バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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78話 リュウ

 リカは目を覚めて、現状を把握するのに十秒ほど費やした。

 

 ────捕らわれている。

 

 固定された鉄の椅子に手と足を手錠で繋がれて座らされている。捕らわれている部屋はかなりの大きさで、至るところに見たこともない機械が並べられていた。

 

「よぉ、起きたかお姫様」

 

 真後ろから田島が話し掛ける。田島もリカと同じように捕らわれていた。

 

「最高の目覚めよ。状況は最悪だけど」

 

 リカの正面には武装したアンブレラの兵士が立っていた。田島の正面にも同じく。兵士は二人をじっと見張る。どうやっても逃がさない気だ。

 

 いや、そもそも逃げれない。リカと田島の腕と足は金属の太い手錠で繋がれている。リカの正面の兵士の腰に手錠の鍵らしきものがぶら下がっているのが見えるが、この状態ではどうにもできない。誰かの助けがあればいいが。

 

 そもそも、何故アンブレラに捕まっているのか。彼女の記憶は藤美学園でカードキー探しているところで途切れていた。そう思うと、背中が痛む。誰かから不意を突かれたのだろうか。だが、あの時誰の気配も感じなかった。

 

 カラン、と部屋の奥で金属か何かが落ちた音が響いてきた。

 一人の兵士が音の発生源を確認しに奥まで向かう。が、次にドサリと、重いものが倒れる音がした。確認をしにいった兵士の姿が見えない。

 

「おい、どうした」

 

 残ったもう一人の兵士が確認を問うが何の返事も返ってこなかった。

 もう一人の兵士は流石に警戒心を強め、銃を構えて音の方向へゆっくりと進む。

 

「誰かいるのか!」

 

 兵士は声を強くして言うが返事はない。と、突然物陰から銃を構えた一人の男が現れ、ありったけの弾を兵士に浴びせた。

 

 リカは一瞬、その男を黒瀬だと思ったが、黒瀬は人に銃を使えない。それによく見れば、瞳の色が紅ではなく、淡い赤色だった。黒瀬のクローンである佑都だ。

 

「良かった、二人とも無事で」

 

 佑都は銃をリロードしてリカたちに近づく。その後ろからは彩のクローンである真美も現れた。

 

 はぐれてそれほど時間は経っていないはずだが二人は成長しているようにリカは感じられた。

 

「そこの兵士が手錠の鍵を持っているわ」

 

 リカはそう伝え、鍵を入手した佑都に手錠を解除される。

 

「お前ら、何か随分と成長してないか?」

 

 田島は二人に言った。

 

「レッドクイーンに全て聞きました」

 

 真美は答えた。

 

「……え」

 

 全て、と言うことは自分達がクローンであることも聞いたということか。

 

「それでもおれたちは生きます」

 

 二人は自分がクローンと知っても戦い続けている。記憶が違ってもやはり黒瀬と彩ののクローンというべきだろうか。

 

「そう言えば、リョウは?」

「レッドクイーンによれば、先に進めば会えると言っていたんですが……」

 

 リカも田島もレッドクイーンのことは信用できないが、今は前に進むしか選択肢はない。

 

 リカと田島は真美から武器を受け取って装備する。

 

「リョウと彩を救い出すわ。ユウトもマミも脱出は後回しになるけどいい?」

 

 佑都と真美は顔を見合せ頷く。

 

「勿論です。黒瀬さんはおれとマミの命の恩人です。逆に手伝わせてください!」

 

 佑都の目の光は消えていない。それどころか眩しいくらいに光っている。

 

「本当にリョウにそっくりだな」

 

 田島は佑都の頭に手を置いた。

 

「気持ちはありがたいが、お前はリョウのクローンであれ、まだ子供だ。俺たちの後ろでゆっくり休んでいてくれ」

 

 リカも田島と同意見だった。佑都も真美も、度重なる戦いでかなりの体力を消耗している。この状態で戦わせるわけにいかない。

 

「……わかりました。じゃあ二人が危険になったらおれも戦います」

 

 佑都はニカりと笑って言った。

 

「生意気な奴!」

 

 佑都は田島に小突かれた。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、彩って誰ですか?」

 

 通路を歩いていると、佑都が話し出した。

 

「彩ちゃんは……マミちゃんのオリジナルって言った方がわかりやすいか?」

 

 田島が答えた。

 

「わたしの……オリジナル?」

「ああ。ユウトのオリジナルがリョウであるように、マミちゃんにもオリジナルがいる」

「それが彩って人ですか?」

「そうだ。彩ちゃんは……言うなればリョウの恋人だ」

「「えぇっ!?」」

 

 佑都と真美は同時に驚く。

 

 リカが田島の頭を叩いた。

 

「捏造するんじゃないわよ。まだキスもしてないって彩が言ってたわ」

「え、まだキスもしてないのか!? あいつら十年以上の仲なんだろ!?」

 

 リカの言葉に田島も驚いたようだ。

 

