12章か13章が終わった辺りで番外編4やるかも
中東アジアのとある町で炭疽菌によるバイオテロが行われた。テロリストは地元の軍とBSAAが共同して制圧し、一応事件解決することが出来たが、炭疽菌による被害者が多く、医療設備も整っていない国なのでBSAAから医療班とテラセイブや国境なき医師団からの支援が行われることになった。
黒瀬はBSAAのエージェントだが、この場ではただの雑用と化していた。
仮設医療テントにどんどん荷物を運んでいく。一通り運び終わった後は患者をベッドまで運んだりと力仕事だらけだ。
「リョウさん、休憩していいですよ」
何時間か経ってやっと休むことが許される。
テントから出ると、日本人のジャーナリストがNGO団体に取材を行っていた。
「うげ!」
黒瀬が知っているジャーナリストだった。その人物から気づかれないように立ち去ろうとするが、時すでに遅く彼女は背後に迫っていた。
「久しぶり、リョウ君」
ジャーナリストは黒瀬の肩を叩き、嫌な笑顔で話しかけてくる。黒瀬は思わず顔がひきつってしまう。
「俺って運悪いな」
「あら、いつものことじゃない」
フリージャーナリストである佐藤リコは、黒瀬に取材したくてウズウズしている。
黒瀬はこの場から立ち去りたかったが、この女の前では無駄だと判断して諦める。
「先に言っとくがほとんど話せないことばかりだぞ」
「あら、ものわかりがいいじゃない」
一通りの取材を終えて、黒瀬はため息をついた。
「うーん、ほとんど情報がないじゃない!」
「最初に言ったろ、話せないことばっかりって」
黒瀬と佐藤リコはラクーン事件以前からの付き合いだが、ジャーナリストである彼女に何でもかんでも話すわけにはいかない。
「そういえば、あれから十年経つのね」
リコは空を見て言った。
「なんだよいきなり」
「カントウ事件から十年も経つのよ。あれから色々と変わったもんね」
「……そうだな」
あれから十年、黒瀬は早いものだなと思った。当時は高校生だった黒瀬だが、今ではおっさんになっている。
「気づけば二十七歳だ。婚期逃したかな」
「あなたに結婚願望とかあったの?」
「ない」
黒瀬はキッパリと答えた。
「俺はあんたと同じでフリーだからな。世界中飛び回っている男の妻なんて可哀想だろ」
「そういうものかしら」
「そういうもんじゃないのか」
「好きな人もいないの?」
「…………」
黒瀬は黙ってしまう。恋愛感情を抱いた相手。今まで考えたこともなかった。
「彩ちゃんとかクレアちゃんはどう?」
「クレアは仲間……かな? 彩は……」
彩と黒瀬の付き合いは長い。
「ほうほう、彩ちゃんが好きなんですな~」
リコは黒瀬をからかうように脇を小突く。
「彩は……何だろうな。何でか守りたい、護らなくちゃいけないって思うんだ」
「恋愛対象としては見れない?」
「わからない。でも彩はもっと……」
言葉で表現できない。これが好きという感情なのだろうか。黒瀬は頭を掻いた。
「まぁ、他の女の子よりは好きなんじゃないかな」
「おお!」
リコはまるでおっさんのようなはしゃぎようだ。
「それよりあんたの方はどうだ? もう色々やばいだろ」
リコは三十歳を越えている。若く見えるが、おばさんには違いない。
「私もリョウ君と同じよ。世界中飛び回ってるからね」
「あっそ」
「黒瀬リョウさんはいますかー?」
BSAAの医療班から呼び出しが入る。
「じゃあ俺はもういくよ。俺とあんただしまたどっかで会えるだろ」
「そうね。リョウ君の運の悪さならきっとすぐに会えるわ!」
リコはニッコリ笑顔で言った。
「リョウ君」
「ん?」
「私はいつでもあなたの味方よ。困ったときにはいつでも相談しなさい」
「そんな機会ないと思うぜ」
黒瀬は手を振ってテントの中に入った。
それが黒瀬の見た最後のリコだった。
次回から11章です