「はあ……はあ……」
床には、ゾンビが何十体も倒れている。殺ったのは俺だ。
ウェスカーの部下二人はまだ気絶している。だが、起きるまで面倒を看とくわけにもいかない。仲間になってくれるなら別だが、どうせ裏切るよ。助けたのは、俺の目の前で死んでほしくなかっただけだ。後は勝手にしろ。
俺は部屋を出て、探索を再開する。
道中、ゾンビがいたが数体ずつなので、手間取ることなく倒していく。
しかし、武器も大分減った。これからは節約するために素手で戦おう。
「シャアア!」
そんなことを考えていると、ハンターが出てきた。
「言ったそばから!」
ダガーナイフを二本出し、一本をハンターに投げる。もちろん軽々と避けられるが、避けた先にもう一本投げた。
「グギャ!」
ダガーナイフはハンターの頭に刺さり、ハンターは絶命した。
「もう慣れてんだよ」
今頃、ハンター程度に負けるわけにはいかない。銃弾を避けるほどの反射神経だが、頭はそれほど良くないのだ。
一時間ほど探索すると、戦闘機がある部屋を見つけた。しかし、その戦闘機は今にも飛び立とうとしている。
「ウェスカーか!?」
俺はコックピットのガラスにダガーナイフを投げる。当然ながら弾かれるが……
「リョウか!?」
その声には聞き覚えがあった。
「クリスさん!?」
クリスさんはフロントガラスを開け、その姿を見せた。何ヵ月振りに会っただろうか。
「クレアは!?」
「南極だ。乗れ」
俺は戦闘機の後部席に乗る。すぐに戦闘機は飛び立ち、南へ向かう。クリスさんは元空軍なので、戦闘機の運転などへっちゃらだろう。
「何故、クレアは南極に?」
「さぁな。俺も聞いただけだ」
「誰に?」
「ウェスカーという男だ。俺の敵だよ」
「クリスさんもウェスカーに会ったのか?」
「リョウもか。ウェスカーも南極へ向かっているだろう」
ウェスカー、まだ勝負が決まってない。次こそは倒す。
俺たちは、ロックフォート島を後にした。
「ここか」
南極の基地が見えてきた。
ここに来るまでの間、クリスさんから色んなことを聞いた。ウェスカーが、S.T.R.A.S.を誘い出して、チームを壊滅させたことやT-Veronicaウイルスのことも。アレクシアという奴は、そのT-Veronicaウイルスを使って世界征服をしようと企んでいるらしい。
「ここにクレアが……」
どうでもいいが、南極には初めて来た。いや、当然か。
着陸し、戦闘機から出る
「寒っ!!」
さすが南極だ。すでに凍死しそう。
「早く中に入るぞ」
俺とクリスさんは走って基地の建物の中に入った。
「ふう。温かい」
暖房がついている。しかし、人の気配はしない。
「どうする?」
「手分けして探そう。ウェスカーには気を付けろ」
「オーケイ」
クリスさんと分かれて行動する。ま、そっちの方が効率が良い。
進むが、困ったことにドアが開かない。
「鍵を探すか?」
とも思ったが、めんどくさいので蹴り破る。ドアは一撃で開いた。てか、この状況で鍵を探すなんて嫌だよ。蹴り破った方が十倍早い。
「アアアアア」
「オオオオ」
部屋の中にはゾンビが五体。この基地でもバイオハザードが発生しているようだ。
「全く、バイオハザードばっかりだな」
俺はすぐ近くにいたゾンビの顔にパンチする。ゾンビは怯み、俺はその隙に後ろに回ってゾンビの頭を両手で掴み、横に捻る。ボキッ!!と爽快な音が首からし、ゾンビは倒れた。次に、作業服に身を包んだゾンビの腕を掴み、捻って床に倒す。倒れた作業服ゾンビの頭を踏みつけ、近づいてくる戦闘服ゾンビに上段蹴り。戦闘服ゾンビは壁にぶつかるが、すぐに俺の方へ再び来ようとする。俺は戦闘服ゾンビの頭を掴んで壁に叩きつけた。
「アアアアア」
残るは二体。俺はダガーナイフを投げ、頭に刺さってゾンビは倒れた。
「ふう……」
今頃だが、高校生がこんなことして良いのだろうか。普通なら、ギャーと叫んで一目散に逃げ、いつの間にか死んでるのがオチじゃないか? やっぱ俺もイカれてるんだろうな。
「泣けるぜ」
探索し続けると、クリスと再び合流した。
「何か手掛かりは?」
「何も。あのドアの先は?」
俺は近くにあるドアを指差す。
「いや、まだ行ってない」
俺はドアを蹴り破り、その先へと入る。
「なんだここ?」
俺たちが入った部屋は、まるで洋館の玄関だ。
「ここは……」
クリスさんは嫌な顔をした。
「知っているのか?」
「ああ。嫌な思い出だ。多分、設計士が同じなのだろう」
そういえば、ラクーンシティでティモシーが、ジルさんに向かって洋館事件がどうとか言っていた。その洋館に似ているのだろう。
「う、うぅ」
誰かの呻き声が聞こえた。
「クレアか!?」
クリスさんは走って声の聞こえた方に向かう。俺も続くと、クレアが柱に謎の緑の物体で身動きが取れないようになっていた。
「リョウ、ナイフを」
俺はクリスさんにナイフを一本渡し、謎のヌメヌメした物体を一緒に切った。
「クレア、大丈夫か!?」
クレアを開放し、横にする。
「兄さん……?」
「ああ。俺だ。リョウも一緒だぞ」
クレアは俺の方を見た。
「頼りになるわね。うっ!」
クレアは苦しみだした。
「クレア!?」
「毒に……化け物にやられたの」
「分かった。リョウ、クレアを見といてくれ。俺は血清を取りに行く」