「リョウは恋愛に関してはバカだからね。関係が進展しないのも任務ばっかしているせいよ」

 

 まさか黒瀬さんにそんな一面が……。佑都はまるで自分のことを言われているかのようで恥ずかしくなった。それは真美も同じで顔を赤くしていた。

 

「彩さんも皆さんと同じBSAAに?」

「いや、彩ちゃんはテラセイブっていうNGOに所属してる。BSAAがバイオテロと直接戦い、テラセイブはその被害者の治療やケアを行ってる」

「そうなんですか」

 

 佑都は真美の銃の扱いを見て、彩も戦闘のプロかと思っていたがどうやらそうではないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 通路を越えると、新たなエリアが彼らを待っていた。

 

 天候は晴れ、雲ひとつない創られた空。辺りには見慣れた景色が広がっていた。

 

 日本の住宅街だ。詳しい場所まではわからないが、ありふれた場所。今にも子供の遊び声や婦人たちの会話が聞こえてきそうなものだが、まるで時が止まったかのように何の音もない。時々、心地よいそよ風が吹いているだけだ。

 

「こんなに明るいのに不気味ですね」

 

 最初に口を開いたのは佑都だった。確かに彼の言う通り、この状況はおかしい。

 

 ここは敵地。リカと田島が部屋から脱出したのを敵は気づいているはずだ。それなのに進行先にB.O.W.の一体もいないとは……

 

「よぉ、やっときたか」

 

 聞き慣れた声が二階建ての家の屋根の上から聞こえてきた。声の主はのっそりと立ち上がる。

 黒髪で紅い瞳の日本人だ。

 

「リョウ、無事だったのね!」

 

 リカは歓喜したが、その人物から凄まじい殺気が解き放たれた。

 

「オレがリョウだと……? あんな出来損ないと一緒にすんじゃねぇよ」

 

 リカたちはその人物が黒瀬ではないと気付いた。顔も声も体格も何から何まで黒瀬だが、それでもはっきり違うと断言できた。

 

「あなたは……誰?」

 

 おおよそ検討はついている。黒瀬のクローンだ。しかし、彼女らの考えは外れていた。

 

「オレはラグナロク計画で生まれた黒瀬和樹のクローン、リュウだ」

「は?」

 

 彼女らは突然のことで理解できない。ラグナロク計画? 黒瀬和樹? 何のことだがさっぱりわからない。

 

「わかんないって顔してるな。要は、リョウの奴も和樹っていうジジイのクローンってわけさ。ラグナロク計画は世界を終末に導く計画、詳しいことはオレも知らねぇけどな」

 

 リュウはそこまで言ったところで、屋根に置いていた武器を全身に着け始める。

 マシンガンや対物ライフル、ロケットランチャーに手榴弾に刀……ただの人間では絶対に背負えない重量だ。

 

「色々と話しすぎた。でもお前らも冥土の土産に何かほしいだろ?」

 

 リュウはRPGを構え、リカたちに向けて躊躇なく引き金を引いた。

 

「避けろ!」

 

 田島の怒号が飛ぶ。田島は佑都を、リカは真美を押し倒すように伏せさせた。

 

 ロケット弾がコンクリートの地面に当たって爆発し、コンクリートの破片がパラパラと落ちる。

 

 全員無事だが、轟音で耳鳴りが酷い。

 

「オレの初手を避けたのはお前らが三十回目だ」

「結構多いじゃねぇか」

 

 田島は銃をリュウに向けて構えた。

 

「オレが不意打ちを仕掛けた回数は千八百二十一回だ。こう聞いても多いと思うか?」

「そんなに数えてるなんて律儀な奴だな!」

  

 リュウは弾頭のなくなったRPGを捨て、屋根から飛び下りた。

 

「お前らには期待できそうだ。三分時間をやる。それまでに隠れるんだな」

「そんな時間は必要ない!」

 

 田島はマガジン全ての弾をリュウに向けて放った。が、その弾はリュウにはかすりもしなかった。

 リュウが構えていたのは、日本刀だった。たった一本の刀で、弾を全て弾いていた。

 田島とリカは黒瀬が何度か見たことが銃弾を斬っているのを見たことがある。勿論そんなのは普通の人間じゃ出来ない。つまり、こいつも普通じゃない。黒瀬と同等もしくはそれ以上か。

 

「おいおい、折角時間をやったのに本当にいらないのか? お前らの死ぬまでの時間を延ばしてやったんだぞ?」

 

 リュウは不気味な笑みを浮かべる。

 正面からじゃ勝てない。誰もがリュウの今の行動で気付いた。ここは彼の提案に乗るべきだ。

 

「行くわよ! 三分で対策を立てましょう!」

 

 リカは田島を引っ張るようにして連れていく。その後ろに佑都と真美も続いていった。

 

「対策立てれればいいなぁ!」

 

 リュウは彼らを嘲笑う。これは彼にとってただの遊びだった。

 

 

 




次回は月曜日に投稿します

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