バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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9章再開です。


53話 発見

「先生、着いたよ」 

「ほえ?」

 

 鞠川静香は肩を揺さぶられて目が覚める。口から垂れている涎を袖で拭い、ぐ~と背を伸ばす。

 

「もう着いたの~? 早かったわね~」

「それは先生が寝てたからよ。飛行機に乗ってすぐ寝ちゃうんですから」

 

 香月彩はそれが不満そうだった。鞠川静香のようにどこでも寝れる人間はそうそういない。

 

「別にいいじゃない。先生だってずっと働いていたんだから眠くだってなるわ」

 

 クレア・レッドフィールドは立ち上がり、髪の毛をポニーテールへと結ぶ。

 

 鞠川静香、香月彩、クレア・レッドフィールドは、NGO団体『テラセイブ』に所属している。テラセイブの活動は主にバイオテロや薬害による被害者の救済が挙げられる。

 

 この三人はテラセイブが発足された時期から所属しており、ウイルスへの知識、経験も豊富だった。

 

 三人はロビーに出ると、ラーニー・チャウラーという少女とその叔母が待っていた。

 

「久しぶりね、ラーニー」

 

 ラーニーは、インドでウィルファーマ社による臨床実験で両親を亡くしている。そしてアメリカに住んでいる叔母に引き取られた。

 

「車をまわしてくるわ。ここで待ってて」

 

 ラーニーの叔母はそう言ってロビーから出ていった。

 

「クレアちゃん、飲み物買ってこようか~?」

「じゃあお茶で」 

「先生、私も行くわ」

 

 静香と彩はクレアとラーニーを残し、自動販売機へと行く。

 

「あ、テラセイブの皆が映ってるわよ」

 

 静香は設置されている大型テレビを指差した。テラセイブのメンバーやハーバードヴィルの住民が空港前でデモを起こしていた。

 

「何で皆デモをしているのかしら?」

「ロン・デイビス上院議員がウィルファーマ社の研究施設をここに誘致しようとしてるからでしょ」

「そうだったわね」

 

 誰かが漏らした情報に寄れば、ロン・デイビス上院議員は今日飛行機に乗ってハーバードヴィルを訪れる予定らしい。

 

「デモって疲れるから嫌いなのよね~。それよりもウイルスや薬の被害者の手当てをしてる方が楽だわ」

「静香先生は外で大声だしてるイメージないもんね」

 

 自動販売機で飲み物を買う。ラーニーは何が良いだろうか。静香は聞いていないことを思い出した。

 

「子供だしオレンジジュースでいいわよね?」

   

 彩に聞いたつもりだったが彼女からの返事がない。彩はどこか一点を見つめていた。今までの彼女からは想像もできないほどの顔つきだ。

 

「キャー!!」

「うわあああああああ!!」

 

 突如、ロビーに叫び声が響いた。後ろを振り返ると、人に噛み付いている人がいた。

 

「な、なんなの~!?」

「先生、あれは……」

 

 その猟奇的現場を見た者たちはパニックとなり、それはロビー全体にすぐに広まった。

 

「危ない!」

 

 静香は彩に突き飛ばされる。後ろから人が襲い掛かろうとしていた。いや、それはもう人ではない。

 

「な、なんで……?」

 

 静香の目の前には六年前と同じ光景が広がっていた。人が人を喰らう、狂った光景が。

 

「先生、逃げないと!」

 

 彩の声で目が覚める。

 

「ええ、そうね!」

 

 理由は分からないが、空港内でバイオハザードが発生したことは確かだ。一刻もはやく外に出なければならない。

 

 クレアとラーニーも連れていきたいが、このパニック状態ではどこにいるかわからない。

 

(ラーニーにはクレアちゃんがついてる。きっと無事よね……)

 

 クレアはラクーンシティの数少ない生還者。それだけで安心できる理由がある。

 

「うわああ、飛行機が!」

「え?」

 

 飛行機が空港に突っ込む。静香と彩は咄嗟に伏せ、危険を減らす。呆然としていた人や飛行機に気づかなかった人は瓦礫に潰され、直視できない姿になっていた。

 

「次から次になんなの!」

 

 飛行機のハッチが開き、そこから人がワラワラ出てくる。だが、この事故で立っていられる人間などいない。

 

「嘘でしょ……?」

 

