バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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60話 “普通”

「リョウ!」 

「パーカー、レオン!?」

 

 シアーズ・タワーの近く、黒瀬たちはレオン、パーカーと合流した。

 

「パーカーはわかるが、何でレオンが? まさかいつもの運の悪さか?」

「……その通りだ」

 

 黒瀬もそうだが、レオンも大概運が悪い。いや、ラクーンシティの生還者のほとんどは運が悪い奴らの集まりだが。

 

「で、シアーズ・タワーにテロリストがいるんだろ?」

「ああ。屋上からt-ウィルスを撒くらしい」

 

 あの量のt-ウィルスを撒けば、アメリカ以外にも近隣の国にも影響が及ぶ。

 

「ヘリでは近づけないのか?」

 

 レオンが聞くが、それにパーカーが答えた。

 

「無理だろうな。あのタワーには狙撃要員がいるはずだ。俺の乗ってきたヘリもパイロットごと撃たれた」

「なるほど、だからエレベーターに乗っていたのか」 

 

 黒瀬たちにはレオンとパーカーが何を言っているかわからなかったが、既に仲良くなっているらしい。

 

「ともかくシアーズ・タワーに乗り込むんだろ? 正々堂々入り口から行くのか?」

「それしか方法はないな。こそこそ隠れてもどこに狙撃手がいるのかもわからないし」

 

 パーカーとレオン。二人が加わったことで戦力がかなり上がる。

 タワーの前まで来ると、傭兵が数人、入り口から見張っていた。レオンとパーカーが撃ち、増援が来ない内にタワー内へと入る。

 

「リョウ、これを」

 

 パーカーからリュックを渡される。

 

「忘れ物だ」

 

 中身は黒瀬の装備一式だった。

 

「ありがとう、パーカー」

 

 黒瀬は瞬く間にいつもの戦闘服に着替えた。

 

「うおおお! クロセさんのフル装備! 後で写真撮ってもいいですか!?」

 

 レイアンは興奮気味に言った。

 

「おい、リョウ。大丈夫なのか、こいつ」

「俺のファンだって。嬉しいだろ?」

 

 そうこうふざけていると、黒瀬たちに銃弾が降り注ぐ。黒瀬たちは近くの柱に飛び込んで回避した。

 見張りがやられたことに気づいた傭兵が集まってきた。

 

「リョウ、ここは俺たちに任せろ。倒してすぐに追い付く」

 

 とレオン。

 

「だけどあいつらは強いぞ。他の傭兵よりも何倍も」

「そうらしいな。でもここでずっと足止めをくっておく気か?」

 

 それもそうだ。t-ウィルス散布の時間まで残り少ない。ここは、突破できる黒瀬だけでも行くべきだった。

 

「皆! ここは任せた!」

 

 レオンとパーカー、鍛えられたBSAAの三人。そう簡単にはやられない。

 黒瀬は腰の刀を抜刀した。

 

 ――そう、この感じだ。

 

 空気が震える。鈍い者にもわかるほど、エントランスは黒瀬の殺気で埋め尽くされていた。 

 

 黒瀬は歩いて柱から出る。傭兵は黒瀬のその行動に驚いたのか、一瞬だけ銃撃が止まる。

 

 傭兵たちも気づいたのだろう。この恐ろしい殺気を出しているのが誰なのかを。

 

「う、撃て!」

 

 傭兵は射撃を再開した。再開したと同時に、黒瀬は二階へと上がっていた。

 

「は?」

 

 傭兵はすっとんきょうな声を上げた。それもそのはず、目の前の傭兵たちが血飛沫を上げていたからだ。あの一瞬の内に……。

 

 黒瀬はエレベーターのボタンを押した。

 

 ――中に六人。

 

 まだ到着していないが、長年の勘と実力で把握できた。全員扉方向へと銃を構えている。

 エレベーターが到着し、扉が開く。黒瀬の推測通り、六人が銃を構えていた。

 

「それがどうした?」 

 

 刹那、黒瀬は傭兵を斬り裂き、血だらけのエレベーターへと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「クロセ・リョウか」

 

 タワーの屋上。そこには奴がいた。

 

 グレッグ・リチャードソン。このバイオテロの主犯だ。

 

 グレッグの隣には妙な機械があった。あれで恐らくt-ウィルスを散布するのだろう。

 

「好きな武器を二つ取って、他は捨てろ。言う通りにしなければ今すぐに機械を起動させ、t-ウィルスを散布する」

 

 グレッグは機械に触れる。脅しではない、本気だ。

 

「わかった」

 

 折角パーカーが届けてくれた装備だが、もう使えないようだ。黒瀬は刀とサバイバルナイフを取り、他の武器を捨てる。

 

「それで良い。素直な奴は好きだ」

「俺はおまえが嫌いだけどな」

 

