黒瀬、ソフィア、リカ、田島の四人はクリスたちとの合流を急ぎ、油田へと到着した。
油田の作業員も既にマジニ化しており、到着早々戦闘が開始される。
リカはさっきまで吸っていたキューバ産の煙草を投げ捨てハンドガンで応戦する。
マジニはダメージを気にせず襲い掛かるが、エージェントの四人には一撃も加えることさえできない。
チェーンソーを持ったマジニさえ登場するが、一瞬で黒瀬に倒される。
気づけば油田入り口付近のマジニは全滅していた。
「意外とはやく終わったな」
「俺たちの手に掛かれば当然だ」
田島は自慢気に言った。
「リョウ、そういえば」
ソフィアが一枚の写真を黒瀬に渡す。
「情報収集をしてる途中、偶然見つけたんだ」
黒瀬は写真を受け取って見つめる。
写真に写っているのはダークブロンドの長髪の女性だった。
「これは……!?」
その女性は三年前に死んだはずのジル・バレンタインに酷似していた。
「リョウ、どうしたの?」
リカと田島も黒瀬が持っている写真を覗き込む。
「これって……」
リカも写真の人物がジルだということに気づく。
「ジルだ、間違いない」
三年前、スペンサー邸でジルとクリスはウェスカーと戦った。しかし、クリスたちは劣勢となり、クリスがウェスカーに殺されそうのなったところをジルは庇ってウェスカーと共に谷底に落ちていった。
その後、長い期間捜索されたが、結局ジルは見つからずMIAとなってしまった。
「ジルちゃんはこの事件に関係してそうだな」
「ああ。アーヴィングに聞けば何かわかるかもしれない」
ジルの手がかりを知る人物。逃がすわけにはいかない。
「クリス!」
「リョウか!」
四人はマジニを倒しながら油田を進むと、船橋でクリス、シェバと合流した。
「シェバ、無事だったのね」
リカはシェバに抱き着く。リカの目には涙が潤んでいた。同じ支部に所属しているだけあって関係も相当深いのだろう。
「急ぐぞ、もうじきここは爆発する!」
クリスと言葉で全員の気がしまる。
船橋を走って進むと、デルタチームのジョッシュ・ストーンがボートにエンジンを掛けて待機していた。
「ちょうどボートは二隻ある。はやく乗るんだ!」
全員ボートに乗り込み、急いでその場を離れる。すぐに油田は爆発した。
「ヒュー! 少しでも遅れてたらやばかったな」
田島は安心し座り込んだ。
「残念だが安心している暇はないぞ。アーヴィングが船で逃げた」
「アルファとデルタの仇を討つチャンスね」
リカはハンドガンに新しいマガジンを叩き込む。
「少しでも抵抗するようならこれで頭を吹き飛ばしてやるわ」
あまり怒らないリカは今回ばかりは許せなかった。家族同然に過ごしていたアルファとデルタがやられたのだ。アーヴィングの額に弾を撃ち込みたくてうずうずしていた。
「リョウ、ジルが生きているかもしれん」
クリスは端末の写真を見せる。それはさっき黒瀬が見た写真と同じだった。
「ああ。アーヴィングが何か知っているかもしれない。聞き出さないとな」
そう言っていると、アーヴィングが乗った船が見えてきた。マジニが船に装備しているガトリングガンでボートを近づけまいと撃つがクリスによって倒される。
黒瀬、ソフィア、リカ、クリス、シェバは船に乗り込む。田島とジョッシュはボートで船を追う。
甲板にアーヴィングが立っており、怪訝そうな顔をしていた。
「アーヴィング、ここまでだ!」
全員がアーヴィングに向けて銃で狙いを定める。
「人の顔に泥を塗りやがって……」
アーヴィングは黒瀬たちを睨み付ける。
「あいつら、誰のお陰で計画が進められたと思ってんだ。金を集めたのは俺様だぞ」
アーヴィングが言うことは黒瀬たちには分からない。だが、アーヴィングの背後には必ず何者かがいる。
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって……」
アーヴィングが手にしていたのは注射器だった。それを首筋に打ち込む。
アーヴィングは苦しみだし、背中からは触手を出す。
「なに!?」
