バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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今回で一章は最後です


6話 脱出

 俺たちはアンブレラの兵士に捕まり、結束バンドで手首を結ばれ、並ばせられた。

 

「アリスさん……」

 

 アリスさんだけは結ばれず、スーツを着た偉そうな男と話している。

 

「パパ……」

「アンジー!」

 

 車椅子に乗った男が急いでヘリの中から出てきた。アンジーのお父さん、チャールズ・アシュフォードのようだ。 

 

「おっと、動かないでくれ。博士も人質ですからね」

「人質?」

 

 ズシンズシンと重たい足音と共に、あの黒いコートの化け物がやって来た。しかし、こちらを攻撃する気はないらしく、アンブレラの言うことを聞くようだ。

 

「君もただの人間なのにネメシスと良く戦ってくれたよ。しかも素手で」

 

 偉そうな男は俺に近付いて言った。 

 あの化け物の名前はネメシスと言うようだ。それに、この男は俺たちの戦いを見てたらしい。

 

「武道を習っていたんでね。あなたも喰らってみます?」

「はは、止めておくよ。私はティモシー・ケイン。君は?」

「……クロセ・リョウだ」

「クロセ・リョウ……良い名だ。それにしても、まさか君までいるとはな、S.T.R.A.S.のメンバー、ジル・バレンタイン君」

「私の名前を知ってくれててありがと」

 

 ジルさんは素っ気なく答えた。

 

「君みたいにあの洋館から脱出した人材を殺すのもおしいが命令なんでね」

 

 俺たちは殺されるのか……嫌だなぁ。

 

「アリス、最後の試練だ。ネメシスと戦え」

「嫌よ」

「ほう? それなら」

 

 パン!と乾いた音。弾丸に貫かれたのは、アンジーの父、チャールズ博士だった。

 

「パパ、パパ!!」

 

 アンジーはチャールズ博士に近付こうとするが、兵士に止められる。

 

「私だってその気になれば、優秀な人材も殺せる。ましてや、日本のガキやアンブレラの兵士なんて造作もない!」

「……わかったわ」

 

 アリスさんはネメシスにゆっくり近づき、素手で戦いだした。

  

「リョウ、これを」

 

 カルロスさんから渡されたものは、ちっちゃいナイフだった。よく見ると、カルロスさん結束バンドは切られている。

 

「……オーケイ」

 

 俺もすぐに結束バンドを切る。カルロスさんは立ち上がり、近くにいた兵士と戦いだした。俺は即時に、ジルさんとアンジーのバンドも切る。

 

「な、なんだ!?」

「人質が逃げるぞ!」

 

 俺は近くにいた兵士とティモシーを投げ飛ばし、倒す。

 

「死にやがれ!」

 

 敵がアサルトライフルを連射してきたが、しゃがんで数発を回避する。

 

「ぎゃ!」

 

 後ろで短い悲鳴が聞こえた。俺の後ろにアンブレラの兵士がいたのだろう。フレンドリーファイアをしてしまったようですな。

 

「貴様!」

 

 俺に撃ってきた奴は何故か怒ったような声をあげた。

 

「悪いのはお前だろ!」

 

 俺はナイフを取り出し投げるが、距離が十五メートル以上は離れているので、簡単に避けられてしまった。

 

「はは、残念だったな!」

 

 しょうがない。俺はもう一本、ナイフを出した。

 

「そんなもので何が出来る!!」

 敵はまたもや銃を連射した。オレンジ色のマズルフラッシュ、何発もの弾丸が銃口から飛び出てくる。

 

 これ以上の回避は不可能だ。

 

 銃から飛び出した弾丸が、ほんの一瞬だけ見える。頭の中で銃弾よりも早く、発射された弾丸が俺の体のどこに当たるかを計算し、一番早く俺の体に当たる部位、左肩の直線上にナイフを構える。

 

「うおおおお!!」

 

 俺は咆哮をあげ、銃弾がナイフに当たる直前に縦に振る。手に弾丸の重みが伝わり、少しの痛み。銃弾は真っ二つになり、俺のすぐ横を飛翔していった。

 しかし、一発だけではまだ終わらない。残り何十発もの弾丸が、俺の体を貫こうと空気を切り裂きながら飛んでくる。

 

 俺は走り出した。走ると同時にナイフを、弾丸が到着予想の場所に構え、俺は次々と襲いかかる弾丸を弾いていく。

 反動で手首が悲鳴をあげて痺れるが、それでもナイフをがっちりと掴み、弾丸を弾きながら兵士に接近する。

 