 グレッグを倒し、あの機械を止める。それが黒瀬がやれること。失敗すれば、アメリカ、もしかしたら世界中にt-ウィルスが蔓延する可能性もある。

 

 グレッグは三点バースト、大型弾倉のハンドガンとコンバットナイフを取り出した。近接武器しかない黒瀬は圧倒的に不利だ。

 

「脅している側だからな。これくらいのハンデは許してくれ」

「…………」

 

 黒瀬は無言で答える。そして抜刀した。

 二人は睨み合う。じりじりと円形に移動し、グレッグの発砲によって戦いの幕は上がった。

 マシンガンのような連射速度の銃弾が黒瀬へと襲い掛かる。それを黒瀬は避けず、まっすぐに突っ込む。

 

「うおおおおお!!」

 

 咆哮。黒瀬に襲い掛かるはずの弾は、次々に真っ二つにされていく。だが、全部を弾けるというわけでもなく、黒瀬の全身にかすり傷が出来ていた。

 

「やるな!」

 

 グレッグはマガジンを交換しようとするが、黒瀬の刀がそれを遮る。グレッグの胸に刀が届く前に、ナイフで弾かれる。反射神経は相手も高い。黒瀬は刀を素早く引いて、また電光石火の一撃を喰らわせようとするが、素早いリロードを終わらせたグレッグが黒瀬の胸に弾丸を撃ち込んだ。

 

「ぐ……ッ!」

 

 防弾チョッキのおかげで弾は弾かれるが、それでも骨を折るくらいの威力はあった。

 よろめく黒瀬にグレッグはまた銃を撃つ。黒瀬の肋骨はボロボロになっていた。そこにグレッグの前蹴りが飛んできた。黒瀬はまともに喰らい、後方に吹き飛ばされる。

 

「どうだね。痛いか?」

 

 動けない黒瀬の顔をグレッグが殴る。

 

 グレッグは昨日戦ったときよりも遥かに強くなっている。

 

「君は強い。だが、それがどうした? いくら強くても近接格闘しか出来ない君に負けるわけがないだろう?」

「……それもそうだな」

 

 黒瀬は口に溜まっている血を吐き出した。 

 

「でもな、俺は、俺たちはそんなことで諦めないんだよ。おまえらみたいなクズがいる限り……」 

「まぁ、BSAAの根性は認めている。だが、私たちのようなクズがいるから、おまえらは今、ここにいるんだろう? 私たちのようなテロリストを相手にすることで飯が食える」 

 

 反論しようにも出来ない。グレッグの言う通りだった。彼らのようなテロリストが存在しなければBSAAという組織は出来ていない。

 

「おまえは何のためにこんなことをするんだ?」

 

 テロリストの考えなど知りたくもないが、傷が回復するまで時間稼ぎをしなければならない。

 

「何のために……か。私には……俺にはこの道しかなかったんだよ。幼い頃から戦争をやっていて、人を殺してきて……。そんな人間が一般人のように普通の生活を送れると思うか? 俺にとっての“普通”は銃を持って敵を撃ち殺すだけだ。そこにウィルス、B.O.W.という要素が追加されただけ。時代も変わるんだよ」

 

 確かに彼の言う通り、子供の頃から戦争をしていた人間が、幸せな生活を送れると言われれば疑問を持つ。けれども、そんな理由で人殺しをするなんてイカれている。

 

「おまえはどうなんだ? おまえに戦う理由も、意味もあるのか?」

 

 黒瀬は口を紡ぐ。戦う理由、意味……。

 

「俺はな、アンブレラなんかいなきゃな、一般人みたいな普通の生活を送れてたんだよ。普通に学校生活して、大学に行って、戦いなんて関係ない職に就いてた。結婚もしてただろうし、子供も出来てただろう。でも、あんな光景を見て、真実を知って……普通ではいられなくなったんだよ」

 

 黒瀬の戦う理由はグレッグと似たものだった。

 ラクーン事件に巻き込まれ、戦う選択をし、今もウィルスやB.O.W.を使うテロリストと戦っている。もう戦いから離れられない身体になっていた。

 

「俺は……ウィルスを悪用するやつを許さない。あの光景を、これ以上繰り返したくない」

「ラクーンの生還者だからこそ言えることだな」

 

 数分の時間稼ぎの末、傷はほとんど回復した。これでさっきの通り戦える。

 

 グレッグと黒瀬、再び互いに睨み合う。グレッグはマガジンを交換し、いつでも撃てる状態にしている。油断さえしなければ、銃弾程度斬れるが、奴は普通の人間ではない。しかも何故か前回よりも強くなっている。すさまじい力で黒瀬を翻弄するだろう。

 

「まだ戦えるだろ?」

「もちろん。さぁやろう」

 

 

 

 

 

 

 




11月から投稿開始予定

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