バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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バイオハザードヴェンデッタ観に行きてえなぁ。こんな糞田舎じゃ観に行けないよ~


49話 子供たち

 アルプス山脈 アンブレラ研究所通路

 

 薄暗い通路で、何十回とオレンジ色の光と銃声が轟いていた。

 

「何て数なの!?」

 

 通路の奥からは、様々な種類のウーズが黒瀬たちの向かって進み出していた。

 

「この先が実験体収容所だからな。生存者がいるってわかるんだろ」

 

 ゾンビもそうだが、匂いや微かな音に反応しているのかもしれない。

 

 暗闇の向こうから骨のようなものが、黒瀬の顔めがけて飛んできた。黒瀬はそれを首を傾けて回避する。

 トライコーン。三本の角に三角の頭のウーズだ。奴は骨を射出して攻撃してくる。

 

「化け物の癖に遠距離攻撃とは!」

 

 黒瀬はダガーナイフを二本出してトライコーンの頭に投擲して倒した。

 宮本も頑張っているようで、ナイフの黒瀬とアサルトライフルを使う宮本では全くと言っていいほど、殲滅スピードが違った。

 

「流石は宮本サン! この調子で全部倒してくれ」 

「こっちも弾は有限なの!」

 

 宮本は正面しか集中しておらず、背後から近づくウーズに気づいていない。

 

「危ない!」

 

 黒瀬は腰の刀を抜刀し、宮本に近づくウーズを斬りつけた。ウーズの胸から赤い血飛沫が舞う。

 

「ありがとう!」 

「油断は禁物だ」

 

 黒瀬は、ダクトを潜って現れたウーズにまた斬りかかった。奴等は身体が軟体動物のように軟らかく、狭い隙間などは簡単には通り抜けられる。黒瀬は近づいてくるウーズの首を次々と撥ね飛ばした。これほど軟らかいのだ。木刀などの打撃は非効率だろう。

 

「前が空いたわ、突破できる!」

 

 正面の敵は残り数体となっていた。床には宮本が倒したウーズやその変異種の死体が転がっている。

 

「走るぞ!」

 

 黒瀬は後ろからの追撃を振り切るために足下に手榴弾を落とす。途中のウーズを無視して廊下を一気に駆け抜け、実験体収容所があるはずの扉を開ける。

 扉を閉めると同時に廊下から爆発音が聞こえてきた。

 

 奴等は扉の開閉は出来ない。だが、ダクトからの侵入の危険性がある。十分に用心しなければならない。

 

「黒瀬……見て」

 

 宮本の声が震えていた。何だろう。黒瀬は振り返ると、そこには生き残りであっただろう研究員や警備員が血だらけで床に突っ伏していた。

 

 黒瀬は研究員に近づき、脈を測る。残念ながら死んでいるようだ。研究員の首から指を離すと、指がネバネバしていた。ウーズのものだ。だが、そのウーズはどこに?

 

 彼らにとって人間の血は貴重な食料であるはず。その食料を無視してどこに向かったというのか。近くからガシャンガシャンと鉄を叩くような音が聞こえてきた。そして、微かな震え声。

 

 黒瀬は宮本にハンドサインを出す。宮本は頷いて銃を構えた。足音を消して進むと、予想通りウーズは牢屋の前に群がっていた。流石のウーズでも牢屋の鉄格子の隙間は潜れないらしく、鉄格子の叩くだけだった。

 

 俺が殺る。黒瀬はハンドサインを出して抜刀した。敵は通常種の五体。これだけなら数秒で終わる。

 

 黒瀬は敵に向かって走る。ほぼ無音だった。ナイフを手前の敵の頭に投擲して倒す。気づかれる前に二体の首を跳ねた。黒瀬の存在に気づいた一体がすかさず掴みかかろうとするが、しゃがんでカウンターのタックルを喰らわせ、刀を頭に突き刺した。刀を手放し、残り一体の顔面を力任せで殴る。数メートルすっ飛んで、壁にぶつかって沈黙した。

 

「あんな化け物を一撃で倒すなんて……」 

「俺もびっくりだけど。でも手がネバネバするから使いたくないな。それよりもだ……」

 

 黒瀬は牢屋の中を見た。十代手前から十代前半の子供が五人、牢屋の奥で身を寄せあって震えていた。

 

「もう安心して、助けに来たわ」

 

 宮本は子供たちに語りかけるが、信じていないのか、怯えているのか何も答えない。

 

「黒瀬、この鉄格子を斬っちゃって」

「いや、漫画じゃあるまいし……」

 

 そこら辺の死体が鍵を持っているかもしれないが、時間が掛かってしまう。黒瀬は鉄格子の上下を刀で斬った。斬ったと言っても、数ミリ削れた程度だ。刀はそれだけでボロボロになり、使えなくなった。黒瀬は刀を放り捨てた。

 鉄格子を数ミリ削れたが、それで十分だった。回転して勢いをつけ、鉄格子を蹴り破る。

 

「あなたの力には毎回驚かされるわ」

 

 宮本はアサルトライフルを黒瀬に渡した。これから男は不要らしい。宮本に任せれば大丈夫そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 宮本が子供たちと話している間、黒瀬は実験体収容所の中を探索した。生き残り……までとはいかないが、何か情報が掴めるかもしれないからだ。

 

 黒瀬はまず、警備兵を見て回った。武装を見て、どこの所属か判明するかもしれなかったからだ。

 警備兵の装備は全て、FBCの物だった。まさか、とは思っていたが、こんなところで判明するとは思ってもいなかった。

 

「うう……」

 

