バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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久々の更新です。遅れてしまい申し訳ありません。少しずつ投稿ペースを戻していきます。


73話 クローン

 リョウSIDE

 

 

「どういうことだ」  

 

 黒瀬は先ほど保護した二人から離れた場所で、赤の女王と話していた。二人は、田島とリカと話して安心している。

 

『見ての通り、“アレ”はあなたと、あなたの友人のクローンよ』

 

 赤の女王は何も隠すことなく、そう答えた。

 

 黒瀬は二人を見る。黒瀬のクローンは、本当に瓜二つだった。違う箇所と言えば、目の色くらいだろうか。黒瀬の瞳は紅色だが、クローンの黒瀬は黒色だった。友人──彩のクローンも彩と瓜二つだ。言われなければ気付けない。

 

 黒瀬は、前に赤の女王にシミュレーションのことを聞いて、少し疑問に思っていたことがある。それは、シミュレーションに使う人間のことだ。今からあなたは実験台になってゾンビに噛まれます、というシミュに参加したい人間なんてそうそういない。

 

『シミュレーションを行うためにアンブレラは多くの人間のクローンを用意したの。そして作ったクローンに今まで暮らしていた記憶と、バイオハザードの脅威に適切な感情的反応を示すための基礎的なメモリを植え付けるの』 

「だが、あいつは?」

 

 黒瀬は、自分のクローンを指差した。

 黒瀬のクローンは、その脅威に立ち向かおうとしていた。クローンは黒瀬をゾンビと勘違いして、バットを握り、黒瀬の頭をカチ割ろうとしたのだ。

 

『時々いるのよ。“怯える”というルールを破ってしまうクローンがね。その傾向は、今までのバイオハザードに正面からぶつかってきた人間のクローンが多いわ』

「俺以外にもクローンがいるのか?」

『もちろんよ。アリスやレオン、クリス……あなたの友達のクローンもいるわ』

 

 クローンを造るには、その人物のDNAが必要だ。ほとんどのクローンは血液検査をした人物の血で造られたのだろう。

 

「レオンやクリス、小室たちは血液検査の時に血を奪われたのか」 

 

 赤の女王は頷いて言う。

 

『アリスはハイブを脱出してアンブレラに捕らわれたときに血を採られたの』

「だが、俺は? 俺の血は信用している人間にしか提供していない」

 

 黒瀬は血液検査の時は、BSAAではなく、レベッカに頼んでいる。超人的な力を誇る人間の血液を病院で渡すわけにはいかない。この血の重要さは黒瀬も理解していた。

 

「タンカーの上でアンブレラの兵士に血を抜かれたな。それで作ったのか?」

 

 黒瀬は昨日の戦闘を思い出していた。

 

『そんな直ぐに新型のクローンは作れないわ。それに今のあなたの血でクローンを作るとあなたのクローン全員が超人的な力を持ってしまう』

「じゃあ何時だ?」

「1999年4月。あなたはカントウを脱出した後────」

 

 赤の女王が言い終わる前に黒瀬は、

 

「クソ、自衛隊か!」

 

 と悪態をついた。

 

 カントウを脱出してすぐに自衛隊によってt-ウィルスに感染してないかどうか、血を摂取された。その時か。

 

『そうよ。自衛隊にもアンブレラの工作員が潜んでいた。そしてあなたの血を渡し、二つのモノを作った』

「二つ?」

『あなたのクローンと────発言権をブロックされたわ。ここでは言えない。目的地に辿り着けば全てがわかるわ。あなたの全てがね』

「………………」

 

 全てがわかる。それはこの力の正体や自分の記憶がないことも含まれているのだろう。

 

『それよりあの二人をどうするの? 連れていく気?』

 

 黒瀬はクローンの二人を見た。黒瀬のクローン、そして彩のクローンだ。

 

「もちろんだ。この場に置き去りするわけにはいかない」

『二人が運良く生き残れて、外の世界に連れていってどうするの? 二人は、自分たちがクローンと知ったらどうなるか、あたしでも予想できないわ』

「アンブレラのAIのくせに二人のことまで心配してくれるのか? お前にとってはただの実験体のはずだ」

『その通りよ、あたしにとってアレはただの実験体。あたしは現実的な意見を述べているだけ。あの二人の記憶は実験のために作られたの。数時間前までは空っぽだったのよ。全てまやかし』

「あの二人にとっては現実だ」

『ええ、そうね。……だからこそ、あの二人に本当の現実を見せたらどうなる? 今まで現実だと思っていたことが、全て引っくり返る。家族も友人も、学校に通っていることも、全て偽物の記憶なのよ』

 

 あなたのようにね。赤の女王はそう言いかけたが、禁止ワードだったようでブロックされてしまった。

 

「少しずつ……教えていけばいい。あいつらには酷いことをしてしまうかもしれない。でも、ここで死ぬよりかは遥かにマシだと思うんだ。生きていれば、いつかは理解できる日が来る」

『……そうね。あたしが口出しすることではなかったわ。ここから無事に抜け出せればだけど』  

「必ず抜け出すさ。誰一人失いはしない」 

 

 黒瀬は赤の女王にそう言って、タブレットをポーチに収めてクローンの二人から離れて田島とリカに事情を話した。

 

「あたしも賛成よ。彼らはクローンだとしても、生きているもの。ただの人間と何一つ変わらない」

「右に同じ。クローンだからって助けない理由はないし、BSAAはバイオテロの被害者を助けなければいけないからな」

 

