アーヴィングが言っていた洞窟の船橋に辿り着く。
「あの船、あいつが乗っていた!」
シェバは船橋に停められていた小型ボートを指差した。
「あいつ……?」
クリスたちは知っているようだが、黒瀬たちはわからない。
「アーヴィングと一緒にフードで仮面をつけた奴がいたのよ」
「協力者……か」
アーヴィングが言っていた通り、バックには巨大な組織がいるのだろう。
「みんな、本当に行くんだな?」
ジョッシュが確認する。
「ウロボロス計画のこともある。引き下がれないさ」
「止めても無駄みたいだな。俺はHQに報告してくる」
「わかった、気をつけて」
ジョッシュはボートで引き返していった。
ジョッシュを見送った彼らは先に進む。
「アーヴィングが言っていたエクセラとかいうやつ……」
シェバが話す。
「心辺りが?」
「トライセルアフリカ支部の支部長と同じ名前だわ」
「黒い噂が絶えないけどね」
ソフィアが付け加えた。
トライセル。製薬会社でBSAAのスポンサーの一つだ。
「トライセルか。何を考えている?」
リョウSIDE
洞窟、そして遺跡を進むと、光が差し込む場所に辿り着いた。
「なんだここ?」
他の場所とは雰囲気が全然違う。中心には紅い花が咲いていた。
「見たことのない花だ」
「あれは!?」
クリスは何かに気づく。埃を被っている箱から埃を払うと、黒瀬やクリスには因縁深いマークがそこにはあった。
アンブレラのロゴだった。
「なんでアンブレラが?」
そうとう古い。十年以上前の物だった。
「向こうにはトライセルのテント……一体どういう関係だ?」
先に進むと、比較的新しい施設の中へと入れた。
「施設は相当広いみたいだ。分かれて進もう」
チームは、クリスにシェバ、黒瀬にソフィア、リカに田島となった。
「何かあったら直ぐに連絡してくれ」
互いに幸運を祈り、黒瀬とソフィアは先に進む。
「ソフィア、俺から離れないでくれ。近くにいる限りお前を守れる」
「うっわ……そのセリフ寒すぎるよ」
「そうか?」
黒瀬は自分が言ったセリフの恥ずかしさに気づいていない。
「これ以上俺の目の前で誰も死なせたくないんだ」
BSAAはテロリストやB.O.W.と戦う。勿論死人も少なくない。黒瀬も目の前で仲間が死ぬところを何回も見てきた。その度に自分を恨んだ。もっと力があれば救えたかもしれない。そう思うことが何度もあった。
今回の作戦で友人のカークが死んだ。黒瀬とカークは、まだBSAAがNGO団体の時からの付き合いだった。仲間を亡くすのは辛い。だから黒瀬はせめて近くの仲間、ソフィアは死なせたくなかった。
「リョウはさ、色々と背負いすぎなんだよ。仲間が死ぬのはアタシだって悲しいけど、それを自分のせいにしなくても……」
「いや、俺のせいだ。俺は“力”を持っているのに、仲間を救えないなんて……」
黒瀬は傍らから見れば、情熱家で仲間思いの人間だが、本当の黒瀬はいつも自分を悔やんでいる。
「リョウ……」
ソフィアは何も言えなかった。
黒瀬がこの十一年間、どんな思いで戦ってきたのかソフィアは知らない。その中で多くの仲間を亡くしたのは事実だろう。これ以上の励ましの言葉が思い付かなかった。
「ごめん、ちょっと辛気臭くなっちまったな。でもこれだけは約束する。お前を必ず守る」
「うん」
ソフィアは頷くだけだった。信じているからだ。黒瀬は約束を破らない。ソフィアは良く知っていた。
「さて、そろそろ敵のお待ちかねだ」
