バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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今更ですが、タグに原作キャラ死亡を追加しました。


47話 ウーズ

 アルプス山脈 アンブレラ研究所

「なんだ、こいつは?」

 

 宮本と黒瀬の前に落ちてきたのは、全身白濁した色の人の形をした何かだった。目はなく、腕は鉄球のように変形している。

 

「B.O.W.の類いかしら?」

 

 宮本は銃を“人の形をした何か”に向けるが、やはりというか恐怖心というものはないらしく、黒瀬たちのもとへとぐらぐらと不規則に歩きながら近づいてくる。

 

「化け物であることは間違いないな」

 

 宮本がどうするの?という目で黒瀬を見る。もちろん黒瀬としてはB.O.W.と思われる敵は倒しておきたいが、新種を相手にするにはある程度の覚悟が必要だ。

 

「後ろに下がるぞ」

 

 二人はエレベータ前まで戻る。奴はゾンビのように動きがのろく、走れそうにもない。それに歩く度にぐらぐらとふらついている。

 

 白濁した肌の化け物、しかもアンブレラの研究所で出現した化け物だ。黒瀬としてはアンブレラの研究所で戦うのは二年ぶりだ。全く謎のB.O.W.、果たして何が関わっているのか。それを知る必要がある。

 

 黒瀬は懐からダガーナイフを取り出し、奴の足に投擲した。それでも倒れずこちらに向かってくる。だが、傷口から毒ガスなどの有害な物質が噴出されることはなさそうだ。黒瀬は一歩踏み出し、化け物との距離を詰める。サバイバルナイフを抜いて化け物の腋を掠めた。

 微かに赤い血が飛散する。見た目は完全な化け物だが、こんな奴にも赤い血が通っているようだ。化け物はトゲ付きの腕で殴りかかってくるが、黒瀬はそれを軽くいなして顎にナイフを突き刺した。化け物はゆっくり倒れる。

 

 黒瀬は敵が完全に沈黙したことを確認し、しゃがんで倒した化け物の身体を調べる。

 

「元が人間なのは間違いないようだな」 

「じゃあこの化け物が造られたB.O.W.かそれともt-ウィルスもように空気感染したものか、どっちなの?」

「それはわからないな。でも空気感染の場合は……」

 

 黒瀬は今までウィルスやBOWと戦い続けて七年、こんな化け物は見たことがない。新種と考えるのが妥当だろう。その場合、その新種のウィルスに対する抗体は持っていない可能性がある。

 

「私たちはここを出れないの?」

「そういうことになるな」

 

 黒瀬たちが感染している可能性は充分にある。そんな人物を外に出すわけにはいかない。

 黒瀬は本部との通信を繰り返し行うが、流れてくるのはノイズだけだ。

 

「本部と連絡が取れないな」 

「どうするの、オリジナルイレブンさん?」 

 

 宮本は黒瀬を睨む。そうされても仕方ないだろう。宮本をこの状況に陥らせたのは黒瀬本人だ。黒瀬は本気でこの世界からB.O.W.やウィルスを撲滅させたいという思いで戦っている。だが、宮本は違う。宮本がB.S.A.A.に入ったのは小室がいたからだ。小室がB.S.A.A.に入っていなければ宮本も百パーセント入っていない。覚悟の差が違いすぎるのだ。

 

「ここに残っときたいなら残っといてもいい。ここなら正面からの敵を倒すだけでいいからな。俺は先に進むよ」

 

 この化け物が現れたのはごく最近だ。床には埃はそれほど積もってない。もしもここで何かの研究をしていてその研究で何かのアクシデントがあったとしたら。この化け物がここで造られたとしたら新種のウィルスのワクチンがどこかにあるかもしれない。それにこの研究所はヴェルトロが関わっているかもしれないのだ。

 

「私も行くわ。一人でいるよりもあなたといた方が安心だろうし」

「そうか……」

 

 黒瀬は一人の方が楽と考えるが、彼女がそういうのなら仕方ない。

 

「じゃあ早速周辺を調べてみよう」

 

 化け物はダクトなどの小さな隙間からも現れる。十分に注意しなければならない。

 

 部屋にはほとんどロックがかかっているが、やっと開く部屋を見つけ二人は中に入る。部屋の中はひどい惨状だ。資料が散らばり人の血と思わしき液体が壁や床に飛び散っている。

 二人は散らばっている資料を見るが、専門用語が多く解読ができない。

 

「黒瀬、何かわからない?」

 

 宮本は、BSAAでもトップを誇るほどの頭脳の持ち主に聞く。

 

「主にt-Abyssウィルスとかいうのを研究していたようだな」

 黒瀬は手に持っていた資料を置いて、まだ使えるパソコンを開き、すさまじい速さで何かを調べていく。

 

「さっきの化け物の名前は『ウーズ』、t-Abyysウィルスの感染者のようだ。その他にも変異体があるらしい」

 

