バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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48話 六年前

 アルプス山脈 アンブレラ研究所内部

 

 黒瀬は警備室のパソコンを使い、ドアやシャッターのロックを解除した。

 

「これで進めなかった場所も進めるはずだ」

 

 確かにそれは良いことだが、今まで閉じ込められていた化け物が移動可能になってしまう。いつでも戦えるように準備をしておかなくてはならない。

「ん?」

 他の監視カメラを見ていると、ふと目に写ったのは、列車だった。それがどこにあるのかはわからないが、この列車は山の麓から荷物を運ぶためのものだろう。

 

 黒瀬は警備室から出ようと扉を開けると、いきなりウーズが襲い掛かってきた。黒瀬はナイフを抜こうとするが、それよりも早くウーズが黒瀬の肩を掴んで身動きを取らせまいとする。ウーズは口から発達したような舌を出す。

 

 資料で見たが、ウーズはt-Abyssウィルスの影響で異常なまでに水分を欲するようになるらしい。つまり、ウーズから見れば黒瀬たちの血は貴重な食料になる。ゾンビの強化版のようなものだ。

 

 ウーズは舌を黒瀬の首筋へと近づけるが、黒瀬も必死で抵抗する。やはりというか、ゾンビと同じで力が強く、簡単には引き剥がせない。

 

「黒瀬!」

 

 黒瀬の顔に赤色の血がかかる。ウーズの腕に宮本のアサルトライフルの銃剣が刺さっていた。ウーズの力が弱まるのを感じ、黒瀬はウーズを蹴り飛ばして頭にナイフを刺した。

 

「ありがとな、宮本」

「別にいいわよ」

 

 会話が一瞬で途絶えた。もしかしたら嫌われているのかもしれないと、黒瀬は心配してしまう。

(これでも生死を共にしたんだけどなぁ……)

 事の発端は六年前、まだ黒瀬たちが高校生の時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六年前

 

 1999年の春、あれを一言で言い表すのなら、『地獄』というのがもっとも相応しいだろう。

 黒瀬はその頃、床主市にある私立藤美学園高等学校に通っていた。彼はラクーン事件の被害者であり、数少ない生存者の一人だった。

 

 皆の日常を変えたのは、授業中に流れた放送だった。

 

 校内で暴力事件が発生しているという、避難訓練で何度も聞いた台詞だった。しかし、教師がいきなり聞くに耐えない悲痛な声で叫びだし、放送は途切れた。その放送で全校はパニックになった。集団ヒステリー状態になり、一人を除いて叫びながら教室を出ていった。

 

「何故そうなる!?」

 

 取り残された黒瀬は心の声を実際に吐き出した。

 黒瀬は同じ高校のマンションで隣に住んでいた香月 彩と合流し、学園を脱出しようと決めた。そこからは地獄だった。ゾンビと化した生徒や教師を相手にしながら、小室たちと合流。部活遠征用のマイクロバスで学園を脱出することとなった。

 バスに乗り込み、出発しようとしたが、一人の教師と何人かの生徒が現れた。教師の名前は紫藤 浩一。黒瀬とは接点がなかった。

 黒瀬と小室は当然、その一行を助けようとするが、

 

「ダメよ!」

 

 宮本に止められた。

 

「あんな奴、死んじゃえばいいのよ!」

 

 宮本の顔は、これまでにない狂気と憎悪に満ち溢れ、その視線の先には紫藤がいた。紫藤と宮本の関係が明らかになるのは随分後の事だった。

 結局、紫藤一行をマイクロバスに入れ、バスは出発した。

 

 学園を離れて、紫藤は正体を現した。リーダーを決めようという話になったのだ。紫藤一行の挙手により紫藤はリーダーに、それに耐えられなかった宮本は一人でバスを降りると言った。小室はもちろん止めたが、宮本は従うつもりはなく、進もうとした時、暴走したバスが突っ込んでその二人と黒瀬たちは落ち合う約束をして別れた。

 

 その後、黒瀬が寝ている間に話が進み、黒瀬たちは紫藤一行を残してバスを降りることになった。

 彼らとの合流地点に行く途中、ゾンビに囲まれて絶対絶命の危機に陥っていたが、合流した小室と宮本の活躍で事態は落ち着き、鞠川の提案で鞠川の友人、警察官の南リカが使っているというアパートに泊まることとなった。

