バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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68話 富士山

 トウキョウの一部が消滅した。

 

 その情報は、アメリカ合衆国政府直属のエージェント、レオン・S・ケネディにも届いていた。

 

「何がどうなっているんだ!?」

 

 レオンの周りは慌ただしくなっていた。ほとんどの人間が走り回ったり、どこかの機関と連絡を取り合っている。

 

 そもそもトウキョウはカントウ事件の後、十年以上も封鎖されている。カントウ事件はトウキョウを中心にしてパンデミックが広がり、トウキョウは甚大な被害を受けた。核ミサイルによる電磁パルス攻撃によってほぼ全ての電子機器の使用は不可能となり、トウキョウ全ての電子機器の修理や撤去は現実的に難しく、日本政府によって封鎖されることが発表された。

 

「レオン、トウキョウの消滅した範囲がわかったわよ」

 

 ハニガンがノートパソコンの画像を見せる。

 

 衛星写真のようで画質は粗いが、トウキョウにポッかりと巨大な穴が空いていることが分かった。

 

「どうやったらこうなる? ミサイルじゃないな」

「これが消滅する瞬間の映像よ」

 

 ハニガンはパソコンを操作して映像を流す。これもまた衛星から撮ったもので画質は粗い。

 

 暫く荒れ果てたビル街が映っていたが、渋谷の中心に穴が空き、一機のオスプレイが飛び立つ。その直後、渋谷を中心としてプラズマのようなものが発生して、さっき見た画像と同じになった。

 

「トウキョウの地下か……」

 

 レオンには思い当たる節があった。

 

「調べてみたら、あなたが考えている通り、アンブレラの地下研究所があった所がまるまる消滅しているわ」

「やはりか……」 

 

 レオンは十年前、トウキョウのアンブレラ地下研究所に侵入したことがあった。だが、そこは焼却処理されたはずだ。

 

「焼却処理されたのは研究所のほんの一部だったのか」 

 

 レオンは研究所の全てを回ったわけではない。少しの時間しか滞在出来なかった。

 

 アンブレラの残党、もしくはよからぬことを考えている連中がトウキョウ地下研究所で研究を続けていた。そして、何かトラブルが発生し、研究所を消滅させることになった。レオンはそう仮説を作る。

 

 だが、トラブルとはなんだ? それにトウキョウは自衛隊が監視しているはずだ。何故のこのこと研究が出来た? 疑問がどんどん沸いてくる。

 

「消滅する直前、オスプレイが飛び立ったでしょ? そのオスプレイは富士山に落下したらしいの」

「なに?」

「レオン、上からの命令よ。日本の富士山に向かってオスプレイの残骸を調べてきて。何か重要な書類があったら、日本政府ではなく、真っ先に私たちに伝えること」

「なんだと?」

「多分、あなたが考えている仮説と、上が考えている仮説は同じよ。日本政府や自衛隊が何か隠しているのかもしれない。重要な事実が隠蔽される可能性があるわ」

「了解だ」

 

 レオンは頷いて、日本へ向かう準備をし始める。

 

「レオン、お土産ヨロシクね」

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 レオンは日本に到着し、すぐに自衛隊のヘリで富士山へと向かう。

 

 隊員から話を聞くと、富士山は封鎖しており、一般人やマスコミを近付けさせないようにしているらしい。トウキョウの件もまだ報道されていないが、バレるのも時間の問題だろう。

 

 富士山の頂上付近に近づくとオスプレイの残骸らしきものが見えた。その近くに自衛隊のテントが複数立てられている。

 

 レオンと何人かの隊員はロープで富士山に降下する。足を滑らせないように歩き、テントへ入る。

 

「アメリカから来た。レオンだ」

 

 レオンはそう言うと、一人の自衛官が前へと出る。歳は四十代半ばだろうか。この場で一番階級が高いことには違いない。

 

「話は聞いている、レオンくん」

「何かわかったことは?」

「隊員に付近を捜索させたところ、女性を発見した。君と同じアメリカ人だそうだ」

「会わせてくれ」

 

 自衛官によって別のテントに案内させられる。

 そのテントに入ると、毛布で身を包み、ホットコーヒーを飲んでいる女性がいた。その人物とレオンは知り合いだった。

 

「アリスか!?」 

「……レオン?」

 

