バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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私の勝手な都合により、9章は後回しとなります。誠に申し訳ありません。



10章 戦う意味
56話 傭兵部隊


 彼は物心着くとき既に銃を手にしていた。

 

 別におかしなことでもなかった。周りにも彼と同じような歳、又はそれ以下の少年が銃を握り、戦地へと出向いていく。

 

 彼が所属していたのは、国の反政府軍。理由はよく覚えていないが、その頃の政治体制に不満があり、多くの市民で結成して戦い始めたらしい。

 

 バカらしい話だ。彼は今ではそう思う。他の国から見れば、反政府軍という名のテロリストであり、国を倒すためなら、子供の命でさえ惜しまない。狂った人間の集まりだ。

 

 彼には、親と呼べる存在がいなかった。さっきの通り、物心着くときには銃を手にしていたし、自分の親もいるかどうかわからなかった。一応、彼や他の少年兵を育成する上官らしき存在はいたが、到底親とは呼べなく、少しでも気に障ることがあるのなら、彼や他の少年兵を気絶させるまで殴り蹴っていた。

 

 反政府軍は時には、子供の身体に爆弾を巻き付けて政府軍の兵士もろと木っ端微塵にしていた。

 戦争、紛争。人が死ぬ。それだけだ。銃を握ったその日から、隣では誰かの頭が撃ち抜かれた。次は自分かもしれないと思っても大人には逆らえず、銃を撃ち続けるしかなかった。そうしないと食べ物も食えずに飢えて死ぬからだ。いつ終わるのかわからない戦いを続け、いつの間にか反政府軍は解散していた。

 

 

 それから十年の月日が流れた。

 

 彼も大人となったが、当然あの時の記憶は忘れられない。彼は紛争が終わった後も数人の仲間と各地を転々とし、戦ってきた。戦争で金を啜る泥ネズミ。そう言われても仕方がない。戦争で育ってきた彼は、銃で戦う以外金を稼ぐ方法を知らないからだ。

 

 今ではB.O.W.(バイオ・オーガニック・ウェポン)と呼ばれる生物兵器が紛争地帯に出回っている。

 B.O.W.は弾など恐れずに敵と判断した者に襲い掛かる。人間とは違い、恐怖心はない。しかも人間より身体能力も攻撃力も高く、尚且つ低価格だ。

 

 テロリスト、反政府軍はB.O.W.を買い、世界を変えようとした。

 

 しかし、それは何度も阻まれた。BSAAという国連の対バイオテロ部隊。B.O.W.やそれを使うテロリスト専門のスペシャリスト。この世界でB.O.W.との戦闘が長けているのは間違いなくBSAAだ。

 

「隊長、仕事の時間です」

 

 ソファーで寛いでいた彼に、武装をした男が現れた。

 

「もうそんな時間か……」

 

 彼はソファーから立ち上がる。

 

 彼は今や多くの傭兵を指揮する傭兵部隊のリーダーとなっていた。金さえ貰えば、B.O.W.とも隊列する狂った集団だ。

 

 いや、違うな。彼は否定した。

 最早狂った集団ではない、俺たちはB.O.W.そのものだ。

 彼は手に持っていた注射器を握り潰した。  

 

 俺はグレッグ・リチャードソン。傭兵部隊のリーダーだ。

 

 

 

  

 

 

 

 

 BSAAの隊員、黒瀬涼は今回もバイオテロ事件を追って、ビジネスジェットでアメリカへと向かっていた。

 

 今回の事件は正確に言えばバイオテロではない。バイオテロに繋がる可能性のある事件だ。

 

 アメリカ合衆国のとある研究所が襲われ、厳重に保管されていたt-ウィルスが持ち出されてしまった。

 

 黒瀬はBSAAに支給されているノートパソコンで、研究所に設置されていた監視カメラの映像を見る。

 

 完全武装した傭兵たちが、研究員や警備員を次々に殺している。驚くべき点は、その傭兵の動きがあまり素早いことだ。百キログラムは越えてそうな武装だが、奴らは警戒な動きで進んでいく。

 

『リョウ、聞こえてる?』

 

 ノートパソコンに、大学教授として、BSAAのアドバイザーとして働いているレベッカ・チェンバースの映像が映る。

 

「ああ、聞こえている」

『あの映像は見た?』

「ちょうど今見終わったところだ。奴ら、何であんな動きが出来るんだ?」

 

 それが黒瀬の疑問だった。あんな武装で軽やかな動きなどしている者など見たことがない。

 

『生き残った警備員の話を聞くと、銃弾を避けるやつもいるらしいわ』

「なに?」

『射線を予想して、撃つ前に避けるんじゃなくて、撃ってから避けるらしいの』

「そりゃ面白そうだ」

  

 黒瀬はにやけた。撃たれた銃弾を避ける。そんな神業と呼べるものを出来るのは、今までで黒瀬とアリスくらいしかいないからだ。

 

「強化人間の可能性は?」 

『もちろんあるわ。レオン・レポートに書かれてあったガナードもその一つだから何らかのウィルスで強化のかもしれない』

 

 奴らはガナードとが違い、明らかに理性、知性がある。アリスのようにt-ウィルスを投与されて強化されたのかもしれない。

 

 もしくは俺のように――    

 黒瀬は自身の手のひらを見つめた。

 

 この力はなんだ? 黒瀬はそう時々思う。この力は生まれつきではない。調べていないので確信は得ていないが、人間離れした身体能力、腕を切断されても数時間で再生する回復能力、こんな力を生まれつきなど到底思えない。

 小さい頃の記憶がない、両親は何らかの研究員、アルバムにあった赤ん坊の黒瀬の目の色。ヒントはいくらでもある。 

 

 この力は、人為的に与えられたものだとしたら? 