 つまりさっきの化け物はウィルスに感染した人間の成れの果て。ゾンビと同じようなものだ。

 

「じゃあ何かのアクシデントでそのウィルスが漏れたってこと?」

「ああ、そうなるな」 

 

 だが、そのアクシデントとはなんだ? そこを探らなければならない。

 

「行先は決まった?」

「ばっちりだ。警備室に行こう」

 

 警備室なら監視カメラの映像もあるはずだ。その映像を見ればバイオハザードが発生した詳しい位置が判明するかもしれない。

 

「早速行きましょう。同じ場所に留まっていると危険だわ」

 

 黒瀬は短くああと答え、パソコンをシャットダウンした。

 

 

 

 

 

 二人は警備室に到着し、早速監視カメラの映像を見る。

 

 写し出されたのは三日前の映像。三日前までは白衣を着た研究員たちが何かの研究を行っている。恐らくt-Abyssの研究だろう。だが、それもすぐに終わることになる。警報がなり、研究員たちが慌ただしくなる。警備兵と思われる者たちが避難誘導をしているが、次々と倒れていく。早送りすると、倒れた研究員や警備兵はウーズと化し、どこかに消えていった。

 

「どこでウィルスは漏れたんだ?」

 

 研究室の監視カメラを巻き戻ししても、アクシデントでウィルスが漏れている映像はない。

 

「黒瀬、これを見て」

 

 宮本が見ていたのは、別の区域のカメラの映像だ。映し出されていたのは、生き残りと思われる警備兵と研究員。その奥には牢屋があるが、警備兵と研究員が邪魔で中の様子は伺えない。その映像はリアルタイムだ。

 

「どこだ?」

「えっと……実験体収容所って書いてあるわ」

 

 実験体収容所、何て響きの悪い。黒瀬は何故かその言葉で胸が悪くなってきた。

 

「行きたいが……そいつらは味方じゃないからな……」

 

 t-Abyssというウィルスを造っている奴等だ。黒瀬たちはヴェルトロがこの研究所を使っているかと思い、訪れたが、その可能性は最早ゼロパーセントに近い。ただのテロリストがこれほどまでの人員と研究費をかけれるわけがない。つまり、この施設を利用していたのは別の組織。漠然とウェスカーやエイダが所属している組織を思い出す。しかし、そいつらがFBCやB.S.A.A.に所在が明らかになっている研究所をわざわざ使うのだろうか。黒瀬は考えた。

 一つの可能性として浮かんできたのが、FBCだ。だが、FBCがアンブレラの研究所を使ってt-Abyssの研究を? いや、バイオテロと戦う人間がそんなことをするメリットは一ミリもない。この先には一体どんな答えが待ち受けているのか。黒瀬は刀の柄を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小室と平野は、アルプス山脈の麓にある町に到着していた。

 

「うう、寒いな」

 

 平野はブルブルと震え、カイロで頬を暖め出した。

 

「はは、我慢してくれよ。これからもっと寒くなるんだぞ?」

 

 黒瀬と宮本はこの町を通り、そのまま山に登っていった。もしかしたら雪崩に巻き込まれた可能性もあるが、クリスたちとほぼ同時に連絡が取れなくなるのはいくらなんでもおかしい。二組はヴェルトロの復活の噂を探っていたのだ。危機的状況に陥っているのは間違いない。

 

「小室、なんだろあれ」

 

 平野が指を差したのは、警察に立ち入り禁止にされている施設だった。看板には孤児院と書かれてある。その施設の壁には銃弾と思われる穴が複数。銃撃事件があったのだろうか。

 

「あんたたち、山に登るのかい?」

 

 小室はそんなことを疑問に思っていると二人の前に老婆が近づいてきた。

 

「ええ。理由は言えないんですけど」

「気を付けた方がいいよ。最近は山で行方不明者が相継いでいるんだ。それに化け物を見たって噂もある」

「化け物?」

 

 気になるフレーズが飛び出してきた。平野はそれに食いつく。

 

「ええ。オオカミみたいな、でも骨が剥き出しになってたり目がなかったり。……襲われたって話もあるわ」

 

 小室の頭に浮かんできたのは、t-ウィルス由来のオオカミだ。だが、それがB.O.W.かそれとも空気中のt-ウィルスに感染したか。

 

「ありがとう、お婆ちゃん。気を付けるよ。ところであの施設は?」

 

 平野は立ち入り禁止にされている孤児院を聞いてみた。

 

「あれは一ヶ月前まで孤児院をやっていたんだよ。みんな可愛い子でさ。でもいきなり武装集団が現れて孤児院の子供たちを拐ったのさ。先生まで殺されちゃってさ。本当、やるせないよね」

 

 まさかそんな事件があっていたとは。小室は殺された先生に追悼した。

 

 

 二人は老婆と別れ、山へと向けて歩き出した。山に化け物が出る。十分に用心しなければならないだろう。

 

 

 

 


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