「気を付けろよ」
しばらくすると、クリスさんは血清を手に戻ってきた。
血清をクレアに刺すとみるみる顔の色が良くなっていった。
「ありがとう、兄さん、リョウ」
「よし、早くこんなところから脱出するぞ」
クリスさんは、クレアを立ち上がらせる。
「待って、まだスティーブがいるわ」
「スティーブ?」
「ええ。一緒に孤島から逃げてきたの。怪物に襲われたときに離れ離れになったの」
「なら探さないとな」
スティーブ君とやらがこの基地のどこかに。探さないわけにはいかない。クレアの仲間だ。
「ハハハハハハハ」
上の方から下品で甲高い笑い声が聞こえてきた。
「アレクシア!」
「あいつが!?」
金髪で黒いドレスの女。どこからか怪しさを感じさせる。
「虫けらに相応しい死に場所へ今から案内してあげるわ」
アレクシアは意味深な発言をし、去っていった。
「もしかしたら彼女がスティーブを!」
「追いましょう!」
俺たちは二階に昇り、アレクシアを追おうとするが、壁から大きな触手が突きだし、俺たちの足場を崩した。
「どわっ!?」
俺とクリスさんは一階に落ちた。
「いて~」
腰を打ち付けてしまった。
「クリスさん、大丈夫か!?」
「くそ! 足が……。クレア、アレクシアを追うんだ!」
「で、でも……」
「大丈夫だ。クレア、俺がクリスさんに付いてる」
「……頼んだわ」
クレアは走ってアレクシアを追った。
「あー、痛ー」
腰が……痛い。
「何が大丈夫だよ」
「全くだな」
俺は床に寝っ転がった。
「とうとう見つけたぞ。アレクシア、一緒に来るんだ」
俺たちは、しばらく休んでいると、この場所にウェスカーとアレクシアが現れた。アレクシアは、隠し扉から出てきたのだ。
俺とクリスさんは柱に身を隠す。
ウェスカーは階段を昇る。
「お前は素晴らしいウイルス、T-Veronicaウイルスを作った。そして、そのサンプルは、お前の体内にしかない。それが欲しいんだ。さぁ!」
「私が欲しいですって? できるもんならやってみなさい」
アレクシアは階段を下りると同時に体が発火し始めた。そして、炎が消えると、アレクシアの肌は灰色になった。
やはり、アレクシアも感染者だったようだ。しかし、その力をコントロールしているように見える。
「力づくでも連れていくぜ」
ウェスカーとアレクシアは戦いだした。アレクシアは、ウェスカーに血を飛ばし攻撃する。アレクシアの血は空気に触れると発火し、周りには炎の渦が出来始めた。
ウェスカーも人間業ではない攻撃を繰り出し、アレクシアを倒そうとする。
「リョウ、避けろ!」
アレクシアの血が、俺たちが隠れている柱の方に飛んできた。
「うお!?」
柱から飛び出して血を避けるが、ウェスカーとアレクシアに隠れていた事がバレてしまった。
「クリス! リョウ!」
「ウェスカー!」
ウェスカーは俺たちに襲いかかろうとするが、アレクシアの攻撃で止められる。
「クリス! 優秀な部下だったお前に、ここは任せよう」
ウェスカーはそう言って扉から出ていった。
「自分で相手をしろよ!」
まさか、こんな化け物を相手しなくちゃならないとは……
「リョウ! ウェスカーを追ってくれ。アレクシアの相手は俺がする」
「……分かった!」
「深追いだけはするなよ!」
俺はアレクシアがクリスさんに攻撃している最中に部屋を出た。
「待て!」
俺は逃げるウェスカーの背中にナイフを投げる。しかし、簡単に避けられた。
「リョウ、この俺に敵うと思うか?」
「思うね。アンタを倒してくっさい牢屋の中にいれてやるよ」
「やれるもんならな」
ウェスカーは一瞬で、俺の懐に入る。胸を殴ろうとするが、腕をクロスさせてガード。しかし、威力が高く腕の骨が悲鳴をあげる。
「この!」
俺はウェスカーの足の甲を思い切り踏み抜いた。さすがに効いたようで、その顔を歪ませる。そして、顎に掌底、ウェスカーは後ろによろめく。直ぐ様タックルをして、よろけを継続させる。上段蹴り、ローキックと蹴り技を続け、ついには、胸ぐらと腕を掴んで投げ、床に叩きつけた。
「まさかここまでやるとはな……」
しかし、ウェスカーは何事もなかったのかのように起き上がった。
「頑丈な奴……」
ここまで効かないとすると、生身の人間では倒せないということか?
「次は俺の番だ」
ウェスカーは構えた。
俺はガードするが、ウェスカーの目にも止まらないラッシュで体全体が悲鳴をあげる。素手のはずなのに、金属バットで叩かれているような痛みだ。
反撃の隙を伺うが、速すぎて止められそうにない。
「クソ!」
俺は右手を後ろ腰に伸ばし、手榴弾を取る。ピンを抜いて、床に落とした。
「ちっ!」
ウェスカーは直ぐ様、俺から飛び退いた。
「それを待ってた!」
俺は落とした手榴弾を取って、ウェスカーに投げつけた。俺は近くのドアを開け、身を隠す。すぐに爆発が起こり、身を隠していたドアが外れ、爆風で吹き飛んだ。
「いてて……」
すぐに立ち上がり、周りを見るが、ウェスカーの姿はなかった。起爆する前に、超人的なスピードで逃げたのだろう。
「次は決着を付けてやる! ……ありゃ?」
俺はぐらつき、床に倒れた。体がまだ痛い。少し休もう。そしたら……
「うっ」
俺の意識は途絶えた。
次回で二章は終了です
明日も投稿予定