 

『どうしたの、リョウ?』

 

レベッカの言葉で黒瀬は我に帰った。

「何でもない。そろそろそっちに着くよ。迎えを呼んでおいてくれ」

 

 黒瀬はそう言ってノートパソコンを閉じた。 

 

 

 

 

 

 

 黒瀬は空港に到着し、駐車場まで行くと、一際目立つ車両が停まっていた。高機動多用途装輪車両(ハンヴィー)だ。側面にはBSAAのロゴが付いている。こんな豪華な乗り物ではなく、タクシーで充分だったが、用意されたものは仕方ない。黒瀬はハンヴィーへと向かうと、中から四人の隊員が降りてくる。

 

「お勤めご苦労様です! 北米支部に所属しているラングです」

 

 眼鏡の黒人男性。その体格はクリスと争えるほどだ。

 

「同じく北米支部所属、シャリアです!」

 

 金髪でショートの女性。どこかで見たことがあると思ったら、三年前に陸上の世界選手権に出場した人物だった。

 

「……ケンドだ」

 

 ケンドは黒瀬が気に入らないのか、鋭い目付きで睨んでいる。かなり失礼なやつだなと、黒瀬は思った。

「お、オレ、レイアンって言います! ああ、本物に会えるなんて……オレ感激です!」

 

 レイアンは黒瀬に詰め寄り、手を掴む。レイアンの表情は幸せそのものだった。

 

「ちょっとレイアン! 困ってるじゃないの!」

 

 シャリアはレイアンを無理やり引き剥がす。

 

「あ、すいません! オレ、つい熱くなっちゃって……」

「別に良いよ。俺も嬉しいし……」

 

 人から好かれるのが嫌いな人間はいない。黒瀬にはレイアンからの好意が充分に伝わってくる。

 

「早速ですが、車に乗ってください。こちらも急いでいるので」

 

 ケンドは会話を切るように言った。

 

 

 

 

 

 

 運転席にシャリア、助手席にケンド、黒瀬を挟むようにしてレイアンとラングが座っている。

 

 レイアンがノートパソコンを開いて状況の説明を始める。

 

「研究所を襲ったのは、グレッグ・リチャードソン率いる傭兵部隊、盗まれたのは試験管に入った三本のt-ウィルスです。パニックを避けるために報道は控えられています」

「まぁ……妥当だろうな」

 

 ラクーンシティを滅ぼしたt-ウィルスが盗まれたのだ。それが世間に知れればアメリカ中、いや世界中がパニックになるだろう。

 

「今のところ、飛行機や船で国外へ出ていません。この国のどこかに潜んでいます」

「大雑把な場所も分からないのか?」

「途中で車や武器も全て捨てているので……」

 

 途中で車を乗り換えて移動した可能性が高いだろう。電車やバスなど目撃証言が多くなる公共機関は使わない。

 

「BSAA北米支部や警察が勢力をあげて調べています。念のためt-ウィルスを保管している研究所も警備を増強しています。t-ウィルスですから、もしも撒かれたらアメリカ中に広がる可能性もありますから」

「そうはさせないさ。BSAAがいるんだからな」

 

 t-ウィルス、死者を蘇らせ、生きる屍へと変える。ラクーンシティのあの光景を広げるわけにはいかない。

 

「BSAAだって限界がある。あんた一人が来ても状況は何も変わらない」

 

 ケンドは唐突に言った

「ケンド……テメェ!」

 

 レイアンはケンドに掴みかからんとする勢いだ。黒瀬はレイアンを手で制した。

 

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。銃を使わずに近接武器だけで戦う? 非効率だし、射線の邪魔だ。そんな奴よりも銃を持った一般人が戦う方が役に立つ。俺よりも筋肉がない身体じゃないか。そんな身体でオリジナルイレブンと言われてもな。何らかの方法であんたが自分の株をあげてるんだろう?」

 

 ケンドは黒瀬を挑発するように笑う。隣でレイアンの怒りは今にもブチキレそうだった。ラングも表情には出さないが、腕が震えていた。

 

「そう言われても仕方がないな。ケンドの言う通り俺は銃を使えないし、敵が遠くにいれば接近戦しかできない俺は役立たずだ。でもな、ケンド。その明らかに人を侮辱する態度はいただけないな。おまえが俺をどう思っていようと仲間なのは代わりない」

 

 ハンヴィーには一触即発の雰囲気が漂う。しかし、それを遮断するかのように通信が入ってきた。

 

『聞こえてる!? その近くにある研究所が武装集団に襲われているわ!』

「その研究所にもt-ウィルスが?」

『そうよ。そこから数キロ先に研究所があるわ。現場に急行して!』

 

 何はともあれ、仲間内で争っている場合ではない。

 

 

 

 

 


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