「じゅ、銃弾を斬ってんじゃねえ!!」

 

 おっしゃる通りです。

 

 兵士は弾が無くなり、空のマガジンを捨てて新しいマガジンを入れようとするが、俺はその隙を狙い、ナイフを投げる。

 

「痛ッ!」

 

 手首が予想以上にダメージを喰らっており、ナイフの軌道がずれ、兵士の左肘のプロテクターに当たり、弾かれた。

 

「アハハ、残念だったな!」

 

 兵士はアサルトライフルにマガジンを叩き込み、再び俺を狙う。

 

 距離はもうすぐそこだ。最後に残っていたナイフを取り出し、痺れで使えない右手代わりに左手でナイフを構え、再び飛んでくる銃弾を斬りさばいていく。神経がすり減るのを実感するが、それでも尚、抵抗を続け、距離を詰める。

 

「だああああ!!」

 

 ついにゼロ距離に入り、兵士に渾身のタックルを喰らわせた。

 

「ぐわッ!?」

 

 兵士は地面をゴロゴロと縦に転がり、止まっているヘリに頭をぶつけて動かなくなった。

 

「はぁはぁ……」

 

 心臓が張り裂けそうなほどの心拍数だ。実際、死んでいてもおかしくはなかった。

 

 しかし、まだ敵はいる。

 

 戦闘ヘリが二機、低空飛行でアリスさんを狙いガトリングガンを撃ち続けていた。

 

 俺は、さっき倒した兵士から手榴弾とハンドガンを取って、ヘリの下まで行く。その場所で手榴弾のピンを外し、ヘリのプロペラ近くに思いっきりぶん投げて、投げた手榴弾をハンドガンで続けて二発撃った。

 手榴弾は起爆し、ヘリはバランスを崩して地面に落下、プロペラはガリガリと音を起てる。ついには折れ、俺の方へプロペラの一部が飛んできたが、しゃがんで回避した。

 

 もう一機はネメシスが放ったロケットランチャーを真正面から喰らい、爆破、炎上した。

 

「リョウ、大丈夫か!?」

 

 カルロスさんが俺に駆け寄ってきた。

 

「一体何が?」

「よくわからんが、あの化け物が力を貸してくれたんだよ」

 

 カルロスさんは俺を抱え、止まっていたヘリに運ぼうとするが、ヘリは別の場所からロケットランチャーで撃たれ、爆発した。

 

「くそ! 何だってんだ!」

 

 撃った方を見ると、ボロボロのネメシスが歩いてきていた。あいつはジルさんをストーカーしていたネメシスだ。ここまで追ってきたらしい。

 

「折角のヘリが……」

 

 アリスさんを背負ったジルさんとアンジーがやってきた。

 

「それだけじゃないあの化け物まで相手にしなくちゃなんねえ」

 

 みんなは絶望するが、ヘリのプロペラ音が近づいてきた。

 

「アンブレラのヘリか!?」

 

 しかし、予想は外れ、民間のヘリのようだった。

 

『そこにいるのはジルか!?』

 

 ヘリの運転手らしき男は外部スピーカーを使った。

 

「ジル、おまえの知り合いか?」

「この声、多分バリーだわ」

 

 そうこうしている内に、ネメシスはロケットランチャーを捨て、俺たちの方に走ってくる。

 

「バリー! 何か武器はない!?」

『こいつを受け取れ!』

 

 ヘリの運転手はヘリを傾け、何かを落とした。

 

「ロケットランチャーだわ」

『ジル、使え!』

 

 ジルさんはアリスさんを俺に渡し、ロケットランチャーを構え、ネメシスに撃った。

 発射されたロケット弾は、ネメシスに撃ち込まれ、爆発した。

 

「終わったのか……?」

「まだだ!」

 

 それでもかとネメシスは下半身が吹き飛んでも、腕で這いずり俺たちに近付く。

 

「スターズ……」

 

 ネメシスは低い声をあげる。

 

『ジル! これでトドメをさしてやれ!