 アリスは声を震わせながら反応した。顔や身体は傷だらけで全身が凍るように冷たかった。この雪の中、防寒もしないで外にいたせいだろう。

 

「君たち、知り合いかなのか?」

「ああ、大事な仲間だ」

 

 レオンはアリスの手を握る。

 

「アリス、何があった?」

「トウキョウの地下研究所で……アンブレラが研究を続けていたの……ウェスカーを逃がしたわ……」

「ウェスカーが!?」

 

 ウェスカーとレオン、いやレオンだけではない。クリスやリョウも因縁の敵と呼べるだろう。

 

 アリスの手には生々しい傷が残っている。

 

「アリス、傷が……」

 

 昔のアリスなら、この程度の傷すぐに治ったはずだ。だが、今は全く傷の修復が行われていない。

 

「オスプレイの中でウェスカーと戦ったとき……t-ウィルスの血清を打たれたの……前のように力が出ないわ」

 

 そういうことか。レオンは納得がいった。ウェスカーの奴、考えたな。

 レオンは立ち上がり、自衛官に言う。

 

「彼女の身柄は合衆国政府が預かる」

「許可は出来ん。彼女は重要参考人だ。何が起こったか全て話してもらう必要がある」

「信用出来ないな。拷問でもして痛めつけるんじゃないか?」

「何を言っている?」

「トウキョウと、アンブレラ研究所は自衛隊が監視しているんだろう? 何故、アンブレラの研究に気づけなかった?」

「…………」

 

 自衛官は黙る。やはり何か裏がある。レオンは確信した。この場の隊員と敵対してもアリスは守らなければならない。

 

 レオンと自衛官はにらみ会う。こちらから手を出すわけにはいかない。レオンは向こうから手を出してくるのを伺っていた。

 だが、それを遮るようにけたたましいヘリのローター音が外から聞こえてくる。

 

「隊長! 所属不明機が!」

 

 隊員の一人が知らせに来る。その手にはアサルトライフルが握られていた。

 

 よからぬことが起きている。それはレオンにも察知できた。

 

 テントの外に出ると、武装しているオスプレイが十機、この場へと向かってきていた。オスプレイにはアンブレラのロゴが入っている。

 

「あれはなんだ!?」とレオン。

「わからん!」自衛官がローター音に掻き消されないよう大声で答えた。

 

 オスプレイはミサイルを発射し、近くに滞空していた自衛隊のヘリを貫いて爆発させた。最早操作不能となったヘリはくるくると回りながら落ちていった。

 

「全員戦闘態勢を取れ!」

 

 自衛官がそう叫ぶが時既に遅かった。十機のオスプレイは機関砲を掃射し、隊員はなすすべもなくバラバラにされていく。

 

 レオンはホルスターのハンドガンを抜いて応戦するが、相手はオスプレイ。ハンドガン程度何の役にも立たない。

 

 ホバリングしているオスプレイからアンブレラの兵士が降下してくる。レオンは、降下してくるアンブレラの兵士を撃つ。兵士は叫びながら落ちていく。

 

「クソ!」

 

 レオンは周りを見渡す。生き残っている隊員たちは怯えている。仲間が目の前で死んだ。怯えたくなる気持ちもわかるが、戦わないと死ぬ。そう言ってやりたいが、降下してくる兵士を撃つので精一杯だった。

 

 ハンドガンの弾が切れる。こんな事態を想定していなかったため、予備のマガジンを持ってきていなかった。

 

何か使えるものはないか。レオンは探すと、アサルトライフルが握られている隊員の腕が近くに落ちていた。レオンはアサルトライフルを拾って、再び撃ちはじめる。だが、十機のオスプレイから降下する兵士をレオン一人で止められるわけもなく、着地に成功した兵士たちが隊員を殺し始める。隊員は何も出来ない。叫びながら、命乞いをしながら、何も言わず死の恐怖に怯えながら、次々と死んでいった。

 

 兵士はレオンに銃を向けるが、それよりもはやく兵士の頭は貫かれる。

 

「そう簡単にやられるか!」

 

 この場で一番、戦闘に長けているのはレオンだ。敵であるアンブレラの兵士は自衛隊よりも戦闘能力が高いことが見て取れるが、レオンには及ばない。彼もそれをよくわかっていた。

 