 田島とリカは笑顔で言った。彼らの想いは黒瀬と同じだった。

 

「田島さん、リカさん、ありがとうございます」

 

 黒瀬は二人に頭を下げた。

 

「全く……そのくらいで礼を言われても困るぜ」

 

 田島は黒瀬の頭を小突いた。黒瀬は頭をおさえて笑顔で返す。

 

「さて、話は終わった。二人の名前を聞かせてくれ?」

 

 黒瀬は、黒瀬のクローンと彩のクローンに近づいてそう言った。

 

「おれは上田佑都です」

「岸川真美です」

 

 クローンだからといっても名前は同じじゃないようだ。

 

「ユウト、マミ。ここを脱出出来たとしても、お前らにとっては辛い現実は待ち受けてるぞ。それでも俺たちに付いてくる気はあるか?」

 

 真実をここで言うわけにはいかなった。ここで生きる気力を無くしてしまっては困る。

 

「辛い現実を受け止めれるかどうかはわかりません。でも、おれはここで死にたくない。あなたたちに付いていかせてください」

「わたしもユウトと一緒です」

 

 佑都と真美は顔を見合わせ、笑顔をつくった。

 

 ……こいつら、出来てんな。黒瀬はクローンに少し嫉妬してしまうが、今はそんな場合ではない。

 

「ユウト、これを」

 

 黒瀬はハンドガンとマガジン、サバイバルナイフを佑都に渡す。

 

「使い方は歩きながら教える。行くぞ」

 

 

 

 

 

 佑都SIDE

 

 

 佑都と真美は、見たことも聞いたこともない部隊の人間と地下道を歩いていた。

 

 彼らは所属をBSAAと言った。一切聞いたことはない。警察の特殊部隊の一つだろうか。しかし、何故いきなりこんなことになってしまったのか。佑都は事が起きる前の記憶を探る。確か、幼馴染みの真美と渋谷に買い物に来たのだ。

 

 そして、その幸せな時間を襲ったのは、カニバリズムに目覚めた人間だった。いや、あれはもう人間とは言い難い。ホラー映画に出てくるゾンビのように、噛んだ人間を化け物へと変えてしまう。映画と違う点を言えば、走ることだろうか。今まで見たゾンビ映画では、ゾンビは鈍重としていて、一体一体は驚異ではない。しかし、あれは何だ? さっき見たゾンビのようなモノは、全力で走れ、動きがとても素早い。あれでは一体を倒すのにも一苦労だろう。

 

 しかし、彼らは違う。BSAAと呼ばれる部隊の三人は、走るゾンビをものともしない。まるでゾンビのエキスパートのように、テキパキと処理している。

 

 佑都は、彼らが何者なのかわからない。だが、彼らに付いていくしか生き残る術はないのだ。

 

 黒瀬リョウと名乗った人物は、生き残っても辛い人生が待っていると言った。佑都にはその辛い人生がどういうものかわからない。しかし、生きていられるのなら、どんな人生でも受け入れるつもりだった。

 

「ねぇ、ユウト。あの人ってユウトの双子とかじゃないよね?」

 

 佑都の隣で歩いていた女子がこそりと話す。

 彼女は、優也の幼馴染みの岸川真美。幼稚園から高校までずっと一緒にいる仲だった。

 

「いや、おれに兄弟がいないことはマミも知ってるだろ? 世界には同じ顔の人間が三人いるっていうし、それなんじゃないかな?」

 

 佑都も、黒瀬と名乗った人物と顔が似ていることを気にしていた。いや、似ているでは済まない。ほぼ同じだ。声も体格もだ。一つ違うといえば、目の色だろうか。佑都の瞳は黒だが、黒瀬の瞳は紅色だ。

 

「でも、凄い奇跡ね。偶然、そんな人に救われるなんて」 

「ほんとだな」

 

 佑都と真美が仲慎ましく話していると黒瀬から『止まれ』の合図が出る。

 

「この階段を登った先だ」

 

 黒瀬はそう言って先行して登る。次に優也と真美が登り、その後ろをリカと田島が後方を警戒しながら進む。

 この階段の先には何があるのか。地下道を進んでからまだ十分ほどだ。

 

 しかし、その先は佑都が想像していたものと全く違っていた。

 

「え…………?」

 あまりのことに佑都は絶句していしまう。それは真美も同じだった。

 

 佑都たちの目の前にあったのは、学校だった。それも自分たちが通っている学校、藤美学園。

 

 おかしい。さっきまでは渋谷の地下道を歩いていたはずだ。地形や場所を考えてもありえない。佑都は頬をつねるが、痛みを感じて夢ではないことに気づく。

 

 真美も佑都と同じで頬をつねっていた。

 

「さっきまで夜だったのに……」 

 

 夜だったはずだが、いつの間にか陽が降りてきている。昼の三時くらいだろうか。

 

 本当は地下道を歩いていた時間は十分ではなく、何時間も歩いていたのかもしれない。だが、それでもあの道から藤美学園にたどり着けるはずがない。佑都は混乱する。

 

「佑都、真美、お前らには何が起こっているのかわからないと思う。全部ここから脱出したら教える」

 

 と、黒瀬が冷静に言った。

 

 ここから脱出とは、どこなのだろうか。渋谷にいたはずなのに藤美学園に辿り着き、そして次はどこに向かうのか。佑都は何一つわからない。

 しかし、今の頼みの綱は彼らだけだった。

 

 

 

 


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