バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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57話 敗北

 襲われている研究所に急行する。

 

 研究所の入り口には、黒瀬たちが乗っている物とは別のハンヴィーが五台停められており、見張りが五人ついている。

 

 BSAAのハンヴィーに気づいた傭兵たちは、アサルトライフルで迎え射つ。

 銃弾で車体に穴が開き、窓ガラスが割れる。

 

「みんな、掴まって!」

 

 シャリアはそれでも怯む様子はなく、アクセルを全快にして傭兵たちに突っ込んでいく。

 ドガシャン!! 敵のハンヴィーにぶつかって車体は動かなくなった。だが、数秒は敵を撹乱できるはずだ。

 

 ハンヴィーに乗っていた五人が一斉に飛び出す。傭兵に向かって反撃を開始し始めた。

 

 黒瀬はハンヴィーのボンネットを蹴って、一気に傭兵の元へと駆け寄った。

 武器を所持していない黒瀬だが、勝てる自信は十分にあった。

 傭兵は間合いが悪いことにいち早く気付き、ナイフを抜く。

 傭兵は突くようにナイフを振るが、黒瀬はその手を掴む。そして力任せに傭兵をハンヴィーの車体へとぶつけた。

 それだけで充分気絶するだけの威力はあったはずだが、傭兵は気絶せずに黒瀬の胸ぐらを握る。

 

「くっ!」

 

 黒瀬は傭兵と入れ替わるようにして車体へぶつけられる。傭兵は持っていたナイフで黒瀬の喉を切ろうとしてくる。

 

 強い。その一言だった。黒瀬を押さえつけている力は、日々の訓練や技術で身に付けられるものではない。何らかで強化された力だ。

 

 黒瀬は傭兵の足を踏みつける。黒瀬を拘束する力が一瞬緩んだ。黒瀬は肘を傭兵のヘルメットに繰り出す。ガードされているとはいえ、かなりの衝撃がくるはずだ。

 ぐらついている傭兵の背後に回り込み、腰を両腕で囲むように掴む。力で持ち上げて、ブリッジするように傭兵を地面に叩きつけた。

 

「残りは!?」

 

 BSAAの四人も必死に戦っているが、強化された傭兵の攻撃を喰らわないようにするのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 研究所の所員を殺し、厳重に保管されているt-ウィルスを盗み出す。それが依頼の一部だった。

 

 傭兵のリーダー、グレッグ・リチャードソンは、今回も目的が達成できたと思っていた。

 t-ウィルスをケースに入れたところで、彼の前に仲間の一人がやってきた。

 

「BSAAが来ました。奴の姿もあります」

「わかった」

 

 グレッグはt-ウィルスの入ったケースを仲間に渡し、アサルトライフルと交換する。弾は三十発、アンダーバレル式で、グレネード弾が一発。外にいる人間を倒すなら、これだけで充分だ。人間なら……。

 チャージングハンドルを引いて初弾を装填、安全装置を解除してトリガーに指を掛ける。目の前にあった窓ガラスに三発撃ち込み、ストックで叩き割る。

 

 壁に身を隠して外の様子を確認した。

 

 敵は全員で五人、じきに見回りの警察が集まってくるだろう。その五人の中で一人だけ動きが違う人物がいた。

 

 素早い動きで傭兵を翻弄し、CQCで昏倒させている。

 

 奴だ。グレッグは確信した。BSAAの創設メンバーであるオリジナル・イレブンの一人、黒瀬涼。依頼主から、彼は必ず来るとの伝言だったが、まさか本当に現れるとは思っていなかった。

 

 黒瀬はまたもや傭兵を倒し、もう一人に挑む。これで味方は三人やられた。残りの二人、黒瀬と戦っている奴はもうじき倒されるだろう。もう一人は残りのBSAAの四人を食い止めていた。

 BSAAも中々強い。たったの四人で強化された傭兵を相手にし、まだ一人も死んでいない。

 だがそれも終わりだ。

 グレッグは窓から銃口を突きだし、黒瀬を狙う。どこに当たっても良い、三発を手始めに撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 黒瀬は四人目の傭兵を殴り付けた。四人目を倒し、外の傭兵は残り一人となった。

 