 男の掠れた声が聞こえてきた。まだ生きている人間がいる。黒瀬はその方向に走ると、壁に寄り掛かっている警備兵がいた。

 

「あいつは……?」

 

 日本人のようだった。金髪の髪を跳ね上げている。ヤンキーのような印象だった。それ以前に、黒瀬は彼をどこかで見た記憶がある。黒瀬はその男に近づいた。

 

「俺以外にも……生き残りがいたとはな……」

 

 男は腹部や口からも血を流しており、顔も真っ青だった。応急処置をしても長くは持たないだろう。

 

「FBCの部隊の一人だな。生き残りはお前だけのようだ」

 

 男は黒瀬の声を聞いてはっとなった。恐る恐る黒瀬の顔を覗く。

 

「け、何の廻り合いだ……」

 

 やはりか。どうやら黒瀬と男の間には接点があるようだが、黒瀬は、男の印象が薄かったのかよく覚えていない。

 

「お前のことだから……覚えてないだろうな。やっぱり気に入らねぇ」

「おまえ、あのバスに乗ってたな」 

 

 確か角田という苗字のはずだ。六年前、教師だった紫藤とバスに乗り込み、気に入らないという理由で、黒瀬と小室に突っかかっていた。

 

「やっと思い出したか……」

「ああ。生きてたんだな」

 

 あいつらはトウキョウの上空に核が発射される直前までバスに乗っていたので、バスのブレーキが効かなくなって壁などの衝突で死んだかと思っていた。正確にいえば今思っただが。黒瀬は、紫藤やその仲間の安否などどうでも良すぎて今まで考えていなかった。

 

「それにしてもFBCになってるとはな。紫藤は死んだか?」

「何を言っている。紫藤様は死んでなどいない。安全な場所に避難しているはずだ」 

「紫藤様……?」

 

 黒瀬は背筋が凍るほどの寒気を感じた。紫藤に相当毒づけされているようだ。

 

「いや、待て。紫藤が安全な場所に避難しているだと?」

 

 何故安全な場所に避難する必要があるんだ? 黒瀬は疑問を抱いたが、この状況ですぐに理解した。

 

「紫藤様はこの研究所の管理者だ……お前らとは違って世界のために活躍した」

「活躍……だと? この研究所でt-Abyssの研究や非人道的実験をしていたのはわかってるんだ!」

「非人道的実験? あいつらは世界のために死んでいったんだ……あいつらのおかげで実験が捗った」

 

 角田は血を吐き出した。どこか会話が噛み合わない。それほどこの男の頭は狂っているのだろう。

 

「とりあえず情報提供ありがとさん。苦しみながら死んでくれ」

 

 奴に掛ける義理などなかった。FBCはバイオテロやウィルスの脅威から一般人を守る役割のはずだ。そんな組織が人を殺す兵器の開発を進めていた。最低のクズ野郎だ。

 

「やっぱりお前は気に入らねぇ」

 

 そういえば六年前にもそんなことを言っていた。

 

「どういうことだよ」

「お前は俺たち不良にとって目の敵だった。俺らはバカだった。人から舐められないためにああしたんだ。でもお前は違う。学年一位の成績の癖に授業をサボって不良を振りをしてやがった。頭が悪い不良と良い不良、そんなんで比べられるのが嫌だった」

「そうか」

 

 黒瀬には彼の気持ちなどこれっぽっちもわからなかった。不良をしていたといっても、黒瀬と角田のスタイルは違う。

 

『黒瀬、こっちは大丈夫よ』

 

 宮本から通信が入る。

 

「了解。そちらへ向かう」

 

 大丈夫、ということは子供たちに自分等は味方だ、と理解させたようだ。

 角田を見ると、既に息絶えていた。

 

 

 

 

 

 

 牢屋に容れられていたのは、男三人女二人、いずれも年端もいかない少年少女。着せられているのはブカブカの白いT-シャツ。怪我はないようだった。

 

「それで、何て?」

 

 黒瀬は宮本に預かっていた銃を渡してからから子供たちの現状況になった経緯を聞く。

 

 話を聞くと、山の麓にある町の孤児院から連れ去られたようだった。安心したのは、彼らはまだ何の実験もされていないことだった。この牢屋の閉じ込められてから、他の牢屋から連れ出される老若男女をただ見つめるだけだったという。

 

「お前ら、よく頑張ったな」

 

 黒瀬は五人の子供の頭を撫でた。子供たちは一体どういう心境でこの場にいたのだろうか。きっと彼らにしかわからない。

 

「これからどうするの?」

「そうだな……」

 

 守る人数が五人になったことで、化け物との戦いはより慎重にしなければならない。彼らを死なせるわけにはいかないのだ。

 

「……司令室」

 

 子供の一人が口を開いた。彼女は十代前半だろうか。華奢なからだつきで、髪は水色のショート。クールといえばいいのだろうか。どこか冷めている感じがあった。

 

「司令室がどうしたの?」

 

 宮本が優しい口調で聞く。

 

「司令室に、ここのトップがいるんだって……」

「それなら私も聞いたよ」

「僕も!」

 

 司令室にここのトップ……。角田の話を信じるのなら、この研究所のトップは紫藤になる。

 

「ありがとう。君の名前は?」

 

 黒瀬も宮本の真似をして優しく聞く。

 

「セリア・ボランシャール」

「そうか。良い名前だな」

 

 黒瀬は再びセリアの頭を撫でた。

 

 

 




随分先の話になりますが、この小説が完結或いは完結の目処がたったら、次はバイオハザードの実写版世界での小説を書きたいと思っています。

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