バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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64話 VSンデス

 黒瀬は荒野をダッシュし続け、もう一時間ほど経っていた。クリスやデルタチームとの合流場所であるキジュジュ地区はまだ見えない。

 

 いくら黒瀬が人間離れした身体能力を持っているとしても体力の限界が近づいていた。黒瀬は少し休憩しようと立ち止まる。

 

「クソ……!」

 

 一時間で四十キロほど進んだだろう。だが、それでも目的地はまだまだ先だ。

 

 黒瀬はザラザラの砂の大地に座り込む。そしてゆっくり呼吸を整える。十分ほど休憩すればまた走れる筈だ。

 

 休憩中の黒瀬に一台のバイクのエンジン音が近づくのが聞こえてくる。しめた。黒瀬の顔は思わずにやけてしまう。

 

 こんなところでバイクに乗っているのはマジニくらいだ。マジニを倒してバイクを傷つけないで入手できれば、一気に目的地に到着することができる。

 

 黒瀬は後ろを振り返る。バイクに乗っている人物はフードを被っていて顔は見えない。だが、黒瀬にまっすぐ突っ込んでくるということはマジニ以外の何者でない。黒瀬はそう決めつけていた

 

『絶対に襲わないでね』

 

 耳に装着しているインカムに誰かの声が流れる。インカムで通信できる距離にいる人間はただ一人。バイクに乗っている人間だ。

 

(誰だ?)

 

 どこかで聞いたことのある声だが、誰だか思い出せない。

 

 バイクは黒瀬の目の前で止まった。フードの人物はフードをまくりあげて素顔を見せる。

 金髪の髪、褐色肌の女。BSAAのメンバーだった。

 

「おまえだったのか。ソフィア」

「久しぶりだねリョウ」

 

 笑顔でソフィアは答えた。

 

 ソフィア・ラライン、彼女と黒瀬の出会いは七年前、オペレーション・ハヴィエまで遡る。地元で情報屋を営んでいた彼女から情報を買ったのが始まりだ。

 あの頃から黒瀬はソフィアから情報を買っており、黒瀬の誘いによって今はBSAA所属のエージェントになった。

 

「身長随分と伸びたじゃないか」

 

 何年か前に会ったときとは比べ物にならないくらい背が伸びていた。黒瀬には及ばないが、百七十近くはある。

 

「アタシだって成長期くらいあるよ」

 

 ソフィアは黒瀬の言葉が気に入らなかったのかそっぽを向ける。

 

「すまん。それで何でソフィアはここに?」

「リカルド・アーヴィングの情報を追って近辺の町で情報収集していたんだ」

 

 ソフィアはBSAAのエージェントとしてほぼ一人で情報収集を行っている。彼女もHQからの指令で黒瀬よりも前にアフリカに来ていたらしい。

 

「それよりはやくいかないと」

「そうだな」

 

 何はともあれ、足を確保することが出来た。黒瀬はソフィアの後ろに乗る。

 

「飛ばすよ!」

 

 エンジンを鳴らし、猛スピードでサバンナを駆ける。この調子なら一時間足らずでキジュジュ地区に着くだろう。

 

「リョウ」

「なんだ?」

「あのお兄さん元気?」 

 

 あのお兄さんと言われて黒瀬は考える。

 

「もしかして小室のことか?」

「あー、確かそんな名前」

 

 ソフィアが小室と顔を会わせたのは七年前。ソフィアは、小室がBSAAに所属していることは知っているが、それからは会ってないらしい。

 

「元気だぞ。そういえばソフィアは結婚式にはいなかったな。小室は結婚したんだ」

 

 小室と毒島冴子は四年ほど前、日本で結婚式を挙げた。黒瀬も勿論参加していた。冴子は結婚はしたが、BSAAをやめるつもりはないらしく、現場で活躍している。

 

「知ってるー。あの美人さんとだよね。コムロのお友達も結婚したんだよね?」

「ああ」

 

 黒瀬は頷く。

 

 平野と高城も小室たちが結婚した数ヵ月後、結婚した。平野の場合は婿入りなので、書類上は高城コータになっているが、黒瀬や小室は変わらず平野と呼んでいる。

 

「リョウは結婚しないの?」 

「ああ。誰とも付き合う気はない」

 

 恋愛感情を抱いた相手なら黒瀬も覚えがある。その人物の名前は香月彩だ。彼女はテラセイブに所属しており、二人とも多忙なこともあって時々しか会えない。

 

「あーあー。将来孤独死するね」  

「そうかもな」

 

 適当に答えるが、黒瀬は孤独死をする歳まで生きられるとは思ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒瀬、ソフィアはキジュジュ地区に到着するが、そこは荒れ果てていた。

 

 マジニの死骸があちこちに転がっており、戦闘の形跡がある。デルタチームやクリスたちがマジニと争った跡だろう。

 

 人形の巨大B.O.W.がBSAAのハンヴィーに倒れており、その近くにはデルタチームの死体があった。無惨に殺されていた。

 

「どうやらこいつにやられたようだな」 

 

 人形の巨大B.O.W.は、レオン・レポートにあったエルヒガンテにそっくりだった。黒瀬もあの場にいたが、エルヒガンテとは戦っていない。

 

「この化け物がデルタチームを殺ったとして、化け物は誰が倒したの?」

「クリスだろうな。こいつを倒して油田へと向かったんだろう」

 

 流石はクリスと言うべきか。これほどのクリーチャーを倒せる者はそうそういない。

 

 シェバらしき死体はない。きっとクリスと共に行動しているのだろう。クリスの相棒として貢献しているようだ。

 

 黒瀬はデルタチームの死体に近づき、追悼する。

 彼らは善人だった。自分達の命よりも他人を優先する人間だった。だから死んだのだろう。この世界は良い人から早く死んでしまう。

 