 黒瀬は背後からの殺気に気付き、横に跳び跳ねた。黒瀬がさっきまでいた場所に三発の弾丸が飛んできた。

 弾丸が飛んできた方向を見ると、一人の男がいた。その男はヘルメットを被っていない。

 

「クソ!」

 

 黒瀬は倒した傭兵からライフルと手榴弾、ナイフを奪い、ハンヴィーの陰に隠れる。

 これからどうする? 敵は研究所内にまだ大半、BSAAの四人は残り一人の敵に手こずっている。黒瀬はケンドの言葉を思い出した。 

 

『銃を使わずに近接武器だけで戦う? 非効率すぎるし、射線の邪魔だ』

 

 ケンドの言う通りだった。非効率すぎる。実際、ハンヴィーの陰から身動きが取れないでいる。

 

「でもな、こっちにも意地ってもんがあるんだよ……」

 

 黒瀬は傭兵から奪ったナイフでハンヴィーのドアの接合部を切った。車体から引き離されたハンヴィーのドアを右手で持ち上げる。

 

「やってやろうじゃねぇか……」

 

 黒瀬は研究所に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 グレッグが見たものは、とても奇妙だった。 

 

 男が車のドアを前に突き出して研究所へと走ってきている。

 

「“アレ”の到着まで奴を近づけさせるな!」

 

 グレッグの命令を聞いた傭兵たちは、一斉に黒瀬を撃ち始めた。だが、彼が盾にしているのはハンヴィーのドア。そう簡単には貫けない。

 グレッグはアンダーバレルのグレネード弾を黒瀬に撃ち込んだ。ハンヴィーのドアの強度がどうであれ、グレネード弾に耐えられるはずがない。

 

 ハンヴィーのドアに着弾し、爆発、黒煙をあげた。

 

 やったか。煙でよく見えないが、あれをマトモに喰らったのだ。死んでいなくても動けないだろう。グレッグがそう思った瞬間、彼の顔めがけて黒く細長い物が飛んできた。アサルトライフルだ。

 

 グレッグは身を屈めて間一髪でそれを回避した。予想が外れた。奴は生きている。

 

「全員、当初の作戦通り屋上に集まれ。時間稼ぎはオレがやる」

 

 グレッグは窓から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒瀬の前に誰かが窓から飛び降りてきた。他の傭兵と違ってヘルメットは被っておらず、その顔がよく見えた。

 

「国際指名手配犯のグレッグ・リチャードソンだな?」

 

 黒瀬は彼を知っていた。それはそのはず。彼は何度もテロを起こしている。もちろんバイオテロも。彼の指名手配書は、BSAAの基地にまで貼ってある。

 

「お目にかかれて光栄だよ、クロセ・リョウ」

「へぇ、俺のことを知ってるなんて嬉しいね」

「君はこっちの世界では有名だからな。スーパーパワーで善良な一般人のために敵を倒すんだろう? まさしくアメコミのヒーローだ」

 

 グレッグは紳士的な顔立ちだった。銃を持たず、会社でビジネスマンをやった方が似合っている。

 

「俺はヒーローじゃない。救えてない人が多すぎる」

「それはそれは」

 

 グレッグは黒瀬に飛びかかるようにして殴りかかる。黒瀬は腕で防ぐが、ミシミシと骨が軋んだ。

 間違いない。こいつも強化されている。

 

「なんなんだよ、その力は……」

 

 黒瀬とグレッグは、殴っては防ぎ、の繰り返して話し始めた。

 

「素晴らしいだろう? この力は今回の依頼主から貰ったものでね」

 

 グレッグは黒瀬にローキックを喰らわせた。太ももの骨にヒビが入る。

 

「t-ウィルスを盗んでどうするつもりだ?」

 

 黒瀬はグレッグの顔を殴ろうとしたが、避けられる。

 

「t-ウィルスをどうするだと? もちろんテロに使う。それ以外の方法が?」

「てめぇ!」

 

 黒瀬とグレッグの攻防が続く。グレッグは、強化された力だけではなく戦闘の技術もプロ以上。黒瀬がただの人間であれば、とっくにやられているだろう。

 

「クロセ! 奴から離れろ!」

 

 ケンドが銃をグレッグに構えた。だが、黒瀬が邪魔で撃てないでいる。

 BSAAの四人は、見張りの傭兵を倒したようだった。

 

 