 次にヘリから落ちてきたのは、マグナムだった。

 ジルさんは、直ぐ様マグナムを拾い、ネメシスに近付いて何発も撃つ。

 

「あんたみたいなバケモノは消えてなくなればいい!」

 

 ジルさんがそう言い終わると同時にマグナムの弾は無くなり、そしてネメシスも動かなくなった。

 

『ヘリを降ろす。下がっていてくれ』

 

 やっと脱出か。俺は安堵の息を吐く。

 ヘリにアンジーとジルさんが先に乗る。俺たちも乗ろうとするが、

 

「待て!」

 

 後ろを向くと、銃を構えたティモシーが俺たちを狙っていた。

 

「私も乗せろ、さもなくば、おまえらを撃つ」

 

 ティモシーは、ヘリに発砲し威嚇した。

「本気だぞ!」

 

 こちらはもう銃を持っていない。しかも、俺はアリスさんを抱えているから、攻撃が出来ない。

 

「…………!」

 

 ティモシーに近付く影があった。それは、チャールズ博士だった。顔は青くなっており、既にゾンビ化している。他にもティモシーの背後からはゾンビの群れ、その数、百体以上が近付いてきていた。

 

「アアア」

 

 チャールズ博士はティモシーの足を噛む。ティモシーは倒れ、後ろを見て自分がどんな状況に立たされているのかを悟った。

 

「早く乗れ、来るぞ」

 

 俺はアリスさんをヘリに乗せ、最後に俺も乗った。

 

「くそ、くそ!!」

 

 ティモシーは、近付いてきたゾンビたちの頭を撃ち抜いてくが、もう逃げられないと分かり、自分の頭に銃口を突き付け、引き金を引いた。

 しかし、そこから銃弾が飛び出すことはなかった。弾切れだ。

 

「ぎゃあああ!!」

 

 ティモシーはゾンビに噛まれ、最後にはゾンビに覆い尽くされて見えなくなった。

 

「これが私たちの反撃よ」

 

 

 

 ヘリは飛び立ち、街の外へと向かう。

 

「ありがとう、バリー」

「なんてことないさ。仲間もいっぱいだな」 

「ええ」

「夜明けだ」

 

 ラクーンシティを出ると同時に、核ミサイルとすれ違った。数秒後、ミサイルは起爆し、爆風で機体がぐらぐらと揺れる。

 

「ラクーンシティ……さようなら」

      

 俺たちは地獄の街から脱出したのだった。

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

 下を見ると、人影が三人あった。一人は警察官の格好をしている。

 

「バリーさん、ここで止めてください。下の人は俺の仲間なんです」

「分かった」

 

 ヘリは着陸し、俺は直ぐにヘリから出て、レオンさんとクレアの元へ駆け寄る。

 

「レオンさん、クレア!」

「リョウ!」  

「良かった、生きててくれて」 

「ああ。本当に良かったよ」

 

 二人はボロボロで、しかもレオンは怪我をしている。

 女の子がクレアの後ろに隠れた。

 

「その女の子は?」

「シェリーよ。警察署で保護したの」

 

 シェリーは、衰弱している。

 

「リョウ、シェリーの具合が悪そうなんだ。あのヘリに乗せてくれないか?」

「ああ。頼んでみる」

 

 俺はバリーさんの元へ行って、乗せられるかを聞く。

 

「乗せるには誰か一人は降りないとな」

 

 そうだ。元々、定員オーバーなのだ。 

 

「じゃあ俺が降りる」

 

 俺は志願した。

 

「良いのか?」

「ああ。俺は歩いても帰れるよ。シェリーとレオンに比べたらマシだ」

「ま、大人一人と子供は乗せれる。早く伝えてこい」

 

 俺はレオンとクレアにその事を伝えた。

 

「レオン、シェリー、お別れね」

「ああ。クレア、無事に兄貴を見つけられるといいな」

「ええ」

「リョウ、説教はまた今度ね」

 

 とジルさん。

 

 ああ、そういえばそんなことが……

 

「何かあったら俺たちを頼れよ」

 

 ヘリにレオンとシェリーは乗り、飛びたって行った。

 

「リョウ、良かったの?」

 

 クレアが尋ねる。

 

「そりゃ俺は怪我なんて捻挫くらいだし」

「お腹の包帯は?」

「もう治った」

 

 お腹をさする。痛みはすっかりなくなっていた。

 

「兄貴の手がかりは?」

「ええ、あったわ。直ぐに探しに行くわ」

「そうか……。何かあったら俺も力になるから。仲間だろ?」

「そうね。その時は頼りにさせてもらうわ」

 

 

 日が昇る。

 

 あの街では色々な事があった。説明出来ないほど無茶苦茶なことが。

 

 今は……日本へ帰ろう。早くベッドで体を休めたい。

 

 だが、俺は危惧していた。

 

 今回の事件で、世界の破滅へのタイムリミットが始まったのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 




二章はCODE:Veronicaになります

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