レイアンは一般的に言う軍事オタクだった。
父が海兵隊だったこともあるのだろう、子供の頃から、そういうことばっかり調べていた。
レイアンは決して運動神経が良い方ではなかった。学校での徒競走も後ろから数える方が早かったし、その他も身体能力も平均以下だった。
だが、それでも彼は諦めなかった。父と同じような逞しい軍人になるため、必死に努力した。
そして何年もの月日が流れた。軍人という選択肢もあったが、彼はBSAAに入り、バイオテロと戦う決意を決めた。
世界中で起こるバイオテロは、彼の友人まで死に至らしめた。それがきっかけだった。
BSAAの創設者と言われるオリジナル・イレブン。彼らの存在はレイアンを奮い立たせた。
オリジナル・イレブンのほとんどがラクーン事件、カントウ事件の生存者だった。アンブレラに因縁のある者だ。彼らは小さな組織を、国連の特殊部隊になるまでに成長させた。
そして今、その一人がレイアンの隣にいた。
黒瀬涼。ラクーン事件やカントウ事件の生き残り。こんな経歴を持つ人物など彼一人だろう。
黒瀬は理由は知らないが、銃が使えないらしい。噂によれば、トラウマがあるとか。だが、彼は銃を使わなくても強かった。
レイアンとラングが渡した
やはり彼は英雄だ。レイアンはそう思いながら、トリガーを絞り続けた。
ビリー・コーエンは、街の中を進んでいた。現れるB.O.W.を殲滅しながら。
「隊長! このままじゃ弾が切れます!」
「敵が多すぎます!」
ビリーの部下が弱音を吐く。いや、言うのが普通だ。これほどまでのB.O.W.を相手にするのは、コーカサス研究所以来だ。
「あと少しで援軍が来る。それまで耐えるんだ」
コーカサス研究所、あの時はたったの十数人で戦った。その時のメンバーは優秀すぎた。ほとんどがB.O.W.との戦闘に馴れているメンバーで構成されていたからだ。
今のメンバーは、お世辞にもそうは言えない。不純な動機で入った者もいれば、戦闘のせの字も知らない奴。今のBSAA百人より、あの時のメンバーをかき集めた方が迅速にこの事件は対処できるだろう。だが、世界中でバイオテロが起こっている今、あのメンバーを一ヶ所に集めれば、他の地域が手薄になる。それほど強いメンバーだ。
しかし、今のメンバーを成長させるのは、オリジナル・イレブンであり、ビリーだった。彼らも死にたくて戦っている訳じゃない。誰かを救いたくて戦っているんだ。そして、その救い方を教えるのはビリーだ。
「リロード中は他の奴が援護に入れ。弾は増援と一緒に来るはずだ。今からレベッカ・チェンバースの救出に向かう!」
レベッカ・チェンバース。彼女とは、共に助け合い、戦った仲だ。彼女のためなら、命さえ惜しくない。
「美しいな」
グレッグ・リチャードソンは、街の惨劇を見ながら言った。
彼がいる場所は、アメリカで二番目に高いとされるシアーズ・タワーの最上階。彼の横には、奇妙な箱形装置があった。この機械を使って、t-ウィルスを上空の風に乗せてアメリカ中に散布させるのだ。
「ここまでの計画は完璧だな」
ワインを口に含む。今宵は満月。最期に見れる月が満月とは何とも幸運なのだろう。
いずれこの場所もばれ、奴らが攻め混んで来るはずだ。だが、ここに来るまでに、F-ウィルスで強化された傭兵が徘徊している。並の人間じゃ辿り着けないだろう。ここに辿り着けるのはただ一人、黒瀬涼だ。
『リョウ! グレッグの計画がわかったわ』
レベッカから通信が入る。酒場に置かれていたパソコンの解析が進んだのだろう。
「なんだ?」
『t-ウィルスをアメリカ全土に撒くのよ。シアーズ・タワー、そこの屋上でt-ウィルスを散布するの』