 南リカという女性は家に大量の銃と弾薬を所持していた。銃は銃声でゾンビが近づいてくる危険性があるが、近づかずに倒せる安心もあった。

 

 その日の深夜、小室は望遠鏡で窮地に陥られている少女を見つけ、救いに行った。その事に黒瀬が嬉しく思った。この状況でも他人を救おうと思う小室はやはり主人公だ。

 小室の活躍で希里アリスを救出し、南リカが所持していたハンヴィーでアパートを後にした。これからの目的は小室と宮本、高城の親探し。鞠川、平野、毒島の親の心配はいらず、黒瀬の親は中学生の頃に事故死し、香月の母は海外に行っているので、三人と同様、心配はいらなかった。

 

 希里ありすは、黒瀬にとって妹のような存在になった。

 中学生の頃、黒瀬は両親と母のお腹にいた妹を失っている。それが関係しているのかもしれないが、黒瀬はありすを可愛がった。

 

 なんやかんやあり、一行は高城家に到着。そこには高城の親やその配下、避難民が大勢いた。

 そこでは短い間だが、楽しく暮らせた。だが、状況が変わった。紫藤一行を乗せたバスが高城家に避難してきたのだ。

 

 紫藤の父親は地元の代議士らしく、高城の父親、高城荘一郎と関係もあり、避難してきたという。

 だが、紫藤が来たことによって、宮本の怒りが爆発した。

 

 宮本の父親は警察官だった。彼は紫藤の父親が使っていた金の出所を捜査していたが、紫藤の父親に目をつけられ、警告として紫藤に頼んで宮本を留年させた。

 教師のやることではない。その話を聞いた黒瀬も頭が怒りで爆発しそうになった。

 

 結局、紫藤一行は高城の父親によって家を追い出された。

 

 

 

 

 

 

「懐かしいな……」

 

 決して良い記憶ではないが、あの事件があったからこそバイオテロに立ち向かう仲間がいる。

 

 あれから六年、もう六年も経った。黒瀬はその六年を全てアンブレラやウィルス、バイオテロに使った。後悔はしていない。

 

「どうしたのよ、黒瀬」

 

 宮本から変な目で見られる。しまった、口に出たか、と黒瀬は口をつむぐ。 

 

「昔のことを思い出してたんだ。両親は元気にしてるか?」

「ええ。私はあなたと違って定期的に日本の帰ってるわ」

「そ、そう……」

 

 はっきり言われると胸が痛い。B.S.A.A.に入って二年、黒瀬は二、三回しか日本に帰っていない。

 

「ありすちゃんが会いたいって言っていたわよ?」 

「うぐぐ……」

 

 黒瀬の胸が締め付けられる。この二年、黒瀬は日本を忘れた日は一度もない。だが、こんな世界だからこそ帰れないわけがあった。もし、自分が日本に戻っている間にバイオテロが起きたらどうしよう。自分がいれば死なずにすんだ人がいるかもしれない。そんな悪い心配に悩ませられる。

 

「何のために私たちがいると思っているのよ……」

 

 宮本が言うのもごもっともだ。仲間を信じなくて仲間と呼べるのだろうか。だが、仲間を信じたことによって後悔が生まれる可能性もある。

 

 ――俺は弱い人間だ。

 

 誰も喪いたくない。しかし、こんな仕事に就いていれば、もちろん人は死んでいくだろう。もしも仲間が、小室たちが死んだとすれば、自分はどうなるのだろうか。後悔で埋もれ、自分を呪うかもしれない。

 

「宮本、俺のこと、どう思う?」

 

 黒瀬は単刀直入に宮本に聞いた。

 

「どうって……熱血バカ?」 

「ええ……」

 

 それは前にも高城に言われた事があった。頭ではなく、性格に問題があるようだ。人一倍正義感が強く、他人を庇える。だが、それは自己犠牲とも言える。

 

「でも、黒瀬の性格で皆救われてると思う」

「え?」

「黒瀬は気づいていないと思うけど、皆を笑顔にする能力(ちから)があるのよ」

「そう……なのか……」

 