「打ったのはウイルスか……!」
リカはアーヴィングに向け発砲をする。だが、人間離れした俊敏な動きでそれを避けた。
「俺はな……お前らみたいなクズとは違うんだよ……!」
「おいおい、それはお前だろ」
黒瀬は瞬時にアーヴィングに接近した。そしてその顔に右ストレートをぶちかます。
「クソ!」
アーヴィングは何を思ったのか川に飛び込んだ。これほどの速度を出している船から飛び降りるのは自殺ものだ。
だが、間もなく巨大な触手が船の甲板を叩きつける。川から出現したのは体長15メートルはあるイカのような化け物だった。
頭が花弁のように割れ、その中心にいたのはアーヴィングだった。
『俺様をコケにしたことを後悔しろ!』
「「うるさい!」」
黒瀬とクリスは弱点を露呈させた本体に向け、攻撃した。
モンスターと化したアーヴィングは苦しみ、再び川に飛び込む。
『みんな、どうなった!? 何なんだあの化け物は!?』
ボートを運転している田島とジョッシュから通信が入る。
「危ないぞ離れていろ」
クリスは二人にそう伝える。
「みんな、船には機関銃がついている。それで応戦するぞ」
ただの銃ではモンスターアーヴィングには有効なダメージは与えられない。運良く甲板には固定機関銃やグレネードランチャーが設置されていた。
「リョウ、船のなかにこれがあったよ!」
ソフィアが持ってきたのは銃剣付きのアサルトライフルだった。
「ありがとう、ソフィア。これで俺も戦える」
黒瀬はアサルトライフルを受けとる。
「でもどうすんの?」
例え近接武器があっても川に潜んでいるアーヴィングに攻撃を加えることは出来ない。
黒瀬は何か手がないか考えていると、川から巨大な触手が複数出現した。
「これだ!」
黒瀬は触手に飛び付き、川に飛び込む。
触手を辿って泳ぐとモンスターアーヴィングがいた。
黒瀬はそいつにナイフを刺す。何回か刺しただけではダメージにならない。秒間十回以上、深く刺す。
クリスたちの攻撃もあってモンスターアーヴィングは身体を浮上させた。
「よし!」
黒瀬はモンスターアーヴィングにアサルトライフルの銃剣を刺しながら全力で走る。豆腐のように軽く切れる。
ダメージに耐えきれなくなったのか口から本体を出した。
クリスたちはそこに総攻撃し、本体は弾き出されて甲板に転がる。黒瀬も一っ飛びで甲板に戻る。
変わり果てたアーヴィングがそこにはいた。
「何を企んでいる!?」
クリスはアーヴィングに銃を向ける。
「エクセラの奴、二流品を押し付けやがって……!」
「エクセラ……?」
シェバやリカ、ソフィアはその名前に心辺りがあるようだった。
「実験施設はどこだ!? ウロボロス計画とは何だ!」
クリスはアーヴィングに問い詰める。
「BSAAか、呑気な奴等だ。もうすぐ世界のバランスが変わるってのによぉ……」
「世界のバランスが変わる? ウロボロス計画のことね。何を知っているの?」
「今更知ってどうする? 手遅れなんだよ。ウロボロスが世界を変えちまう」
ウロボロス計画。黒瀬もそれには聞き覚えがあった。シェバが言った通り、世界のバランスを変えるほどの計画。そんなものはただの噂だと思っていた。
「うおああああぁぁ!」
アーヴィングは苦しみ、ばたばたと暴れる。
「クリス、リョウ、下がって!」
シェバは危険と判断し二人を下がらせた。
二人の名前を聞いてか、アーヴィングは二人の顔を見つめる。
「クリス? リョウ? おまえらが……」
アーヴィングは先程の痛みが嘘のようにいきなり笑いだした。
「何がおかしい!」
「クリス、リョウ、この先の洞窟に答えはあるぜ。お前らにとっては地獄だがな。悪くねぇ気分だ。先に逝ってるぜ! せいぜいもがいて見せな!」
「時間の無駄だ!」
クリスはアーヴィングの頭に銃口を向けるが、シェバによって制止される。
アーヴィングはすぐみドロドロに溶けて死んでいった。
「くそ……」
クリスはアーヴィングからほとんど情報を聞けず悔しい表情だった。
「これからどうするの……?」
「とにかく先に進むしかない」