動かそうとするもピクリとも動かない。

 

 ────クソ野郎。

 

 ユウトは役に立たない自分を呪いたかった。力があればリュウを倒せた。そればかりが頭に駆け巡る。だが、その力を持っているのも、リュウを倒すのもユウトではない。

 

 リュウは引き金を引こうとするも、その腕を背後から掴まれた。

 

「あ?」 

 

 リュウが振り返る。ユウトもその人物を見た途端、笑みがこぼれた。

 

「…………待ってました」

  

 黒瀬はリュウを睨み付ける。

 

「これ以上俺の仲間に手は出させない」

 

 

 

 

 

 


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