 黒瀬はその言葉で身体中が暖まった気がした。仲間に言われる言葉がこんなに良いものだとは知らなかった。

 

「でも無理は駄目よ。生きて脱出できたら日本に帰りなさい。私の両親だって黒瀬を心配してるのよ?」

「ああ。必ず生きてこの事件の真相を掴んで脱出しよう」

 

 しかし、よく考えると、日本で会わなければいけない人が多すぎる。

 

「えっと、宮本の両親、小室の両親、高城の両親、平野の親は外国にいるだろうし、毒島先輩は難しいな。後は高城の両親の家にいるありすと、香月の母さんだな」

 

 連休を取ろう。それにありすと旅行にも行こう。黒瀬は頭の中で既に想像していた。

 

「彩ちゃんのお母さん? そういえば会ったことないかも」

「そうなのか? でもカントウを脱出した後、巡ヶ丘市にある高城の別荘で皆で暮らしてたじゃないか」

「確かに彩ちゃんは居たけど、お母さんは住んでいなかったわよ? 別の所で暮らしていたんじゃない?」

「そうだっけ?」

 

 黒瀬は自分の記憶を探る。

 

(あれ?)

 

 そういえばいつから香月の母親に会っていないだろうか。顔ははっきり思い出せるのだが、ここ何年間、香月の母親に関する記憶がない気がする。黒瀬の記憶に矛盾が発生していた。

 

「ま、いっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルプス山脈 雪原

 

「うわぁぁぁ!」

「平野、下がれ!」

 

 封鎖されたアンブレラの研究所に行くために雪山を登り始めて数時間。それは突然のことだった。小室と平野の前に化け物の集団が現れたのだ。

 オオカミに見えるが、身体の至るところが破損している。だが、化け物はそれを気にしていないかのようだ。

 

(痛覚が鈍っているのか──!)

 

 小室は、正面から突っ込んでくる化け物にショットガンを撃つ。化け物の頭は粉々になった。

 

「く、こいつら!」

 

 動き回る敵にライフルじゃ不利だと判断した平野は、腰のホルスターから『ベレッタM92』を抜いて化け物と交戦する。

 

「小室、数が多すぎる!」 

「わかってるよ!」

 

 既に小室たちは化け物によって囲まれていた。群れをなす行動は、こんな姿になっても忘れていないらしい。

 

(せめてB.O.W.デコイがあれば──!)

 

 小室たちはあの海岸からそのままアルプス山脈まで移動したので、B.O.W.デコイを所持していなかった。

 

「平野、走るぞ! あの洞窟まで!」

 

 小室の指差した方向には、ポッカリと穴の空いた洞窟があった。あそこならば、四方八方から囲まれることなく、正面からで対応出来る。

 

 小室と平野は進行方向にいる邪魔な化け物を走りながら撃って洞窟まで走る。雪に脚を取られるが、死に物狂いで洞窟まで到着した。

 だが、安心している場合ではない。小室は直ぐ様、洞窟の出口に銃口を向けるが、

 

「なんだ?」

 

 化け物は唸るだけで、洞窟には決して入ろうとしなかった。

 

「ここには入ってこれないわけがあるのかな?」 

「さぁな。でも外に出たら襲われるし……」

 

 化け物が本当に洞窟に入ってこれないとしたら、今ここで洞窟の入り口にいる化け物を倒せるが――

 

「流石に止めておくか」

 

 撃った瞬間、襲い掛かってくる可能性がある。その可能性を考慮して、小室は撃つ選択肢を止めた。

 

「出れない以上、進むしかない」

 

 暗い洞窟だが、生き物がいる気配はない。だが、油断は禁物だ。

 

 平野がライフル弾を取り出して、暗闇に投げた。聞こえてくるのは、ライフル弾が地面を跳ねる音と、それにこだまする音だけ。

 

 小室と平野は胸のライトを付け、警戒しながら進む。見えてきたのは、整備されてまだ新しいエレベーターだった。

 

「平野、アンブレラの研究所の入り口はまだ先だったよな?」 

「そうだけど……アンブレラの研究所は雪山の中にあるんだ。入り口が一つとは限らないよ」

 

 戻れはしない。小室と平野は進むしかなった。

 

 

 

 




回想が雑すぎる……

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