黒瀬は敵を確認し、ソフィアに物陰に隠れるよう指示する。
壁から敵の様子を見る。全員がアサルトライフル、手榴弾、ナイフやスタンロッドで武装しており、今まで戦ったマジニよりも戦闘能力が高そうだった。
(これは一筋縄じゃいかないな……)
今までのマジニは、斧や素手での近接戦が主だったが今回は違う。全員が遠距離武器だ。倒す難易度は格段に上がるだろう。
「ソフィア、気を引きしめろ」
「分かってる」
黒瀬はソフィアに合図し攻撃を始めさせる。銃声に気づいたマジニたちは物陰に隠れてアサルトライフルで応戦し始めた。
黒瀬が隠れている壁にも何十発もの銃弾が飛んでくる。
「さて、どうするか……」
黒瀬の武器は銃剣付きのアサルトライフルとサバイバルナイフ一本だけ。せめて刀があれば銃弾の嵐を突破出来るが、残念ながらない。
ソフィアが隙を伺ってハンドガンを撃つ。BSAAのエージェントなだけあって確実に敵に命中させていくが、マジニに銃弾一発当たっただけでは数秒の時間稼ぎしかならない。
(俺も銃が使えれば……)
黒瀬は銃を持つ度にそう思っていた。わけのわからないトラウマに十年以上付き合わされ、銃を使えないが上に窮地に立つこともしばしばあった。昔、レベッカにトラウマが治せないか聞きに行ったことがあるが、トラウマの記憶を思い出せない限り、克服は難しいらしい。
(……これじゃあ俺が守られてるだけだ)
つい先ほどソフィアを守ると言ったのに今はソフィアに頼っている。増援が駆けつけ、敵がどんどん増えていく。この状況を打破しなくてはならない。
「ソフィア、俺が飛び出る。少しだけ時間を稼いでくれ」
敵の中心に入れば、直ぐにでも全滅させられる自信が黒瀬にはあった。
「分かった。気を付けてね」
ソフィアは黒瀬を信頼している。
「行くぞ!」
黒瀬は壁から飛び出る。出来る限りソフィアの射線には入らないようにする。マジニは突っ込んでくる黒瀬を狙うが、ソフィアに腕を撃たれてしまう。
「よし!」
黒瀬は敵のゾーンに入ったことを確認し、銃剣を正面のマジニの胸に突き刺した。マジニの耐久力を甘く見てはならない。確実に胸に刺したが、マジニは銃剣を抜こうを暴れる。黒瀬はそうさせないよう、銃剣を突き刺した走って壁にぶつけた。銃剣はもっと奥まで突き刺さった。それでもマジニはまだ死なない。黒瀬は仕方なく腰の鞘からサバイバルナイフを抜いて顎に突き刺した。
ここまでやって倒せたのはまだ一人だった。黒瀬の存在に気づいたマジニたちは黒瀬に一斉に銃を向け、銃撃を再開させる。黒瀬は死んだマジニの胸ぐらを掴んで盾にし、銃弾を避ける。マジニの腰に手榴弾が付けられていることを思い出し、腰から手榴弾をもぎ取って素早くピンを抜いて投げた。
足下に転がった手榴弾に気づいたマジニは回避行動を取るがもう遅い。手榴弾の爆発によって近くのマジニは吹き飛び、離れていたマジニも爆風と破片で傷を負う。
チャンスだった。これほど大きなチャンスを黒瀬は逃がさない。
盾にしていたマジニを投げ捨てる。瞬時に足を痛めているマジニとの距離を詰め、首を銃剣で切り裂いた。流れるように腰の手榴弾を取ってマジニが隠れている遮蔽物に投げる。
体勢を直したマジニが再び銃を構えるが、引き金を引く前に黒瀬はナイフを頭に投擲した。右方で爆発が起きる。さっき投げた手榴弾だ。隠れていたマジニは逃げる暇もなく爆発に巻き込まれ、宙に舞っていた。
(あとは……!)