 飛行機の乗客たちもゾンビ化していた。

 この状況を簡単に抜け出すことなど出来ない。 

 

 

 

 

 アンジェラ・ミラーというSRT隊員は、状況の説明を開始する。

 

「数時間前に911に連絡がありました」

 

 アンジェラはその内容を流す。

 

『部屋に閉じ込められているの。デイビス議員も一緒よ。怪我人もいるわ、早く助けに来て!』

 

 聞いたことのある声だった。何度も共に戦ってきた女性の声。

 

「レオン、この声……」

「ああ、クレアだな」

 

 やはり黒瀬の予感は当たっていた。ラクーンシティの生還者は運が悪い。まるでウイルスに呪われているかのように。

 

「なに? 知り合い?」

 

 アンジェラが聞いてくる。

 

「俺たちの友人だ」

 

 クレアがいるということは、彼女と旅行する予定だった彩、静香も一緒に閉じ込められているかもしれない。

 アンジェラは空港内の地図を広げ、説明をし出す。

 

「彼女たちが閉じ込められているのはVIPルーム。正面入り口や避難出口はSRTのメンバーで閉鎖されているので、屋上からしか侵入できません」

「了解した」

 

 

 

 

 

 

 四人はヘリに乗っていた。

 レオン、黒瀬、SRTのアンジェラとグレン。

 

 レオンが言うには、無用な犠牲を出させたくないかららしい。それならば、レオン、黒瀬とで十分だが、オブザーバーとしてそういうわけにもいかない。

 

「奴らを倒すには頭を潰すしか方法はない。それ以外では死なない」

 

 黒瀬は、ヘリの中でアサルトライフルのチェックをしていた。チャージングハンドルを引いて初弾を装填。それからハンドルを引いて排莢をチェック。飛び出てきた弾をキャッチして弾倉に戻す。

 もっとも、トリガーを引く可能性はゼロに近いが。戦う際は、アサルトライフルの先端に銃剣(バヨネット)を着ける。

 

「なぁ、アンタ。その腰の武器はなんだ?」

 

 グレンは黒瀬の腰に差してある刀に指を差した。刀を装備している兵士など見たことがないのだろう。

 

「日本刀だ。俺専用の武器みたいなもんだ」

 

 専用と言っても、BSAAには刀を使う人物がもう一人いる。彼女の刀と黒瀬の刀は価値が違いすぎるが。

 ヘリが空港の屋上に到着する。

 

「屋上に感染者は確認できません」

「よし、行くぞ」

 

 四人は一斉にロープで降下し、周囲を確認。ドアへと歩を進める。レオンがゆっくりドアを開け、SRTの二人を指示する。だが、グレンという男はレオンと黒瀬のことが気に入らないようだった。

 

(そりゃ当然か……)

 

 いきなり出てきた二人に指揮を取らされているのだ。どういう人間かわからない以上気に入らないのも無理はない。

 空港内は非常用の電源が付いており、薄暗いが遠くまで見れる。

 

「奴らが出てきたら頭を狙え」

 

 ゾンビの弱点は頭。それ以外はいくら弾をぶちこんでも無駄だ。レオンと黒瀬は慣れているが他の二人は難しいだろう。数時間前までは人間だったモノを撃つのだ。元には戻らないとわかっていても受け入れ難いものがある。

 

「ん?」

 

 黒瀬は立ち止まる。

 

「どうした、リョウ」

「今、人の声がした。奴らのではなく、人間の声だ」 

「何言ってやがる。オレには聞こえなかったぞ」

 

 グレンは噛み付いてくるが、黒瀬は耳を澄ませる。

 

「二人の女の声だ。VIPルームとは別の方だな」

 

 黒瀬は人間離れした聴力で声を聞いていた。だが、ゾンビのうめき声で掻き消され、詳しい場所まではわからない。

 

「レオン、俺は別行動を取る。アンジェラとグレンを任せていいか?」

「了解だ」

 

 レオンと黒瀬は長い付き合いだ。黒瀬の能力を理解しており、何の疑いも持っていないだろう。

 

「俺が来なくても先に脱出しといてくれ」

 

 黒瀬はそう言って声のする方へ歩き出す。

 

(この声……誰だ?) 