 黒瀬はバックステップでグレッグから離れる。ケンドはライフルをフルオートで全弾発射するが、グレッグは射線が見えているかのようにスレスレで避ける。

 

「なっ!?」

 

 グレッグは驚愕の表情だが、手は休めずにマガジンキャッチボタンを押して空のマガジンを捨て、新しいマガジンを叩き込もうとする。だが、そんな行動を敵が易々と見逃してくれるわけがない。

 

 グレッグは、大型弾倉で三点バーストのハンドガンを腰から抜いた。

 グレッグの能力からして、距離が離れていてもヘッドショットなど容易いだろう。黒瀬はナイフをグレッグの腕に投擲した。グレッグは銃を撃つ前にナイフに気付き、横に反れる。

 

「うおおおお!」

 

 黒瀬は全力でダッシュし、グレッグにタックルを喰らわせた。グレッグはまるで車にはねられたかのように吹き飛び、握っていた銃をどこかに飛ばしてしまう。

 

「戦闘ヘリだ!!」

  

 ライアンが叫んだ。

 

 上空には戦闘ヘリが一機、武装なしのヘリが二機。

 戦闘ヘリに付けられているミニガンの銃口はグレッグでも他の傭兵でもなく、黒瀬に向けられていた。警察のヘリかと思ったが、的はずれだったようだ。

 

「くっ!」 

 

 黒瀬は走った。ミニガンの掃射で地面は削りとられる。ハンヴィーも一瞬でズタボロになり、爆発した。爆風で黒瀬は吹き飛ばされ、別のハンヴィーに背中をぶつける。

 戦闘ヘリは黒煙と砂ぼこりで黒瀬を見失ったようだ。

 

「どうしろってんだ……」

 

 黒瀬の腰には敵から奪い取った手榴弾があった。ラクーンシティのときはこれでヘリを墜落させたが、あのときのヘリの狙いはアリスだった。敵の目が別に向いていたからこそ、やれた作戦だ。

 

 そろそろ視界が良好になる。戦闘ヘリはすぐに黒瀬を見つけ、ミニガンで肉片に変えようとしてくるだろう。

 

「せめて武装でも壊せれば……」

 

 黒瀬は望み薄に敵のハンヴィーのドアを開ける。中を探すとセミオートアンチマテリアル(対物)ライフル『QSV-96』を二挺見つけた。弾数は五発、合わせて十発。十発もあれば、戦闘ヘリを墜とすことなど容易い。

 

 黒瀬は二挺の対物ライフルを掴む。ずっしりしている。重量は確か十三キロ前後だったはずだ。それが二挺、二十キロ後半もある。

 黒瀬はヘリにライフルを二挺向けた。まだ黒煙で見えないが、ローター音で居場所は把握できる。

 

「よっしゃあ!」

 

 黒瀬はにやつく。戦闘ヘリはのうのうと待機している。今から墜とされるとも知らずに……。 

 

 対物ライフルを撃ち始める。片手で撃つなど、ましてや対物ライフルの二挺などやったことないので、最初の二発は反動で外れた。だが、残り八発残っている。

 残り八発を撃つ。対物ライフルの反動を片腕で抑えつけるなど普通なら出来ないが、黒瀬は普通ではない。

 五発目でパイロットにヘッドショットを決め、頭は肉片となり弾け飛ぶ。それに気づいていない黒瀬は残りも撃ちつくした。

 

 パイロットとテールローターを失った戦闘ヘリは、ぐるぐると回転し、研究所の庭へと墜落。爆発した。

 

 黒瀬はライフルを投げ捨て、黒煙から飛び出す。

 

 武装していない二機のヘリが飛び立つところだった。ヘリの中には研究所を襲った傭兵たちが乗り込んでいる。グレッグの姿もあった。

 

「クソ!」 

 

 黒瀬は、拾ったアサルトライフルでテールローターを狙う。トリガーを絞るが、弾切れを起こしていた。

 

 グレッグは黒瀬を嘲笑うかのようにヘリから身体を覗かして腕を振った。ヘリは遥か彼方へと飛んでいく。

 

 黒瀬はライフルを握り潰した。まんまとt-ウィルスを盗まれた。戦闘ヘリよりも非武装のヘリを墜としておくべきだった。

 黒瀬は敗北した。

 

 

 

 

 


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