黒瀬は全神経を集中させて敵を探す。遮蔽物から身を乗り出したマジニが黒瀬に銃口を向ける。だが、引き金を引くことはなく、その頭は撃ち抜かれていた。
「危なかったね」
ソフィアが黒瀬の肩を叩いた。
「ありがとう、ソフィア。助かったよ」
「バックアップは任せて。全力でリョウをサポートする」
心強い仲間がいるこおに黒瀬は安心した。二人とも信頼しているからこそ、最高のチームワークが発揮される。
「ここからはどんどん敵が手強くなっていく。サポートは任せた」
「うん!」
ソフィアは笑顔で答えた。
リカSIDE
南リカと田島は、BSAAに入る前、警察の特殊部隊『SAT』の頃からの付き合いだった。リカは狙撃手、田島は観測手
という相棒的存在で、切っても切れない友情関係を築いていた。
そんな彼が隣にいる。リカはそれだけで安心していた。それは田島も同じだろう。二人で何度も死線を掻い潜ってきた。十年以上もだ。
「リカ! 右方からライフル持ちが現れた! 近場は俺がやる。任せたぞ」
「了解!」
リカは背負っていたスナイパーライフル『PSG1』を構える。スコープを覗くと、リカたちをライフルで狙っているマジニのマヌケな顔が見えた。
「狙撃の腕であたしに勝つつもり?」
リカの狙撃の腕は、BSAAの中でも一位二位を争うほど。そこらのマジニに負けるなどあり得ない。スコープに目標を入れて一秒、リカは迷わず引き金を引いた。問答無用で発射されたライフル弾はマジニの頭を意図も容易く撃ち抜いた。
「よくやった!」
田島はリカを褒めながらも敵を撃ち続ける。耐久力が高い上に銃持ちとなると、これ以上にないスリルがあった。
「…………なに?」
リカは銃撃戦の最中に僅な変化に気づく。敵の数が減っている。倒したわけではない。どこかに移動したのだ。
「ねぇ、田島」
「気づいてる」
田島も妙な変化に気づいていた。遮蔽物からそ~と覗くと、一人のマジニが増援を求めて何人かのマジニを連れていっていた。
「リョウか、クリスたちが近くにいるの?」
「いや、クリスとリョウのチームは下に降りていったはずだ。……上に上ってきたのか?」
リカは嫌な予感がした。胸騒ぎがする。
増援に向かっていたマジニが次々に倒れる。誰かに撃たれていた。リカたちを相手にしていたマジニは後方の仲間が倒れたことに気付き、射撃を止めた。
リカたちやマジニ全員が、マジニが倒れた通路の先を見る。よく見えないが、全身黒ずくめの人物が三人ゆったりと歩いてきていた。
誰だ? リカも田島もその疑問が頭を横切った。マジニと敵対しているということは確かだが、BSAAからの増援が来るという連絡は来ていない。
リカはライフルのスコープで黒ずくめの人物たちの姿を確認する。
黒い戦闘服を身に纏い、ガスマスクを付け、手にはアサルトライフルを持っていた。戦闘服はマジニの血か、所々赤く濡れていた。肩には、醜いアンブレラのロゴが入っている。
マジニが一斉にガスマスクの人物たちに銃を向けた。だが、ガスマスクの人物は一切恐れることなく狭い通路を堂々と歩いてくる。リカと田島は、その人物のやばさに気づいていた。
マジニはガスマスクの人物(=アンノウン)に向かって銃撃を開始する。十体以上のアサルトライフルやマシンガンでの銃撃だ。普通ならアンノウンは蜂の巣になっている。だが、アンノウンは普通ではなかった。
目に見えないほどのスピードで狭い通路を駆け抜け、近場のマジニを一瞬で葬った。五秒も掛からぬ内に十体以上のマジニは、たった三人のアンノウンに寄って殲滅される。
その光景を見ていたリカと田島は思わず息を飲んだ。銃は一切使っていない。ナイフ一本だけでマジニの首を切断し、銃弾も全て避けていた。
これは現実かと思うような目を疑う光景だったが、現実であることには違いない。
奴らと戦うことは最善ではない。この場から離れ、黒瀬たちに奴らの存在を知らせなければならない。
だが、そううまくいくものでもなかった。
ガスマスクの一人が、いつの間にか背後に立っていた。ガスマスクの赤い目が光る。何を考えているのか分からない。だが、殺気だけは感じ取れた。
リカと田島には恐怖が込み上げる。
「────やるぞ!!」
田島は大量の冷や汗を滴ながら叫ぶ。見つかってはどうしようもない。戦う以外に手段はなかった。だが、リカも田島もは勝てる自信がなかった。