「了解! シアーズ・タワーだな!」
確かシアーズ・タワーの屋上は標高四百五十メートルほど。そこからt-ウィルスを撒けば、風に乗ってかなり遠くまでt-ウィルスが散布されてしまう。
「聞いたな!? 戦える奴はシアーズ・タワーに行くぞ」
味方は四人。シャリア、ケンド、レイアン、ラング。彼らは疲弊している。弾も残りわずかになっていた。彼らを連れていくべきか、正直迷う。シアーズ・タワーには強化された傭兵が集まっているだろう。そんな奴らと戦う力など彼らには残ってはいまい。
「俺は行くぞ」
ラングが言った。
「俺は、俺の両親はラクーン事件で死んだんだ。あんな事件、繰り返してたまるか!」
ラングの目は正しく燃えていた。彼の志は黒瀬と同じだ。
「私も行きます」
「オレも、クロセさんが行くとこならどこでも着いていきます!」
彼だけではない、皆も同じだ。
「ケンドは?」
ケンドは答えない。彼の顔は疲労でいっぱいだった。
「ここに別部隊を送る。それまで隠れていてくれ」
疲れた隊員をほっとくことになってしまうが、今はアメリカ中の市民の命がかかっている。
黒瀬たちがシアーズ・タワーに向けて走り出した。
「クソ!」
シアーズ・タワーに向けて走っていく黒瀬たちを見て、ケンドは銃を地面に叩き付けた。
何故俺は戦っているんだ? 何故あいつらはそれほどまでに命をかける?
ケンドは自分の命が一番だと考えていた。いや、ケンドだけではない。大勢が思っている。だが、彼らは違う。自分の命よりも他の命のために戦っている。
それは彼の過去が関係していた。
母は他の男と毎日遊び、父は酒とドラッグまみれ。ケンドはそんな父から毎日虐待を受けていた。結局両親ともに警察に捕まり、ケンドは保護施設で育った。それから、一人で生きるため、強くなるため、BSAAに入った。
「俺は……俺は……」
ケンドは膝をついた。
パーカーは、ビルの屋上から辺りを確認する。
ビルの壁には、大蜘蛛が張り付いており、道路にはハンターやケルベロス、他にも様々のB.O.W.が暴れまわっている。
「こんな街を進まなきゃならんとは……」
BSAAの使命はウィルスやB.O.W.、それを使うテロリストと根絶させることだ。弱音を吐いてはいられらない。
パーカーが飛び降りたビルは、高級ホテルのようだった。
エレベーターに早速乗り、一階へのボタンを押す。エレベーターは一階へと降りていくが、誰かがボタンをおしたのか、途中の階で止まってしまう。
「何がお出ましかな?」
ボタンを押したのが、客や従業員という可能性もあるが、B.O.W.という可能性も十分ありうる。パーカーはライフルを扉に構えた。もし、B.O.W.だったら、蜂の巣にしてやる。
扉が開く。ハンドガンを構えた金髪の男がそこにはいた。
「一緒に乗ってもいいかい?」
軽そうな男だと思った。しかし、どこからか貫禄があるような、そんな気もする。
男は乗り込み、閉めるボタンを押す。そしてエレベーターは再び動き出した。
「BSAAはもう展開してたのか。主犯はわかっているのか?」
やけに慣れている。この男は特殊部隊かなにかかもしれない。
「パーカーだ。お前は?」
「政府のエージェント、レオンだ。休暇中だったんだが、そうは言っていられないようでな」
レオン、聞いたことがあった。レオン・レポートを書いたレオンか?
「運は悪いようだな」
「まぁ、それなりには」
パーカーも運が悪い方だが、逆に言えば運が良い方でもあった。今生きている時点で、運が良い。
エレベーターが一階に到着する。
戦いが始まる。殺戮を求めるB.O.W.との……