(おまえらの死は絶対に無駄にはしない)

 

 この世からB.O.W.を無くす。可能かどうかはわからない。ウィルスは増えすぎた。だが、死んでいった者のために力の限り、命の限り戦う。黒瀬の覚悟は揺らがない。

 

 追悼を捧げ終わった次の瞬間、どこからか銃声が響く。ビルの屋上から放たれたライフル弾は黒瀬の横を通り過ぎていつの間にか接近していたマジニの頭を貫いた。

 

『ここは戦場だ。油断するな』

 

 インカムの通信だった。男の声、しかも日本語。黒瀬は聞き覚えがあった。

 

 

 

 

「左右の風ほぼなし……! 射撃許可……言うまでもないか」

 

 その言葉を受けて、南リカはスナイパーライフルでの射撃を開始した。黒瀬とソフィアに近づく敵を片っ端から撃ち倒す。

 

「数が多い! アンタは下に降りて二人を援護して!」 

「了解!」 

 

 田島はアサルトライフルを持って、ロープで降下する。

 

 先程までは静かな町だったのにどこから出たのか大量のマジニが全方向から出現していた。

 

 ズシンズシンと、重たい足音が響き渡る。

 デルタチームを壊滅させた大型B.O.W.がもう一体残っていた。

 

「おいおい、マジかよ」

 

 流石にこれだけの数のマジニに、大型B.O.W.の相手はしきれない。助けたのはいいが、撤退を考えなければならないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次々に敵が出てくる。ソフィアはハンドガンと体術でマジニを倒す。普段はあっけらかんとしていて頼りないが、やはりBSAAのエージェントだ。正確にマジニにヘッドショットを決めていく。

 

 それを見ていた黒瀬に武器を持ったマジニが襲い掛かる。接近を察知しており武器を使わないで鋭く重たい一撃をマジニの頭に喰らわせる。

 

 グシャリ、と頭が潰れた。その様子にマジニは怯むことなく接近戦を仕掛けてくるが、バッタバッタとなぎ倒されていった。

 

 屋上からのリカの援護射撃でマジニの数は減るが、それ以上に出現する。

 

 どこから現れたのかデルタチームを壊滅させた巨大B.O.W.までもが出現し、大きく吠えた。

 

 巨大B.O.W.──ンデスは近くの電柱を引きちぎり、黒瀬に接近する。

 

 最優先に倒さなければいけないのはあいつだ。

 

「ソフィア、田島さん、援護を頼む!」

 

 黒瀬はンデスに向かって全力疾走。田島とソフィアの援護により黒瀬の行く手を遮る敵は倒される。

 

 ナイフを抜く。ンデスは電柱を振り回す。電柱が顔面直前に当たるところでスライディングで回避し、ンデスの巨大な股を潜り抜けて後ろに回り込んだ。

 そこから軽いフットワークで両足の腱を削ぎ落とす。ンデスも腱を切られては立つことが出来ず、膝を着いてしまう。寄生体が背中から飛び出し、自ら弱点を露にした。レオン・レポートにはエルヒガンテは大ダメージを与えれば背中から寄生体が露出すると書かれていた。ンデスも同じようだ。

 黒瀬はひとっ飛びでンデスの背中に上り、ナイフで寄生体を真っ二つに切る。ンデスは糸が切れたかのように正面にいたマジニを巻き込みながら倒れた。

 

「あとちょっとだ!」

 

 例え敵が百、二百いようと、今の黒瀬たちに勝てる者などいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 長いようで短かった戦闘が終わった。辺りにはマジニの死体が転がっていたが、重症を負った者はいなかった。

 

「リカさん、田島さん、久しぶりです」

 

 ビルから降下してきた南リカも合流し、久しぶりの対面だった。

 

 リカと田島はカントウ事件の生存者で、元SATだった。二人は元々ツーマンセルで、BSAAのエージェントになってもそれは変わらない。

 

「久しぶりだな、リョウ。世紀末みたいにボロい格好だけど大丈夫か?」

 

 田島は黒瀬のボロボロの戦闘服を見て苦笑した。

 

「まぁ一応は。田島さんたちは何故ここに?」  

 

 黒瀬の質問にリカが答える。

 

「あたしたちはクリスやシェバよりも前にキジュジュ地区に潜入していたのよ。と言っても隅っこの方だったから駆け付けるのが遅くなっちゃったけど。まさかアルファもデルタもやられるなんて思ってなかったわ」

 

 リカの表情が暗くなる。田島とリカにとってアルファデルタ隊員は家族のようなものだったのだろう。その悲しみは黒瀬よりも重い。

 

「リョウ、その格好じゃなんだから着替えたらどうだ」

「そうしたいのは山々なんだが、着替えがないんだ」

 

 黒瀬がそう言うと、田島はンデスにやられたデルタ隊員を指差した。

 

「比較的綺麗な隊員の装備は使えるだろ。おまえに使ってもらった方があいつらも喜ぶさ」

 

 黒瀬はデルタ隊員に近づく。目が不自然な方向に向いている。首の骨が折れており即死だった。苦しまないで死ねたのが責めてもの救いか。

 

 隊員からジャケットと軍靴を借りる。サイズはピッタリだった。ホルスターからハンドガンを取る。使う気はないが、持っておくことにこしたことはない。 

 

「ごめん、少し借りさせてもらう」

  

 黒瀬は隊員の瞼をそっと閉じさせ、立ち上がった。

 

「行こう。クリスたちを追わないと」

「ええ、そうね」

 

 これほどまでアーヴィングにやられて黙っているメンバーではなかった。仲間の仇は絶対に取る。

 黒瀬たちは油田に向けて行動を開始した。

 

 

 




明日も投稿予定

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