 わかってはいたが、どんなに優れた人物であろうと、数には勝てない。今は兵士たちのヘイトがレオン以外の隊員たちにも向いているが、あと三十秒もしないで、隊員は全滅するだろう。そうなれば、兵士たちは一斉にレオンに襲い掛かる。どこか隠れれる場所があれば良いが、ここは富士山山頂付近。隠れそうな場所はテントしかない。だが、テントに隠れれば、一貫の終わりだ。

 

 そもそも奴らの狙いはなんだ? その答えは考えなくても分かる。

 オスプレイが機関砲やミサイルで武装しているのならば、わざわざ兵士を降ろさずにオスプレイだけで殲滅出来るはずだ。だが、奴らはそれをせず、最初に外にいた隊員を機関砲で殺した後、兵士を降下させた。その際、テントを狙ってはいなかった。テントの中にほとんどの隊員がいたにも関わらずだ。テントをミサイルや機関砲で撃てば、もう事は済んでいる。

 

 何故それをしなかったのか。アンブレラは気付いているのだろう。目標がテントの中にいることを。だが、どのテントにいるのかわからないので、外の隊員だけを先に殺した。

 目標、レオンは既に気づいていた。奴らの目標はアリスだ。

 

「……泣けるぜ」

 

 レオンは本当に泣きたい気分だった。だが、泣いてもどうにもならない。レオンは今出来ることを精一杯やる。

 

 隊員の最後の一人が殺され、兵士たちはレオンに撃ち始める。レオンはテントの後ろ側に飛び込んで避けた。兵士の一人が撃たないように命令する。奴らはアリスがどのテントにいるかわからない。無闇にテントを撃てば中にいるアリスに当たってしまう可能性がある。レオンはそれを利用して一時の休憩を得る。深く深呼吸して、横たわっている隊員の屍からライフルのマガジンを取る。

 

「さて、どうするか」

 

 敵は多く、味方はいない。アリスがいるが、あの状態じゃ戦えないだろう。アリスをやすやすと連れ去られるわけにもいかない。

 

 勝算はない。せめてものは敵を一人でも地獄行きにすることだ。

 

 レオンはテントを撃って、その先にいる兵士たちを倒す。レオンはアリスがどのテントにいるのかがわかっている。だが、この戦法も長くは続かない。敵もレオンの思惑に気づいて、そのテントを撃ち始める。既にレオンは隣のテントに移動していた。

 

 敵は残り二十人ほど。やはり数には勝てない。レオンは囲まれようとしていた。

 テントを背にしていれば、無闇には撃たれない。そう思っていたが―――― 

 

「なに!?」

 

 兵士は引き金を引いた。レオンは横に飛びながら兵士を撃つ。兵士の撃った弾はテントを貫通していた。

 レオンはアリスがいたテントを見る。中からはアリスが兵士によって連れ出されていた。アリスは必死に抵抗するが、ストックで頭を殴られてしまう。

 もう見つかったか!

 

「クソ!」

 

 レオンは悪態をつく。どうしようもなかった。ポトッとレオンの横に深緑の球体が落ちてきた。手榴弾だ。

 レオンはその場から離れようと走る。次の瞬間、手榴弾が爆発した。

 

 轟音と衝撃。レオンが背にしていたテントは吹き飛び、その爆風はレオンをも巻き込んだ。身体が浮遊し、内臓が裏返ったかのような気持ち悪さに襲われる。レオンはそのまま吹き飛ばされ、地面に転がる。全身に力が入らなかった。

 

 兵士はレオンを殺したと思い込み、オスプレイに乗り込んでいく。アリスは気絶されられて運ばれていった。

 

 レオンはそれを見ることしか出来なかった。

 

 オスプレイは撤退していく。どこにいくのだろうか。まだ発見されていないアンブレラの研究所だろうか。

 

 いや、待てよ。レオンは気を失いそうになりながらも、疑問を持った。

 オスプレイが十機も飛んできたのだ。どこから? 何故日本の警察や自衛隊はそれに気づかなかった? 答えは一つ。気づいていたが、見逃した。理由はわからないが、アンブレラのロゴを描いたオスプレイが日本の上空を飛んでいるのだ。そうとしか考えられなかった。

 

 レオンは気を失う。

 

 

 その場には荒れ果てたテントと自衛隊の肉片が転がっていた。

 

 

 

 

 

 




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