バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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54話 ウィルファーマへ

「先生、彩、俺から離れないでくれ」 

 

 ロビーにはゾンビが数十体。まだまだ集まってくるだろう。それに暗く、視界が悪い。二人を置いていくのは危険だ。

 

「さっきみたいに全滅させないの?」

「ああ。俺一人でも時間かかるし、それは俺の仕事じゃない」

 

 空港内のゾンビを一匹残らず排除することなど黒瀬には造作もない。しかし、今回の黒瀬の仕事はオブザーバーとしてだ。この単独行動も本来ならやってはいけない。黒瀬たちが脱出すればすぐにSRTが突入する次第だ。

 

「進むぞ」

 

 近づくゾンビの頭に刀を突き刺して行く。歩くのが遅いのが救いだ。これが走るようになれば奴らを倒す難易度がぐっと上がる。

 

(まだそんなウイルスはないけどな……)

 

 新種のウイルスは年々増加している。そんな恐ろしいウイルスが完成するのも時間次第だろう。

 

 ゾンビを倒し続ける。静香と彩は流石にゾンビの群れを歩いて突破するのが怖いらしく怯えている。

 

「もうそろそろだ」 

 

 外の灯りが見えてきた。SRTの隊員が突入したくてうずうずしているだろう。

 

「あ……」

 

 黒瀬の目の前に武装した男のゾンビが現れた。背中にはSRTの文字とマーク。グレンだった。

 

「クソ……!」

 

 グレンの腕には噛み傷がある。そこから感染したのだろう。

 

(俺がついていれば……)

 

 グレンは死なずに済んだのだろうか。罪悪感が積み上がる。

 

「リョウ……」

「ああ、すまない」

 

 ゾンビになってしまうと、もう人間には戻せない。だが、ついさっきまで元気にしていたグレンを殺すのは躊躇してしまう。

 

(ごめんな)

 

 黒瀬はグレンの額に剣を突き刺す。グレンは動かなくなった。

 

「……行こう」

 

 グレンの死体を横にして三人は進む。

 

 外に出るとライトが当てられた。

 

「これで最後だ。突入してくれ」

 

 SRTの部隊が三人を通り過ぎて空港の中に突入していく。すぐにけたたましい銃声が響き渡る。隊員が二人、黒瀬たちの元にくる。

 

「全員怪我はない。感染してないはずだ。念のため医療班のところに」

「リョウ……行くの?」 

「ああ。俺の仕事だ」

 

 黒瀬は再び空港に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒瀬とSRTの隊員たちは空港内のゾンビを粗方倒し終わり、外に出る。

 

(……何人死んだ?)

 

 SRTの隊員たちは突入したときと比べると、三分の一ほど少なくなっていた。隊員たちは疲労しており、怪我人も複数いる。

 

「ん、あれは……?」

 

 テントの横に三台のトラックが見るも無惨に破壊されており、消火された後があった。

 

「リョウ、無事だったのね!」

 

 テントの中から彩が飛び出し、黒瀬にタックルする勢いで走ってきた。

 

「ああ。彩、あれは?」

「ワクチンを載せていたトラックが爆発しちゃったの」

「え!」

 

 t-ウイルスのワクチンは確かウィルファーマ社が開発していると聞いている。

 

「ワクチンがなくなったのか!?」 

 

 SRTの隊員にはゾンビの噛まれ負傷したものもいる。ワクチンを打たないと、はやくてもあと数十分で発症してしまう。

 

 黒瀬は負傷した隊員たちを見る。血色は悪いが、互いに励まし合い、助かることを願っていた。

 

「クソ……!」 

 

 せっかく任務を果たして脱出できたのに、このまま死んでしまうしかないのか?

 

「リョウ、大丈夫だ」

 

 テントからルイスが出てきた。

 

「さっきハニガンに連絡して試作型のワクチンをヘリで運んでもらっている。あと十分で着くはずだ」

「そうなのか!?」 

「ああ。政府の特別チームが作っておいたワクチンだ。極秘だぞ」

 

 あと十分なら噛まれた者も助かるはずだ。黒瀬は胸を撫で下ろした。

 

「良かった、助かるんだな」

 

 黒瀬はこれ以上目の前で人が死ぬのはうんざりだった。

 

「そういやレオンたちは?」

 

 静香やレオン、アンジェラ、救出されたクレアがいない。

 

「静香先生はテントの方で怪我人の治療をしているわ。クレアはウィルファーマ社の人についていったの」

「ウィルファーマ社の?」

「ええ。名前は確か……フレデリックといったかしら」

「レオンとSRTのかわい子ちゃんは車で兄の家まで行ったぜ」

 

 ルイスが付け足した。

 

「何で兄の家に?」

「どうやらかわい子ちゃんの兄が今回のバイオテロに関わってるとかいないとか……」

 

 ということはアンジェラの兄がラクーンシティの被害者ということになるのだろうか。

 黒瀬は携帯端末を取り出した。

 

「ハニガンか? アンジェラ・ミラーの兄について調べてほしい」 

『とっくに調べ終わってるわ』

 

 流石はハニガンだ。抜かりがない。

 

『アンジェラの兄の名前はカーティス。ラクーンシティで妻子を失っているわ』

 

 やはりラクーンシティに関係のある者だった。

 

『それとウィルファーマ社のフレデリックという男。調べてみたら元アンブレラ社員だそうよ』

「ほう」

 

 元アンブレラの人間は世界中に何千人もいる。フレデリックはアンブレラの時と変わらず、製薬会社に務めたようだ。

 

「あとはカーティスがどうやってt-ウイルスを入手したかだな」

 

 ただの一般人がそう簡単にt-ウイルスを入手できるはずがない。裏から手を回した者がいるはずだ。

 

「レオンとアンジェラがカーティスを捕まえてくればいいが……」

 

 テロを起こした者が家に戻るとは考えにくい。ハーバードヴィル中に検問所を立てるしかないのか。

 

 ピリリリリ!

 

 黒瀬のポケットが震える。私物の携帯だ。着信先はクレアからだった。

 

「クレア、どうかしたのか?」

『ウィルファーマ社が爆破されたの! 犯人が現れたのよ!』

「なに!? カーティスのことか!?」

 

 黒瀬は怒鳴るが、もう電話は繋がっていなかった。

 

「クソ、なんてこった。ハニガン、今からウィルファーマ社に向かう」

『わかったわ。レオンも向かっている最中よ』

 

 カーティスがウィルファーマ社を襲ったのはなぜだ? t-ウイルスを狙って?

 ウィルファーマ社がt-ウイルスのワクチンを作っているのならば、当然t-ウイルスを所持していることになるが、カーティスには裏で取引している人間がいるんじゃないのか? t-ウイルスを狙って単独で襲うのはおかしい。

 

(この事件、カーティスによる復讐だけではないのか?)

 

 ワクチンを運んできたヘリが着陸する。

 

『リョウ、話は聞いたぜ。乗りな!』

 

 マイクの声だ。

 

「了解!」

 

 今はクレアのためにも急ぐ必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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