 

 聞いたこのある声。いや、聞き慣れている声だ。

 

「まさかとは思うがあの二人じゃないよな」 

 

 廊下を進んでいくと、話し声が日本語であることに気づく。

 

「……やっぱりあの二人か」

 

 クレアと同じ部屋にいると思っていたが、どうやら別の場所に隠れていたようだ。

 曲がり角を左に曲がると、ゾンビが複数行く手を邪魔するが、銃剣を頭を突き刺し先に進む。

 

「……運が悪かったな」

 

 今回のテロで何人死んだのだろうか。黒瀬の頭には憎悪が溜まっていく。

 どんな理由でもバイオテロを起こして人を殺していいはずがない。今回の犯人がラクーンシティの被害者だったとしてもだ。

 

「きゃあああああ!!」

 

 廊下に甲高い女の絶叫が響く。

 

「近い!」

 

 黒瀬は全力疾走し、目の前の扉を蹴り破って室内に入る。

 

「ゴキブリがいたのよ。ホントなの!」

「ゴキブリくらいビビらないで!」

 

 鞠川静香が香月彩に抱きついていた。

 

「…………」

 

 取り敢えず黒瀬は胸を撫で下ろした。二人の服は汚れているが怪我はないようだ。

 

「あれ、リョウ!?」

「あ、リョウくんだー」

 

 二人は黒瀬を見て驚いている。なぜここにいるのかという表情だ。

 

「BSAAの任務だ。二人を助けに来た」

「久しぶり~リョウくん!」

 

 静香が飛び付いてくるが黒瀬はそれを華麗にかわす。

 

「他に生存者はいないな?」

「クレアがどこかにいるかも」 

「大丈夫だ。そちらにはレオンが向かってる」

「レオンってあの金髪の?」

「ああ」

 

 二人はこの状況なのに怖がっている様子などはない。仮にもカントウ事件の生存者だ。耐性がついたのだろう。

 

「はやくここを脱出しよう。奴らがどこから現れるかわからないからな」

「ええ、そうね」 

 

 静香を立たせ、三人は部屋から出る。

 

「それにしてもリョウくん逞しくなったわね~」

「いきなり何ですか」

「だって会うの久し振りなんだもん。彩ちゃんも会いたいって言ってたわよ~」

「きゃあああ!? 何てこと言うの!」

 

 彩は静香の口を塞ぐ。

 

「すまない。バイオテロばっかりで忙しかったんだ。俺も彩に会いたかったよ」

「真面目に言うな!」

 

 黒瀬は頭を叩かれる。

 

「痛いな。何も叩かなくていいだろ」

「別にいいでしょ」 

 

 静香も彩も強い。それは今も昔も変わらない。

 

 しばらく進むと、ゾンビが大量にいるエリアに到達した。

 

「どうするの?」

「倒すしかないな。これだけの数をバレないように進むのは無理だ」

 

 全部で十六体。この数なら二分以内に全滅させられる。

 二人をその場に待機させ、黒瀬はゾンビの群れに突っ込む。黒瀬に気づいたゾンビが口を大きく開けて近づくが、銃剣を大きく開いた口の中に突き刺した。黒瀬に気づいた感染者たちが襲い掛かる。銃剣を引き抜き、アサルトライフルを半回転させ、二体の首を切断する。ゾンビには恐怖心などない。仲間がやられても問答無用だ。黒瀬は銃剣とストックを使い、瞬く間にゾンビを全滅させた。

 

「すごいわ~!」

 

 静香が黒瀬に称賛の拍手を贈る。

 

「麗ちゃんに習ったの?」

「まぁな。あいつが一番銃剣使うのが上手いし」 

 

 宮本は元々銃剣術を習っていた。BSAAで一番銃剣使いが上手いのは宮本だろう。

 

「さあ、進もう」

 

 出口も近くなってきた。レオンたちは脱出した頃だろう。外の部隊が突入を待ち兼ねている。ゾンビを倒しながら進むと、開けた場所に出た。墜落した飛行機もそこにある。

 

「ロビーか。酷い有り様だな」

 

 最早ロビーの面影はない。瓦礫に潰され、バラバラになった人の姿もあった。

 

「数が多いな……」

 

 先ほどのより何倍の数だ。

 

「レオンたちの銃声に誘き寄せられたか……」

 

 黒瀬一人での突破なら簡単だが、非戦闘員が二人。簡単にはいかない。

 

「二人とも離れるなよ」

 

 黒瀬は腰の刀を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 


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