希里ありす、彼女は小学二年生のときカントウ事件で両親を亡くしてしまった。
父は籠城していた家の人間に刺され、母はいつどうやって死んだのかさえわからない。
そんな彼女はカントウ事件後、すぐ別の親に引き取られた。
彼女を引き取ったのは高城沙耶の父、高城荘一郎とその妻百合子であった。
両親を失った彼女を二人は心優しく慰めてくれた。そして彼女を支えるのはその二人だけではなく、一緒に脱出した仲間たちだった。
そのほとんどの仲間は、BSAAやテラセイブに所属した。時々しか会えないがそんな彼らが彼女の心の支えだった。
今でも毎日本当の両親を忘れることは出来ない。あの時のことを思い出しては泣き叫びたくなるくらい、心が締め付けられる。それでも彼女は強く生きようとしていた。救ってもらった命はとても大切にしなければならない。
「ありすお嬢様、お帰りなさいませ!」
しわひとつない制服を着た屈強そうな男たちは、巨大な門を通ってきた希里ありすを迎える。
「ただいま、いつも言うけど毎回迎えなくてもいいのに」
「いえ、ありすお嬢様を迎えるのが我らの仕事でございます」
「え~」
そんな身体をしといて別のことに使えないのかとありすは思う。
むさ苦しい男たちはありすによってたかる。
「ありすお嬢様、バッグをお持ちしましょうか?」
「お嬢様、学校生活はうまくいっていますか?」
「お嬢、お綺麗です」
まるで変態的な目だった。彼らは、ありすを心配し、そして心から愛している。だが、毎日こうではありすもいい加減我慢の限界だった。
「うるさーい! 散って!」
彼女のお叱りを受けた男どもは、残念そうに戻っていった。
「……まったく」
ありすは言った後に言い過ぎたかなと気付くが、ここで謝ってしまっては明日からもあの状態が続いてしまう。ここは心を鬼にする必要があった。彼らには当分の間我慢してもらおう。
ありすは玄関へと向かい、紳士な男性が大きなドアを開ける。
「お帰りなさいませ、ありすお嬢様。お客様がお待ちです」
「お客?」
ありすには心当たりがない。友達と約束してないし、孝や沙耶なら直接帰ってくる連絡をする。彼女は誰かなと考えながら客室へと向かう。
使用人から挨拶されながら広い客室に入る。そこには久しぶりに会う人物がいた。
「リョウお兄ちゃん!」
ありすはリョウの姿を確認するや否やタックルするように抱き着いた。
「ありす、久しぶりだな」
ありすとリョウの再会は、高城沙耶と平野コータの結婚式以来、実に二年ぶりだった。
「仕事で中国まできてな。久しぶりに日本に戻ろうかと思ってたんだ」
リョウは二年前と変わっていない。性格も姿も。少し身長が伸びたくらいか。彼は二十五歳近くだが、そこらの高校生のような外見だ。
ありすは本当に嬉しかった。リョウは、孝やコータのようにBSAA極東支部に在籍しておらず、世界を飛び回っている。そのため日本に帰ってくることが少なかった。
ありすはリョウに夢中で話した。この二年間のこと、リョウへの愚痴、積もり積もった思い出話、それは日が暮れるまで続いた。リョウはずっと笑顔で聞いていた。
いつもの豪華な夕食はもっと豪華になり、リョウはそれをぺろりと平らげた。荘一郎と百合子もリョウと楽しく話した。血はつながっていないが、本物の家族ように団らんとしていた。
風呂に入った後、リョウに勉強を教えてもらう。ありすは進学校に通っているので宿題が多く、予習復習しないとついていけないほどだ。
「ありすはどこの大学に通うんだ?」
「うーん、近くに良い大学がないがないから遠くの方に行くかも」
「聖イシドロス大学とかは?」
「悩む~」
聖イシドロス大学は、リョウや孝たちが通っていたので、色々アドバイスが出来るが大学も色々と学部がある。ありすはどうも決めきれない。
「まぁ、まだまだ時間はあるからな。ゆっくり考えればいいよ」
リョウは、ありすに自分たちと同じ道を辿ってほしくはなかった。ウイルスと関わってしまえば、不幸しか起きない。妹のような存在だからこそ、日本で幸せに暮らしてほしいのだ。
「ねぇ、リョウお兄ちゃん」
「ん?」
「ありすに彼氏が出来たらどうする?」
「彼氏を殴る」
即答だった。
「俺のパンチに耐えきるやつだったたら付き合うことを許してやろう」
まるで頑固親父のような言い分だ。
「耐えきる人はいないと思う……」
リョウの右ストレートを顔面に喰らったら、首が吹き飛んでしまうだろう。
ありすとリョウは夜遅くまで話し、ありすはいつのまにか眠ってしまっていた。
朝起きると、リョウはすでにいなくなっていた。
「もう行っちゃったのか」
もっと話したかった。休日には色んなところに遊びいきたかった。そうありすは思うが、リョウのことを理解しているつもりだ。彼はありすも大事だが、他の人間も同じくらい大事に思っている。そんな彼を引き留めることなどありすには出来ない。
だが、何故か引き留めとけばと、ありすは思った。もう会えないようなそんな気がした。